14話 ランナウェイ 第2幕

 ドンッ ゴロゴロゴロ

 どでかい雷が落ちたと思ったら、もう目の前にソフィア達はいなかった。

 

 「おい。お前たち、大丈夫か?」

 周りの人たちが声をかけてくれたが、俺たちにはまだしなければならないことがある。

 「ああ。大丈夫だ。ミア、エイデン」

 「わかっています。ここからが正念場ですね!!」


 そう。ここから俺たちは、ソフィアの誘拐について、それっぽくお館様に説明しなければならない。

 ああ。憂鬱だ。



 「お館様!!」

 あたかも緊急事態です、という顔で、屋敷に入る。そこにいたのは、お館様と、奥方様と、あのクソ王太子ひっつき虫がいた。

 「失礼いたしました」

 「いや。いいよ。確か君は、ソフィの・・・・・・」

 「ええ。ソフィア様付きの護衛騎士、リュカと申します」

 「どうかした?」

 「ソフィア様が、何者かに攫われました」

 「!!本当に?」

 「ええ。私たちも、ソフィア様を守ろうとしましたが、相手が強すぎて・・・・・・。誠に申し訳ありませんでした」

 潔く頭を下げる。俺に、ミアとエイデンも続いて頭を下げる。

 「・・・・・・っ。まずは、情報確認だ。リアム」

 「はい」

 「君たちは怪我の治療をしてもらって。後でまた事情を聞くから」

 

 動揺しているようにも見えるが、それでも冷静に指示を出せるのは、さすがは王太子、というところか。


 

 「リュカ様。これ、絶対バレる気がするんですけど・・・・・・」

 「ああ。エイデン。俺もそう思う」

 「なら・・・・・・」

 「でも、時間稼ぎくらいはしなければな。しかも、誘惑の森にいるなんて、考えられないだろう?」 

 「そうだけど・・・・・・」

 

 「ラファエル様!!」

 「わかったか?」

 「ええ。住民の話によると、ソフィア様は、男女の誘拐犯にさらわれた模様です。そちらの方々が応戦していましたが、歯が全く立たなかった、と」

 ザラームの力を使っていなかったからな。


 「まあ、いい」

 今まで全く口を開かなかったお館様が、ようやく口を開いた。

 「お前らは、首だ。ソフィアを守れなかったからな」

 「はい。ソフィア様を守れず、誠に申し訳ありませんでした」

 早々にミッションクリア。

 

 「ところで、ラファエル様。ソフィアがいなくなった今、次の王太子妃がいなくなってしまいましたな」

 「黙れ」

 たった、一言。あの虫が言った一言でこの場が凍りついた。

 ものすごい魔力量だな。もしかすれば、俺に匹敵するんじゃないか?

 「ソフィアは、生きている。必ず取り戻す。町中に聞いて、誘拐犯の似顔絵を描かせろ。この国中に指名手配する。捕まえ次第、僕の前に連れて来い」

 「は、はい」

 そこまでソフィアにこだわるか。

 残念だが、お前にソフィアは渡さない。


 「君たちは、これからどうするつもりだい?3人とも、腕の立つ騎士のようだが。王宮騎士団にでも入るかい?」

 「いえ。私たちは、単独で、ソフィア様を探します。私たちの不注意でソフィア様が攫われてしまいました。もしものことがあって、その時、私たちが生きていたら、その時は・・・・・・」

 「・・・・・・分かった。何かわかったら、教えてくれ」

 「はい。失礼いたしました」



 「うわ〜。半端ねえ。あの王太子様。ソフィア様といた時は、めちゃくちゃ猫かぶっていたってことか」

 「チッ」

 気に食わなない。

 「安心しなさい。エイデン。あの王子にソフィア様は渡しません!!」

 「まあ。荷物をまとめて、俺たちも向かうか」


 

 ◇◆◇



 約6年ぶりの誘惑の森。相変わらず、幻想的な風景で、なんとなく懐かしい感じがした。

 「相変わらず、美しいですね」

 「ああ。だな」

 「ソフィア様がいるところはわかっているんですか?」

 「ああ。精霊女王と、ザラームから加護を受けたし、その魔力で、なんとなくな」

 

 結構歩いて、目の前に見えたのは、結構立派な木の家。

 「あ!!リュカ〜ミア〜エイデン〜!!お疲れ〜!!」

 「うわっ」

 ソフィアが胸に飛び込んできて、咄嗟に受け止める。

 「大丈夫だった?」

 「ああ。首になってきたよ」

 「そう」

 結構心配していたようで、俺たちを見て、ほっとため息をついていた。


 「あら〜。あの時の細っ子坊や。おっきくなったわね〜。イケメンになったわね〜」

 「精霊女王様。お久しぶりです」

 「いいのいいの」

 

 「ねえ。すごいよね?この家。っていうか、すごいよね?私。ようやくあの家から出れたよ!!もう、自由なの!!」

 「よかったな」

 いつの間にか追い抜いていたソフィアの頭に、ポンポン、と手をおく。

 「・・・・・・・・・」

 「・・・・・・リュカ様?」

 やばい。後ろからミアの怒りダダ漏れの魔力が見える。

 

 「なあ。ソフィア。何かいい匂いがするんだけど?」

 「えっ。そうなの。私ね、みんなが疲れていると思って、今日は、バーベキューだよ!!」

 「マジっすか!?」

 「ええ。エイデンもお疲れ!っていうか、エイデンは私についてきてよかったの?」

 「ええ。もちろん。だって、美味しいものたくさん食べれるじゃないっすか。しかも、ソフィア様といると、楽しそうなことあるし。それと、ミアちゃんと離れるわけにはいきませんから!!」

 「・・・・・・そう」

 「ソフィア様〜。肉焼けましたよ?」

 「ああ。ライ。今から行く!!」

 「あ。リュカたちもいたんですね。怪我は大丈夫でしたか?」

 「ああ」

 「なら良かったです。ちょっと本気を出しちゃったので。」

 あれが、ちょっと?


 「ねえ。みんな、乾杯しよ!!」

 「そうですね」

 「では、計画完遂、ということで、これからの生活に〜、乾杯!!」

 「イェーイ!!スイもいるからね」


 俺たちは、この時、まだ知らなかった。俺たちの、この行動が、はまるはずのなかった歯車の、最後のひとピースだったことを。そして、俺たちの、“運命の歯車”が回りはじめてしまったことを。


 

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