第56話 わーい! 美少女サンドイッチだー! ——か、ら、の〜、……。



「——ユメノっ!! 無事だったかっ?! ……っ、よかった……!」

「ユメノッ、この野郎、無事だったな!? ——まったく、ルーキーのくせに……一人でよく頑張ったじゃねぇか……!」

「ユメノっ! よかったぁ!! 無事で、よかったよぉ……!! もうっ、心配したんだからぁっ……!」

「……無事、みたいだな。……安心した」

「みんな……! いやぁ〜、みんなも無事だったみたいで……ホント、良かった〜」


 あーしは今まさに、はぐれたメンバー達との再会を果たしたのだった。


 真っ先にあーしの元に駆けつけてくれたのは、フランツさん達だった。——モイラなんて、そのままあーしに抱きついてきたくらいだ。


 そうしてみんなは口々に、あーしに無事を喜ぶ言葉をかけてきてくれるので、あーしもみんなの無事を喜ぶ。

 

「——おいおい、そりゃこっちのセリフだっての! お前が強いことは重々承知してるけどよ、一人でこんな場所に放り出されたとあっちゃあなぁ。さすがにこっちも心配するぜ、そりゃあよ」

「まったくだ。しかも途中からは例の“繋がりリンク”の魔法も途切れたままだったし、ずっと安否不明で……本当に心配したぞ」

「ユメノ……たった一人で、辛かったよね……。——体は大丈夫? 怪我はない? 私……私、ずっと、心配だったんだから……」

「モイラ……、心配かけちゃって、ゴメンね? でも、もうダイジョーブだから。あーしは無事に戻ったし、マジでゼンゼン、怪我もねーからさ。……ありがとね、心配してくれて」

「ユメノ……ううん、無事ならそれで、いいの……」


 そう言いつつも、モイラはあーしに抱きついたままだ。……よっぽどあーしのことを気にしてくれてたんだね。

 だケド、あーしの方はまるで無事なので、こんなに心配されるのがちょっと申し訳なくなるくらいだった。——なんならあーし、一人キャンプとかいって少しはしゃいでたくらいだしナ……。


 なんかちょっと気まずくなったんで、視線をさまよわせたら——あーしのそばまで来ている、もう一人の女の子を見つけた。


「あ、……」

「……ユメノ、アンタ……無事に、戻ってこられたみたいね。——ふ、ふん! か、感謝しなさいよね! アンタをこうして迎えに来られたのは、わたしがアンタに“おまじない”をかけていたからで——」

「ラナっ!!」

「——っへぇ?」

「ラナッ! ラナッッ!! いやー、マジでラナには感謝なんだわ! ——いや、ソレよ! ラナの“おまじない”、マジでめっちゃ役に立ったからね〜! アレなかったらあーし、マジでヤバかった感あるわ。ホントサンキューなんだわ、ラナ!」

「——っ! そ、そう! 役に立ったなら、よかったわ……! ——い、いや、別にっ、これは術がムダにならないで済んだって意味で、アンタの役に立てたことが嬉しいとか、無事に帰ってくる助けになれて良かったとか、そんなことはまったく思っていないん……ことも、な、ないけど、——だ、だからって、勘違いしないでよね! わたしは別に、アンタのことが心配でずっと眠れない夜を過ごしたりとか——そ、そんなことは、全然っ、全然なかったんだから!」

「……はぁ、そーかい。——いや、それでも、ラナにはホント感謝してっから、あーし。……いやマジで、なんならあーし、ラナの“おまじない”なかったら無事に帰ってきてねーかもだしね、ぶっちゃけ」

