第3話
「マジで?あの声優の出雲和馬?そいつ良くアニメや吹き替えのエンドロールに名前出てくるよ。あんた何も知らないで会った訳?」
「この顔でゲイだなんて知られたら、ファンは落ち込むよな。私達の出雲和馬様に何してくれてるんだよなってな」
「まだ、誰にもわからないから、お前ら、絶対に拡散するんじゃないぞ。」
「いやぁ、めっちゃおっさん。
「趣味とか何とかという場合か。とにかくまた向こうと会う予定だから、その時に聞いてみるよ」
「何だったらここに連れてこいよ。皆んな直接会ってこいつから色々話を聞いてみたいよな?」
「やめろって。時間が合わせれるかどうかもわからないんだぞ。俺だって仕事あるし」
「真翔、締め切り大丈夫なのか?」
「それは…とりあえず何とかするよ」
やはり、こうなった。
今晩の仲間のメインディッシュ。
酒が入っている分、1本噂話をすると、5時間近く喋り続けて腹の足しにするかのように盛り上げられる愚者達だ。
ただ彼らから告げるまでは知らない存在だった。まさかあの彼がマッチングサイトを利用しているなんて、信じられない。
芸能人や著名人がサイトを使う事は薄々耳にした事があるが、その人物と接触してしまったなどと世間が知ったら、おそらく僕も巻き込まれるだろう。
信じられないのではなく、実際起こってしまった現状。未だによくわかっていないところがたくさんある。
ひとまず次回会う予定だから、直接聞くのが1番だ。
翌日の午前に出版社の担当者が自宅に来た。
「
「まぁそんなにチェック項目は少ないようですね。分かりました、今週中に終わらせておきます」
「では、私は帰りますので、また連絡ください。失礼します」
机のパソコンを立ち上げて、作業に入った。新規の執筆が入っているので、その構成に取りかかろうとした。
画面は真っ
1人は生真面目な男。もう1人は金狂いの女。ふとした出会いから、付き合う事になり、男はその女の派手な生活に陥って最後は抹殺する…。
違うな。ありきたりだ。
時代設定を変えよう。
戦前のアジアの国に日本国が占領地として構え、統治下した時代。1人は日本人男性。もう1人はアジア人女性。互いにスパイ同士だということを知らずに、恋に落ちて、ゆくゆく存在が知られると、女は自害をする。後を追うかのように、男も晒し者にされ、悲惨な最期を迎える…。
有るなそういう映画。
頭を掻き乱して、思いに更けていると、彼の名前が思い浮かんだ。
キーボードに彼の名を入力していった。
和馬、和馬、和馬…。
先日プールの中で彼とキスをした感覚が蘇った。目を閉じたまま自分の唇に手を触れてなぞっていった。
真っ直ぐに見つめる彼の目線。話し声。仕草。
微笑み。シャツから覗かせる膨れ上がる筋肉質な身体…。
人差し指を齧り舌で舐めてみた。もう一度キスした時の感触を思い浮かべた。
足先に力が入って身体の芯が熱くなり、下着の中に手を入れて性器を掴んでみた。
次第に頭を上に上げて、まるで既に彼とセックスしている画が脳裏に焼きついた。身体の力を抜いてくすぐるように手でゆっくりと動かして、次第に上下にしごいていった。
脱皮してしまうのかと脳内は彼の事で麻痺していきそうだ。しばらく自慰行為をして、微かに声も漏らしていた。
20分程経っただろうか。我に返ると席を立ち上がり、口に手を当てて呆然としていた。
欲求不満なのか、ただの疲労なのだろうか。
僕はそれほど誰かと満たされていたいのだろうか。
朝から何も食べていない分腹も減っていた。
冷蔵庫を開けたがほとんど空だ。
スマートフォンのアプリを開き、デリバリーを注文した。
30分後、配達員が来て品を受け取り、ハンバーガーやパスタなど適当にむさぼり食べていた。腹一杯になり、気が付いたらソファの上で寝ていた。
21時。やりかけのテレビゲームに没頭し、更に時間が進んでいった。
深夜2時。再び腹が減りピザを注文して、クラフトビールを飲み、酔いが回ってベッドで倒れ込むようにうつ伏せで寝込んだ。
***
「和馬、朝よ。起きれる?」
「うん…俺、寝過ぎたな。もうこんな時間か」
和馬はリビングへ行くと既に用意された朝食を食べた。彼の座るソファに子供がやってきた。
「パパ、今日何時に帰って来るの?」
「おそらく19時くらいかな。どうした?」
「一緒にゲームしたい。この間の続きのさ」
「分かった。また後でメールするよ」
「私、出るから。陸、お留守番大丈夫?」
「うん。待っている」
「気をつけて行って」
「じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
人の心はそう簡単に操れるものではない。
和馬は既に所帯を構えていた。
2週間後の平日の夜。僕は彼を呼び出して、アイリッシュパブに誘い出した。
狭い店内に丸テーブルが密着するかのように向かい合って、例の話を聞こうとしていた。アイルランド音楽の生演奏が響く中、注文したビールが来ると、乾杯はせず半分ほどグラスを飲んでいった。
「不機嫌そうですね」
「なんか今日はやけに飲みたい気分だ」
「何かあったのかい?」
「お宅、職種が教員だなんて、嘘ついていますよね?」
「誰かに言われたんですか?」
「誰にも僕らが会っている事は話していない。色々知ってしまった事があって、やきもきしている」
「…俺の本性?」
「声優さんって本当なんですか?」
「何で知った?」
「たまたま見たSNS。貴方の画像が写っているのがあって…どうして嘘をついたんですか?」
「あのサイトを利用している業界人なんて、かなりいるからね。まぁ、バレてしまった事には仕方ない。そうだよ、君の言っていることは正しい」
「僕に近づいたのはどうしてだって聞いているんだけど?」
「本気になりたいと思っているから」
「じゃあ試してみますか?」
「何を?」
「これから僕の家に行きましょう。真相を確かめたい」
「それは良いが、筧さんに話しておきたいことがある」
「何ですか?」
「僕、あれが曲がっているんです」
「アレ?あれってまさか…下の中の?」
「そう、一物。確かめてみます?」
僕は酔いが回ってきているのか、彼の発言した言葉が飲み込めていない状態だった。
彼の眼差しとは反して、僕は目を数秒見つめて右の口角を上げて薄笑いをした。
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