第47話 ふとした拍子に、中毒患者は禁断症状が出る



 非実体の霊体ゴーストは、この場所でも自由に飛べる……!


 というイヤな事実が判明した。

 この事実が示すのは——


 ・ここらには、霊体の魔物ゴースト系モンスターとかいうのがいる。

 ・ゴーストは、空中を上方向にも問題なく行ける。


 ——とゆーこと。

 それがつまり、どーゆうコトかとゆーと……


 空中を進んでいるあーしにも、ゴーストはガンガン襲いかかってくる——ってコト。


 いやぁ、めっちゃ襲いかかって来たワ。

 最初に見つけた、“幽鬼火ウィル・オ・ウィスプ”とかいう人魂ヒトダマ的なのを筆頭ヒットーに、

 

 ——やれ、“浮幽霊ゴースト”とかゆー、まんまうっすら透けたオバケみたいなやつとか。

 ——やれ、“漂幽霊レイス”とかゆー、ゴーストよりもうちょいハッキリした幽霊とか。

 ——やれ、“呪悪霊ワイト”とかゆー、距離取って魔法の攻撃みたいなの飛ばしてくるクソウザいヤツとか。

 ——やれ、“妖魔霊リッチ”とかゆー、さらに強力な魔法を使ってくるさらにウザいヤツとか。


 出るわ出るわ、オバケ共が。

 コイツらは全部、“幽霊族ホロゴースト”とかゆー種類のモンスターらしい。

 名前とかその辺は、“鑑定”使って判明したカンジ。


 つーかその鑑定にもさ、出てたジャン? なんか『物理無効フィジック・インバリッド』って。

 たぶんコレ、フツーに殴ったりとか、そーゆー攻撃が効かないってカンジのやつと思う。

 まあそもそも、実体がないのがこのゴースト系のモンスターの特徴っぽいから、そりゃ、フツーの攻撃は効かんのじゃろ。——ポケモンでもそーだったし。


 いやそれさぁ、あーし、ヤバくね? ってなるやん?

 だって、あーしの攻撃手段とか剣くんオンリーやし。剣で斬るダケやし。

 んじゃ、ゴーストとかお手上げやん……?


 ところがどっこい、あーしは無事にゴーストたちの襲撃を乗り切った。

 では、剣くんしか無いあーしが、どーやってゴースト共を撃退したのかとゆーと……


 ……いや、ね、フツーに、その剣くんで、斬った。


 や、だって、とりま試しに攻撃したら、フツーになんか倒せたから。

 ——あ、フツーに効くんだ……。

 ってなった。


 まあ、ね……あーしの剣くんにかかればね、霊体だかなんだか知らんけど、フツーに、斬れるってことなんしょね。

 まあそーは言っても、相手は空中を自在に移動してるワケだし、こっちは上には攻撃なかなか飛ばせないしで、それなりに戦うのもタイヘンだった。


 でもそこはイロイロと工夫しつつ、ワイヤーとかのアイテムも駆使しつつ、戦ってさ。

 工夫しようと思えば、なにかと工夫出来るモンよな。

 じっさい、あーしはこの戦いの中で新たな発見をすることもあった。ナニゴトも試行錯誤しこーさくご重要じゅーよーって、あーしは学んだネ。


 まあでも、ゴーストとの戦いを問題なく乗り切れた一番の理由としては、やっぱ“飛翔剣撃エアスラッシュ”——コイツのおかげ。

 コイツはフツーに、この場所でも上に攻撃飛ばせるジャン?

 んでこのワザで飛ばした斬撃も、なんかフツーに霊体ゴーストに効いたんよ。

 だからまあ、ぶっちゃけ何が来てもコイツエアスラッシュの一撃で倒せたんよね。

 

 そうと分かってからは、もう……ゴーストなんてただのマトでしかナカッタ。

 ふっ……見た目どーりのはかない存在だったゼ……。


 

 そんなワケで、ゴーストもあーしにとってはただのザコだったンデ、連中の襲撃が特に問題になるコトもなく、あーしは空中をスイスイと“飛行船プレコ”で進んで行った。


 まあゆーて、ゴーストもそう頻繁ひんぱんに襲いかかってくるワケじゃないし、むしろ、ただ飛んでるだけでヒマな時間のほーが多かった。

 つっても今のあーしって、ヒマな時に出来ることがほとんどなんもナイんよねー。

 

 ソレよマジ。ヒマなんよ。

 てかよー、スマホが無いってのが一番キツいんよ。

 ゆーてスマホさえあれば、ヒマなんていくらでも潰せるんよ。現代っ子なあーしとしては。そう、ネットさえ繋がればナ。

 動画見たり、音楽聴いたり……スマホさえあれば、ゆーてなんでも出来るジャン?

