第54話 ギアスっていうと、なんかすごい反逆されそうなイメージある



「……………………っはンッ——!?」


 あーしは、……あーしは、——アレ? あーしは……なんだっけ……?


『——ッッ??!! バカなッ!? あり得ナイッ! なぜッ、……?!!』


 脳に直接響くような声で、心底驚いてるっぽい声を発したのは——十本くらいの光る剣に周りを囲まれた球形のバリアの中に浮いている透けたガイコツ風の見た目のオバケみたいな——って情報量じょーほーりょー多いなッ?!

 

 でもソイツを見た瞬間に理解した。というか、一瞬だけ混乱した思考しこーが元に戻った。

 ——コイツは敵だ。しかもかなりつえぇ敵だ。そしてあーしはついさっき、。……アイツの目を見たことで——

 

 そーだヤバいッ!? アイツの目を見ちゃイカンッ——!!


 あーしはすぐさま目をつむる。

 そして“視点操作コントロールビュー”のスキルを使って、俯瞰から全体を見下ろすよーに視覚を取る。——間違っても再び目が合わないよーに。


『一体どうヤッタというノダ……ッ?! 確かに効いテいたハズッ!! なのにナゼ……??!』


 改めて状況を確認していく。


 とりまあーしの体には、なにか問題があるカンジはナイ。怪我もないし、何も変わりないよーだ。

 その場の状況も、ほとんど変わっていない。

 相変わらずガイコツは例の無敵バリアの中だし、“剣霊突撃ソードゴーストカミカゼアタック”で生み出した光剣たちも、変わらずガイコツのバリアに取りついて、ヤツを引き裂く時を今か今かと待っている。


 しかしアレだ、あーしはさっき、ガイコツに何かをされた気がするんだケド……?

 それによって、一瞬、意識を失ったよーな……?

 いや……? 一瞬とゆーか、いや、一瞬な気がするんだケド、やけに長い一瞬だったよーな気も——


『おかしイ、ありえナイ……一度ひとたび効果ガ発揮されタ以上は、独力どくりょくでの解除は不可能のハズ……! 貴様ッ、一体、何をシタ……?!』

「“おいおい、大仰おおぎょうに慌てくさってからに、何をそんなに動転している?”」

『んグッ……! そ、そもソモ、この忌々いまいましイ光の剣にしたっテ、ナゼ……!!? 少しの間だろうガ、意識が飛んだ以上ハ、普通ならバその操作は途切れるハズ……!?』

「……ふっ、そりゃ、あーしには頼れる相棒——いや、愛剣が、ついてっからサ」


 確かに、あの光剣はあーしが意識して操作してんだから、あーしの意識がトんだらそっちもトんじまうハズ……

 でもそーなってナイってことは、つまりは“いつでもイケイケでサイキョーに頼れる剣くん”が、なんかまた助けてくれたってコトっしょ。

 ——っと、そーだ、ついうっかり受け答えしちまったケド、それもやめたがいーか。

 なんせアイツは、目を合わせただけでなんかしてくるヤツだ。言葉をかわすことですら、なにか起きるかもしれん。

 

 もうあーしは油断せん。ヨケーなこともせん。

 自分の目や耳も信用できん。だからあとは、そう……剣くんの感覚にすべてをたくす……!


