第55話 年寄りの話は長い



 とりまあーしは、この場で待機して、みんなが迎えに来てくれるのを待つことにした。


 どうも、みんなの方もあーしを迎えにきてくれているってのをラダオが教えてくれたので、あーしはもうここでみんなが来るのを待つ。

 下手に動いてまた変な場所に行ってもたまんねーし、そのほーがいーやろーとゆー判断だ。……決して、自分で移動すんのがメンドイとか、そーゆうのではナイ。

 ここに出てから、ラナの“おまじない”が効いているのを、あーしも感じることが出来た。なのでおそらく、ラダオの言っていることは間違いない。


 そのラダオについてだけど、あーしはひとまず、ある程度てーど信用しんよーしてみることにした。

 もちろん、魔法の契約けーやくを交わしたからといって、すぐに全面的に信用なんてするわきゃナイ。

 ただ、この“誓約ギアス”という魔法の効果はマジだってのは分かる。マジで破ることはムリってのは、これは剣くんの感覚でも確か。

 なので少なくとも、アイツがあーしの敵になることはナイ。

 ただし、それ以外のことについては、一切の保証ほしょーはないワケで。だとすれば、話は通じるとはいえ、元々がイカれた魔物モンスターなんだから、信用なんてそうそうできんわ。


 とはいえ、まるで信用の置けない相手と一緒に居るってのも、あーしとしてもメンドーなので、じっさいのトコロどー思ってるのかとか、あーしはラダオに聞いておくことにした。


 というわけで、あーしはラダオとその辺のことを話してみた。

 ——“誓約”があるとはいえ、戦っている時の態度からしたら、一転して今んとこはやけに従順じゅーじゅんな気がするし……じっさいのところ、お前、どー思ってんの? って。

 したらラダオから返ってきたのは、おおむねこんな話だった。


『“そうですな……われと致しましても、まずもって、我が主人マスターにかけられた温情に報いるべしという、そういう気持ちはなきにしもあらず、というわけなのです。——そもそも、降伏したとはいえ、すべての生あるものの大敵である不死者アンデッドを助けようというのが、はっきり言って異常——っ、いえ、で、ではなく、通常では考えられない程の、そう、寛大なる処置であるわけでして。その点からいっても、いくらわれ自身が、この世の道理に反したアンデッドというモンスターであろうとも、それでもうつろな心に一握りに残った人の世の義理というものを、おもわずにはいられないところも、あるわけです。そう、われも長いこと俗世から離れて一人、モンスターとなってまで、ひたすらに己の望む魔道を極めしと孤独に打ち込んできたわけですが、ふと立ち止まった時に感じざるを得ないのが、これまた孤独というものでありまして————”』——はい、カット。


 長ぇわ。くっそ長かった。

 んでも、あーしはちゃんと最後まで聞いた。

 途中、年齢がいくつってくだりもあったけど——聞いて納得、おじいちゃんもおじいちゃんよ。

 年寄りの話は長い……キリがない。いくら今は他にするコトなくてヒマだからって、なぁ?


 まあそれで、ヤツの(くっそ長かった)話を要約すると、こんなカンジ。


 ・助けてもらった恩があるので、それはちゃんと返したいと思う気持ちはある。あとは迷惑をかけたことに対しても、償いとしての奉仕をする所存である。

 ・長いこと他人と話していなかったので、なんなら誰かと話せるだけでも、歓迎なところがある。

 ・そもそも、そうはいってもマスターは人の子であり、これからの寿命は百にも満たない。それくらいの期間を配下としてかしずくことなど、そもそも寿命の無い自分にしてみれば、いかほどのものでもない。


 ——なるほど、言われてみれば、あーしが寿命で死ねば、コイツは自由の身になるワケだ。

 コイツの今まで生きてきた長さからすれば、あーしの一生など大した時間でもない。というのは、聞いた歳が真実ならば、納得せざるを得ないトコロである。

 まあそもそも、あーしは死ぬまでコイツを手下にしておくつもりなんてのもゼンゼンねーけど。

 ゆーてあーしは家に帰るのが目標なんで、こんな変なの連れて帰るワケにもいかん。その前にしれっとどっかに捨ててくる。

 

 まあでも、(剣くんチェックで)言ったことは嘘ではナイみたいなので、それまでの間なら、コイツを連れて行くのも悪くないかもしれない。

 ゆーて魔法とかイロイロ使えるし、長生きな分けっこう物知りっぽいし、普段は隠れて出てこないよーにできるから邪魔にはならんし。

 なにより……ゴーストだから餌代かからんし。ゆーてすでに死んでるワケだし、モンスターだから……何かあった時には、犠牲にしても心はまったく痛まないしナ……。

 ある意味、最高の味方なんかもしれんワ……。


 クソ長い話が終わった頃には、辺りも暗くなっていたので、あーしは休むことにした。

 その際には、再びラダオの“空装領域フィールド”の中に入ることにした。

 いや、ゆーてこの中って別世界だから、安全度でいえば、かなりのモンらしーんよね。

 外は外で危険がいっぱいだから、それならむしろ、こん中のが安全、みたいな。

 

 ちな、この中に入るとラナとの“おまじない”による繋がりが切れてしまうらしーんだケド……なんかそこは、ラダオが魔法でいいカンジにしてくれたらしい。詳しくは知らんケド。

 まあゆうて、一晩経ったら出るつもりではあるんだケド。


 んで、中に入るにあたって、あーしはラダオから二つのアイテムを渡された。

 

