第62話 強キモノニ……従ウ……ソレガ道理……



 ……いや、マジで? ウソだろ……?

 できるの……? 魔法って、そんなことまで……?!


 ……!!?


 あーしが、——まさか聞き間違いじゃねーよな……? と思って確認しようと口を開きかけたら——先にイスタさんからあーしに話しかけてきた。


「ユメノさん……私はやはり、そのドラゴンは殺すべきだと思います。それも、今すぐに」

「い、イスタさん……」

「ユメノさん、すぐに取り掛かれば……今なら、死んだ皆さんも蘇生できる可能性はあります。ですが、そのドラゴンがいたのでは、落ち着いて蘇生なんてできません。デリケートな作業ですし、蘇生手段のアイテムはギリギリの数だけ。そしてなにより……人の命がかかっていますから、失敗するわけにはいきません。万全を期すためには、そのドラゴンは先に排除するべきです……!」

「……」ドラゴンがすごい顔でイスタさんを睨んだ。

「で、でも……、いや、て、てか、ホントなんすかっ? その、ホントに、死んだ人も、生き返らせることができるんすか……?」

「ええ、できます。そのための道具はあります。……まあ、確実に、とは言えませんが。対象の状態にもよりますが、蘇生が成功するかは、だいたい半々の確率です。二回に一回、成功する……。蘇生アイテムは二つはあるので、一応、望みはあるかと……」

「えーっと、じゃあ、その蘇生のアイテムって、一つでみんなを復活できるんすか……?」

「あ、いえ、一つのアイテムで蘇生できるのは、一人だけです」

「え、……いや、それじゃ、どっちにしろ、上手くいっても二人しか生き返らないんじゃ……?」

「そうですね。ですからなんとしても、最初にエリーゼさんだけは復活させないといけません……」

「ん……?」

「……エリーゼは蘇生のスキルが使える。だから、最初にエリーゼさえ復活させることが出来たら、あとの連中は、エリーゼのスキルで蘇生させることができる」——と、よく分かってないあーしの様子を見て、スニィクさんが補足説明を入れてくれた。

「ああ、ナルホド……って、え、マジ? エリーゼさんって、蘇生のスキルとか使えるんすか……?!」

「はい、彼女なら、蘇生のスキル——“復元蘇生ソウルリヴァイブ”を使えます」

「……しかし、エリーゼだけで残りの全員を復活させられるかは……正直なところ、かなり厳しいだろう。エリーゼの蘇生スキルとて、成功率が半々くらいなのは同じであるし……そもそも、一人を蘇生するだけでも、かなりの大仕事だ。仮に、全員が一回で蘇生に成功したとしても……あれだけの人数分、蘇生スキルを使うのは……いや、やはり、いくらエリーゼでも、不可能では……?」

「それは……まあ、そうなんですが……」

「……ポールが持っているという蘇生アイテムの数は、いくつなんだ?」

「それも、二つです」

「……エリーゼの次にポールを蘇生するとして、アイテムも含めてすべての蘇生が一度で成功したとすれば……あるいは望みはある、かも……か。まあ、それこそ、奇跡的な確率になるだろうが。……そもそもエリーゼ自体、復活直後であることを考えれば——」

「ええ、ええ、分かっています……! 全員を生き返らせるのが厳しいということは、私だって、分かってます……。しかし、それでも、もはや奇跡にすがるしか、方法はない……」

「……そうなると、蘇生するか、という問題が出てくるな……。エリーゼとポールの順番は確定として、三人目は、誰にする……? そして、それは誰が決める……?」

「………………少なくとも、私の一存で決められることではありません」

「……本来なら、リーダーが決めるべきことだが……肝心の本人は死んでいる。——となると、三人目はフランツ、となるか」

「……確かに、そうなりますか」

「……四人目以降は、フランツが決める……となると、ヤツのパーティーメンバーを優先するだろうな。そこでの順番がどうなるかは——まあ、それはその時か」


 ……あー、マジか。

 リーダーって、そーゆー役割なん……?

 …………なんであの時、みんながリーダーやりたがらなかったのか、分かったわ……。


「……というわけですので、ユメノさん、少しでも成功率を上げるために、すぐに蘇生に取り掛からなければいけません。ですので、どうか、そのドラゴンの始末を……お願いします」

「…………」


 ……うううううぅぅぅぅ…………!!


 いや……ムリ……ムリムリ、あーしにはそんなコト……やっぱり、できん……っ!!