『剣、ダト……? ソノ聖剣、よもやソノようなチカラマデッ……? ——グッ、見誤っタカ……ッ』

「……」

『ここマデ追い詰められテしまってハ……もはヤ覚悟を決めるヨリ、仕方ナシ……』

「……」

『オ、おイ、ソのほう……折り入っテ、て、提案がアルのダガ……』

「……」

『お、おーイ? 聞こえてイルだろう? ……な、ナゼ返事をしナイ……?』

「……」

『お、おイ……? な、なア、聞こえてイルなら、返事をしてくれナイカ……? む、無視ハ酷いのデハないカ……?』

「……」

『……』

「……」

『……わ、われにハもう、何モ打つ手がナイ……手詰まりダ。だかラ、そう……われハ、こ——降参スル!』

「……っ、?!」

『最早オ手上げダ……。貴様ガ、いや、貴殿きでんが、コレ程の御力みちからを秘めし御方トハ……見抜けなんダ。われノ、完敗ダ』

「……」

しかる上ハ、もはや全面降伏しかナイ。一切の抵抗を観念スル所存につきましてハ、どうカ、一抹いちまつの温情をたまわりタイ』

「……」

『……アノ、せめテ、反応の一つくらいハ——、——ッッ!!』


 そこで、ガイコツの張っていたバリアが——ついに消えた。


 バリアが消えた瞬間こそ、ガイコツは慌てる素振りを見せたケド、すぐに観念したかのように大人しくなった。

 そのガイコツに向けて、光の剣が一斉いっせーに襲いかかる——ことはなかった。


 ヤツの言葉を受けて剣くんの感じ取ったトコロと、ジッサイにヤツのバリアが消えて余力がないことを理解したあーしは、いちおー話を聞いてやるコトにした。

 ——いやまあ、さすがに話が(一応いちおーは)通じる相手が降参してるのを、問答無用でヤッちまうのは……ね。

 そこはほら、あーしは天使に匹敵する優しさの持ち主って、自負してるンデ。


「……とりま降りて来なよ。話の続きをすっから」

『……! わ、分かっタ』


 ガイコツはおっかなびっくりといったよーすで、あーしの立つ足場の目の前にまでやって来た。

 あーしは油断なく剣くんと、それから光剣を構えながら、ガイコツを迎える。


「降参する、ってことは、とりまあーしを外に出してくれる、ってコトだよね?」

『もちろン、それを望まれルならバ、そうしヨウ』

「でもなぁ……ちゃんと出してくれるのか不安だしぃ……。つーかさ、お前倒しても出れるんだよな? ココ。たぶん。そーダロ?」

『そッ、それハッ、いヤ、ソノ……まア、ハイ』

「……んなら、そっちのが確実じゃね?」

『そッ、れハ——』

「それにさぁ、いきなりこんなトコロに迷い込まされてさぁ、しかもそっちから襲ってきたクセによぉ、降参して外に出すからそれでチャラってかぁ? ……そうはならんやろがい」

『……でハ、どうしろト……?』

「“どうもこうも、敗者はそのすべてを勝者にゆだね、捧げるものだろうが。そんなの当たり前だろう。他に何がある?”」

『……分かっタ。それデハ、我ノすべてヲ貴殿に捧げル。なのでドウカ……我ヲ滅することダケはご勘弁願いタイ。どうカそれだけハ……』

「……いや、捧げるって言われてもなぁ——」

『偽りハ申しまセン、すべてヲ捧げマス……! なのデどうカ、どうカ……何卒なにとぞ……!!』

「いやだから、いくら口でそんな言われたって、信用が出来ないってハナシなんだケド」


 ——まあ、剣くん的には(今は)ウソ言ってないっぽいケド、だからって、いつ心変わりしたっておかしくねーしよー。


『デハ……真誠まことの証を立てまショウ。“誓約ギアス”によル、絶対の主従契約ヲ……。それならバ……! ご納得いただけマスでショウ……?』

「……ギアス?」


 なんか知らん単語出てきたので、とりま説明してもらった。


 ——んで、その説明を要約よーやくすると。

 要はギアスというのは、破れない誓いを立てるという、そういう魔法の契約、約束を結ぶってヤツらしい。

 今回の場合は、あーしは“ヤツの命を奪わない”ことを約束して、代わりにヤツは、“あーしに絶対服従する”ことと、“あーしと、その仲間たちに対して、危害を加えない”ってなカンジのあたりのコトも約束する。

 つまりは、あーしに倒されないで済む代わりに、あーしにゼッタイに逆らわないし悪いコトもしない、ってコトを誓うとゆーワケだ。


 そんな便利な魔法があんなら、まあ、助けても問題はなさそうカナ……? とは思うのだケド。

 問題は、とーぜんのことながら、あーしにはそんな魔法は使えナイので——使うのはガイコツが自分でやるってコトやけど。

 でもまあそこは、剣くんの感覚と、あと“鑑定”とか使って、なんとかなりそーかなー……?


