6話 闇落ち王子を拾ってしまった

 あ〜あ。

 めちゃくちゃ疲れた。

 ラファエルが、私を、ほ、ほ、惚れさせる!!と宣言し、早3ヶ月。あれから、毎日贈り物が届くようになり、1週間に1度の頻度で、ラファエルがうちに来るようになった。そして、今日も、ラファエルは来たのだ。さっき帰ったけど。


 「あ〜ライ〜!!リーゼ〜!!」

 呼びかけると、ライトリーゼは、すぐに私の元へ来てくれる。

 「ワンワンワンワン!!」

 訳、今日もあの王子来やがったね

 「ニャ〜ンニャンニャニャン!!」

 訳、そうだそうだ!!ソフィは私たちのものなのに!!

 「そうだよね、もう本当に来なくていいのに」

 ラファエルには申し訳ないが、本当に来なくていいのだ。

 

 その時「え!?」というスイの声が聞こえた

 「ソフィア!!」

 「なんだ、スイか。どうしたの?」

 「ら、ラビンス王国の王が、死んだって!!」

 「えっ?」

 ラビンス王国とは、私たちの住む国、サライファル王国の、同盟国だ。そこの王様って、30歳過ぎくらいじゃなかったっけ?

 「何が起きたの?」

 「それが、王弟の、テオ?が、クーデターを起こしたって!!王妃、皇子共に無事だけど、第一皇子のリュカが行方不明だって!!今、ラビンス王国にいる妖精が教えてくれた」

 テオ?リュカ?どこかで聞いたことがある。どこだっけ?

 「ああああああああ!!!!!!」

 あれだ、あれだ、リュカって、『闇堕ち王子』だ。

 一番忘れてはいけない人を、私は忘れていた。私は、ラファエルに婚約破棄された。しかし、私は国外追放だったはず。そう、別に私は婚約破棄をされても何も問題ない。でも、その後が問題なのだ。

 国外追放されたソフィアは、リュカに、殺されてしまう。理由は、性格が歪み、呪われ、誰も信じられなくなったリュカは、ヒロイン・セレンに救われる。しかし、彼女しか信じられなくなり彼女に婚約者はいなかったので、彼女を自分のものにしたい、と考えるようになる。でも、ラファエルに婚約破棄をされ、ラファエルが、彼女、セレンを妻にすることになる。そこで、自分のものにならないのなら、一緒に死ぬ、と言う考えに行きつき、彼は、セレンを殺す。でも、殺したと思ったセレンが、実は私だったのだ。つまり、ラファエルは、セレンの身代わりとして、私を国外追放にさせたのだ。

 

 彼の人生は、絶望の連続。唯一の光にも見捨てられ、SNSでは『闇堕ち王子』と呼ばれるようになった。あ、ついでに言うと、私は、結構この、闇落ち王子が、推しだったり。巫女戦(巫女様の下剋上大作戦!!の略)で、人気投票NO.2にまで登りつめることもあるのだ。


 あ、ついでに、巫女戦の、説明をしておこう。

 『巫女様の下剋上大作戦!!』通称、『巫女戦』と呼ばれている。少女漫画から、乙女ゲーム、ライトノベル化、アニメ化、さらには映画化までされた、今大ヒット中の少女漫画。

 あらすじは結構ありきたり。光の精霊に愛された、ヒロイン・セレンが、攻略対象者と行動を共にしていくうちに、恋に落ちていく、世に言う、逆ハーレムってやつだ。乙女ゲームでは、何ルート、とかがあるけど。まあ、下剋上大作戦、ってどこに入ってるの?って感じ。噂では、女子高生が執筆してるとか何とか。そこで、私は、まあ、どのルートに行こうとも、絶対に死ぬ。で、そのほとんどが、リュカの手にかかって死んでいるのだ。そのリュカも、反逆罪として、死ぬことになる。絶対に、ヒロインと結ばれることはない。

 ちょーかわいそうじゃない?まあ、殺される私もかわいそうだけど!!


