10話 誘惑の森 その3〈side ソフィア〉

 時間は遡って、リュカが、ザラームを呼び出した時。

 リュカと同じ黒髪に、ツノが生えている魔王のような。それを見た瞬間、私は、急に、怖くなった。

 ザラームが、ではない。他の、何かが、猛烈に、怖くなった。

 お化けを見た時や、誰かに襲われたとか、そういう“怖い”ではない。もっと他の“知りたくない”、“思い出したくない”とか、そういうたぐいの。

 

 この世界に生まれて10年ちょっと。ここまで怖くなったのは、不安になったのは、初めてだ。

 耐えきれなくなって、私は、徐々に意識を手放す。


 「ソフィア様!!」

 ミアが、咄嗟に支えてくれたのがわかる。

 

 リュカが、心配するだろうな。あの子は、なんだかんだ、とても優しいから。

 最後の力を振り絞って、喋る。

 「ミア、リュカに、私のことは気にしないで、って」

 言って、という前に、私は完全に、意識を手放した。


 





 

 ここは、どこだろうか?

 私は、今、誘惑の森にいて、それで、ああ、私、意識を失ったんだ。


 「ねえ、レオ。私は、早く、ここから逃げ出したいな。自由になりたい。そして、レオと結婚して、幸せに暮らしたい」

 「そうだな。俺もだよ、ステラ。お前と、2人だけで、苦しくない世界で、生きていきたい」


 どこだろうか。教会のような場所で2人並んで、座っているのは、私と同じ、銀色で、赤色の瞳の、絶世の美女と、それとなくリュカに似ている、黒色の髪の、超イケメンな、男性。

 私は、そこを、覗き見しているような、そんな感じ。彼らは私に気づいていない。


 「なんで、私なんだろう。どうして、私が、なんかにっ」

 「大丈夫だ。絶対に、ここから逃げれる。俺が、助けるから。あいつからも、解放してやる」

 「待って。でも、あの人は・・・・・・」

 「大丈夫だ。俺を守護しているのは、闇の王、ザラームだぞ?」

 

 なんということだ。この、リュカに似た男の人は、ザラームを、使役しているのか。


 

 


 急に、眩暈がして、周りが真っ暗になる。

 ようやく、明かりが見えたら、場面は変わり、農民かな?の家で、お母さんみたいな人が、子供たちに昔話を聞かせているところだった。


 「ねえ、お母さん、の話をして」

 「いいわよ。昔々、妖精たちとまだ共存していた時の頃、この国にお姫様がいたの。それはそれはとても綺麗なお姫様だったんだよ。銀色の髪に、赤色の瞳で、彼女を見た人は、全員彼女に魅了された。そして、彼女は、妖精姫に選ばれたのよ。彼女は、その特別な力で、その国を豊かにしていった。そして、その国1番の貴公子と、婚約したんだよ」

 「いーなー。私も、かっこいい人と結婚したいな」

 「ええ、そうね。でも、この話には続きがあって、そんなお姫様の噂を聞いた、隣の国の王子様が、彼女をさらってしまったの。黒髪の王子で、彼は、彼女と共に、へ逃げたの。そこに入った人は、絶対に生きて出てくることはできないの。次第に、王子様とお姫様は心を通わせて、両思いになったわ。彼らは、精霊女王にも認められ、夫婦になったの。それを聞いた貴公子は、それにものすごく怒って、死の森に火を放ち、彼女たちを見つけ出し、殺してしまったわ。その時に、彼女たちに呪いをかけたの。生まれ変わっても、“絶対に2人は結ばれることはできない“という。そして、黒髪の王子様には、“20歳で死ぬ”という呪いを。自分の命と引き換えにね。それで、妖精と精霊は怒り、みんな姿を消してしまったわ。そこから、銀色の髪と、赤色の瞳は、不吉なもの、と言われるようになったのよ。死の森は、今は、誘惑の森、と呼ばれているわ。だから、絶対に入ってはいけないよ」

 「ねえ、その、お姫様と王子様は、もう結婚できないの?」

 「わからない。でも、2人とも幸せになってほしいわね。あら、もうこんな時間。お休みなさい。星の子よ」

 「おやすみなさい」


 彼女が話していた昔話に出てくる人と、その前に見た2人の男女。この2人は同一人物?

 『星の姫』という昔話は、サライファル王国では、とても有名な昔話だ。実話をもとにした、と言われているけれど、実際のところはどうなのかわからない。


 ここで、また、わからないことが一つ。銀色の髪の毛に、赤色の瞳。それは、私だ。黒色の髪の毛で、隣国の王子。それは、リュカ。なぜか、状況が、今の私たちとそっくりなのは、偶然?それとも、必然?

