7話 こいつ絶対確信犯だ!!

 リュカ達を拾って、1ヶ月が経った。彼らはもうすでに回復していて、すっかり元気に。これも、スイや、ライたちのおかげかな。 

 ただ、一つだけ気掛かりなのは、彼らに記憶がなかったこと。というか、記憶はあるが、途切れ途切れで、両親の顔、故郷の国、友人など、全く覚えていないそう。帰るところもないようなので、私が匿うことになった。ライアには「奴隷を買った」と伝えている。さすがに奴隷はかわいそうかな、と思ったが、彼女に納得してもらうには、これしかなかった。両親も、一応納得している。義母には、ちゃんと綺麗にしとけ、と言われた。彼らを、ちゃんと躾けろ、ということだろう。彼らに説明したら、結構納得しているのだから、おかしなものだ。

 ただ、やはり、奴隷と言っても、リュカには気品がある。サライファル王国には滅多にいない、黒髪に、アメジストの瞳。顔は物凄く整っていて、下手すればラファエル以上かも。体は驚くほど華奢で、今のところ私の方が背が高い。体重も私の方が重いだろう。乙女としてはショックだが。もう1人、リュカと倒れていた男の人は、エイデン、というそうだ。彼は、24歳。茶色のクリンクリンの髪に、人懐こそうな性格をしている。彼は、リュカの護衛騎士をしていたそうだ。結構惚れっぽい性格で、目覚めた時、そばで介抱していたミアに一目惚れをしたそうだ。それから会うたびに、ミアを口説いている。ミアも20歳だから、年齢的にはいいのではないかな、と思っている。


 「よう、姫」

 「あ、デューク。リュカを見てくれてありがとう」

 「おう。だが俺の訓練は王国一厳しいからな。ついてきているあいつは見込あるぜ」

 あははははは。リュカはクッタクタになって倒れてますよ?

 それはそうと、私は今、ライトフォード家の闘技場へいる。なぜかというと、リュカは一応、私の護衛騎士見習い、という存在なので、剣、体術、魔法、全て一流でないといけないのだ。で、なんでデューク、料理人に教えてもらっているかというと、デュークはうちに来る前、王国の騎士団長だったそうだ。すごくない?でも、前にあった戦争で足を負傷していまい、戦うことができなくなった。途方に暮れていたところを私の亡き母が拾ってくれたそうだ。戦争で、食糧の大切さを知り、料理を極める所まで極め、今、ライトフォード家の料理長についたそうだ。壮絶な人生だな。

 で、リュカを誰かに鍛えてもらおうと思ったのだが、両親がリュカに教師?をつけてくれるはずもなく、どうしたものかと悩んでいたところ、デュークが仕事の合間なら、と教えてくれることになったのだ。


 「ソ、お、お嬢?」

 「何?リュカ。あ、水いる?持ってこようか」

 リュカには、みんながいるところでは、お嬢、近しいもの、スイやライ、ミアの前ではソフィアと呼んでいいよ?と言っている。でも、なぜ疑問系?

 「はい。これみ・・・・・・」

 「お腹減りました」

 こ、こ、こいつ!!私に心開いてくれた!!と思った時からいつも頼み事しかしてこない。しかも、ニヤッと笑っているものだから、絶対に確信犯だ!!確信犯!!

 「ええ。いいわよ?でも、ご飯作るのに時間かかるし、しかもデュークに教えてもらわないといけないから、あ、そうだ。ミアにお相手してもらっといてね」

 「え」

 隣でエイデンをしごきにしごいていたミアが、犬のように耳を立たせて、尻尾を振りながら、走ってくる。

 「まあ。ソフィア様。それはリュカ様が1ヶ月でどれほど強くなったのか、私がテストしろ、ということですね」

 「ええ。まあ、そういうこと。エイデンは・・・・・・。うん。木陰で休んどいて。それじゃあ、リュカ頑張ってね(死なないように)」

 気絶したエンデンを運んでいたリュカが、すごく絶望したような顔をしているが、まあ、気のせいだろう。うん。

 ミアは、ものすごく大人しそうに見えて、結構大胆。リュカが来るまでは、私の世話係兼、護衛騎士、のような物だったから。彼女の属性は、【風】。ついでに、リュカの属性は【闇】だが、光以外なら、ほとんど使えるらしい。天才だな、天才。私は、魔法使えないから属性なんてないけど。あ、ラファエルは確か、【火】だったかな?

 一回だけ、ミアが戦ったところを見たことがあるけど、それはもうすごかった。体術はもちろん、剣の使い方も上手いし、魔法は、どっちかというと、風で切り裂く、的な感じで、細かいことはしていなかったけど。彼女を舐めてかかったら、恐ろしいことになる。それをリュカも知っているのだろう。


 「姫。今日は何作る?」

 「う〜ん。そうね、スタミナがつく料理!すぐにできるやつで!!」

 「そうだな・・・・・・俺がよく食ってた、豚ひき肉と、ニラの丼はどうだ?」

 「いいわ!!とっても美味しそう!!」

 家出をした時のため、私はデュークに料理を習っている。ミアは料理できないし、リュカとエイデンは、もし私についてきたとしても、多分あの調子じゃ料理はできないだろうし。