 バタンッ。外で、何かが倒れる音がした。

 「どうしたのかな?」

 窓から覗いてみる。

 え?そこには、人が2人倒れていた。

 「ライ、リーゼ、ちょっと手伝って!!」

 あいにく今、ミアは外出していない。私1人では運べないし、ライアを呼ぶのはもっと無理!!だったら、ライとリーゼに人間の姿になって、運んでもらうしかない。


 急いで窓から飛び降りる。

 「大丈夫!?」

 「・・・・・・エイ・・・・・・デ・・・・・・を・・・・・・助け」

 「わかった。安心して。あなたたちを助けるから」

 倒れていたのは、ひどい怪我を負った、男の子と、瀕死の男の人。しかも2人とも、すごい熱だ。

 「ライ、リーゼ、助かる?」

 「ええ。私たち、神獣の力を持ってすれば、いかようにも」

 「ほっ」

 とりあえず、私の部屋に運ぶ。ベッドをスイに空間魔法でもう1つ持ってきてもらい、彼らを寝かせる。

 ライとリーゼが2人に治癒魔法を施す。私は魔法の才能がないから、よくわからないけど、ものすごく高度な治癒魔法だ。すぐに、2人とも、呼吸が安定し、傷が癒えてきた。

 「とりあえず、これで大丈夫かと」

 「ありがとう。ライ、リーゼ」

 「あの・・・・・・」

 と、リーゼが可愛い顔を曇らせて、

 「その、小さな男の子の方なんですが、呪いをかけられています」

 「呪い?」

 「ええ。しかも、私でさえ解けない呪いです」

 呪い、といえば、ただ1人しか思い浮かばない。彼は、リュカだ。私は、何とあろうことか、『闇落ち王子』を拾ってしまったのだ。


 その夜、私は1人で彼らを介抱し続けた。いくら、ライたちが治癒魔法で治してくれようとも、熱が下がらないままだ。いくら、未来で私を殺すかもしれないと言って、彼らを見殺しにすることは、私にはできなかった。結局、一晩中私は、リュカの手を握り続けた。



 そのまま、朝が来た。

 「ふわぁー」

 でっかいあくびをして目覚めた私。でも、ベッドで寝ていない。あ、そっか。私あのまま寝落ちしちゃったんだ。

 彼のおでこに手を当てて、体温を測る。

 「うん。もう熱はなさそうね」

 すごい。たった一晩で、熱が下がった。まだ、万全、とまではいかないが、起きたら少しは動けるくらいにはなっただろう。

 あ、そういえば、着替えてなかった。着替えとこう。ついでに、ミアにも説明しなくっちゃ。

 


・・◇◆◇


 ぱち、と目が覚めた。確か、覚えているのは、銀色の髪で、赤色の目をしている女に、助けて、と懇願したこと。そこからは、全く覚えていない。

 起き上がると、頭が、ズキ、と痛んだ。

 「エイデンは?」

 そういえば、俺は?ふかふかのベッドで、1人寝ていた。横のベッドでは、エイデンが寝ている。

 よかった。生きていたんだ。

 ん?そういえば、俺、なんでここにいるんだ?どうして?

 そういえば、ここにくる前のこと、何一つとして思い出せない。

 ただ、辛く、苦しかったこと。ただ1人、このエイデンだけが、優しくしてくれたこと。

 

 「あ、起きた?大丈夫?」

 女の子の声が聞こえた。

 「っ、来るな!!」

 と言って、剣を取・・・・・・?

 「お、お前!!剣をどこにやった?」

 「ん?剣?そんなの持っていなかったよ?そっちのお兄さんは持ってたけど?って言うより、何か食べる?食べれる?お粥でも作ってこよっか?だから、安静にしておいてね」

 「ま、待て!!」

 と言って、ベッドから降りようとした。

 「ライ、リーゼ。その子、おさえといて」

 「了解」

 ライ、とリーゼ、と呼ばれた男女が、俺を即押さえつけた。

 「ったく、救われた恩を忘れて、その言葉遣いはなんだ?」

 「そうね。ソフィア様、この子、調教してもいいですか?」

 「いやいやいやいや、いいわけないでしょう?私がご飯作ってくるまで、大人しくさせといて、ってこと」

 と言って、銀色の髪のやつは、部屋から出ていく。


10分後

 「は〜い、持ってきたよ〜!!ソフィア様特製、『お粥』!!」

 おかゆ?なんだ?それ

 「はい。食べれる?」

 「知らない奴が作ったものなんて、誰が食べれるか!!」

 「あ、確かにね。私の名前は、ソフィア・ライトフォード。10歳。誕生日は、7月7日。そっちの、イケメン犬は、ライ。可愛い猫は、リーゼ。ここは、私の部屋。ついでに、このお粥に毒は入っていないよ?」

 と言って、ソフィア、とか言うやつは、パクッとお粥を食べた。

 「ほら、ね?」

 ソフィアは、俺に、スプーンと、皿を渡す。

 「あ、もしかして、食べれない?私が食べさせてあげよっか?」

 「断る」

 恐る恐る、口に入れる。

 「おいしい」

 一言、そう言った。温かくて、温かくて、美味しくて、涙が出てくる。

 「えっ、えっ、あ、ご、ごめん!!まずかった?あ、やっぱり、デュークに作ってもらったほうがよかった?」

 さっき、おいしい、って言ったの、聞こえてなかったのか?でも、ボロボロ、ボロボロ涙が止まらない。初めてだ。こんなに泣いたの。

 「ソフィア様、さっきこの小僧、おいしいって言ってましたよ」

 「感動したんじゃないですか?ソフィア様の料理の腕前に!!」

 「そうなのかなあ?あ、食べ終わった?」

 コクン、と頷く。

 「ねえ、君、名前は?」

 「名前・・・・・・リュカだ。そこで寝てるのが、エイデン」

 「リュカ、よろしくね」

 「ああ、こちらこそ。ソフィア」

 よろしくね、と行って手を伸ばしてきた彼女は、俺が今まで見てきた中で、一番美しかった。

 

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