4話 また、やってしまった

 「ソフィア様、ソフィア様!!そろそろ起きてください。今日は、ラファエル様がいらっしゃる日ですよ?」

 

 そんなミアの声を聞いて、ぱち、と目が覚めた私。

 「そうだった!!やばっ!ていうか、ライとリーゼはどこ行ったの?」

 私は昨日、ライとリーゼを抱いて寝たはずだ。それなのに、布団の中には誰もいない。

 「夜中にライ様とリーゼ様の窒息死されそうな叫び声が聞こえたので、場所を移しました」

 「窒息死?なんでだろう?」

 「・・・・・・・・・」

 本当に、なんでだろう。やっぱり、呼吸器官が悪いのかな?一回病院に連れて行った方がいいのかな?

 はい、これ不正解。神獣には再生機能がついているから、どこか悪くてもすぐに治るんですって。ということは、私が悪いね。めちゃくちゃぎゅっ、ってして寝たから。

 「・・・・・・私、ちょっと、ライ達と寝るのやめるわ」

 「かしこまりました。あと、旦那様から、今日は、このドレスを着るように、ということでございます」

 「・・・・・・わかった」

 いつもは何も買ってくれないのに、ラファエルが来る時だけ、私を着飾ろうとする。それでも、アイティラのような豪華なものはくれない。まあ、別にいいけど。


 「お義母様、お父様、おはようございます」

 「ああ」

 「・・・・・・・・・」

 やっぱり挨拶なしか。別にいいですけども!!

 「いただきます」

 自分の席について、黙々と食べる。あ、ちゃんと味わって食べてますからね!?こんなにおいしい料理、胃袋に収めるだけじゃ、勿体無いもの。

 「ソフィア」

 「はい」

 「今日はラファエル様がいらっしゃるから、粗相のないように」

 「はい」

 それだけかよ!!

 「ごちそうさまでした」

 いつもと同じように、すぐに食べて、すぐ退散。


 「あ〜あ。あの人たちって、本当に自分のことしか考えていないわよね。よくあれで領主ができているものだわ」

 「ソフィア様、落ち着いてください」

 ミアに宥められている私です。

 「ラファエル様って、何時にくるの?」

 「一応、10時くらいだとお聞きしています」

 「そっか。まだ時間あるね」

 現在9時前。ラファエルが来るまでに時間はある。

 「何をなさるおつもりで?」

 さすがミア。私の考えていることがすぐにわかったようだ。

 「うん?私が家を出た後、一人暮らしをするでしょう?その時に、やっぱり食べるものって、必要じゃない。だから、今のうちに作ってみておこうと思って。ほら、予行練習よ、予行練習(大掛かりな)」

 ミアには、昔、私の将来の設計図を見られたことがある。だから、私が将来家出することも知っている。もしも、家出をする最高の機会が訪れたら、ミアも連れて行くつもりだ。っていうか、連れて行かないと、私死にますから!!なんて言われたら、誰だって連れて行くしかなくなるでしょう?

 

 「そうですか。私も手伝います!!」

 あ、それは、いや、あの、お断りします・・・・・・。

 前、あの離れで暮らしていた時、ミアに料理を作ってもらったことがある。それは、もう、すごい出来栄えで、食べた後、私、1週間寝込みました。その後も、刺繍を教えてもらったりしたら、ミアの刺繍は針で指を刺して、すごく血まみれになったこともあった。

 まあ、不器用なのだ、ミアは。でも、そういうところも含めて、私はミアが大好き。

 「じゃあ、少し、手伝ってね。まず、この裏の花壇、使っていいよね?」

 「ええ、いいと思います」

 「あ!!野菜の苗、どうしよう・・・・・・」

 私、肝心なことを忘れていました。やばいね。

 (どうしました?ソフィ)

 その時、頭の中で、なんか女の人の声が聞こえた。なんだろうと思っていると

 「あ、リーゼ!!」

 リーゼが歩いてきた。あれは、リーゼの声だったのだ。こういうのを、『念話』というらしい。さすがに、猫の姿で喋っていると、怪しまれるからだそうだ。まあ、確かにね。

 「野菜の苗を買ってくるのを忘れて、困っているの。どうすればいい?」

 (?苗じゃなくても、種でいいんじゃないですか?)