 まあやっぱり、スマホ使って一番やるコトと言えば、SNSやけど。


 てか友達と話してれば、時間なんていくらでも過ぎてくかんね。

 なんならあーし、よゆーで一日中ぶっ通しで友達と電話し続けてたこともあるし。

 日がな一日、メッセのやり取りしてるのとかもしょっちゅーだし。


 ゆーてこの退屈な時間は、あーしにスマホ中毒の禁断症状を起こさせていた。

 

 ——曲かけてテンション上げてぇ〜!

 ——気になってた動画の続き観てぇ〜!

 ——写真撮ってインスタ上げてぇ〜!

 ——てかマジ友達と話してぇ〜〜!!

 

 だってあーし、イマゆーて空前絶後のストーリー体験してるし。

 こんなんSNS上げたら秒でバズんだろーが、ゼッテー。

 

 ——謎の怪物モンスターとのバトル?

 ——空飛ぶ船から見る景色?

 ——くっそ便利な魔法まほーのポーチなんかのアイテムをふんだんに駆使したソロキャンひとりキャンプ動画?


 ……えの宝庫かよ。


 いやまあ、逆に? あんまりバズり過ぎて、むしろ炎上するかもしれんなー?

 なんならいい反応ばっかじゃなくて、“手の込んだ嘘つき”とか、“最近のJKは最新のCGを駆使することを覚えたのか”とか、“これ◯◯のパクリですね、以前も見たことありますよ”とか、クソみたいな反応してくるヤツらも湧いてくるやろな。

 そー考えたら、リア友だけに話したほーが無難かもねー。


 ……アッキーとか、いったいどんな反応するだろなー。

 ゆーてアイツはけっこーな野蛮人の才能あるから、あーしがモンスターぶっ殺してる動画とか見ても、むしろ楽しそーにキャッキャ♡ってするだけカモ。


 ミラぽよは……どーだろ。

 あん人はあーしが話しかけても、いつも澄ましてるとゆーか、なんか塩対応だケド……でも、ゆーてこんなビックリな体験のハナシなら、さすがのあの子も驚いた反応すっかな……?

 うわー、ミラぽよがどんな反応すんのか見てーわー。


 ——ってなカンジで。

 あーしはジッサイにスマホが使えない事実に打ちのめされないよーに、スマホを使えたらこんなコト出来るのになー、ってのを妄想して、ヒマな時間をなんとか乗り切ったのだった。

 ……いやまあ、逆にそのせーで、むしろスマホ使えないことをより深く絶望ゼツボーさせられたよーな気もするケド……

 まー少なくとも、おかげでなんとか、単調な空の旅にも退屈することはナカッタよ。


 

 そんなカンジに、順調に空を進むことしばし。

 気づけばあーしは、目的地にたどり着いていたのだった。


 目的地とはつまり、“導きの羅針盤ガイドコンパス”の指していた“希望”——つまりはこの場所から出られるナニカのある場所ってコト。

 コンパスの導きに従い進んだあーしが到達した場所にあったのは——巨大な塔か、あるいは、城のよーな、そんな——めっちゃデカい建造物けんぞーぶつだった。

 そしてコンパスは、明らかにその城の最上部を指していた。


 ——ふむ……なら、登るか。


 あーしは城の入り口には行かず、飛行船乗ったまま近寄って行って、高さ的に城のいーカンジの場所にある——ベランダとゆーか、バルコニーとゆーか、あるいは屋根なのか——なんか降りれそーなところに着陸すると、ひとまず飛行船を片付けた。

 

 さて、それじゃ……壁を登るか。


 とーぜんのよーにあーしは、城の中にワザワザ入るつもりはなかった。

 なので城の外壁を登っていこうと、とりま取っ掛かりを探ってみたところ……


 ——えっ、さわれねーぞ?


