第49話 人の振り見て、我が振り直せ



 ——消えたッ!?


 っいや、後ろだっ——!


 あーしはすぐさま背後に振り返った。

 すると、ちょっと離れた空中に、ガイコツは浮いていた。


『——ッ!?』


 あーしはガイコツが反応を見せるより先に、剣を振るった。


『“飛翔剣撃エアスラッシュ”』


 光の尾を引き、目にも止まらぬ速さで飛んだ斬撃が——

 

 ガイコツに当たる直前、なぜか


 その猶予ゆうよでもって、ガイコツはあーしの攻撃エアスラッシュを避けてみせた。


 ——っ!? いま、何が……??


 あーしは一瞬——??? となったケド、すぐに戸惑いを振り払った。


 しかしその時には、ガイコツがあーしに攻撃を放ってきていた。


『“放つ雷撃フォース・ライトニング”』


 あーしは撃ち放たれた稲妻を、構えた剣くんで受け止める。


 目の前で弾ける電光スパークが、視界を白く染める。


 ——見えん……っ!


 いや、なら——

 とっさにあーしは目をつむると、“視点操作コントロールビュー”を発動して、俯瞰視点から周囲を探った。

 すると、電撃を放つ先にはすでにガイコツはおらず(しかし電撃は変わらず虚空よりこちらに襲いかかっている)、今度はあーしの右側に移動しているヤツを発見した。

 しかもヤツは、あーしに何かを放とうとしている——


『“流転柔撃ウェイブストリーム”』


 あーしは右向きに体勢を開きながら、剣に当たる電撃をガイコツの方に向けて捻じ曲げた。

 電撃はガイコツに命中——いや、その手前にあるバリア的なやつに防がれた。


 あーしはすぐさま電撃を振り切ってその場より飛び退くと、改めて剣を構えた。

 しかしその時には、すでにガイコツの姿は視界より消えている。


 ——今度は……下かッ!


 剣くんの感じ取るところによれば、ガイコツはあーしの立つ足場の裏側に回っていた。——チッ、姑息コソクな……っ!

 あーしはすぐさま地面にワイヤーのアンカーを打ち込むと、ダッシュで足場の縁まで向かい、そのまま飛び出した。

 いまだにくらんでいる視界肉眼ではなく、“視点操作”を使い足場の下を見やれば、そこにはガイコツがいた。

 あーしは逆さまになって落下している状態で、剣を振るい斬撃を飛ばす。

 しかしそれとほぼ同時に、ガイコツは再び視界より消失した。


 ——上かッ!


 急いでワイヤーを引き戻して上に戻ろうとしたあーしの、その体より先行したスキル視点操作の視界に映ったのは、すでにワイヤーに向けて攻撃を放っているガイコツの姿だった。


 ——マズッ!


 あーしの反応を置き去りに、放たれた不可視の斬撃のよーな攻撃はワイヤーに直撃し、哀れワイヤーは千切れ——てない。

 ……千切れてない!

 

 ——おほっ、マジっ?! 意外イガイ頑丈がんじょージャン!


 これには当のガイコツも驚きをあらわにしていた。

 あーしはその隙に、足場のオモテ面に復帰する。

 ワイヤーを自動で引き取って腰元に戻しつつ——さて、どーするか——と、あーしは考えていた。


 いやなんかコイツ、消えるじゃん。

 消えるってか、一瞬で移動してるっぽい? ——チッ、テレポートか?

 マジかよ、コイツは厄介だゼ……。

 つーかその前にも、なんか攻撃が遅くなったりしてた気もするし。向こうが何やってんのかゼンゼン分からんのやケド。

 

 つーか問題は、攻撃エアスラッシュが今んとこ当たってないってことよ。

 ここまで攻撃を防がれたのは、あーしも初めての経験だ。

 あのデカドクロも倒せたので、たぶんこのガイコツにも効くとは思うんだケド……当たれば。

 しかし当たらない。瞬間移動でかわされる。

 いや、マジで……どーしよ?


 あーしはガイコツから目を離さずに、ヤツを倒す方法を考える。

 当のガイコツは、今のところは、その場で浮いたまま何もすることなく、こちらの様子をうかがっている。

 

 ……いや、違う! アイツなんかやるつもりだ! そんな気配だ!

 気がつくと同時に、あーしは攻撃エアスラッシュを放った。


 ——瞬間、あーしの全身を襲ったのは、今までに感じたコトのないくらい極めて強烈きょーれつ怖気おぞけの走る感覚で。

 同時に、あーしのすぐ横を


 ——ッッッッ!!!!????

 ——あーしの放った攻撃エアスラッシュ!?

 ——跳ね返されたッ?!!

 

 ——あの感覚は……死の直感……!?


 自分に返ってきて分かった……

 

 これヤバすぎる。

 死ぬ。絶対死ぬ。

 受けられるもんじゃない。かわせる速度じゃない。

 いやバカじゃねぇの——

 こんな攻撃……ぽんぽん放っちゃダメだろ……?