 「あ!そうだね!!ありがとう、リーゼ。じゃあ、早速、料理長に頼んで、種貰ってくるね!!」

 私、超猛ダッシュで料理長の元へ直行

 「あの!!」

 「なんだ?」

 ヒィィィィ!!何、この人!!料理長って、こんなにおっかない人だったっけ?

 顔には切り傷があって、体はめちゃくちゃでかい。顔は、まあまあのイケメンだけど。

 「用がないなら、帰れ。ここはガキの遊び場じゃねえ」

 しかもめっちゃ口悪い!!え?私が、一応、この家の長女で、王太子の婚約者だと知ってるんですか?

 「あの、野菜とか、果物の、種を分けてくれませんか?」

 「あ?」

 ヒィィィィ!!!!

 「あ、えっと、捨てるものでいいので!!」

 言い切った〜。

 そういうと、料理長は、少し考え込んで、

 「何に使うんだ?」

 「野菜を作るんです!!」

 ドヤァ、という見事なドヤ顔を披露した、10歳美少女。

 「プッ、あっははははは!!!」

 何を思ったのか、料理長、大爆笑。

 「いいぜいいぜ。持ってきなよ、嬢ちゃん」

 お、ガキから、嬢ちゃん、に進化したぞ!

 「あ、ありがとうございます!!あの、ちなみに、お名前は」

 「あ?俺の名前は、デュークだ。嬢ちゃんは?」

 「私は、ソフィアよ」

 「ソフィア?・・・・・・!ああ、あの、離れで暮らしていた、幻姫だろう?」

 え、何?幻姫って。初めて聞いたんですけど。

 「へえ、面白え。また来なよ、いつでも相談に乗るぜ」

 「え、あ、はい。ありがとうございます」

 え?なんの相談?と思ったのは言わないでおこう。

 デュークか。結構面白い人だな。しかし、こんなにたくさんいらなかったな。種。

 そう、デュークは、たくさんの種をくれた。しかし、抱えて前が見えなくなるくらい入らなかった。


 「あ!ソフィア様。言われていた通り、土を掘り起こして、くわ?でもう一回耕して、なんか、犬の糞?みたいなのを混ぜて、うね?を作りました!!」

 ?ばっかり聞こえたが、私の気のせいかしら。

 「おおおおお!!!!!」

 すごいすごい!!畑ができている!!!

 「すごい、すごいよ!!ミア!!」

 「本当ですか?」

 この後、ポットのようなものに、土と、種を入れる。デュークがくれた種は、トマト、きゅうり、芋、りんご、ピーマン、とうもろこし、といったところか。

 この世界ですごいところは、がないこと。だから、いつ育てても、育て方を間違えない限り、育つことができる。

 「スイ、お願い!!」

 「任せて!!」

 スイに、水を与えてもらう。

 しかし、変なことが起こった。スイが水を与え始めた途端、ポット?が光りはじめた。

 「「「!!!!」」」

 みんなびっくりしている。そして、光が収まったと思った途端、芽が出て、茎が伸びて、葉っぱも増えて、苗、が完成した。

 「はっや!!」

 これにもみんなびっくり。

 「・・・・・・はっはははは!!すごいでしょ?スイの力!!」

 うん。確かにすごい。スイも知らなかっただろうけど。

 