「はぁっ——?! あ、アンタっ、なにサラッととんでもないこと言ってんの!? ——ちょっ、ちょっと!? 本当に無事に帰ってこれたのよね? だ、大丈夫なの??」

「んー、あれ〜? あーしのことは別に心配してないんじゃなかったん?」

「あっ、いや、それは——」

「……ユメノ?? そんなに危ない目に遭ってたの……? ね、ねぇ! 本当に大丈夫なんだよね……ッ?!」

「い、いやっ、マジでダイジョーブだからっ……! ——ゆ、揺らすナ……」

「……ちょっ、モイラ、なにもそんなに揺すらなくても——」

「だって、ユメノがあんなこと言うから! ……というか、ラナだって、ずっとユメノのこと心配そうにしてたんだから、本当は気になるんでしょ……?」

「それはまあ——って、ちょ、ちょっと! そのことは言わないでって言ったじゃない!」

「別に、隠さないでもいいじゃない。もう……素直じゃないんだから」

「ふーん? やっぱラナって、あーしのコト心配してくれてたんかー」

「そっ、それは……」

「……ありがとね、ラナ」

「——ふっ……フン!」

「なんなら……ラナもハグする? ——ほら」あーしは腕を広げる。

「——っ! そっ、なっ……」

「ほーら」

「……、……ん……」


 けっきょくあーしは、二人の女の子に両側から挟まれるコトになった。


 そんなサンドイッチ状態のあーしの元に、イスタさんがやって来た。


「ユメノさん、まずはご無事で何より——っと、お取り込み中ですか……?」

「え? や、別に?」

「そうですか。いえ、とにかくご無事のようで、なによりです。——それで、離れていた間の話も聞きたいのですが、まずは、お疲れでしょうから休んでくださいと、いえ、そう言おうと思っていたのですが……」


 そう言ってイスタさんは、さっきまであーしがいた、いまだに片付けてないテントやソファを見やった。


「すでにだいぶ、くつろがれていたようですね……?」

「……い、いや、そのっ」

「——なんて、冗談ですよ。どうせ我々も、ここで一度休憩するつもりなので、ユメノさんもゆっくりなさってください。お話については、のちほどおうかがいしますので」

「あー、はい、りょーかいっす」

「……ユメノ、アンタ、心配していたわたしたちとは裏腹に、自分はかなりくつろいでいたみたいじゃない……?」

「本当だぁ……、立派なテントとソファに、飲み物まで用意して……優雅に本なんて読んでたの……?」


 ……くっ、ヤバい! 気づかれた……!

 ——やべぇ……ちゃんと片付けとくんだった……!


