第63話 実益をかねた趣味



 あれから——みんなで話し合った結果、(いまや見た目は女の子の)ドラゴンに最初に蘇生させるのは……オリビアさんに決まった。


 いろいろと理由はあるケド……言ったら本人がかわいそーなアレなところもあるので、その理由については言わないであげるべきだと思う。


 そんなワケで、スニィクさんが、オリビアさんの体を影から浮かび上がらせるように取り出した。——なんでもこれは、スニィクさんの持つスキルらしい。


 影より取り出されて、地面に横たわっているオリビアさんは……ぱっと見ではまったく外傷はなく、なんなら、ただ眠っているだけのようにすら見えた。

 理由は不明だけど、この人だけ唯一ゆいいつ体が無傷だったらしい。——まあ、それも選ばれた理由の一つではあるんだケド。


 それでは……蘇生の魔法とやらを、ドラゴンにやってもらおう。

 

 あーしは、オリビアさんの前に立つドラゴン女子——の、すぐ横で抜き身の剣をその首に突きつけている。

 何かあれば——ソレを剣くんが感知したならば——その瞬間に、彼女の首を刎ねるためだ。

 さながらその様子は、今から誰かを生き返らせようとしているというよりは、むしろ、処刑しようとしているよーにしか見えねーと思う。

 だケド、責任を持つと言った以上は、あーしも全力でのぞむつもりだから。——マジで、失敗は許されないし。


 ——ジッサイんとこ、あーし自身、このドラゴンのことはまったく信用していない。

 確かに蘇生に関しては、嘘は言っていなかった。だけども、このドラゴンからは終始、あーしを含めたこの場の全員に対する——あざけり、あなどり、うらみ、そして、激しい怒り、など——強い負の感情をとにかく感じるのだ。

 どうやら、強いものに従うという信念は本物のようだから、今んとこ、あーしの言葉には従っているケド……それだって、隙あらば寝首をかいてやる——という気配もビンビン感じるし。

 ……それでも、コイツにしか全員を確実に蘇生させることができないんだから……コイツに頼るしかナイ。


「——では、おぬしよ。これから、始めるぞ……、よいな?」

「……ああ、んじゃ、たの——」


 ついにドラゴンに蘇生をやってもらおうとした、その時——


 信じられないコトが起きた。


「——————、…………っはぁ! かはぁっ、んキョッ——つふっ……っは、はっ、はっ……あ、あぅぅぅ……」


 目の前にあった死体が突然、奇声を上げて——

 

 そして————オリビアさんが、(まだなにもしてないのに)復活した。


 。

 。

 。


「……つまり、オリビアさん、貴方は、その——“身代わりの人形”とかいうアイテムのお陰で、ドラゴンの攻撃で死ぬところをなんとか生き延びて、それから今まではずっと仮死状態で、今になってそれが解けて復活したと……そういうことですか?」

「……あっ、えっと、——正確には身代わりの人形ではなく、“致命の形代アンチモータル・サクリファイス”という呪術を使って作成したアイテムで、これは所有者に降りかかった致命的なダメージを肩代わりするという身代わりのアイテムでして、それを私、暇な時にせっせと作っていたら、今や十個を越える数が出来上がっていて——」

「ああ、はい、分かりました、分かりました……。——とにかく、特別なアイテムのおかげで死をまぬがれたと、そういうことなんですね?」

「あ、はい……そ、そうですぅ……」


 ——うわ、マジか、そんなアイテムまであるんだ……。

 いきなり生き返ったからビックリして、みんなが彼女を質問攻めにした結果——どーも彼女は死んでいなかったらしい、とゆーコトが判明したのだった。


「——あ、あのぉ……そ、それで、今は一体、どういう状況なんでしょう……? わ、私、なにやら知らないうちに死んでしまっていたみたいですが……。——あ、いや、厳密には死んでいなかったわけですけど。そ、それで、わ、私、どうも記憶が曖昧で、一体全体、な、何が起きたのやら……」

「確かに……突然の出来事でしたからね。——ええ、オリビアさん。説明させていただきます。……実は、————」


 それからイスタさんは、オリビアさんにこれまでの出来事と、それから今の状況についてを、簡潔に説明していった。

 オリビアさんは、黙ってその話を聞いていた。

 あーしも、改めてイスタさんの口から語られる話を聞いてみたら、——いやマジで、めちゃくちゃな話だな、コレ……。と思わされる話だ。……なんせ、開始直後にメンバーの半数が死んだとか言われるワケだし。

 しかし当のオリビアさんは、その話を聞いてもなんだかビミョーな反応で……。

 そもそも、髪と帽子で顔が隠れてるから反応が分かりづらいってのも、あるんだケド……それだけじゃなくて、なんか、話よりも気になることがあって、そっちに気を取られてる、みたいな……? なんかそんな印象が。

 

 ……というか、明らかにコッチ見てきてるよね? ——いや、あーしというよりは……ドラゴン?

 まあ、気になるよね、コイツ。——いや誰だよ? ってカンジだし。


 イスタさんの説明はつつがなく進んで、最後の部分——つまりはそのドラゴンがどーなって、そしてこの女の子が誰なのか、さらには今から何をしようとしていたのか貴方を蘇生しようとしていたところだった——というところまで語り終えた。

 女の子の正体や蘇生ができるというのを聞いて、さすがにコレには驚いた反応を見せるか——と思ったんだケド……やっぱり、彼女はそこにもビミョーな反応だ。——えぇ、そこもっと驚くところじゃね……?