 その時、頭の中で、誰かの声がした。

 


 (まだ、早い。まだ、知る時じゃない。知るには、もう少し先。見つけてね。いつか。それまでは、おやすみなさい。星の子よ)



 誰?あなたは。どうして、なんで、そんなに悲しい声をしているの?


 私の意識は、私の意志と関係なく、深く、深く、落ちていく。

 待っていて。見つけるから。あなたを。











 「ソフィア様!!ソフィア様!!」

 目覚めた時、私は、ミアの膝の上で、寝ていた。

 「ソフィア!!気づいたか?」

 「ミア?リュカ・・・・・・?リュカ!!無事?大丈夫?あ、ザラームは?どうなった?」

 「その件については、大丈夫だ。それより、ソフィアは大丈夫か?」

 「私?ええ。無事よ。大丈夫ってことは、ザラームは・・・・・・」

 「俺の名前を軽々しく呼び捨てするとは、いい度胸だな、小娘」

 般若のような顔をして、リュカの後ろで守護霊みたいに漂っているのは、どこからどう見ても、魔王だ。うん。あれは、魔王だ。


 「あらあら〜。ソフィアちゃん。あっち側へ行っていたのね。そろそろかしら〜」

 「おい。ファリー。こいつら・・・・・・」

 「わかっているわよ〜。ザラーム」

 「あ、あの、ファリー様?」

 「あら。なんでもないわよ。それより、ザラームがリュカちゃんを守護するなら、ソフィアちゃんは私ね」

 「はい?」

 「精霊女王、ファリーの名において、ソフィア・ライフォードに加護を与える」

 私の上に、パラパラと金色の粉?のようなものが降り注ぐ。

 「オッケー。これで、私の加護を与えたから、ソフィアちゃんに手を出す馬鹿者は、全員やっつけちゃうよ?安心してね」

 はい?え、加護?え。精霊女王様の?っていうか、精霊女王様って、本当にファリーって言うんだ。って。そうじゃなくて!!

 「なぜ、私に?」

 「えー。だって、なんかこれから面白そうだもの」

 「ちょっと!!精霊女王様!!スイが守護してますよ?忘れないでください!!」

 「えー。スイだけじゃ、物足りないじゃない?」 

 「「私たちもいるぞ」」

 ライやリーゼまでいってる。

 「まあ、いいじゃない。これで、ソフィアちゃんは、フェアリセスになったわよ?」

 は?

 「「「・・・・・・・・・」」」

 ほら見なさい。リュカたち全員絶句しているわよ?

 ていうか、妖精姫って、こんなに簡単になっていいものなの?え、どうなの?

 

 私たちみんなが、びっくりしたりしているのに、また呑気な声が聞こえてくる。

 「ソフィアちゃんは、が使えるようになったからね〜!!しかも、私がついているから、精霊からの攻撃も、魔法も、全く効かないから〜!!ってことで、ソフィアちゃん最強よ!!あ、私が必要な時は言ってね。すぐ飛んでいくから!!」

 「・・・・・・。あ、あ、はい」

 もう私、何も考えないことにしました。

 はい。私、何も知らないです。うん。

 そんなことを思っていたら、ザラームとファリー様が何やらごちゃごちゃ言い合っていた。

 

 「全く、お前がこんなことするから、もしかしたら、教会から狙われるかもしれないんだぞ?」

 「あー。まあ、大丈夫よ!!私の加護は最強なんだから!!」

 「はあ。全く。俺はリュカを守護するが、お前にも加護を少しだけ与えてやろう」

 「え。はい!?」

 私が気づいた時には、私の周りは黒い霧で覆われていた。


 「おい!!ザラーム。お前、ソフィアに何した?」

 「うん?いや、ただ、小娘に敵意を持った奴がいたら、呪いがかかるようなものだ。安心しろ」

 「そうか。ありがとう」

 え!?いや、ありがとうじゃないですけど!?何に安心すれば?

 おっそろしい〜。魔王とか、女王とか、もうやばいわ。


 「ねえ、ソフィアちゃん。もしも、家出するときは、ここに来なよ?ここは心が綺麗な人しか入れないから、ソフィアちゃんたちに敵意を持つものは入れないから。その時は、力になるね」

 「ありがとうございます」

 そうね。ここに住むのもいいかもしれない。誰も来ないし。うん。





 「ありがとうございました!!」

 「そうね。また来てね〜!!」

 「スイも!!また行きます!!」

 私たちは、その後、精霊魔法とか、その他諸々、力の使い方を教えてもらって、帰ることになった。本当は、ずっとここにいてもいいのだけど、まだ学びたいことがあるし、あっちでやりたいこともあったから。

 

 「じゃあ。帰ろっか。私たちの寝床に」

 「そうだな」


 帰った後、私、ミア、リュカ、エイデンが、ライアと両親に、こってり絞られたのは、言うまでもない。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る