8話 誘惑の森 その1

 みなさん、こんにちは、あるいはこんばんは。

 私はというと、今、誘惑の森の目の前に来ています。


 リュカが決断して、私は早々に行動に移した。

 まず、スイやミア、エイデンに事情を話し、納得してもらい、ラファエルには、適当に『友達の家でお泊まりしてきます』とでも言っておいた。で、超最低限の荷物をまとめる。あ、一応デュークには話しているよ。

 これを、私は昨日のうちにやっておいたのだ!!


 「ねえ、スイ、ここであってるんだよね?」

 「う、うん!!ばっちり!!」

 私は、髪の毛がバレないように、いつもと同じ、頭巾をかぶっている。ライとリーゼは、本来の姿、でかい犬と猫、どっちかというと、ライオンとか、トラ系だけど、に変えている。


 「ふ〜」

 と深呼吸をして、いざ、行かん!!

 一歩踏み出したら、その中は、木の上から見てきた景色と同じ、いや、それ以上の景色。妖精や、精霊が周りをふわーと飛んだり、姿は見えないが、光がぷかぷか浮いてたり。

 うわー、とリュカやミア達が、口を大きく開けている。開いた口が塞がらない、というのはこのことを言うのだろう。

 とても神秘的な光景で、本当にこの世のものかと、目を疑う。まるで、この世の綺麗な部分だけを切り取ったような、そんな光景が、目の前に広がっているのだから。


 「無事に、入れましたね」

 とミア。

 そう、何回か言っていたが、この森は、心の綺麗な人しか入れないのだ。

 みんな、ここに来るまで口数が少なかったのは、ちゃんと入れるか?という不安があったからだ。


 「リュカ、大丈夫?」

 「ああ、大丈夫だ」

 何も、今日ここへ来たのは、リュカを救うためだ。それを忘れてはいけない。私は、全力で、リュカをサポートするのだ。


 「みんなー!!」

 「なに?スイ」

 「精霊の棲家なら、こっちだよー!!」

 スイは、久しぶりに実家?に帰ってこられたようで、めちゃくちゃ飛び回ったり、近くの精霊や妖精達にちょっかいを出している。


 スイに、大人しくついていく私達。

 だって、もしここで迷子とかになったら、洒落にならないもんね。


 ずっと歩いて、30分くらいかな?私には、魔力感知、とかそんなのできないけど、他とは違うのがわかる、そのくらい、空気が違うところへ着いた。

 エイデンとミア、リュカが戦闘態勢に入っている。

 いやいやいや、早過ぎだろ。


 「精霊女王様、お久しぶりですぅー!!スイですぅー!!」

 え、スイ、そんなんでいいの?

 「ねえ、スイ、そんなんじゃ__」

 精霊女王って、出てこないんじゃないの?と言おうとしたら、

 「えーー!!!!!スイーーーー!!!!!!」

 めちゃくちゃハイテンションで、めちゃくちゃ美人の大人の人が、ものすごいスピードでスイに抱きついた。

 「あー!!女王、おひさです!!」

 「あらあら、オマセさんになったわね。あ、この子たち?スイや、犬ちゃん猫ちゃんが言っていた子って」

 「そうだよーー!!」

 「あらあら。うわー、この子、呪われているわね。しかも、え、この子・・・・・・」

 と言って、精霊女王様が黙り込む。何かを、考えているようにも見えるし、未来さきのことを、見通しているようにも見える。

 「リュカという。ザラームという精霊を従えにきた」

 「ふーん、リュカね。それで、ザラームねえ。あいつは頑固だからねえ。あ、こっちの子が、スイに、『スイ』っていう名前をつけてくれた子?」

 「はい。精霊女王様。ソフィア・ライトフォードと申します。」

 「うわあ。あなた、フェアリセスの資質があるのね」

 「ええ、スイも申しておりました。でも、私にその気はないので」

 「ええええ!!!!!!勿体無い!!威張れるわよ?いい気になれるわよ?財宝とか、権力とか、あ、王妃の座も夢じゃないのに!?」

 「あ、え、あ、あの、私、今、一応、王太子様の婚約者です」

 「マジ!?」

 あ、私、やばいわ。精霊女王様の勢いについていけない。いや、ついていける気がしないのだが。

 それにしても、金髪に、緑色の瞳。しかも、私理想の、ボン、キュッ、ボン、だ。


 「あ、ねえねえ。私のことをさ、精霊女王様、っていうのやめてくれない?」

 「じゃあ、なんと呼べば?」

 「ファリー」

 「あ、ファリー様」

 「OK!!じゃ、ザラームのとこに案内するね〜!!」

 「あ、ありがとうございます」

 「ん、じゃついてきて」

 なんか、すっごくすんなりいくね。うん。

 てか、ファリーって、なに?フェアリーだから? 