 なんか城の壁にはれられなかった。

 なにやら見えない壁があるみたいなカンジで、手が壁まで届かない。

 手に限らず、ワイヤーのアンカーを撃ち込むことも出来なかった。


 ……まいったなー、どーすっか。

 まあ、れられねーんじゃしょーがねーや。

 んなら……


 実はあーしは気がついたのだ。

 この場所でも、空中を上に行く方法ってヤツを。


 きっかけは偶然だった。

 ゴースト共と空中で戦っていた時に、たまたま発動したのを、あーしがめざとく発見した。

 本来ならあの飛行船プレコは、あの位置から一切イッサイ高度こーどを上げられないハズなのに、戦っている間になんか上がってたんよ。

 んでよく調べてみたら……見つけちゃったのよ、そのやり方を。


 用意するものは三つ。

 宙に浮くものを二つ。それからワイヤー。

 あーしの場合は、“魔気球マナバルーン”と剣くん。


 まず、ワイヤーを使って上まで持ち上がって、その場でバルーンを使う。

 バルーンによって空中に浮いた状態で、今度はワイヤーの先端に剣くんを繋いで、剣くんを持ち上げるよーに、さらに上にワイヤーを伸ばす。

 そして、限界まで上にやったところで、今度は剣くんをその場に浮かせる。

 すると——なぜかバルーンはその場から上昇を開始して、剣くんを追い越すと、ワイヤーが届くギリギリの高さまで上がって、そこで止まる。

 なので、そっからまた剣くんを上に上げるという、その繰り返し。


 ……ってなワケで、はい。

 たどり着いたわ、城の最上部。


 ……いや、なんでアレで上に行けるのかは、あーしにもよく分からん。

 でも、前にも空中でワイヤーを伸ばすってのを試して、それは出来たってのは分かってるから……たぶんその辺が関係してんじゃねーかなー、と思う。

 ま、細かい理屈はどーでもえーんよ。要はそれで上に行けるってコトが重要だかんね。


 さて、それじゃ、“希望出口”はどこなのカナ〜……?


 あーしはその場を見渡してみる。

 城の最上部は狭くて、特に何もない。

 つーかたぶん、ここはただの屋上ってか、屋根じゃろ。


 あーしはコンパスを取り出すと、“希望”のカードをセットして、起動する。

 すると針は、下を指し示した。


「……」


 あーしは無言で剣くんを鞘より引き抜くと——クルッ——その場で一回転する。

 すると丸く斬られた床が下に落下して、あーしはに到達した。


 ……コレ一回やってみたかったヤツ……! 五右衛門ゴエモンがたまによくやるアレ……!


 あーしは謎の達成感を感じつつ、やって来た部屋の中を見渡した。

 するとっ——明らかにソレっぽいブツがドン! と正面にあった。


 ——コレ、か……?


 そこにあったのは、何に使うのかよく分からない形状のブツで……とにかくなんか禍々マガマガしいオーラを放つナニカだった。


 ——“鑑定”……あー、ダメだ、よー分からん……。


 だがとにかく、コンパスは間違いなくソレを指していた。


 ——ここまで来たら……やるっきゃないか。


 “鑑定”でも詳しくは分からなかったケド、コレに触れたら何かが起こる——それは分かった。

 剣くんいわく——罠ではナイ……っぽいケド、なんか、ビミョー。

 触れた瞬間アウトってカンジではないケド、安全なブツとゆーワケでもゼンゼンないとゆーか……。

 ま、どーせ触れる以外の選択肢はねーから、触れるしかねーんだケド。——さすがにぶっ壊すのはやめとけってのは、なんとなく分かるし。

 

 あーしは一度、自分の装備を改めて確認した。

 いやこれ、触れたらゼッテーなんか起こるヤツやし。出来る限りの準備をするべきやろ。


 とはいえ……あーしに出来る準備なんて、そんなない。

 準備を——と思ったところで、けっきょくあーしは、それまでとほとんど変わるトコはなかった。

 唯一、変化としては、あの(のろいのおしゃべり)兜を取り出して被ったコトくらい。

 いや、まあ、念のためにね。いちおーこれも、それなりの防具ではあるからね。——まさか、またコイツを被ることになるとは……

 別に……なんか喋ることも無かろうし。その点は問題なかろ。


 準備を終えたあーしは、ついに……そのブツに触れた。


 その瞬間——なにかが起きた。



 一瞬、意識が途切れたよーな感覚がした……気がする。

 あーしは周囲を——“視点操作コントロールビュー”を使って——確認して……驚愕キョーガクした。


 さっきまでの部屋の中ではない。

 四方が暗黒に閉ざされた空間で、その中に浮いているのは、それなりの広さの薄っぺらい足場。——その足場は案の定、支えもなく宙に浮いている。

 あーしはその足場の上に、ポツンと一人で立っていた。


 そう、立っているのはあーし一人。

 しかしあーしの眼前には、一人の——いや、一体の魔物モンスターが浮いていた。

 

 うっすらと透けている半透明の体のそのが——黒い影ばかりで眼球も存在していないウツロな瞳で——こちらを見据えてくる。

 あーしは反射的に、ソイツに“鑑定”を使った。

 ——あるいはそれは、未知なる存在の視線に射すくめられた恐怖の裏返しか。


『“汎用鑑定ノーマルアナライズ”』


 判定……結果——


 Lvレベル——『66』

 名称——『老練なる大妖魔霊グレート・エルダーリッチ

 個称ネームド——『ラダモン・シャンタラー・ウィディクル』

 族種——『幽霊族ホロゴースト

 属性——『闇/霊』

 特性——『物理無効フィジック・インバリッド


 …………なんかヤバそーなのいるぅぅぅ……!!


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