第48話 いや君さぁ、裏技と力技使って最短攻略とか……そういうのどうかと思う



『“汎用鑑定ノーマルアナライズ”』


 判定……結果——


 Lvレベル——『66』

 名称——『老練なる大妖魔霊グレート・エルダーリッチ

 個称ネームド——『ラダモン・シャンタラー・ウィディクル』

 族種——『幽霊族ホロゴースト

 属性——『闇/霊』

 特性——『物理無効フィジック・インバリッド

 

 なんかヤバげの鑑定結果を出した——あーしの目の前の空中に浮いているソイツは、そのガイコツじみた口をカタカタと動かした。

 

『——ヨクゾ辿リ着イタ、彷徨サマヨエル生者セイジャヨ……』


 ——ッ! コイツ喋ったぞ……ッ!?


 まるで頭の中に直接響くかのような、不思議な声で……確かにソイツは、意味のある言葉を発した。


『——ト、言イタイ所ダガ……貴様ニハ先ニ問イ詰メルベキ事ガアル……!』

「へ……?」


 魔物モンスターが喋ったコトにスッゲー驚いたあーしは、返事をするどころではなかったケド、なんか向こうが怒ってる風なカンジだったので、思わず疑問の声が漏れた。


『ナンデ貴様ハ空ヲ飛ンデ来タ? 飛ベナイ場所ナノダカラ、普通ハ素直ニ地上ヲ進ムモノダロウ……!』

「え? はぁ……」

『オ陰デ、コノ城マデノ道中ニ配シテイタ我ガ眷属ケンゾクドモニハ、出番ガマルデ無カッタデハナイカ……!』

「はぁ、うん」

『シカモダ……! 貴様ハアロウ事カ、コノ城ニ辿リ着イテモ中ニ入ロウトセズ、アマツサエ、姑息コソクナ手段ヲ使ッテ空中ヲ昇リ、コノ城ノ上マデヤッテ来タ……ソコダ! ソコデ貴様ガ犯シタ許シガタイ愚行——城ノ壁ヲ破壊シテ無理ヤリ侵入スルトイウ、ソノ暴挙タルヤ……知性アル生物ノスル事トハ思エン!』

「……えっと、その……」

『ナントカ言ッタラドウダ、エ?!』

「——じゃあ、あの、まずさ……」

『オウ』

「いや……もーちょいしっかり喋ってくんね? めっちゃ聞き取りづらいんだわ、その喋り方」

『…………貴様、言ウニ事欠イテ、第一声ガソレトハ——』

「や、マジで……悪りぃケド、それ聞くの、めっちゃ疲れる、ってか……」

『……』

「や、まあ、別に……ムリならムリで、そん時は、まあ、諦めっケド……」

『仕方なイ……では、コレくらいデ、どうダ……少しハ、マシか……?』

「え、やれば出来んじゃん」

『ふン……』

「“なんで最初からそうやって喋らないのかなぁ? コイツは”」

『——ッ、……!』

「あ、いや、その……べ、別に、いーケドさっ」


 ——オイッ! 初対面のヤバそーな魔物モンスターあおんな! このクソ兜がッ!

 

『……』

「じゃあ、え、えーっと、その、ハナシの続きだケド……な、なんだったっけ?」

『……ココはわれが作りシ“空装領域フィールド”デある……われにハこの内部のことガ、ソレこそ手に取る様ニ把握出来るノダ……』


 あ、仕切り直していくカンジ……?


 ——え……てかここって、アンタが作ったの? は、マジ?


『だからこソ、貴様ノ行動ハ、あまりにモ目に余ルものであッタ……。せっかクこのわれガ、趣向を凝らしテ作成した、我ガ至高の庭……ソレをすべからく無視して通り過ぎようトハ……』

「えー、いや、んな言われても……」

『本来なラ、地上に蔓延はびこル我が配下共の中を、地に足付けテ必死に這い進んで行ク、そのさまを観るノガ楽しイと言うのニ……』


 ……はぁ? オイそれテメェ——


『そうしテ時間をかけれバかけるホド、この場ニ満ちたのろイに徐々にソノ身は侵されてゆキ、気がついた時にハ既に手遅れ、その身は不死者アンデッドと成り果テ、その魂ハわれらが同胞はらからとなル……その崇高なル仕掛けを、丸々無視した暴挙は到底許せるモノではナイ……!」


 いやソレ急いで正解じゃねーか。

 てか、は……? マジ……? ここってそんな仕掛けあったんか……?!


『しかも貴様ハ、最終関門たるコノ城もすべて……すべて無視しタ! われガ趣向の限りを尽くしテ——数多の罠ヲ、謎解きヲ、強敵ヲ、そしテ……絶望ヲ——配置したというのニ、ソレもすべて無視したナ……!』


 いやだから、通らなくて正解だろーがソレ。

 マジ行かなくて良かったわ。……謎解きとか、出来る気しねーし。


『というカ貴様! 見ていたゾ! 城の上まで上がっタ時の、アノ巫山戯ふざけた移動法! ナンだアレは! 自分でやってテ恥ずかしくナイのカ! えェ?!』


 ……チッ、うるせーよ。


『しかモ、しかもダ……! 貴様……城の壁を斬ったナ! 穴を開けたナ! そんナやり方で中に入るなんテ……貴様、本当ニ……あり得ナイダロ。頭、大丈夫カ? 知性の欠片モ感じラレん……短絡思考にモ程がアル』


 やかましいわ、なんでモンスターに正気を疑われねーといけねーんだよ。……そこまでのコトか?