 

 そしてまた、歩くこと40分くらいで、めちゃくちゃ暗い、本当に、誘惑の森?と思っちゃうほど、場違いな所に来た。そこには、大きな岩が。

 え、なにこれ、って思うくらい、めちゃくちゃでかいやつ。軽く2mは超えていると思う。


 ズキン


 その時、頭痛がした。

 「ん?」

 「どうかいたしましたか?」

 「ああ、ミア。なんでもないよ」


 「じゃあ、ここで、祈ってね」

 と、突然に、精霊女王・・・・・・、ファリー様が、おっしゃった。

 「ここで、祈る、とは」

 「まあ、なんでもいいけど、ほら、「ザラーム出てこい!!」とかなんとかすれば、自分の器にふさわしいと思ったら、出てきてくれるから」

 「・・・・・・わかりました」

 「ねえ、大丈夫?リュカ」

 「ああ、大丈夫だ」

 「そう、ならいいけど・・・・・・」

 「ソフィア様!!ご安心を!!何かあったら、私がリュカ殿を守るので!!」

 「あら、ライ。それは私の仕事よ!!」

 「へえ。神獣を従えているって、本当だったんだ」

 「まあ、はい」

 「神獣って、本来さ、人の下につかず、“守護“するって感じだから」

 「そうなんですか」

 確か、スイも似たようなことを言っていたような。

 「ちょっと!!精霊女王様!!それは私も言いましたよ!!」

 「あらあら。ちゃんと仕事しているのね」

 「もちろんです!!」

 と、胸を張って、ドヤ顔で答えるスイ。


 「あの・・・・・・仕事とは?」

 「ああ、仕事?妖精や、精霊って、昔は、人間と共存していたの。でも、何千年以上前にね、ちょっとあったのよ。そこで、精霊達の中には、人間が好きな子達が結構いてね。そっから、精霊や妖精が人間が気に入った人間にしか姿を表すようになったの。で、仕事っていうのは、その人間の命が終わる時か、精霊達が人間を見限った時まで、主人を助けるの。自分の命をかけてまでね」

 「そうなんですか」

 「うん。あ、じゃ、始めよっか。準備はできたかい?」

 リュカは、私たちが話している間に、身を清めてきたそうだ。

  

 「ねえ、リュカ・・・・・・」

 どうしても心配になって、声をかける。

 出会ってまだ、1ヶ月だけど、彼はもう私の家族のような存在だ。

 

 すると、リュカは、少し笑って、

 「大丈夫、行ってくる」

 と言って、私の頭を、ポンポン、と叩いた。

 そして、浮遊魔法で自分を浮かせ、岩の上へ。

 

 お願い。神様。どうか、どうか、彼を、助けてあげてください。

 





 自分では、ソフィアに大丈夫だ、とか言っておきながら、自分の手はものすごく震えている。

 自嘲するように笑う。

 たった1ヶ月だけ。ソフィアと一緒に過ごした時間は。

 それなのに、ずっと昔から、一緒に過ごしてきたような。彼女と一緒にいれば、とても安心する。

 でも、俺は、奴隷だ。とても、卑しい身分のものだ。本当は、彼女と一緒にいる資格なんて、ない。彼女が拾ってくれなければ、俺は、今、死んでいただろう。

 記憶がなくても、彼女がいれば、どうでもいいと思うようになった。

 これからも、彼女の隣に堂々と立つために、闇の王、ザラームを従えて見せる。

 彼女の、笑顔を、守るために。


 その時、

 「そこに、いるんだろう?闇の王、ザラーム!!」

 なぜか、わかった。

 そこに、闇の王がいるのだと。

 よくわからないけど、俺の中の何かが、「そこだよ」と教えてくれた、そんな感じ。


 「ほう。ガキの分際で、俺に命令するのか」

 出てきてのは、俺と同じ黒髪に、ツノが生えている、精霊とか、妖精とか、そんな可愛いものではない。どちらかというと、魔王。

 後ろで、息を呑む声が聞こえた。ソフィアだ。

 他にも、「え」とか、「やば」とか、ファリー様に至っては、「あー久しぶりー」なんて軽い挨拶をしている。

 「俺に・・・・・・」

 仕えろ。と言おうとした瞬間、後ろで、誰かが倒れる音がし、その後、悲鳴が上がった。


 「ソフィア様!!」

 

 バッと、後ろを振り向く。彼女は、ミアの腕の中で、ぐったりしていた。

 熱だろうか、なんだろう。大丈夫だろうか。


 「リュカ様!!」

 ミアが叫んだ。

 「ソフィア様が、私のことは気にしないで、と」

 ソフィアが倒れたのは気になる。でも、彼女が続けろ、というのなら。


 「おい、俺を呼んだくせに、つまらねえな」

 「いや、おい、お前、俺を助けるために、俺に仕えろ」

 「・・・・・・!!ほう。と同じことを言うのか」

 やつは、なぜかびっくりしたような顔をして、なにやらぶつぶつと呟いている。

 「で、どうなんだ?」

 「いいだろう。ただ、俺がお前を試す。お前が、俺に仕えるに相応しい、と思ったら、お前の専属になってやろう」

 「わかった。で、なにをすればいいんだ?」

 「なにもしなくていい」

 と言って、奴は、俺の中に入り込んだ。

 「おい!!」

 

 その時、俺は、暗い闇の中に放り込まれたような、そんな気がした。

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