第5話 来訪者
俺は焦げ付いた毛皮をナイフで剥ぎ、さっそく二人で食べ始めた。
「たまには生肉じゃないのもいいだろ?」
トライデント・イノシシの前足にかじりつきながらさっき思った話を振ってみた。
ガブはゴウワン・クマの肉を飲み込み「うむ!」と返してきた。
「油がジューシーな感じがしてとても良い感じだぞ! ただ少しばかり肉が小さくなるのが気になるがな」
「食いしん坊め。でも、お前でも味とかわかるんだな」
「当然だ。ドラゴンは魔獣の中でも特に高い感覚器官を持つのだからな。甘味、苦味、塩味、酸味、うま味、そしてめけ味まで味わうことができるのだぞ」
「……めけ味?」
「うむ! めけ味なのだ!」
めけ味ってなんだ。たぶん聞いてもわからないからどうでもいいけど。
「いつか一緒に街に行ってシェフの作った料理でも食べようぜ」
「それは難しいな。人間の社会は小さいゆえ、それに料理も凝ってはいるが量がな」
「そっか。なら俺がこの土地の領主になったら、お前でも入れるでっかい食堂を作ってやるよ!」
「ふはは、そんなもの作ってどうするというのだ」
「いいんだよ。俺は食堂は人間専用っていう常識を打ち破るのさ」
「……そうか。楽しみにしてるぞ」
「おう!」
そんな感じでのほほんと朝食を食べ終えると、ガブは「美味かったぞ」といって顔を舐めてきた。
「そりゃよかった」
「少し食い足りんがな」
そういってべろべろ舐めてくるガブ。まさかこいつ、俺を味見してないか?
分厚い舌を両手で押しのけるとガブは長い首を持ち上げて遠くを見つめた。
「どうした?」
「……来客だ」
みると神殿の入り口に誰かが立っていた。
濃い紫色のローブを纏い手には青い水晶のついた杖を持っている。
ごく普通の魔導士の格好だが強いて変な所をあげるとするならば、その魔導士が後ろ向きに歩いていることだろう。
「な、なんだあいつ?」
魔導士はこちらに背を向けたままゆっくりと歩いてくる。
後ろ歩きなんて、なかなか常識破りな奴だ。
「貴様、なにものだ? ここはわたしの縄張りだぞ」
ガブが低い声で尋ねた。
どうも警戒しているようだ。
魔導士はぴたりと立ち止まった。
「これはこれは失礼しました。まさかここがレッドドラゴンの縄張りとはつゆ知らず、どうか非礼をお詫びさせてください」
そういって魔導士は俺たちとは反対側に・・・・頭を下げた。
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