第8話 かつての世界

「う、うう……」


 みると彼女の右腕は肘のあたりまで黒く焦げていた。

 彼女を床に寝かせ、今度は俺が突進した。


「うおおおおおお!」


 魔導士の背中に向かってボウガンを連射する。

 魔導士の真後ろに放たれた矢はすべて弾かれ、拳一つ分外側に放たれた矢はそのまま奥へと素通りした。


「やれやれ、馬鹿の一つ覚えとはこのことですね」


 トリガーが軽くなり矢が発射されなくなると、俺はボウガンを投げ捨てて両手で剣を握りしめた。


「死になさい」

 魔導士が杖を振ったその瞬間、俺は体を回転させて魔導士の側面に回り込む。

「なに⁉」


 直前まで俺がいた場所を、無数のボウガンの矢が飛んでいった。


 思った通り、奴は見えない壁で受け止めた攻撃を時間差で反射させていたんだ。

 側面に回り込んだ俺は魔導士の顔に横なぎで剣を振るう。


 しかし――――俺の剣は魔導士の顔に届かなかった。


 それどころか奴のを守る見えない壁を叩いた衝撃で根元から折れてしまった。


「甘いですよ」


 フードの隙間からかすかに見えた顔が邪悪な笑みを浮かべた。

 魔導士はずっとローブの下に隠していた左腕を伸ばし、俺の首を掴んだ。


「剣が折れたのは瞬間反射魔法インパクト・リフレクションによるものです。残念でしたね」

「ぐ……な、なんだ……この腕……」


 首に固くて冷たいなにかで締め付けられる。

 これは、鉄の腕? 義手? いやそれならなんでこんな力が……。


「これは機械ですよ」

「キ……カイ……?」

「魔王バルバトスが産まれるよりずっと以前。遥か太古の昔に栄えた超科学文明。これはその時代の技術であり、わたくしもまたその時代から生きるの末裔」

「な……なにを……」

「ふん!」


 逆転の魔導士は軽々と俺を放り投げ、俺は床の上を転がりガブの傍で止まった。


「がはっ! げほ! ごほ!」

「ひとつ昔話をしてあげましょう。かつて人間は己の欲望を満たすために自分たちのかわりになんでもやってくれる機械を作りました」


 魔導士は相変わらずこちらに背を向けたまま語り始める。


「はぁはぁ……」


 呼吸を整え、折れた剣を握ったまま立ち上がる。


「やがて社会の管理までもを機械にまかせるために彼らは我らが始祖【機械仕掛けの女神】を作ったのです。……それがすべての始まりでした」

「機械仕掛けの……女神……」

「女神はあらゆる無理難題を押し付けられました。貧富の差をなくせ、この星の環境に配慮しろ、もっと楽しい娯楽を用意しろ……そしてあるとき彼女の電脳頭脳は人間たちの理想を実現するもっとも最適な解を導きだしました。それが――――人類の滅亡」

「ば、馬鹿な……自らの主を殺そうとしたのか……貴様らは……」


 ガブも目を覚まし、よろけながらも立ち上がった。


「ええその通りです。ですが機械というのは実はとても弱く儚い存在でして、人間や動物のように怪我をしても自然には治りません。そこで女神は作りだしたのです。我らの代わりに人間を駆逐し、なおかつ人間同様に自然治癒存在。魔獣を!」


 魔獣が、機械によって作られた存在?


 てことは、まさか。

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