「……い、いや〜、まさかあーしのコト、そんなに心配してくれてるトハ、ねぇ……」

「……」——あれ、なんだか少しずつ……

「……」——二人の、腕の力が……

「……アノ、なんか少しずつ締めつけ強くなってねーすか? なんかもう、ハグこえて締め技になってねーすか……?」

「……」——どんどんと……

「……」——強くなって……

「ちょっ、マジ、もう終わりっ、ハグ終了っ!」

「……」——しかし二人の腕は……

「……」——まるでがっしりと体を締めつけて離さない……

「ちくしょう……! コイツらまるで離れやがらネェ……!」

「……てゆうかアンタ、あの調子なら、わたしたちのことも全然心配してなかったんじゃないの……?」

「そんな、ユメノ……そんなコトないよね? 私たちはこんなに心配してたのに、自分は全然私たちのこと心配してもいなかったなんて……そんなこと、ないよね……?」

「…………と、とーぜんダロ?」

「……」——二人はジト目で……

「……」——こちらを見てくる……

「……いや、その、……ネ?」

「……ラナさん」

「……ええ、——『“虚言看破センスライ”』——、……もう一度聞くわ、ユメノ、あなた、本当に私たちのことを心配してくれていたのかしら……?」

「……い、イマなに使ったん——」

「いいから、質問に答えなさい……?」

「っ……」

『“——我が主よマスター、その娘が使った呪文は“虚言看破センスライ”という奇跡で、その効果は、「相手の発言が嘘かどうかを見抜くことができる」というものですぞ”』

「——っ!?」

『“ついでに補足しておくと、対象に触れている方が効果が高くなるので、今は……かなりの効果でしょうな”』

「……っ」

「どうしたの……? 一言、言えばいいだけじゃない……?」

『“実のところ、この奇跡とて万能ではないので、色々とかわす方法はあるのですが——”』

『“それっ、教えて! スグに——ッ!”』

「どうしたの? ユメノ……? そんなに黙って……、ん、いや——?」

『“かしこまりました。マスター。そうですな、色々な方法があるのですが……まずもって、問いかけそのものに答えないという簡単な方法から——”』

「ユメノ……あなたもしかして、誰かと“念話テレパス”してる——?」

『“ちょ、ラダオッ、状況に即したベストなヤツだけすぐ言えぃ——!”』

『“あ、ハイ。——でしたら、嘘でもいいから、そのまま答えてしまうことですな”』

『“はぁっ——?!”』

『“いえマスター、——〜こういうこと〜——、です”』ラダオはあーしに、“イメージ”をそのまま伝えてきた。

『“——ッ!?”』——ナルホド……ッ!

「ユメノ……?」

「……も、モチロン、心配してタヨー。トーゼン、モチモチ、モチのロンさ。……ナ?」

「……」

「……ラナさん? どうだったんですか……?」

「ユメノ……アンタ……なんでセンスライが効かないの……?」

「……えっ、センス、ライ……?」

「くっ、ムカつく……! なによそのすっとぼけた顔ッ……! センスライがなくても分かるっ! 知っててすっとぼけてる顔じゃないのっ、ソレッ!」

「……チョット何を言っているのか分からナイっすね」

「こ、コイツっ……!」

「ふぅん……まあ、ユメノだし、そうなるのかぁー」

「……ふぅ」

「ユメノも大変だったんだろうけど、少しは私たちのことも心配してほしかったなぁ……なんて」

「いやいや、マジで心配してたから! マジ!」


 ……別れてすぐの時とかは!



 と、まあ、そんなカンジで、あーしらは無事に再会したことを喜びあったのであった。


 ——いや、つーかよ……ウソ見抜く魔法まで使うかぁ? フツー……。


 ともかく、こうしてあーしが合流したことで、これで探索メンバーも全員が無事に揃ったことになるみたいだった。

 そう、どうやら最後に合流したのがあーしだったみたいで、他のメンバーは先にみんな合流済みだった。


 みんなは、はるばるここまで移動して来てるから、今は休憩中だ。

 ——ちなここまでは、例の“飛空艇フライトセイル”とかいう空飛ぶ船を、これまた例によってランスリータさんの竜が引いての移動で来たよーだ。


 あーしはこの休憩中に、自分がはぐれてからの経緯を(イスタさんを筆頭に)説明した。

 ラダオのことを言うかは迷ったんだケド……とりあえず言わないことにした。

 いやね、ラダオが登場するまでの段階の話でも、すでにけっこー長くなったし、そっからさらにこんなヤツの説明とか……ダルい。

 とりまラダオ本人には、——みんなに迷惑かけんなよ? つーか許可なく出てくんな——としっかり言っておいたから、ダイジョーブ。


 

 その辺の話が終わった頃には休憩も切り上げることになり、あーしらは船に乗り込むと出発した。


 その行き先は……えっと、なんだったっけ……?


『“マスター、〈次元門ディメンションゲート〉です”』


 ——え、あれ? そんなヤツだったっけ?


『“いえ、彼らは〈深淵門アビスゲート〉と言っておりましたかな。まあどちらにせよ、同じもののことを表しているのですがな”』


 ——あー、そうそう、なんかそんなんだったカナ……。


 そう、アビスなんたらに向かってるのよね。

 

 あーしの方の話が終わった後には、今度はみんなの方があれからどーなったのかをあーしは聞いた。

 まあ向こうもイロイロあったみたいだけど、けっきょくは(あーし以外)全員無事に合流できて、それであーしの捜索をかねて、本来の目的であるここの調査を進めていたらしい。

 んで、あーしが合流する頃には——つまり今の時点では、その調査も大体が終わってしまってるんだと。

 そして、その最後の仕上げとして、例の……なんちゃらゲートを確認しに行くってことになった。


 なんちゃらゲートの場所については、これまでの調査でもなかなかハッキリとしてなかったみたいなんだケド……あーしの話によって、その場所がだいたい分かったので、最後に寄ることになったカンジ。

