第4話

程良いくらいの酒の酔いが身体中を巡る中、彼と共に自宅に帰ってきた。


1階のエントランスホールのドアの解除を行い、エレベーターで上がり、玄関の鍵を開けて彼を中に通した。


すると、片腕を引っ張り出し、身体を寄せてキスをしてきた。訳もわからずに身を任せるかのように、片足ずつ靴を投げ飛ばして、壁に寄りかかりながら唇を重ねていた。


「ヤバい」

「何?」

「吐きそう」


軽くせる感覚が出てきてトイレに行き、嘔吐した。洗面所へ行き口をゆすいで、廊下に座り込む彼の隣にしゃがんだ。


「すっきりした?」

「ここまで飲んだのは久しぶりかも。みっともないところを見せて悪い」


彼は腕を伸ばして僕の頭を撫でてきた。


「何ですか?」

「若いって良いな。君くらいの歳に戻れるなら、やり直したい」

「何をですか?」

「実は結婚している」

「子供は?」

「いる。6歳だ。来年小学生になる」

「へぇ。仕事もプライベートも充実してそうで、いいじゃないですか。」

「当初は結婚するなど考えも出来なかった。子供が出来てから考えが変わった」

「出雲さん、幸せ?」

「わからないんだ。妻とも何もしていないし、ほとんどが子供の時間に費やされる」

「誰でもそうなるって言いますよね。僕はまだ結婚なんて、考えはない」

「それが良い」

「今が楽しいんです。仲間ともつるんで朝まで騒いでいますからね」

「本当に楽しい?そうは見えないな」

「何を探りたいんですか?」

「まずは僕を知ってくれ」

「さっき言っていた一物の話?」

「見てみる?」

「えぇ。」


和馬はベルトを外してズボンのチャックを下ろし、ボクサーパンツの中から陰茎を見せた。

確かに右側に物が曲がっていた。


「屈曲陰茎って言うらしくて、日本人に発症するのが、10パーセントも満たないらしい。」

「トイレ辛くないですか?」

「それほどでもない。慣れた。終うよ」

「今日、していきますか?」

「あぁ、会って3度目だが、知りたくなった」

真翔まなとで良いですよ」

「俺も、和馬で良い。そう呼んで。敬語もいらない。ラフに話そう」

「俺らって付き合っているうちに入るのかな?」

「まだだね。ただ気は合いそうだ」

「決めつけてるし…」


お互いが笑い合うと、見つめ合いながら彼の頬に手を添えた。唇を重ねてしばらくの間キスを交わした。


彼は容姿端麗ではないが、人並みに品のある顔立ちをしている。暗い部屋の中、寝室へ行き、衣服を脱いで、ベッドの上に座った。


僕の色白く痩せ細った身体に比べて、彼は恰幅の良い身体をしていた。


手を握り締め、再びキスを交わし、仰向けにされると舌を深く入れてきて息が上がりながら彼の頭を腕で覆うように抱えた。


首元に彼の僅かに剃り残した無精髭が当たると鳥肌が立ち、乳首や腹を舐めてくるとそれを眺めて感じ取っていた。


「もっとしていい?」

「良いよ」


僕の足先を舐め始め、ふくらはぎや太もも弄って脚を開いた。


恥ずかしい。

彼とのセックスが初めてなのに、こんなに大胆にしてくるなんて思いもしなかった。


僕の性器の先を舐めて口に含むと、思わず声を漏らした。


「思いのままに感じてほしい」


彼はそう言うと再びしゃぶりだした。脳が軽くなりそうな情愛が程走り、一夜のうちに愛してしまいそうで疼き出す身体が心地良い。


「真翔、同じ事をしてくれ」


上体を起こして抱き合い、肩を噛みながら彼の声を聞いていた。性器を優しく握り舌で先を舐めて含むと口の中に硬く曲がった陰茎が内膜に触り益々興奮していった。


あっという間の1時間だった。


彼と肩を並べて天井を眺めながら会話をした。


「どうだ?」

「欲しかった。ずっと欲しかったんだ。胴体に穴があったら和馬を埋めてみたいと毎日考えいた」

「随分大袈裟だな」

「今日初めてだったよな。貴方は俺として満たされた?」

「言っておくがこれが全てじゃない。これからは身体を通じて言葉でお互いを知っていきたい」

「俺も。身体の関係だけがセックスだとは思わない。それ以上に貴方を知りたいんだ」

「男女の恋人同士の様に繋がりを求める訳ではないが、それなりの覚悟は持っていてくれ」

「自分以外の愛を知りたい。満たされない金で解決して生きていた人間だから、余計それ以上のものを求めたがるんだ」

「真翔は付き合った人は?」

「数人程度。こう見えて遅い方なんだ」

「遅くはない。それじゃあ俺を知って、色々確かめていきたいんだね?」

「そうしていきたい」

「朝まで一緒に眠ろう」

「良いよ」


深更のネオンライトは眠らない。クラクションがやけに響き渡る。幾重に積もる空の層は僕らの存在を照らす事をしなくても、繋がる温もりを絡めながら彼の隣で静かに泣いている僕の在り方が残り香として浸透していった。


黎明れいめいの光が東の間に入り込んだのに気づいた。既に和馬は衣服を着てリビングのソファに座りながら窓の外を眺めていた。


「おはよう」

「おはよう…ございます。早いね」

「よく眠れたよ。真翔は?」

「まぁそれなりに。どこかで朝飯食べる?」

「このまま帰る。家に連絡していなかったんだ。」

「どう説明する?」

「仕事仲間と飲んだといえば分かってくれるかも。」

「よく朝まで飲むの?」

「たまにな。…あぁ、ありがとう。」


ミネラルウォーターのボトルを渡すと、彼はゆっくりと飲んでいった。


「次、いつ会えそう?」

「また近いうちでも構わない。真翔は仕事は間に合うのか?」

「今のところは大丈夫。俺そんなに忙しくないし、むしろ時間を持て余しているようなものだから、和馬のスケジュールに合わせるよ」

「またここに来ていいか?」

「勿論。連絡してくれ」


玄関先で彼を見送った後、その背中を見つめながら物悲しさが募ってきた。


ふと遠い記憶が蘇った。


幼少期だった頃、誰かは覚えていないが、僕に八つ当たりをして頭を叩かれた鈍い音感が身体に響いた。大泣きしながら帰宅して母にしがみついたのを未だに覚えていた。


なぜだかわからないが、その哀しい記憶のように、和馬がいなくなった感覚がする。


また会えるのに、昨夜抱き合った事で、抜け殻の生き物になった気分だ。僕はソファに座り、身体を包みこみ自分を慰めるように抱き抱えた。


そうだ、彼を欲しているのだ。


この手で全てを奪いたいくらいだ。なんて残忍な人間だ。気が小さい故にすぐ誰かに頼りにしたがる。


仲間からメールが届いていた。

「首尾は納めたか?」


上々ってところだな。

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