5話 おかしな婚約者〈side ラファエル〉

 僕は、ずっと退屈していた。

 このサライファル王国の第2皇子として生まれた時からずっと。

 自分で言うのも何なんだが、容姿や、家柄、才能、我ながら全てに恵まれていると思う。両親からも溺愛され、何一つ不自由なく生活していた。

 だけど、何かが足りなかった。どんなに褒められても、チヤホヤされても、いつも心にポッカリと穴が開いているような、そんな感じ。我ながら、冷めていたと思う。

 

 12歳の時、両親から、公爵家、ライトフォード家のお嬢様との婚約を伝えられた。そろそろ来るだろうと思っていたが。恋愛結婚をしようなんて思っていなかったし、どうせ相手は僕の容姿と、家柄、権力、財産とかしか見ていないのだから、別に今更期待なんてしていなかった。

 

 だが、初めてライトフォード家にいった時、一人の女の子に会った。というか、落ちてきた。その子は、銀色の髪の毛に、赤色の瞳。この国では、銀色に、赤色は不吉なものとされている。それは、遠い昔のおとぎ話に由来されているが・・・・・・。しかし、とても可憐な少女だった。思わず見惚れてしまったほどだ。

 従者が、彼女を叱責していたが、別にどうでもよかった。

 彼女は、僕が第2皇子であるとわかったらしく、素晴らしく綺麗な最敬礼をとってきた。これには苦笑いしかできなかったけど。それより、10mはあるであろうあんなに高い木から落ちてきたのだ。大丈夫だろうか。心配して聞いてみたが、彼女は、普通に、大丈夫だ、と答える。

 もっと彼女と話してみたい。と思っていたら、彼女は、すぐにとした。早く引き止めなければ、彼女はどこかへいってしまう、と言う焦りから、何をしていたの?と聞いた。本当は、名前を聞こうとしていたはずなのに。でも、彼女は、僕には関係ないから、と言って、ものすごい速さで走っていってしまった。


 「ねえ、リアム」

 さっき、彼女を叱責していた従者に、僕は問いかけた。

 「彼女の名前は知ってるかい?」

 「ライトフォード家の長女が、銀色の髪に赤い瞳で、全く人前に出ない、と言う噂は聞いたことがありますが」

 「・・・・・・っ」

 チャンスだ、と思った。両親からは、ライトフォード家のとしか言われていない。と言うことは、彼女を婚約者にしてもいい、と言うことだ。

 初めてだった。誰かを、知りたいと思い、話したいと思い、ずっと一緒にいたい、と思った。僕は、をしたのだろう。

 すぐにセシル・ライトフォードに会い、彼女、ソフィアを婚約者にしたい、と申し出た。しかし、彼は、彼女の腹違いの妹、アイティラ嬢を婚約者にしたかったらしく、抵抗してきたが、王子としての権力をフル活用して、説き伏せた。そして、両親に、ソフィアを婚約者にしたい、と懇願した。両親は、彼女の容姿が問題だ、といっていたが、そんなこと、公に出るときは、魔法で何とかすればいいし、彼女は不吉なんかじゃない、としつこいくらいに説明した。両親は、そんな僕を珍しい、と思ったのだろうか。時間はかかったが、了承してくれた。これで、外堀は、全て埋まった。

 

 1週間後、少し遅くはなったが、ソフィとはすぐに会うことができた。彼女は、僕がいてびっくりしていたようだった。そして、僕の婚約者になったことを伝える。喜ぶかな、と思ったが、彼女は、信じられない、どうして?と、困惑しているようだった。そして、次に、「お断りします」と言われてしまったのだ。

 僕は、この時以上にびっくりすることは、もう2度とないだろう。理由を聞くと、自分の容姿がどうたらとか、身分がどうたら、僕の両親がどうたらいっていたけど、そんなの関係ない。僕は、彼女がいいんだから。

 もう少し話したかったのに、リアムから、時間がない、と言われ、渋々帰った。また来るね、と伝えて。


 そこからの僕は凄かったと思う。ものすごい速さで1ヶ月分のノルマ(勉強)を達成し、仕事(12歳から手伝える)を片付けた。これも全て、彼女に会う時間を増やすためだけに。

 そして、1週間以上経ってようやく、彼女に会えることになった。彼女と話したいことは、たくさんある。ウキウキしながら、ライトフォード家に向かう。すると、畑を耕している少女がいた。彼女は、メイドと話しながら、楽しそうに何かを植えている。そして、横を向いた顔が、ソフィにそっくりだったのだ。「ソフィ?」と思わず聞いてしまった。彼女は、こちらを向いて、一瞬沈黙し、次の瞬間、やばい!!と言うような声をあげ、この間よりも早く、走っていってしまった。

 

 彼女が来るまでの間、たかが10分くらい。それが僕には、1時間ほど長く思えた。身なりを整えた彼女は、精霊のように美しかった。彼女が18歳になる頃には、もっと美しくなるだろう。

 そして、まず、なぜ畑を作っていたのかを聞いた。彼女は将来のためだ、と即答していたが、何か怪しい。初めて会った時のことを聞いた。何と彼女は、木登りをしていたという。まあ、そうだろうな、とは思っていたが。公爵令嬢が木登りをするなんて聞いたことがなかったもので。やっぱり?と言ってしまったが、彼女は、わかっているなら聞くな!!と面倒臭そうに答える。やはり、彼女は、面白い。というか、不思議だ。

 彼女といると心が落ち着く。僕は、結構腹黒いと思っている。自分のことを。でも、彼女といると、王子、ではなく、一人の人間として、向き合える気がする。

 そして、ずっと気になっていたことを尋ねた。なぜ、あの時、婚約を断ったのか。あの時にも説明をしていたが、それだけではない気がしてならなかったからだ。彼女は・・・・・・自由に飛びたいのだ、といった。狭い鳥籠ではなく、広い世界で、羽ばたきたいのだ、と。

 

 その時、僕は決心した。僕は、絶対に狭い鳥籠からは出られない。彼女は、絶対に入らないだろう。だったら、彼女を、自分から入りたい、と言わせてやる。つまり、僕に惚れさせてやるのだ、と。

 帰り際に、彼女の耳元で、気持ちを伝えた。『絶対に、惚れさせてやる』と。いわゆる、宣戦布告だ。何に?と思うけど。彼女が、結婚する18歳までに、気持ちが僕に向けば。向かなかったら、僕の負け。その時は、婚約破棄をしよう。でも、彼女は顔を真っ赤にしていたから、意識してくれるようになるかな?手強いと思うけど。


 そこから、僕は、毎日彼女に贈り物をするようになった。彼女は宝石とかは喜ばないだろうから、今は、花。次は、野菜の苗、とかはどうだろうか。彼女は、畑を耕していたから。


 「ふふふふふ」

 一人、笑いながら勉強をしていると、リアムが、ビクッと震えていた。

 ソフィ、覚悟しておいてね。絶対に、君を手に入れるから。

 この時の僕は、ライバルが何人もできることを。そして、彼女は僕の想像以上に厄介なことを、まだ、知らない。

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