 

 ……つーかなんだコイツ、マジであーしの行動を全部見てたってワケ……?

 それってよ——


「おいちょっと、アンタさ、あーしのコトをマジでずっと見てたってワケ?」

『言ったデあろウ、われにハこの領域のすべてを見通す事ガでき——』

「ソレって全部? 全部見てたの? 最初っから、全部、あーしのやってる事、すべてを……?」

『もちろン、“すべて”ダ。貴様ガココへ来テすぐ、最初の道デ座り込んで水ヲ飲んでいタ所かラ……城に穴を開けた所マデ、すべてダ……!』

「じゃあ、あーしがキャンプしてた所も見てたんだ……?」

『当然ダ。あの浮島の上だろうガ、われの目が届かヌ所ナド無イ』

「じゃああーしが、お風呂入ってたトコロも覗いてたんだ」

『当たりマ——え、ハ? ナ、何? 風呂……? いや、ソレハ——』

「やっぱ見てたんだ。お風呂、覗いてたんだァ……」

『……おイ、貴様、まずハ一旦、ちょっト落ち着——』

「————殺す」あーしは剣くんを引き抜いた。

『待て落ち着ケ。話せバ分かる。まずはわれの話を聞ケ』

「……」

『まさかトハ思うガ……貴様、アノ天幕の中デ、風呂に入っテいたのカ……?』

「……あ゙ぁ゙ッ??」

『……、いヤ、われの感知モ、自分の作ったコノ城以外でハ、その壁の向こう側マデは見通す事ハ出来ヌ。なのでわれハ、貴様があノ天幕の内デ何をしていたのかナド……そこマデは知らヌ』

「……」


 ……剣くんいわく、嘘ではナイ……か。


「“……おいお前、どうやら命拾いしたようだな”」

『……まさカ、敵地ノど真ん中デ呑気に風呂に入っていルとハ……なんと図太イ神経をしていルのカ……』

「やかましいわ」

『……あるいハ貴様は、豪勇ノうつわを宿しタ逸材なのカ……?』

「いや、もーいいから、風呂のハナシは……!」


 本題に入るぞ、もう!

 ……てか本題ってなんだ……?


 いやそーだ、ここから出るってコトじゃろ。

 てかこの場所はコイツが作ったってのがマジなら、コイツなら出る方法知ってるダロ。

 てかたぶん、コイツなら出せるってことダロ。


 クソ覗き野郎だったらもうコロスしかなかったケド、そうじゃなかったからまあギリ交渉可能なレベル。

 ゆーてコイツはなかなか強そーなんで、あーしとしても戦わずに済むならそれに越したことはナイ。


 そう思ったあーしは、とりまここから出せよってのを、このガイコツに要求してみる。


「んでさ、アンタがここの管理人だってんなら……出来るよね? あーしをここから外に出すこともさ」

『……もちろン、造作もナイ』

「そう。じゃ、あーし、外に出てーから、出してよ」

『断ル』

「……なんでよ」

『逆ニ、われカラ提案がアル……貴様、不死者アンデッドになる気ハないカ?』

「……は?」

『貴様にその気ガあるナラ、我が配下に迎え入れテやってモよいゾ? どうダ?』

「……いちおー聞くケド、その提案をあーしが受けたら、なんかいーことあんの?」

『もちろン、多大な恩恵メリットガあるゾ』


 それからガイコツは、アンデッドとやらになるメリットを上げていった。

 

 ・アンデッドになれば、歳を取らない。不滅の肉体を持ち、永遠を生きる事ができる。怪我や病気の苦しみとは無縁で、食事や睡眠も不用となり、無限の時間を自由に使える。

 ・強力な魔力を筆頭に、人間の限界を超えた力を得られる。アンデッドの種類によっては、さらに特異かつ強力な能力を宿せる場合もある。

 ・夜の種族となり、夜を味方とする。暗闇こそを友として、闇にその身を浸すほど、力の深みが増すようになる。


「ふーん、そう。……で、デメリットの方は?」

『……まア、何かしらノ弊害がまったくナイとは言わんガナ』

「“あるんだろ? ほら、言えよ”」

『……ふム、ソレはダナ……』


 露骨に喋りたがらんガイコツを突き上げると……デメリットもイロイロ出てきた。


 ・アンデッドの種類によっては、日の光を浴びられなくなる(浴びるとダメージを受け、場合によっては消滅する)。

 ・常に強い飢餓感にも似た焦燥に駆られるようになり、さらには、無条件で生命に対する憎悪を抱くようになる。

 ・生物として当たり前に持っていた感覚が色々と消失するので、場合によっては発狂する。


 などを白状した。


「“なるほどな……どうりで。——アンデッドには、イカれたヤツしかいないってワケだ”」

『どうダ、魅力的だろウ? アンデッドになりタクなったカ?』

「いやならねーから」——コイツもマジでイカれてんジャンよ……皮肉も通じてねーし……。

『ナニッ、なぜダ……?』

「いや、デメリットがヤバすぎっしょ」

『フム……ソレに関してハ、大抵ハ強い精神力がアレば、どうとデモなル。——日の光に関してハ……夜型の生活にすれバ良いダケであるシ。まァ……貴様程の図太い神経の持ち主ナラ、別に問題ナイと思ったのダガ』

