第53話 いぃ・てぃ



 とりあえず、ぱっつぁん——ではなく銀さんが、あーしの味方と分かって安心したので、あーしは他の疑問はひとまず飲み込んで、銀さんの言う通りにやることにした。


 その結果、あーしの服装ふくそーは、それまでの黒髪黒目の制服着た女子高生から——金髪碧眼の、汚れない服を着て、グローブとブーツとマントとポーチと、あとのろわれたかぶとを身につけている、冒険者っぽい格好かっこーに戻った。(——まあ呪われた兜は、すぐに脱いだケド)


 剣くんと鞘くんが居ないのは——いや、最初は呼び戻そうとしたんだケド、したらなんか、やめといた方がいいよーな感覚がしたので……呼び戻さないことにした。

 詳しくは分からないケド……もしかしたら、剣くんたちは今も現実のほーで何かをやってくれてるのかもしれない。——んであーしがここに呼び戻したら、それが出来なくなる。

 なんかそんな気がしたよーな気もしないでもないカンジだったので、とりまそのままにしておいた。


 それでも剣くんたちとの繋がりは、この世界からでも感じられた。

 だからこそ、さっきの銀さんの“自分は味方だ”という言葉も、信じていいとあーしは(剣くんを通して)判断できた。

 とはいえそれも、銀さんがちゃんと言葉としてあーしに言ってくれたからこそ分かったカンジだ。

 さすがに、相手をひと目見ただけでイロイロと見抜けるほどには、剣くんの力もここには届いていないよーなカンジなんよね。

 だからあの質問には、ちゃんと意味があった。……そう、だから——やっぱ他のコト聞いてみたかった……! とか、後悔してはいけないノダッ……!


 んで、装備も元に戻ったところで、あーしは次のステップに進んだ。——タイムリミットもあるので、ここからはサクサクバンバンでいくノダ。


 お次にやるのは、あーしをこの世界に縛りつけようとしている、敵の呪縛じゅばくを解くこと……らしい。

 それが出来れば、少なくとも“眠ったら終わり”のタイムリミットは無くなるんだって。

 だからといって——これで少しはゆっくりできる……とはならないんだケド。ゆーて現実の方のあーしのことも心配だし、急ぐに越したこたぁナイ。

 でもまあ、どっちにしろ、コイツをどーにかしないことには、ここからの脱出は不可能っつーことらしーので、まずはコレをどーにかする。


 んでその具体的な方法なんだケド……どうも二つのステップがあるらしい。


 まず一つ目のステップで、この本来なら見えないし触れられない呪縛を、“可視化”して“可触化”する。

 まずそれが出来ないと、手の出しようがないので、形あるモノに変えてしまう必要があるんだと。


 ——このステップは、“鑑定”のスキルをメインで使うことでなんとかなった。

 銀さんの力も借りて(なんかイロイロと助言とかサポートをしてくれた)呪縛の現物化に成功すると——現れたのは、禍々マガマガしいオーラを放つ“鎖”だった。

 それがあーしの体に、ジャラジャラと絡みついているノダ……。

 ——ってコレ、マジ邪魔いし、キモいんすケド……?!


 マジうぜーしとっとと消すぞコレ——ッ!


 てなワケで次のステップはとーぜん、鎖の破壊だ。

 ここはもうフツーに、見えるよーになった鎖をぶっ壊しちまえばイイ。


 鎖を破壊するにあたって、あーしと銀さんはいったん家の外に出てきた。


 ではさっそく、ぶっ壊しちまえ!

 ——オラッ、ブツさえ出たなら後はカンタンだゼ!

 ……って最初は思ってたんだケド、あーしは忘れていた。

 そう、今は剣くんが使えないのだ。


 もちろん、剣くんさえあれば、こんなん一撃よ。とーぜん。

 ……でも今はナイんよね。

 

 しょーがないから、別のブツを使うかってなったワケだケド、そこで問題発生。

 いや、剣くんの代わりがナイ。


 剣くんは無くても、なんか武器さえあれば、今のあーしなら意志の力で強化できるから(あと自分も力を貸すので)破壊できるはず——と銀さんは言った。

 だけどないんよ、その武器が。


 ゆーて剣くんの代わりの武器とか買ってないし。——いや、あの剣くんあったら代わりとか要らんやん? ってなるやん?

 オイオイ、じゃあ……どーすんのよ……?