 

 んでも彼女の視線は、相変わらずあーしの右手にいるドラゴンに注がれている。

 と、思ったら、説明が終わるのもそこそこに、彼女はトツゼン歩き出すと——あーしの元までやって来た。

 そしてあーしの右手のドラゴン——ではなく、剣と一緒にドラゴンに突きつけられている、あーしのに視線をそそいで……ガン見してきた。


「……あ、あの……な、なんすか?」

「…………」

「あ、あのぉ〜?」

「…………、——あっ、ご、ごめんなさいぃ! つ、つい、気になったもので……す、すみませんぅ……!」

「……えっと、気になったって、何がすか?」

「そ、それはもちろん、あなたの右手の甲の——そのっ、呪術印ですっ!」

「え、なに……?」

「——あっ、あのっ! ちょっ、ちょっと、それ、く、詳しく見せてもらっても、よ、よろしいですか……?! お、お願いしますぅ……!!」


 すると彼女はいきなり、あーしに土下座する勢いで頭を下げてきた。


「ちょっ、えっ、なに……??」

「それほどに強力な呪力ソウルが込められた呪印……私、初めて見ました……! ぜひ、ぜひ! 私にそれを詳しく、詳しく調べさせてくださいぃ! ——お願いしますっ、後生ですから……!」

「や、その……」

「どうか、どうか……!」

「や、別に、構わんっちゃ構わんすケド——いや、でも、今はそれどころじゃないとゆーか……」

「へ? なぜです?」

「いや、なぜって……だから、ドラゴンにみんなを早く蘇生させなきゃだから——」

「ですが、“完全蘇生ソウルフルリヴァイブ”が使えるのですよね? そのドラゴンさんは。ならば、少しばかり遅れても問題ないのでは無いですか? あれならば、よほど遅れない限りはちゃんと蘇生できますし」

「あ、そーなの?」

「はいです。ですです。なので——」

「おっ、オリビアさん、話の腰を折らないでください! そもそも、そのドラゴンが“完全蘇生”を本当に使えるのかはまだ不明ですし、現時点でも、そのドラゴンが大人しくしているのはユメノさんのお陰なんです。その彼女の手をわずらわせるのは——」

「えっ? 契約で縛ったのでは?」

「はい?」

「……あ、あれ? そ、そのぉ、そう言われませんでしたっけ……?」

「いいえ……? 契約は失敗するので、結局こころみなかったと、そう言いましたが」

「え、えぇっ?」

「……オリビアさん、貴方もしかして、ちゃんと話を聞いていなかったのですか……?」

「で、でもっ、それなら、彼女の右手のアレはなんなんですかっ……?」

「……、そもそも、何の話なんですか? ユメノさんの右手が一体なんだと——」

「だって、あれだけ強力な契約——いやっ、あれは誓約ギアスですね。そう、相当強力な誓約が結ばれています。相当強力な相手との、相当強力なちぎり……。——え、これ、このドラゴンさんと結んだものではないのですか?」

「——あ、えっと、いやそれ、違うんすよ」

「……え? ——いえ、でも、それだけ強力な誓約が使えるなら、このドラゴンさんを縛ることもできますよね……?」

「——!」

「——!」

「あ、あれ? なんでやってないんですか……?? そうすれば——」

「っ、おい貴様——」

「それは本当かっ、オリビア! そのギアスとやらを使えば、このドラゴンも従えることができるというのはっ!?」

「ほあっ?!」

「おいっ、どうなんだ?! 本当なのかっ!?」

「ひっ、ヒェッ……!?」

「ら、ランスリータさん、落ち着い——」

「貴様っ——!! またもやワシの言葉を遮りおったな! 二度目は許さんっ! 今度こそ息の根を止めてや——」


 ドラゴンが動き出そうとした瞬間——あーしの剣が絶妙な力加減で彼女の首を上から押し込み、そのまま地面に押さえつけた。


「——ぬぐっ! クソッ……!」

「……いや、だから、勝手なことすんなって……うっかり切り落とすところだったゾ」

「——っ! お、おいっ、気をつけろ! ワシを殺す気か!?」

「どの口が言ってんだよ、ソレ……? つーかマジで、変なマネすんなって、言ったよな……?」

「……べ、別にいいじゃろ、後からちゃんと生き返らせるなら——殺したって」

「いいわけあるかボケっ! ——お前っ、マジでっ、次に勝手なことしたら切り落とすかんな!」

「……ど、どこをじゃっ?」

「はっ、さーね、どこがいい……?」

「ど、どこも嫌じゃ! ——切り落とすなら、あの気持ち悪いニンゲンの首にしろ! アイツの首がいい!」

「アホか! ……つーかマジで、次なんかしようとしたら、オメーの首斬るわ」

「……わ、ワシを殺せば、蘇生できなくなるぞ……!?」

「……あそ、でも大丈夫、半分くらいだけ斬るよーにするから」

「! こんっ、きっ、鬼畜じゃ……!」

「お前がゆーな! てかもうオマエ喋んな! 次なんか言ったら斬る!」

「……っ! ……」


 あーしがそこまで言うと、ドラゴンはようやく大人しくなった。

 

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