 みんなを救うためとか言われても……こんな、人間にしか見えない女の子を殺すなんて、あーしにはできん……!

 あーしはそんな、リーダーって感じでスパッと決断を下すなんて、ムリじゃ……!

 ——決断する、リーダー……。

 

 ——フランツさん…………。

 

 こんな、今こそ……フランツさんに相談したい、のに……。

 本当に、死んじゃった、の……。

 

 いや——


 コイツが、のか——。


 あーしは——自分でもどんな顔をしているのか分からないまま——ドラゴンの方を見た。


「——ッ、ッ!?」


 右手に持っている剣くんが——普段は羽のように軽い剣が——やけに重く感じる。

 剣にまとわりついたのろいが、右手から伝わるあーしの感情に反応するかのように、そのおぞましい気配を、より一層強くしたような気がする。

 

 ——この剣でなら、あの首を切り落とせば、その一撃で終わる……。

 

 そう、実行する前から理解する。

 

 あーしの殺気にドラゴンが反応したことを、あーしの——剣が、感知する。

 しかし——この距離なら、向こうが何をしようが、その前に確実に決着をつけられる。

 あーしがその意思殺意さえ解き放てば——あとはほとんど自動的に——ヤツの命は終わる。


 あと、ほんの少しでも、その意思を込めたら……、……、——ッ!


「ひっ、ひ、必要ないぞ、わ、ワシを殺す必要は……、い、いや、それどころか、ワシを殺せば、その時こそ、お前たちは奇跡に縋るしかなくなる……だが、ワシならば、奇跡そんなものは必要ない。——いやっ、そうじゃ、ワシこそが、その“奇跡”なんじゃ……!」

「……なにを言っているんです? まさか今さら、死の恐怖に錯乱でも——」

「黙れっ、このっ、錯乱などするかっ! 貴様……分からんのか、ワシも使えると言っているんじゃ。——蘇生の魔法を」

「——なっ、まさかっ!?」

「……それどころか、ワシのそれは、貴様らの使うものより一段上じゃ。なんせワシの魔法なら、確実に生き返らせることができるのじゃからな」

「馬鹿な……っ、それじゃ貴方は、“完全蘇生ソウルフルリヴァイブ”が使えるとでも……? “復元蘇生ソウルリヴァイブ”ではなく……?」

「……ニンゲンの使う呼び名など知らんが——ワシの蘇生魔法は、失敗することはない」

「……まさか、……」

「ついでに言えば、死んだ人数がどれだけいるかも、ワシにとっては瑣末なことよ。ワシにかかれば、全員を蘇生するのだって造作もないことじゃ。誰から優先じゃとか、あれこれ心配する必要もない」

「……全員を、蘇生できると……?」

「そうじゃ、確実にな。……じゃから、——のう、おぬしよ。ワシを殺すべきではないぞ。ワシを生かすなら、死んだ連中は全員生き返らせてやる。じゃから……ワシを、殺すな。おぬしも、本当は……殺したくないのじゃろう……?」

「…………本当に、みんなを生き返らせるコトが、できるの?」

「ああ、嘘は言わん。ワシにはそれができる」

「ゆ、ユメノさん……」


 ……剣くんいわく、嘘——……ッ!

 ——嘘じゃナイッ!!!

 

 コイツ……このドラゴン、本当に、みんなを生き返らせることが……できる……ッ!!

 

 ——んならっ……なにも迷う必要ないじゃんっ!!


 コイツにその魔法を使わせればイイッ!!


 マジかよっ、ダイジョーブじゃん! なんの問題もねー! ドラゴンマジックでみんな生き返るッッ!!


 あーしは絶望から一転、唐突に降ってわいた希望に——思わず顔が緩んで満面の笑みになる。

 ——ああっ、悩みから解放されるって、スバラシイ……!!


「ゆ、ユメノさんっ?! ——い、いけません! 騙されてますっ! いくらなんでも、ありえません……ドラゴンだからって、そんなこと、できるわけが——」

「いやいや、イスタさん! コイツできるって! やったね! これでみんな無事に生き返る……!!」

「——だっ、ダメですッッ!! ユメノさんっ! 貴方は、惑わされている……!」

「イスタさん……コイツにイラ立つ気持ちは分かるっすケド、ここはもう、コイツにやらせるしかないっすよー」

「——っ、………………スニィクさん、遺体を、出してください」

「……いいのか? では、誰から出す——いや、そうか、全員よみがえるのなら、順番は気にする必要は——」

「いえ……そうではありません」


 あーしはそこで、なにやらイスタさんの様子がおかしいことに気がついた。

 

