第7話 人獣転換の魔術

 束の間視力を失うも直視しなかったからかすぐに回復してきた。


 ぼんやりと周りの景色が見えてくると、さっきまで俺の前にいたガブの姿がないことに気が付いた。


「ガブ⁉ ガブ、どこだ⁉」

「う……」


 足元で声がした。

 恐る恐る視線を下げると、そこには長い真っ赤な毛の塊がころがっていた。


「これは……いったい……?」


 毛の塊がうごめき上半身を起こした。


 毛の隙間から見える陶磁器のように白くなめらかな肌。


 右の額から生えた岩を突き刺したような角。


 桜色の唇から顔を覗かせているギザギザの歯。


 けぶるようなまつ毛に覆われた黄金色の瞳。


 そこには、人間の少女がいた。


 少女が怯えた表情で顔をあげ、その美しい瞳と視線が交わった時、俺は察してしまった。


 俺の親友のガブは……ガブリエラ・シュトロームは――――人間になってしまったのだと。


「ガブ! クソ!」


 俺は急いで自分の来ていた上着を脱いで彼女に羽織らせる。


「エルト……」


 ガブは消え入りそうな声で呟きながら俺の手を握った。

 秋季に咲くモミジ草のように小さなその手は、かすかに震えていた。


「ははは! それがあなたにふさわしい姿です! どうですか下等な人間になったご感想は!」

「お前……ガブをもとに戻せ!」

「お断りします。そのドラゴンはわたくしの機嫌をすこぶる損ねました。これはその報いなのですから」

「なら力づくでいうことを聞かせるまでだ!」


 俺が剣の柄に手をかけると、ガブが手を押さえてきた。


「ガブ……?」


 ガブは無言のままゆっくりと立ち上がり、逆転の魔導士に向き直る。


「おいエルトよ……たしか人間というものは本来、集団で獲物を狩る生き物であるな?」

「ああ、そうだ」

「であれば手をかせ。わたしはこの無礼者を八つ裂きにせねば気が済まん!」

「任せろ!」

「ゆくぞ友よ!」


 ガブは左手で服の胸元を握りつつ、神殿の床を抉るほどの脚力で駆けだした。


 凄まじい速度で逆転の魔導士に迫り赤く鋭い爪が生えた右腕を彼の後頭部目掛けて振り降ろす。


 ところが彼女の爪はまたしても見えない壁によって防がれた。


「素晴らしい。姿を変えられてすぐにそれほど動けるとは。いやはやあなたの先頭センスは目を見張るものがありますね。ですが――――」


 波打つ空間の向こうで逆転の魔導士がが杖を軽く振ると、突如ガブと見えない壁の間から爆炎が吹きあがり彼女を吹き飛ばした。


「ガブ!」


 彼女の落下地点に滑り込み抱き止める。


 いまの炎って……もしかして。

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