04:ドラゴンの目的とは?!
ドラゴンには、ハンドガンもショットガンも効かなかった。辛うじて、重機関銃による口内への銃撃は効果があることが分かる。
空飛ぶ大きなドラゴンに、小さな人間でも太刀打ちできる!
しかし、はしゃいでしまったのがいけなかったのか。
美穂いわく、死亡フラグ。
喜んだのも束の間。先ほどまでのタイムラグを無視したドラゴンの攻撃。
「嘘だろっ!」
「ひゃあっ!」
想定外のドラゴンブレス。しかも至近距離からの攻撃だ。
和彦と美穂は思わず叫ぶ。
必至にハンドルを切る和彦。間一髪。本当にギリギリのところで、吐き出された炎の塊を避けてみせた。
後方に着弾したアスファルトの道が音を立てて爆散した。もし当たったら即死、という威力を目の当たりにする。
これはたまらん。
和彦はすぐさまクラッチ操作をし、アクセルを踏み込む。スピードを上げて再度、逃げに徹しようとする。
だがそれすら間に合わなかった。
ドラゴンが突然、咆哮。
鳴き声や叫びといった生易しいものではない、衝撃波のようなもの。
咆哮がかまいたちのように襲い掛かり、和彦と美穂の身体をすくませた。
反射的といっていい身体の動き。それが和彦にミスをさせる。
少しだけ深くアクセルを踏んでしまい、少しだけ大きくステアリングを切ってしまう。
「くそっ」
ほんの一瞬のこと。
しかし致命的だった。
無事な路面を探りながらのギリギリなルート取り。そこからわずかにタイヤがズレて、大きめの瓦礫を踏んでしまう。
バウンドする車体。わずかな時間、宙に浮き、操縦が和彦の手から離れる。
さらにタイミング悪く。
「ドラゴン次弾はやっ!」
ドラゴンが、短いスパンで次のブレス攻撃を仕掛けた。
美穂が叫び、とっさにマシンガンを拾い上げる。
無駄な抵抗。だがそれも間に合わない。
吐き出された炎の塊が、オープンカーの浮いたリア部分をかすめた。
さらに地面をえぐった衝撃が、車体を裏側から持ち上げ。一回転。二回転。
ふたりの乗ったオープンカーは、そのまま激しく転がっていく。
「うおおぉぉっ!」
「うひゃあああっ!」
和彦と美穂はシートベルトにくくりつけられたまま、頭を抱え、身を縮めて、全方位から襲ってくる衝撃を耐える。
屋根のない車のシートに座りながら、二転三転では済まない数を転がっていき、ようやく止まる。ひっくり返ったオープンカーは、誰が見ても廃車確定と分かるほどにボロボロになっていた。
身体ごと何回転もさせられて、意識を朦朧とさせる和彦。だがガソリンが漏れ出る匂いを感じ取り、すぐさま意識をはっきりさせる。
「美穂さん生きてるか! 生きてたら返事しろ!」
「……うあー。なんとか、生きてるっぽいですぅ」
「それはよかった。でもすぐに脱出しないと、車が爆発して死ぬぞ」
「ふぇっ!」
和彦はシートベルトを外しながら、逆さになった車のシートから身体を解放させる。後部座席にいる美穂に声を掛けつつ、運転席のドアを思い切り蹴り飛ばした。
美穂も、車がガソリン引火寸前だと言われて慌てる。後部座席のドアは、蹴り飛ばすまでもなく難なく開き、締まり過ぎたシートベルトに四苦八苦した後に、無事に脱出を果たした。
漏れ出たガソリンに引火する前に、少しでも離れようとする和彦と美穂。そんなふたりをよそに、ドラゴンは動かなくなったオープンカーの前に、翼をはためかせながら悠々と降り立つ。
ドラゴンは横転したオープンカーを鼻先でひっくり返した。
お目当てのものが見つかったのか、地面に転がっていた何かを咥え上げる。
それは、車のリア部についていた、大きめのエンブレムだった。
ドラゴンは大きな身体を揺らし、喜ぶかのように羽を上下に動かした。
ほどなく、それ以外に興味はないとばかりにドラゴンは飛び上がり。どこへとなく飛び去っていった。
空の彼方へ姿を小さくしていくその姿を、和彦と美穂は呆然と見送る。
「……あの車の、エンブレムが欲しかっただけなのか?」
「ドラゴンは光りモノが好きって、ファンタジーじゃなかったんだ……」
その後、ふたりを追い掛けてきた映画撮影スタッフが合流した。なんでも、和彦と美穂のドラゴンを相手にしたカーチェイスに興奮。撮影しながらここまで来たのだという。
すげぇ迫力の映像が撮れたぞ、と。監督たちは大はしゃぎ。
和彦と美穂は身体中から力が抜け、その場にへたり込んだ。
―・―・―・―・―・―・―・―
後日、某地方都市の湾岸地域にドラゴンが現れたという、荒唐無稽なニュースが世間をにぎわせた。映像付きでマスコミやSNSで拡散され、あれはいったいなんなんだという話題で持ちきりとなった。
さらに、映画撮影スタッフが撮った、ドラゴンとカーチェイスをする映像が動画サイトにアップされる。
至近距離から撮影された迫力の生ドラゴンはもちろん、オープンカーでドラゴンの攻撃を躱し続ける和彦と、手持ちの銃器で反撃を試みる美穂の雄姿は特大のバズりを見せた。世界で初めてリアルドラゴンと対峙し、生き延びた人間として、そしてリアル過ぎるアクション俳優として、名を広く知られるようになったという。
-了-
ドラゴン&カーチェイス ~強襲するドラゴンからフルスロットルで逃げてみた結果~ ゆきむらちひろ @makimura
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