 

 つーかオイ、ガイコツ、コラ。

 なに跳ね返して来てんだよ、バカ。

 死ぬでしょ。こんなん当たったら。バカなの?

 ふざけんなよマジで……! ハッキリと死の気配を感じたわ……!


 ——そりゃアイツも必死になるか、こんなん飛ばしてこられたら……

 

 い、いや、関係ねぇ……!

 

 ……攻撃を反射するとか、こんな危険なヤツ生かしちゃおけねぇ。この場で仕留めないと。


 心臓がバクバクいってる。

 しかしそのことが、あーしがまだちゃんと生きているとゆーことを教えてくれている。

 

 ガイコツを睨みつける。

 ヤツは心なしか、してやったり——ってな顔をしているよーに見えた。……こいつゼッテー殺す。


 ……しかし、下手に攻撃することは出来ない。——したら死ぬ。その攻撃で死ぬ。

 かと言って、ビビって何もしないでいるだけじゃあ……ソレこそヤツの思うツボな気もする。

 

 現に今もアイツは、なにやら攻撃の準備のよーな気配をさせている。

 だケド、それが反射の準備である可能性がある以上……エアスラッシュは撃てない。

 ……ぐぬぬぬぬぬぬ!!!


 考えろっ、あーし……!

 どうやって反射をくぐり抜けてアイツに攻撃する……?


 しかし、すぐにいい案は思いつかない。

 そうこうしている間に、ヤツの気配が変わった。——攻撃が来るッ!

 

 ——いやむしろ今、ッ?!


 しかしあーしは、そこで決断攻撃することが出来なかった。


 ガイコツは杖を振り上げて、あーしに向けた。


『“過剰重力場エクセッシブ・グラビティフィールド”』


 ズン——


 と、まるで全身にスゴい量のおもりが被さったかのよーな感覚がして——あーしは立っていられずに地面に倒れ伏した。


『“機動装甲パワーアーマー”』


 とっさにスキルを発動して、身体カラダを強化する。

 それにより、自分の重さで潰れてしまいそうな重圧にも、ギリギリで耐えられるようになった。——しかし、強化されたパワーでもってしても、あーしは腕の一本も持ち上げることが出来なかった。


 ——ぐっ……ま、マジか……!?


 顔すら上げられないので、“視点操作”を使ってガイコツを見やる。

 ガイコツは今度こそ、その顔に会心の勝利の笑みを浮かべていた。


 ヤツの眼前に、闇を固めて作ったような槍が生まれる。

 その切っ先は、真っ直ぐにあーしの体をとらえていた。


 あーしは右手の剣に意識を向ける。

 “視点操作”により、地面に横倒しになった剣くんを見る。

 その時ふと——以前にもなんかこんなんを見たことあるな、と思った。


 ——ああ、フランツさんがあーしの剣を持った時だ。


 あーしにとっては羽のよーに軽い剣くんが、フランツさんにとってはめちゃくちゃに重かったらしい。

 つまり、剣くんにとっては、なんてあってないようなモノ——


 あーしは剣くんから手をはなした。

 

 次の瞬間、槍が放たれた。

 あーしに迫るその漆黒の槍は——まるで苦もなく起き上がった剣くんが、そのヤイバを振るって弾き飛ばしたのだった。


 ——いよし! やっぱり剣くんならこの激重げきおも空間でも問題ナカッタ!


 ガイコツを見やれば、そっちも呆気に取られたような反応だ。


 剣くんは問題なく動ける。それは分かった。そして助かった。

 だけど、相変わらずこの場には例の“上昇できない”効果がある。

 なので剣くんも、動けはするケド、持ち手の部分を地面に引きずるようにしか動けていない。

 せっかく動けても、コレじゃ……


 この場で自由に動けるのは、あのガイコツみたいに、実体の無いモノだけだ。

 あーしにとっては、エアスラッシュが唯一の非実体攻撃だった。

 ……いや、待てよ?

 “多段同撃デュアルスラッシュ”——コレで出てくるヤイバ、アレもそーじゃね?


 ——その時、あーしの脳内にひらめきが舞い降りた。


 ——アレとアレを組み合わせてあーすれば、この状況、なんとかなるくね……!?


 ——そう、フランツさんは言っていた。

 “剣技ソードアーツ”には“合技リンクアーツ”という合体技があると。

 さらには、“巧技テクニカルアーツ”とか言う、工夫してスゴい効果を出す技もあると。

 ——創意工夫こそが大事だってのは、あーしもここに来てから学んだことよ……!


 新技……思いついたゼッ——!!


 あーしは“視点操作”越しに、ガイコツを睨み付ける。

 ガイコツは驚きからも立ち直り、再びなにやら攻撃の準備を始めていた。

 ——させるかよッ!

 地べたに這いずったままでも、テメーを倒す——ッ!

 

 あーしは剣くんに触れると、その意志を伝え、解き放った。

 食らえオラッ——!


『“剣霊突撃ソードゴーストカミカゼアタック”』


 説明しようッ! この技こそは——“多段同撃デュアルスラッシュ”で作った刃を、“念操剣撃サイキックソード”で操り突撃させる——という……そーいうワザだッッ!