「え? あの、い、イスタさん……?」

「ユメノさん——貴方も、死んだ仲間の姿をじかに見れば、その眼の曇りも晴れるでしょう。口先に惑わされてはいけません……そもそも、皆を殺したのが、そいつなんですよ……? 一体どうして、その言葉を信じられるというんですか……?!」

「やっ、そのっ、言いたいことは分かるっすけど……」

「……スニィクさん。——一番手酷くやられている遺体は、どなたでしたか……?」

「……イスタ、それは——」

「やはり、実力から順当に考えれば、『波刃の剣心フランベルジュ』の誰かですよね……? ——後衛の二人、ローグさんか……モイラさん。その二人のどちらか、いえ、お二人とも、同じくらいでしょうか」

「い、イスタさん……っ」

「……モイラさんの遺体を、出してください。スニィクさん。——さあ、お願いします」

「……」

「……い、イスタさん、あ、あーし、み……見たくな——」

「ユメノさん、現実から目を背けてはいけません。——登録したてのルーキーとはいえ、貴方も冒険者の端くれならば、死体を見たくらいで動揺していては……この先やっていけませんよ。そういう意味でも、これはどうせ……いずれは通る道です」

「……あ、あ、あーしは——」

「——おい、イスタ……貴様の言い分にも一理あるが、わざわざ駆け出しルーキー消えない悪夢トラウマを刻む必要などないと、われは思うがな」

「ランスリータさん……怪我はもう大丈夫なんですか」

「ああ、もう平気だ」

「そうですか、それは——」

われはユメノに賛成だ。——ドラゴンができるというのなら、やらせてみろ。嘘や誤魔化しだったならば、その時こそ首を取ればいい。別に、試して損はあるまい」

「……ドラゴンに何かをさせること自体が、危険すぎるんですよ……! 忘れないでくださいよ……今でも向こうがその気になれば、この場にいる者たちは全員、即座にあの世行きですよ……」

「……いや、あーしがさせないっす。変なマネは」

「ゆ、ユメノさん……」

「だから、イスタさん……お願いします、コイツにやらせてください。……あーしが、責任持ちます」

「ユメノさん……、そ——」

「そもそも、何を遠慮する必要がある? のう、おぬしよ。この場の主導権はおぬしにある。おぬしの思う通りにすればよい。——この雑魚どもの言うことなど、そもそも聞く必要などまったくない。この場にいる全員が、おぬしに従う。——このワシも含めて。当たり前じゃ。おぬしがこの場でもっとも強いのじゃから。他は逆らう力を持たぬ。となれば、それが当然の道理じゃ」


 ドラゴンのその言葉に——

 

「……っ」歯噛みするイスタさん。

「……確かに、決めるべきは、ユメノ、君だ」——ランスリータさんは、そう言ってあーしに頷きかけてきた。

「……オレも、君の意見に従おう」するとスニィクさんも、続いてそう言う。

「……おっと、もちろんボクも、キミに従うとも、ユメノくん。まさか、ドラゴンを倒した英雄の言葉に逆らうなんて、あり得ないよ。——いや本当に、さっきのキミの戦いぶりときたら……まさに神話の一幕——とでも評する他にない。特に、ドラゴンを貫いた最後のあの攻撃なんて、強さと美しさの——あれはまさに極地! さしものドラゴンも、あの一撃を食らっては、ご覧の通り、なにやら可憐な少女に見た目を取り繕ってまで、みっともなく命乞いをするしま——」ドラゴンがめっちゃガン飛ばした。「……っや、まあ、その……とにかく、キミがナンバーワンさ……☆」と、強引に締めたトランシェさん。

「……ふむ、あの戦いは、誠に見事だったのである。あれほどの証を見せた貴殿の言葉を、よもや疑うことなどありえないのである。そんなユメノ殿が責任を持つと言ったからには、このマスカトール、伏して貴殿に従うだけでありまする」と、じっさいにあーしに向けて、かしずくよーな仕草をする鎧の——マスケさん。


 そして——みんなの視線がイスタさんの方を向いた。


「…………はい、分かりました。ユメノさん、貴方が決めてください。私も、それに従います。……確かに、それが当然の、道理でしょう」


 イスタさんは、なんとも言えない表情で、そう言った。


「うっす、そんじゃ、えーっと……。——まずは、誰を生き返らせるっすかね……?」


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