 誓約を取り交わす具体的なやり方としては、とりま契約書とゆーか、誓約書とゆーか、まずそんな書面を作成して、それにお互いに署名する、ってカンジらしい。

 したら後は、その“誓約書”がある限り、誓約を破ることは出来なくなるっちゅーワケ。

 ——なんか覚えある気がしたケド、アレだ、ボンドさんと交わしたヤツ、アレと似たよーなカンジ。


 あん時はあーし、文字が読めなくてアレだったんだケド、今のあーしには“鑑定”があるから、誓約書もちゃんと読める。

 あとはまあ、ガイコツが誓約書を作る時の一挙一動に(剣くんが)目を光らせておけば、タブン、問題なかろ。


 。

 。

 。

 

 ——んでハイ、問題なかったっす。


 あーしはガイコツ——ではなく、“ラダオ”と、そんなカンジで誓約を交わした。

 誓約書はあーしが預かって、ポーチの“貴重品”のトコロにしまった。


 誓約を交わしたコトで、あーしの右手の甲に“誓約印”とかゆー、なんかタトゥーみたいな印が刻まれるコトになった。

 ぶっちゃけ、なんかヤダなーコレ——と思ったケド、普段は見えないようにも出来るらしいと聞いたから、ならいいか、と(しぶしぶ)受け入れた。

 なんでもこの印が、主従の繋がりを表してるらしい。

 あーしには手の甲で、ラダオの方は首。——これはなんでも、「首輪と、それに繋がる鎖を握る手」とかいう意味があるとか……別にどーでもいいケド。

 

 ちな“ラダオ”というのは、ガイコツの名前。そー呼ぶコトにした。

 いやホントは“ラダモン”ってゆーみたいだけど。なんか、そんなちょっとカワイイ……ゆーてポケモンみたいな名前——なんかイヤだったから、ラダオと呼ぶわ、あーしは。


『……では、誓約も結ばれたので、これよりは貴殿を我が主人マスターとして、臣下の礼を尽くすことを、ここに改めて誓わせていただきます』

「ああ、うん……まあ、よろしく、ラダオ」

『その呼び方は……、いえ、マスターの好きに呼んでくだされば』

「“なんかお前、さらに話し方が流暢りゅうちょうになったな……?”」

『そうでしょうか? はて、主君しゅくんに対する適切な振る舞いを——としてみれば、どうも自然とそうなるようですな』

「……まあ、そっちのが聞き取りやすいから、いいんだケド」


 さて、そんじゃ……よーやくこの場からもオサラバできる。


「んじゃラダオ、さっそく外に出してくれ」

御意にイエス我が主人様マイマスター


 

 そうしてあーしは、ようやっと迷い込んだ謎の領域から、無事に脱出できたのだった。

 つーか、なんかオマケで手下みたいなのが増えちまったナァ。

 ……待てよ、まさかコイツが、占い師マムさんが言ってた仲間になるヤツってんじゃ、ねーよね……?


『さて、着きましたぞ、マスター』

「……」


 いやいや待ってくれよ、え、マジ? コイツなん?

 いや、まあ、強さ的には、なかなか強げなヤツではあるケド……

 ……えー!? あーしコレから、謎の幽霊をずっと引き連れて旅して行くんかい?!

 最初のお供がゴーストモンスターって、なかなかねーだろ、そんなん。


『マスター、いかがなされましたか? ……マスター?』

「……」


 つーかコイツのこと、他のみんなにどーやって紹介すればいーんよ?

 だってさー、ちょっと離れた間にこんな変なヤツ仲間にしてるとか——

 いや、まあ、ランスリータさんとかも、ゆーてなんか、あの水ニョロヤベーヤツ仲間にしたみたいだケド……んなら、別に問題ねーんかー?