 それで、ラファエルに頼んで、私用に小さい厨房、どちらかといえばキッチンを作ってもらった。家族からの視線がものすごく痛かったけれど。ただ、2日で用意できるのは、さすが王子様!!と言ったところだ。

 あとは、リュカが来てから、両親とご飯を食べることは無くなった。私はリュカ達と食べた方が美味しいし、家族も私がいたら、イライラするだろうから。そしたら、お父様は私にもう一部屋くれたのだ。そこで、ご飯を食べるがいい、と。ただし、『昼食は自分の専属達の分全部を、自分で作ること』を条件に。朝ご飯と夜ご飯は用意してくれるのだそうだ。一瞬、あ、罠かな?と思っちゃったけど。だから、私が昼ごはんを作らないと、リュカも、エイデンも、ミアも、私の専属達みんな、ご飯がなくなっちゃうのだ。

 

 「あ、焦げちゃった」

 「全く、考え事してるからだろ」

 「ま、いっか」

 色々と考え事をしていたら、豚肉が焦げてしまった。そこまで焦げてないから、多分大丈夫だろう。

 デュークと料理をする時間は、私にとっては結構貴重な時間だったりする。外国のこととか、国のこと。家庭教師は教えてくれないようなことまで教えてくれる。

 「じゃあ、私、リュカ達呼んでくるから!!私の部屋に運んでおいてくれる?」

 「ああ。見習いにさせとく」

 あ、見習さん方、ありがとうございます。


 「リュカ達〜!!ご飯できたよ!!」

 「お、お、遅かったじゃないですか。何が、頑張ってね、ですか!!」

 おおお。私の予想していた以上に、リュカは、ギッタギタのボッコボコにされていた。

 絶対にミアを怒らせちゃダメだな。と実感しました。

 「ミアちゃん!!」

 あ、エイデン起きてたんだ。

 「何でしょうか。エイデン様」

 うわー。ミア、光の入っていない瞳でエイデンを見ている。

 「もしも、僕がミアちゃんに勝ったら、その時は、付き合ってください!!」

 おっ、エイデンくん、男見せたね。でも、勝つ時って、来るのかな?それに、ミアは絶対にうなずかな・・・・・・

 「いいですよ」

 エイデンに生気が戻った。

 「ただ、私には勝てないと思いますが」

 「本当に?」

 「ええ」

 「約束ね!!」


 私とリュカ、顔を見合わせて、静かにその場を後にした。


 「じゃんじゃじゃーん!!今日のランチは、豚ひき肉とニラのスタミナ丼!!」

 「美味しそうですね。いただきましょう」

 リュカ達は相当疲れたようで、ものすごいスピードで食べている。みんなが、美味しい、と言ってくれるものだから、とても嬉しくなる。

 「ん?」

 「どうしたの?」

 「いや、なんか、変な味が・・・・・・」

 「ああ、それは、多分、焦げちゃったやつかも・・・・・・」

 「だろうなと思った」

 ほうら。この12歳のクソガキ、普通は、「それでも美味しいよ」とかいうところを。

 「冗談だ」

 嘘つけ!!絶対にわかってて言ってるだろ!!


 「ソフィア様」

 ご飯を食べ終わった私に話しかけてきたのは、ライと、リーゼ。

 リュカの呪いを解く方法を、彼らに探してきてもらったのだ。

 ヒロインが登場したら、必然的に呪いは解けるが、それ以上にリュカは心に深い傷を負ってしまう。リュカに、そんな目に遭ってほしくなかった。

 「何か、見つかったの?」

 数秒の沈黙があって、答えたのは、リーゼ。

 「ええ。見つかったのは、見つかったのですが・・・・・・」

 「何?教えて」

 「・・・・・・。それが、闇の上位精霊の加護を受けること、だそうです」

 「闇の上位精霊・・・・・・?」

 「ええ。しかし、闇の上位精霊など聞いたことがなく、聞いたことがあるのは、闇の王、ザラームです」

 「ザラーム」

 「はい。彼なら、リュカの呪いを解けるだろう、と」

 「誰から聞いたの?」

 「精霊女王様です」

 「!!会えたの?」

 「会えたというか、念話、テレパシーで」

 精霊女王っていうことは、この話は正しい、ということか。

 「わかった。彼はどこにいるの?」

 「わかりません。ただ、誘惑の森に来ればわかる、と、精霊女王様が」

 「誘惑の森・・・・・・」

 来るもの拒まず、去る者は追わず。ただ、来るもの、とは心の綺麗な人のこと。私は行ってもいいのだけど、リュカは・・・・・・。

 

 「話は聞いた」

 「リュカ!」

 いつから聞いていたのだろう。

 「大丈夫だ。俺なら。その闇の王、ザラームとやらを従えればいいだけだから」

 リュカが大丈夫というのなら、私がなんとかかんとか言う必要は無いない。

 「分かった。なら、私も行くよ」

 「いや、ソフィアは・・・・・・」 

 「大丈夫大丈夫。私には、妖精姫の素質があるのだから」

 私には、目標がある。この世界で、幸せになる、という。

 でも、リュカにも、幸せになってほしい。

 だから、私が、リュカが幸せになる1歩目を、つくってみせる。

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