 

 ワザ名からも分かるとーり、発想のキッカケとなったのは、みんな大好き、『DBドラゴンボール』ダ。

 

 ——読んでて良かった『DB』!

 ——サンキュー、『DB』!


 剣くんは刃を上に向けて直立すると、ゆっくりとその身をコマのよーに回転させながら、地面の上を滑るようにスライドしていった。

 すると、その剣くんの通った道の上に、まるで残像のよーに、光で出来た剣くんの形そのままの刃が生み出されていった。

 

 そうして一気に十本くらいの光の剣が、その場に現れた。

 その光剣たちは——地に這うばかりのあーしを尻目に——軽やかに宙に舞い上がったのだった。

 ——成功ダ。


 そして次の瞬間、光剣たちは——エアスラッシュ並みの凄まじいスピードで——ガイコツに襲いかかった。


『——ッッッ!!!』


 ガイコツは必死に、襲い来る光剣を躱していった。

 

 正面から襲う光剣は、またあの謎の速度の低下を起こした。しかし、すぐに側面や背後に回った別の光剣が四方八方からガイコツを襲う。

 するとガイコツはその場より忽然コツゼンと消え失せる——瞬間移動だ。

 

 しかし光剣たちは、すぐさまガイコツの出現した場所を特定して、突撃していく。

 というか、場所を特定しているのはあーし——の持っている剣くんだ。

 あーしは握った剣くんを通して光剣たちを操作しつつ、“視点操作”と剣くんより伝わる感覚により、ガイコツの位置を即座に把握して、そこに光剣を突撃させた。


 その結果、まさかの、“無様に地面にひれ伏すしかないあーし”に“追い詰められているガイコツ”という、世にも奇妙きみょー構図こーずになった。


 ガイコツはもはや、死に物狂いで回避していた。

 “瞬間移動”を多用たよーし、その他、持てるすべてを使って、迫り来る死にあらがっていた。

 しかしそれでも、光剣がその身に追いつくのは、もう時間の問題だった。


 ふと——あーしの体に降り掛かっていた重さが、嘘のように消え失せた。

 あーしはうつ伏せになっていた体を起こした。

 そして、ガイコツの方にゆっくりと視線を向ける。


 そこには——もはや逃げることを諦めて、球形のバリアの内にこもり、必死の表情を浮かべるガイコツの姿があった。


 追い詰められて最後に頼った手段なだけあり、バリアの性能はかなりのものだった。

 なにせ、光剣の突撃も完全に防いでいるのだ。いくら光剣が突撃しようとも、バリアを突破することが出来ない。

 いや、そもそもバリアに

 直進しようとも、バリアにそって外に逸れてしまう。というより、、というか。

 

 つまり、バリアにそって、空間そのものが捻じ曲がっている……ってカンジ?

 詳しくは分からん。でも、どうやらこのバリアは、どれだけ力を込めても意味がないよーだ。


 しょーじき、こんなバリアがあんならマジで手の打ちようが無いし、勝ち目がナイと思う。

 それでもあーしが落ち着いているのは……このバリアはガイコツにとっても、苦肉の策的なやつなんだと察しているから。

 じっさい、ガイコツはバリアを張ってからは、他には何もしてこない。

 いや、しようにもんしょ。

 あのバリアは、すんごい効果を持つ反面、張るのもそーとー大変なブツだから、それ以外に手が回らんくなるってワケやろ。


 とか思ってあーしが余裕よゆーかましてたら、ガイコツがあーしに向けて何かを発した。


『“深き眠りディープスリープ”』


 何かがあーしに降り掛かったと感じるのと同時に——強烈きょーれつな眠気があーしを襲う。

 あーしは瞬時に鞘くんの力を解き放ち、眠気を吹き飛ばした。


 ——うおらっ! これ一回食らったことあっから! 対処法はもう分かってんダヨッ!


 これはアレだ——ロブオが使ってきたやつだ。解除法も同じだし。

 だから別に……焦ってねーし、あーし。

 

 ——つーかマダ、なんかやるチカラ残ってたのかよ。


 とはいえ、これまでと比べたらショボい攻撃だ。なんせ、あのロブオが使ってきたレベルのやつだし。

 やっぱそんだけ余裕がねーってことダナ。


 ……でもいちおー、警戒けーかいはしとかないと。

 つっても、あのバリアがある以上は、こっちからは手出しできんし……。

 あとはもう、バリアの限界待ちだよなー。アレが解けた瞬間、アイツは死ぬ。

 まあ、残りのチカラでなんかしてきても、この程度のやつならどーにかなるハズ……


 そう思いつつも、あーしは油断せずに、ガイコツから目を離さなかった。

 すると、ガイコツもこちらを見つめてきていた。

 

 あーしとガイコツの目が合う。


 真っ黒な空洞が、なにやら怪しく光る……

 あーしは吸い込まれるように、その闇の中を見つめて——


 あーしの意識はそこで途切れた。


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