 まあ、そもそも、わざわざ言う必要もねーんかな……?

 なんならコイツも、あのランスリータさんのスキルみたいに、どっかに引っ込んでくれるならラクなんだケド——


『——マスター!』

「うわビックリしたぁ! ——っえ、ナニ?」

『いえ、地上に着きましたが』

「ああ、着いたんか。……ん、地上?」

『ええ。——ここは、“悠幻の森”の空装領域フィールドの、その地上部分ですな』

「フィールド? 地上? ——えっ、ちょっと待って、フィールドからは出てきたんじゃなかったの?」

『さっきまでいたのは、“悠幻の森”にあるフィールドの中に、さらにわれが創り出していたフィールドの——中です。そのフィールドからは出てきましたが、いまだここは、森のフィールドの中なのです』

「……なんかややこしいコトしてんなぁ、お前ぇ」

『す、すみませぬ……』

「……てか、えっ、なんの森って? 確かここって、マノ森とかゆーとこじゃなかったっけ?」

『それは……どうなんでしょう? われの知識は、なにぶん古いものですので……今は呼び名が変わっているのやも、知れませんな』

「まあ、いいわ、名前は別に、どーでも。——とりまここは、まだフィールドとかゆーヤツの中ってことなんな?」

『そうです』

「それで、地上ってことは……地上ってコトなん……?」

『そう、ですな。——われのフィールドを介して移動した結果、地上に出てきたというわけですが。……あのまま地下に出るよりは、そちらの方がいいかと思ったのですが、余計なことをしてしまいましたか……?』

「“別に、地下よりはこちらで構わんだろう”」

『左様ですか、ではよかった』


 ……、んーっと、とりあえず、状況を整理すっか。


 ここはまだ、あの森にあったフィールドとかゆーのの中で、あーしらは洞窟から地下に入ったケド、それが地上にも繋がってたってコトみたい?


 あーしは改めて、辺りを見渡してみるために、今いる洞窟のような場所から移動してみる。

 洞窟の出口はすぐそこにあり、そこからは光が漏れていたのですぐに分かった。

 

 出口より外に出ると——薄暗かったさっきとは一転した。

 

 には空があり、光があった。

 そして、見渡す周囲には……一面の荒れ果てた大地があった。


「いやどこやん、ここ……」

われもこのフィールドのすべてを知っているわけではないのですが……おそらく、荒野地帯のどこかではないかと』

「“荒野地帯? とは……?”」

『このフィールドの地理を説明するのは、いささか難しいところですな。なにせ、とにかく広大でして。さらには、空間的な位置関係が、必ずしもではないので、なんとも……』

「……お前って、ここの地理に詳しーんか?」

『そうですな、まあ、それなりには』


 そうらしーので、あーしはとりま、ラダオと相談しつつ、みんなと合流する方法を探ろうと思ったのだケド——


『仲間と合流、ですか? ——え、ああ、なるほど。言われてみれば、マスターの体には、なにやらまじないの気配を感じますな。どれ——、……ほう、ほう。——マスター、どうやらそのまじないをかけた片割れは、すでにこちらに向かっているようですな。それも中々の速度で。ですからまあ、合流したいのであれば、ここらで待っていても問題ないと思われますぞ。そら、詳しくは知りませんが、マスターには、なにかと野営道具は揃っているのでしょう? ああ、われのことはお構いなく。われは自前のフィールドの内部に引っ込んでおりますので。——え? ああ、出来ますよ。マスターがそう望まれるなら、われは普段は引っ込んでおきますとも。……そうですな、であれば、この呪物じゅぶつをお渡ししておきましょう。これがあれば、フィールド内のわれとも円滑に意思疎通が可能となりますので。——では、われはこれにて御前を失礼つかまつります。なにかあればお呼びくだされ。それでは』


 ……いや、意外とコイツ、役に立つのかもしれんゾ……?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る