 焦ったあーしは、「いや、それなら……その辺のホムセンホームセンター辺りから、テキトーに、チェーンカッターみたいなん持ってきたら、それで、どーすか……?」っても聞いてみたケド……

 銀さんには、「……ホームセンターの工具でのろいの鎖が切れるって——それ、本気で言ってる……?」と言われた。

 

 そもそも、この世界にあるブツじゃ、鎖を切るのはムリらしい。

 それが出来るのは、あーしが呼び出したヤツだけで——んで、今のあーしが呼び出せるのは、現実であーしが持っているモノに限られる、というカンジで……。

 だけど、あーしが持ってる武器なんて剣くんしかねーんだケド——?!


 ——いや、そーだっ! いちおー、なんかナイフみたいなんは持ってたハズ……!


 あーしはその事を思い出すと、ポーチを漁ってナイフを探す。

 

 まあコレ、武器というよりは、サバイバルグッズとして買ったヤツなんだケド……

 ……もうしゃーないし、コレでなんとかするしかねーか。

 ……ね?


「……まさかロクな武器も持っていないとは。——さすがに、ただのナイフじゃ厳しいかもしれない……、けど、それしかないならしょうがない。何も無いよりはマシ。……だけど、普通なら、予備の武器の一つくらい用意しておくものだと思う」

「……いや、その、スンマセン」

「別に……今更ここで謝られてもどうにもならないのだから、謝る必要はない。——とはいえ、ナイフでは時間がかかるかもしれないから、初めから覚悟しておくようにして。……もしも間に合わないようなら、その時は——」

「——あ、待って! なんかあったかも! 武器!」


 ナイフを探してポーチを漁っていたら、あーしはソレを見つけた。

 特になんの変哲もない、どころか、けっこう古びているケド——確かにソレは、武器であり、剣だった。

 

 コレは……?


 ……なんだっけ?


 ——あ、そーだ! あの動く骨を倒した時に拾ってたヤツだ。


「……あったの?」

「あ、うん、なんかあった」


 あーしは取り出した剣を銀さんに見せた。


「うん……その剣なら、問題ないと思う。——じゃあ、呪縛を解くという強いイメージを剣に込めてから、鎖に打ちつけて。それで破壊できる」


 あーしは言われたとーりに——ねオラッ!! ——という強い気持ちで剣を鎖に打ちつけて……何回も打ちつけて……そして見事、鎖を破壊することに成功した。

 

 あーしの剣によって断ち切られた鎖は、宙に溶けるように消えていった。——同時に、なんだか体が軽くなったよーな感覚が。

 どうやら呪縛はちゃんと解かれたようだ。


 鎖も破壊できたので、あーしらは家の中に戻った。

 

 さっきと同じ二階の部屋に入ると、銀さんはさっきと同じようにベッドの上に腰掛ける——ことはなく、むしろあーしにベッドを指差してきた。


「え、あーしが座っていいの? ——あ、でも、いまベッドに座って休んだりしたら、あーしそのまま寝ちゃいそーなんだケド……」

「構わない。そこで寝るといい」

「えっ、でも——」

「呪縛は解けたから、もう寝ても平気」

「や、でも、なるべく早くに戻るべきなんしょ? ゆっくり寝てるヒマは……」

「そう、だから寝る。——夢の中の夢は、ひるがえって現実となる——。眠ることで、あなたは現実に戻れる」

「え、マジ?」


 どーやらそーゆうことらしい。

 

 じっさい、夜もだいぶ深い時間帯なので、もうあーしもめっちゃ眠いし、それで戻れるなら助かるケド。


 ——あ、でも、人ん家のベッドを勝手に使うのは……ってか、けっきょくこの家は誰の家なん……?


「あー、でもさ、この家——ってか、この部屋のベッドって勝手に使っちゃってもいーんかな……?」

「それは問題ない。この部屋のあるじから使用許可は取ってある」

「あ、そーなん? んなら、それはいーんだケド……でもなんかあーし、まったく知らない人のベッドで寝るってのも、じゃっかん抵抗あるカモなぁ……」


 女の子の部屋っぽくはあるけど、やっぱ他人のベッドはなぁ。

 ——いやー、イマサラそんなこと気にするコトでもねーか……とも思うケド。


「それも問題ない。この部屋はあなたの友人の部屋だから。知らない他人のベッドではない」

「え、マジ?! えっ、マジで、誰ん家なん……??」


 しかし銀さんはあーしのその質問には答えず——さっさと寝ろ、とばかりにベッドに向けて顎をしゃくった。


「ねぇ、ちょっ、少しくらいはヨユーあるっしょ?! もーちょいイロイロ教えてくれても……」

「教えたところで……どうせ無駄になる」

「そんなぁ……。いや、だってあーし、銀さんのこともまったく知らないし、せっかく助けてもらったのに——あ、そーだ、あーしお礼も言えてねーじゃん」そこであーしは、銀さんに向けてフカブカと頭を下げた。「——や、マジで、あざっした、銀さん。ほんに、よろしゅうしてもらってからに……」