 こんな感じで夢中になって、苗を植えていた。しかし、私は一番大切なことを忘れていた・・・・・・

 「ソフィ?」

 「え?」

 名前を呼ばれ泥だらけの顔で、振り返ると、そこには・・・・・・ラファエルがいた。

 「・・・・・・。ああああああーー!!!!!」

 ビクッと、ラファエルが震える。

 「?」

 「忘れてた!!」

 「え?」

 「ミア〜」

 私、デュークのとこへ行った以上の、超・超猛ダッシュを披露する。多分、ラファエルは唖然としているでしょうね。


 私、即着替えて、ミアに髪を整えてもらう。

 そしてすぐに応接間へ向かう。

 デジャヴ。そこには、また優雅にお茶を飲んでいるラファエルの姿が。

 「申し訳ございません。ラファエル様。お待たせいたしました」

 「ああ、大丈夫だよ。私が早くきてしまっただけだからね」

 ああ。なんと心が広いのでしょう。

 「まあ、座りなよ」

 「失礼致します」

 私とラファエルが、向かい合う形で座る。

 「ねえ、ところで、さっきは何していたの?」

 ギクッ。聞かれると思っていましたけれども。

 「えーっと。畑を作っていました」

 「畑?何のために?」

 「将来のためです!!」

 条件反射で答える。ラファエルはびっくり!という表情をしていた。

 「将来って?」

 しまった!そうだ。私は今、ラファエルの婚約者なのだ。

 「え、その、こう、人の上に立つには、下の者の気持ちをわからないといけないな、と思ったからです?」

 「へえ。そうなんだ。じゃあ、初めて会った時のこと、覚えてる?」

 「初めて会った時のこと、とは?」

 「君が、僕の上に落ちてきた時のことだけど?」

 まずい。冷や汗が止まらない。天使のような微笑みで、何という腹の黒さ!!これで本当に12歳か!?日本で言うと、6年生か中1だぞ!!

 「えっと、木登りをしていました」

 「やっぱり?」

 チッ、わかってんなら聞かないでよ!!

 「わかっていたのなら、聞かないでください」

 ラファエルは、これまたびっくりしたような、ショックを受けたような、少し悲しそうな顔をして、

 「わかった。ごめんね」

 といった。


 「これだけは聞かせてくれる?」

 「何でしょう?」

 「なぜ、あの時、婚約を断ったの?」

 「それは・・・・・・あの時言ったはずですが」

 「でも、それだけじゃなでしょう?」

 じっと、見つめられる。美男子に見つめられると、圧がすごい。でも、私の気持ちは伝えておいたほうがいいよね

 「ただ、嫌だったんです」

 「何が?」

 「ラファエル様が、ではなく、王太子妃になるのが。婚約をされたら、もう普通の人生を送ることはできないじゃないですか。確かに王宮は綺麗で、キラキラしていると思いますが。でも、そんなの、綺麗な鳥籠の中にいるだけじゃないですか。綺麗な鳥籠の中だけで一生を終える、そんなの、絶対に嫌です。私は、自由に飛びたいんです。」

 「・・・・・・そっか」


 それからは、ほとんど喋らずに、時間が過ぎていった。

 「じゃあ、ソフィ、今日はごめんね」

 「いえ。こちらこそ」 

 「じゃあ、また来るね」

 いや、またはいらない。

 「それと__」

 彼は私の腕を引いて、耳元で囁いた。

 「それと、絶対に、僕に惚れさせて見せるからね」

 12歳の癖に、色っぽい声で囁かれた私は、ボッと、火がついたように真っ赤になっただろう。

 ラファエルは、クスクス、と笑うと、「またね」といって出ていった。


 そして、次の日

 「ソフィア様、ラファエル様より、大量のバラが届いております」

 「え?」

 確かに、軽く100本は超えている真っ赤なバラ。

 「こんなにいらない・・・・・・」


 そのまた次の日

 「ソフィア様、ラファエル様より、大量のユリが届いております」

 「え?」

 今度は、これもまた100本を超えるユリが。

 「・・・・・・何本か取って、花瓶に。残りは、誰かいる人たちにあげて」

 さすがに、捨てることはできないか。

 

 そしてまた次の日

 「ソフィア様、ラファエル様より__」

 

 ということが1週間続いた。私の部屋の中が、花だらけになったのは、いうまでもないだろう。

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