 まあ、あーしの話とゆーか、ラダオがその場所について知ってたから、それをあーしが伝えただけだケド。

 あーしがイスタさん達と話している時に、ラダオが割り込んできてね。

 まあ割り込むといっても、“念話”だったからあーし以外には聞こえてナイんだケド。


 そう、あーしはこの“念話”とかいう、脳内で直接やりとりするテレパシー的なヤツを使えるよーになった。

 ラダオに渡された通信用の指輪、アレにその能力があって、それでラダオと試してやってるうちに、あーしもわりとあっさりと念話のやり方を習得したってカンジ。

 どうもラダオとはあの“誓約ギアス”を通しての“繋がり”が出来ているらしーので、それによって、あーしはラダオとはいつでもこの念話で話をできるのだ。

 

 ただ、いつでも話しかけられたらうっとーしいので、その辺も指輪の力で調整できる。よーは着拒ちゃっきょな。

 それから、念話はちゃんと、あーしが伝えたいコトだけを発信するよーに出来るので、別にあーしの内心が常にラダオに筒抜けってコトはナイ。それはとーぜん。

 むしろ、そんななるなら、即ラダオとの契約解消するし。——そしてヤツには、すぐさま成仏してもらうことになったであろう……。



 ゲートに到着するまでの道中は、あーしは船の中でゆったりとして過ごした。

 戦闘なんかは他の人に任せて、あーしは基本的に誰かとだべっていた。

 その相手は、フランツさん達四人を筆頭に、ラナやイスタさんもちょこちょこやって来て、他の人らもたまに参加してたり、みたいなカンジだった。

 そん時の話の内容については——

 

 ——あーしの買ったアイテムについての話だとか(なんかみんなにイロイロとツッコまれた。てかあーしはここで、もしかしたらこの探索の後にやべー事態が迫っているかもしれない、というコトに気がつくことになったのだった……)。

 

 ——あーしの『探索者シーカー』のランクが上がった話とか(みんな最初は——早いな!? って反応だったんだケド、最近のあーしの活動を思えば、——そーでもないのか……? と、後から思い直していた)。

 

 ——そして、覚えた新しいスキルの話だったり(ここではローグとポールさんが、スキルの詳しい使い方を教えてくれた。——なんでも、ローグのジョブである『斥候スカウト』も、同じスキルを覚えるんだとか)。


 ——スキルの話から広がって、魔法についての話なんかもしたり(ここではラナが、イロイロと話してくれていた。んで、あの“センスライ”とかゆーのが効かなかった件についても聞かれた。——まああれは、ラダオがなんか魔法でガードしてくれたから効かなかったんだケド……ラダオのコトを言うわけにもいかないので、あーしはテキトーにごまかした。ちなそのラダオも、魔法の話の時にはイロイロとあーしに念話で語りかけてくるもんだから、頭ん中がかなりやかましかった)。


 ——なんかその時の様子を見るに、ラナはフランツさん達とも随分と馴染んでいるカンジだった(聞けば、あーしと離れてからの探索で、モイラを通して接点を深めていったらしくて、今のラナはかなり四人と仲良くなっていた)。


 ——それで、フランツさん達のパーティーに、もしかしたらラナが入るかもしれないって話が上がっていて、(そのラナも乗り気なので)あーしにもパーティーに加わらないかって、正式なお誘いの話をフランツさんから受けるという場面もあった。


 んであーしは、そのパーティーへのお誘いを——いったんは保留にした。

 

 いや、まあ、あーしのノリ的にはフツーに「あ、じゃあ参加しよっカナ」ってカンジだったんだケド……即答そくとーできない理由があーしにはあった。

 

 イロイロと、考える必要があったしね。

 あーしはそもそも、冒険者やってるのはオマケで、ただの臨時バイト感覚だし。だってあーしの一番の目標は、ウチに帰ることだから。そんなあーしでもいいのかってのがあるし。

 そう、そのためにあーしは占い師マムさんの助言に従って行動する必要があるし、みんなをそれに付き合わせることになっちゃうケド、いいの? みたいな。

 