「は? オイふざけんなよッ……! お前それ、あーしの神経が文字通り死ぬほど図太いって言いてーんか? あぁ……?」

『このわれヲ相手に、ソレほどの啖呵たんかが切れる時点デ……素質アリでハ——?』

「うっせーわ」


 どうやらアンデッドってヤツは、デリカシーすら無くなっちまうみてーダナァ。——デメリット追加しろ。


『フム、そうカ……我がさそイに乗る気はなイ、カ……』


 少しだけ本気で残念そうに——ガイコツはそう呟いた。

 しかしすぐに——


『——ならバ仕方がナイ。貴様にその気ガないのナラ……われガ手ずかラ、貴様ノその生に終止符を打ってやるとしヨウ』


 瞬間——ガイコツのまとうフインキが、一気に戦闘のへと変わった。


 ——ッッ!!


 あーしはすでに抜いてだらんと下げていた剣を——即座に構え直した。


『元よリ、生者と死者が相容れぬハ世の定メ。……ダガ心配せずとも良イ。死は一時いっときの通過点に過ぎヌ。スグに貴様も、われみずか不死者アンデッドとしテ復活させてヤル……。貴様ハその時コソ、死ヲ克服した素晴らしさを理解シテ、震えテその喜ビによくするコトになるであろウ……。だかラ安心しテくとイイ——その死出しでノ旅路へ』

 

 そう言い切るや否や、ガイコツはその手に持った杖を振りかざした。


『“眷属召喚サモンファミリア——轟業と臥す虚骸髑髏カリギュラ・エスルドゥーラ”』


 すると突然、あーしの目の前にひたすらに黒い闇が溢れだして——そっからめっちゃデカい骨の怪物が現れた。

 

 ——デカッッ!!?

 

 なんだコイツっ!? 頭だけでも軽く家くらいあんぞコレ……?!

 そんなヤツが——今んとこはまだ上半身だけで——這うような姿勢であーしの前に出てきた。

 あーしの立ってる足場はそんなデカくないので、コイツが出てきただけで半分以上埋まってしまっている。


 オイオイオイオイッ、ヤベーッて、コレ……!

 こんなヤベェのをポンと出してくるなんて……やっぱりこのガイコツ、ハンパなくヤバいヤツだった……!


 さすがのあーしも少し——いや、かなりビビる。

 眼前の巨大ドクロは、今まで見た敵の中で一番デカいし、なにより、比較のしようもないほどの禍々マガマガしさを放っていた。

 はっきり言って、まるっきり人間の立ち向かえるレベルの相手じゃない。


 しかし、それでも——

 それでも、あーしの膝から力が抜けてへたり込んでしまっていないのは……ドクロに向けて構える剣くんが——まるでヤツの禍々しいオーラからあーしを守るよーに——強く清らかな光を放っているから。

 その光はまるで、この真っ暗な世界にただ一つ存在する、まさに希望の光だった。


 そうだ……あーしには剣くんがいる。

 剣くんなら、きっと……きっと、この怪物だって倒せる……ハズ……!

 ビビるくらいなら、迷うくらいなら……とりま攻撃じゃ!

 

 ——でもまずは様子見で、“飛翔剣撃エアスラッシュ”辺りでやっとくか……?


 あーしは勇気を奮い起こすと、クソデカドクロに向けて剣くんを振るった。


『“飛翔剣撃エアスラッシュ”』


 放たれた光の斬撃は——闇を斬り裂くように光の軌跡を残して——ドクロの頭部に直撃した。


 ——“魏ギぎゐィィ云いい嗚呼あアア嗚呼あああゝあ!!!!”


 ドクロはなんとも言えない叫びの声を上げた。

 斬撃を食らった頭部はパックリと裂け、そこからヒビがどんどん周囲に広がっていき、しかも何やらひび割れの奥から光を発し出して——

 それからあっという間に巨大ドクロの全身にヒビと光が広がったと思ったら……次の瞬間、ドクロは全身を盛大に爆散させ——そのまま完全に消滅してしまった。


 ………………え、一撃? ……マジ?


 あーしは思わず、宙に浮いてるガイコツの方を向いた。

 ガイコツは唖然あぜんとした様子で、巨大ドクロが爆散する様子を見納めると——それからあーしの方を向いた。

 すると、あーしとガイコツの目が合う。


「……」

『……』


 あーしはスッ——と剣くんを振りかぶる。


『——ッ! まッ——チょッ——ッ!!』


 ガイコツは意味不明な呟きを発しながら——


『“空間跳躍シフトジャンプ”』


 その場から一瞬にして消えた。


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