9話 誘惑の森 その2〈side リュカ〉

 ・・・・・・・・・。

 ここは、どこだ?

 ああ、そうだ。俺は、今、ザラームに試されている最中だ。

 それより、ソフィアは大丈夫だろうか。彼女が倒れるなんて。

 (おい、人の心配なんて、よくできるな)

 頭の中で、やつの声がした。

 「どういうことだ?」

 (言っただろ。今は試しているのだと。あいつのように、俺の主としてふさわしいのかの。ここは、お前の心の中だ。言っておくがな、俺を使役することは、今まで1000年以上誰もできなかったんだからな)

 1000年以上?それより、あいつ・・・・・・?

 「あいつ、とは誰のことだ?」

 (俺のことが、口に出ていたか。まあ、いい。お前はどうして、俺の力を望む?見るところ、呪いにかかっているようだが)

 「ああ、そうだ。俺は、この呪いを解くためには、お前の力がいる、と聞いたから、ここへ来た」

 (それだけか?つまらんな。見たところ、その呪いは、20になる前に死ぬ、というやつか。それと・・・・・・。やつか。まあ、いい。俺の主となるには、力不足だな。死ね)

 

 と言って、身が焼けるほどの火を撒き散らす。

 俺は、ギリギリで、それを避ける。

 デュークとの1ヶ月の訓練によって、多少は動けるようになった。


 (ほう、それを避けるか。なら・・・・・・)

 

 周りを、黒い、霧のような物で覆われた。

 これは、まずい。と本能が告げている。

 ここを出ようと、持っていた剣で、霧を切り裂く。だが、やはりすぐにまた覆われてしまう。

 (ほう、気づいたか。12歳のガキにしてはよくやるな。これは、お前の心の中を暴く霧だ。俺の属性は『闇』だからな)

 ここで、俺の意識は途切れた。






 「ねえ、リュカ。私はね、いつか、この家を出て、どこかで自由に暮らしたいの」

 いつか、ソフィアが俺に話してくれた、『人生計画図』

 「でも、もし、私が死にそうになったら、その時は、リュカが助けてくれる?」

 いつも強気な彼女が、初めて見せた、弱音。泣きそうな顔をしていた。

 大人のように、いつも堂々としているから、忘れてしまう。彼女はまだ、10歳の少女なのだ。

 「ああ。勿論だ」

 と言ったら、彼女はまた、安心したような、また、泣きそうな顔をして、笑った。

 


 また、意識が途切れる。



 「はぁ、はぁ、はぁっ」

 今度は、どこだ?ボロボロの、銀色の髪の女が、暗い、森か?を走っている。

 「はぁ、はぁっ、きゃあっ!!」

 彼女は、足をつまづいて、倒れる。

 その後ろには、剣を持った男が。その男は、彼女の首めがけて、剣を振りかざす。

 「はあ、いや、いやよ。助けて。助けて!!誰か!!リュカ!!」

 その時、彼女は、いや、ソフィアは、俺の名を読んだ。

 そして、彼女は、剣に体を貫かれて、死んだ。


 (見たか)

 「お前!!お前、何を・・・・・・っ!!」

 (おいおいおい、そんなに怒るんじゃない。俺はただ、見せただけだぞ。お前たちに怒る未来を、ちょこっと)

 何が。

 そこで、冷静になる。

 もしも、あいつが見せた未来が、本当のものだったとしたら。彼女は、死んでしまうのか?

 俺は、彼女のそばにいなかった。

 その時、俺が、彼女のそばにいたら、彼女を守れていた?

 否。俺は、まだ、弱い。ミアにも、デュークにも、エイデンにも、多分、ソフィアにも、勝てていない。

  

 「・・・・・・しい」

 (何を言った?)

 「力が、欲しい。彼女を守れるような、力が」

 その時、俺の中で、何かが、パチン、と弾けるような、スイッチが入るような、そんな音がした。ような気がした。

 (・・・・・・ようやく、覚醒したか)

 「何か言ったか?」

 (いや、なんでもない。わかった。お前が死ぬまで、俺はお前に仕えてやろう)

 「本当か?」

 (ああ。ただし、俺が見限ったら、その時だ。それまで、お前の呪いは、俺が食っといてやる)

 

 え、食う、って言った?今。

 (ああ。俺の好物は、毒、絶望、呪い、その他諸々だからな)

 

 「わかった。これからよろしく頼む」

 (ああ。それより、お前、あの女のことが好きなのか?)

 「・・・・・・・・・」

 (黙秘か。なら、俺から一つ、忠告だ。彼女のことは好きにならない方がいい。どうせ傷つくのは、お前たちだからな)

 どういうことだ?

 考える前に、眠気がまた襲ってきた。


 (まあ、いい。どうせいつか、わかる。その時、それを受け入れられるように、俺が鍛えてやる) 


 

 その声を最後に、また意識が途切れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る