 まあでも一番に渋ってる理由は……ラダオの件やけど。

 いや、正式に仲間になるなら、コイツのことも話さないワケにはいかんやろーケド……説明したないんじゃ、こんなん。マジしんどい。

 だって、どー見てもあーしが取り憑かれてるよーにしか見えんしよー。そんな事故物件、ゆーて契約したないじゃろ……


 まあ、その辺の話はまた後で、とりまこの依頼が終わってからってことになった。


 

 そんなカンジの話をしながらも、以降の探索は順調に進んでいって——あーしら一行は、ついに最後の目標である、なんちゃらゲートのある場所にまでたどり着いたのだった。


 そこは確かに、今回の探索のフィナーレにも相応しいとゆーか……このフィールドとかゆーヘンテコな場所の中でも、そーとーイカれてる場所だった。


 一言でいうならそこは、地獄のよーなところだった。

 草木の一本も生えていない、ゴツゴツした岩肌の剥き出しになった荒れ果てた大地が延々と続き——

 その最果てにそびえ立つ巨大な山のいただきに、はあった。


 ソレはまるで、“世界に空いた穴”、だった。

 まるでブラックホールのよーに真っ黒な穴が、デカデカと空中に存在していた。

 その周囲は、空間が歪んでいるのかなんなのか——あるいは光の屈折か、あるいはまったく別の何かによるものなのか——極彩色の波がウゴメくような、ケバケバしいカラーリングをしているのだった。


 ——うーわ……、しょーじき、めっちゃキッショいな、ココ……。


 到着早々、あーしはそんな感想を抱いた。


「本当にありましたね……。しかし、これほどの規模の“深淵門アビスゲート”まであるとは……。この空装領域フィールドは、本当に、計り知れませんね……」


 船の甲板に集まった面々は、呆然と目の前の光景を見つめていた。

 初めにイスタさんがそう呟くと、それから他の面々も、「やばいにゃぁ……、とにかくこれは、ヤバいヤツだにゃぁ……」とか、「うぉぅ……オレっちこんなん、初めて見るぜ……」とか、「確かに……われが今までに見てきた中でも、相当な規模だな、こいつは……」とか、「おぞましいまでに凄まじい光景だね……この世のものとは思えない……。さすがのボクも、これを見ては閉口せざるを得ないよ……。——そう、こんな光景、まさに一生に一度見るか見ないかだろうからね。あるいは、この目に焼き付けておくべきなのかもしれないけど、しかしそれにしても——(カット強制閉口)」……などなど、口々にそれぞれの感想をこぼしていた。


 しかし、すぐに呆然としていた面々も気を取り直し、めいめいに準備をすると、船から降りて山の近くまで向かうことになった。

 

 じっさいのとこあーしは、まるでその場所には近寄りたくなかったのだケド……全員で船を降りて近くまで行くことになったんで、あーしもついて行った。

 ——ほんとは船に残りたかったくらいだケド……イスタさんが(例の小瓶の中に)しまっちゃったから、もうついて行くしかなかった。


 周囲には、まったくモンスターの気配はなく——ゴツゴツした岩の小山みたいなんが乱立している中を歩いて行く間も——一匹の姿も見せてこない。

 

 それが、かえって不気味だった。


 そのまま何事もなく、あーしら一行は、山のふもとまでたどり着いた。

 そこにあった、開けた広場みたいな場所で、あーしらは止まった。

 ——しょーじき、これ以上は一歩たりとも前に進みたくなかった。

 周囲の面々の顔を見てみても、どうやらあーしと同じことを考えているよーだった。


 イスタさんも、そんなみんなの様子を眺めると、ふぅ、と一つ息をついてから話す。


「……とりあえず、進むのはここまでとしましょう。——ではこれより、この場から出来る限りの調査を行います。それが終わり次第……今回の探索クエストは終了としまし——」


 その時——


 突如として、目の前の空間が、大きく歪んだ。

 同時に、何か巨大な——ひたすらに巨大なものが、そこに現れて——


『“マスターッッ!! 空間がッ! ——こ、コイツはッ!!? ——、——”』


 ラダオの声が頭の中に響いたような気がして——


 次の瞬間、


 閃光が——、


 ——、————


 、——


 。

 。

 。


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