「……感謝の言葉は受け取っておく。それと……話をしないのは、別に意地悪で言っているわけじゃない」

「えっ、どゆこと……?」

「この世界に来てすぐのあなたが、現実のことを思い出せなかったように……現実に戻ったあなたは、この世界でのことを忘れてしまう。だから……話をしても、それは時間の無駄でしかない」

「ウソ……マジで? え、そ、そんなコトって……」

「……」

「——そんな……せっかく、サイキョーにイカした友達が増えたゾ! って思ったのに……」

「友達……?」

「え? いや、ダチっしょ? あーしら。まあ、友人プラス恩人でもあるケドね。——いや、そーよ! あーしめっちゃ助けてもらったのに、そのコト忘れて恩返しもできんとか……そんなんダメやろ! 女がスタるばい……!」

「別に……気にしなくていい」

「いやいや、気にするってばよ! せっかく逢えたのに、銀さんのコト……忘れたくないし、受けた恩も返したいし……。いやその、この上さらに頼るのはアレなんすケド……、そのあたり、なんとか、ならんとデスカ……?」


 あーしにそう言われた銀さんは……少しの間、難しい顔をしていたケド——ふっ、と唐突に笑うと、優しい顔になった。


「……仕方ない。——それなら、とっておきのアイテムをあなたにあげる」


 そう言って銀さんがあーしに渡してきたのは、一冊の本のようなモノだった。


「これは……?」

「これは、“夢日記”。これがあれば、あなたが現実に戻って、ここでの出来事を忘れてしまっても……これを読み返して思い出すことが出来る」

「おおっ……! ——でも、アレ? 現実で、……? って」

「この日記は、夢の世界から現実に持ち出すことができる」

「えっ、マジで?! なんかスゴくねっ?!」

「そう、スゴい。……貴重な品だから」

「え……マジ? そんな貴重だってモノ、あーし、も、もらっていーのっ……?」

「まあ、どうせ自分では使わないし……あなたにあげる」

「あ……ありがとう。や、マジで大事にすっから。そんな貴重なモノなら」

「……本当に?」

「えっ、いや、マジだから! マジマジ!」

「でもあなた……偏見だけど、物持ち悪そう」

「ひっでぇな! いやでも——うん、ま、わりかし偏見でもないカモ、なんて……」

「……やっぱりあげるのやめようかな」

「ええっ! そんなっ……!」

「じゃあ、貸しにしておく。だから……無くしたり傷つけたりせずに、後で返して」

「いやそりゃ、乱暴に扱うつもりはゼンゼンねーケド……でも返すって、ど、どーやって?」

「あなたにはがあるから、いずれまた、で逢えるかもしれない。そうなれば、その時に返してくれればいい」

「え、素質……?」

「まあ、逢えなかったなら……その時は——いいえ、その時こそ、それは贈呈ぞうていする。……だから別に、無理に逢おうとしなくてもいいけれど——」

「いやっ、逢うよ! ってか、逢おーよ! んなら、そう、“約束”、しとこーよ」

「……“ラナ”って子としたみたいに?」

「ほえっ——?」

「……分かった。それなら、約束。——“また逢うその日まで、その日記は預けておく。いつか、返しに来て”。……じゃあ、はい」


 そう言って銀さんは、なぜか人差し指を立てた手を突き出してきた。


「え、っと、それは……?」

「約束の儀式。人差し指と人差し指を合わせる」

「え、指切りじゃなくて?」

「指を、切る……? 野蛮人なの?」

「い、いやっ、そーじゃねーケド——」

「……」


 スッ——と指を引こうとする銀さん。


「いやいや切らないからっ! ——いや、は、ハイッ! 約束の儀式!」あーしは急いで人差し指を出す。

「……」

「……いやホント、ダイジョーブだって……!」

「——なんて、冗談だけど」


 そんな——それ自体、本気なのか冗談なのかマジで分からんコトを言いながら——銀さんは人差し指を差し出してきた。

 そしてあーしと銀さんは、再び逢う約束をしたのだった。


 そして——


 日記を受け取ったあーしは、銀さんに見守られながらベッドに横になって——

 それからすぐに、眠りの世界に——あるいは現実に——旅立っていった。


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