 “大いなる耐呪の指輪グレート・アンチカースドリング”——のろいに対する耐性を上げる効果を持つ指輪。

 

 “金剛心の指輪ダイアモンドハーツ・リング”——“精神力メンタルフォース”を高めて、精神に対する攻撃への耐性を上げる効果を持つ指輪。


 ——ラダオに聞いたアイテムの説明は、こんなカンジだった。


 どちらも、あの暗黒フィールドに常時発動している、アンデッドになるのろいとかゆーのに対抗するための装備ってことで、もらった。

 まあこの二つをつけてれば、ほぼほぼダイジョブっぽい。


 つーわけであーしは、この二つの指輪をつけた。右手に。

 すると一気に右手に三つも指輪をつけることになった。(ラダオとの通信用にってもらったブツも、指輪だったンデ)

 まあ、この二つの指輪に関しては、別にラダオのフィールドで過ごすためっての以外にも、付けといて損はないらしーので、とりま付けとくことにする。

 “耐呪”の方に関しては、すでに効果を実感したし。

 いや、この指輪つけたら、あののろいの兜を外すのがかなり——いやマジでめっちゃラクなったから、マジ使えるわ、コレ。


 もう一つの“金剛心”の方に関しても、なんか精神攻撃を防いでくれるってハナシなんだケド。

 精神攻撃って……悪口のコトなん? とか最初は思ってたケド、ゼンゼン違うっぽい。

 つーかなんか、あーしすでに食らったコトあるっぽい。他ならぬラダオから。

 あの目が光ってから意識がトんだやつ。あれがそーなんだとか。

 だとすれば……あれは剣くんや鞘くんにもどーにもならんタイプの攻撃ってコトだ。……んなら対策はいるやろ、ゼッタイ。

 

 三つもつけると右手がかなりごちゃごちゃするケド……そーも言ってられんわナ。

 だってなんか、一部の搦め手的攻撃に関しては、あーしゆーて防げてねーし。

 眠らせてくる系のヤツは、食らった上で解除してるカンジだし。まあこれは、まだ鞘くんで解除できるだけマシよ。

 精神攻撃の目が光るヤツは、これもまったく防げてナイし……そもそも、これに関しては自分でもどーやって解除したのか分からんし。

 ならとにかく、食らわないよーにするのがベストってコト。

 まあ、あんな変な攻撃してくるやつが……そうそういるとは思えんケドね。


 そんなことを考えたりしながら、あーしはこないだと同じよーにテントを張ったりなんたりとしてから——眠りについたのであった。



 一夜明けて。

 

 あーしはラダオのフィールドから出て、荒野で一人、みんなの迎えを待っていた。

 まあ、テント立てて、(デコ丸で)ソファ用意して、そこに座って本読みながらね。

 ——ちなそばには、飲み物とオヤツの乗った机もある。


 読もうとしている本は、“夢日記”——とかいう本、らしい。

 コイツは、あーしのポーチの“貴重品”のところに、知らない内に入っていた。——ここには今んとこ、制服とカネと、あとは占いの紙くらいしか入れてなかったハズなんだケド。

 昨日、“誓約書”をしまった時に、なんか入ってるのを見かけたから、みんなを待つ間ヒマだし、とりま読んでみることにしたのだ。


 さてさて、日記、らしーケド、これ、誰かの日記なん……?

 あんま他人の日記を勝手に見たりとか、フツーはダメだろーケド……

 でも、なんであーしのポーチにこんなん入ってんのか気になるし……それに——

 

 なんだかこの本は、ちゃんと読んでおかないといけないよーな、そんな……気がする。

 

 後はやっぱ……ゆーてヒマなんでね、だってスマホないし。

 あーしは、本は雑誌とマンガくらいしか普段は読まねーんだケド……これだけヒマだと活字オンリーだろーがええわ、だってヒマだし。


 さて、そんじゃ……誰の日記か知らんケド、読ませてもらうとすっか。


 。

 。

 。


 ……読み終わった。


 ——いやこれあーしの日記じゃん……!!

 

 てか——


「ゼンッブ思い出した!! ——いやマジでッ、完ッ全にゼンブ忘れてた!!! 丸一日分の記憶!! 丸々!! ゼンブ! マジですっかり消えてる!! 銀さんの言ったとーりジャン!!!」


 ——ッ、銀さん…………。


 ……この日記は、ゆーてなかなかに長かった。

 読んでいくうちにすんなりと、あーしの記憶は補完されていった。

 読み終わる頃には、あーしは一つの欠けもなく、あの世界での出来事を思い出していた。


 そもそも読むというよりも、本当にただ思い出していくかのよーに、ページをめくるたびに、あーしの記憶として再生されるよーな感覚だった。

 おそらくこの“夢日記”自体に、そーゆう力があるみたい。

 てか他にも、この“夢日記”はなかなか素晴らしい能力を秘めているみたいなトコロあるっぽいゾ。

 

 コイツはマジで、スゴいプレゼントを貰っちまったナァ……。

 ……でもいつか、返せるといいなぁ。——他にもたくさんのお礼を、イロイロと追加した上でね。


 そんな風に、少しばかりおセンチな気分に浸っていたあーしの心に、これまた大きな反応があった。

 

 ——この感覚は……“おまじない”の、成就じょーじゅ……?


 それすなわち……


 ——待ち人、来たり。


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