第43話 振りかぶって、投げたッッ——ああっっ?! こ、これが……光の魔球……!?(違う)



 先へと進んだあーしは、広い空間へと出てきた。

 

 いや、空間自体は広いんだケド、進める場所は狭い。

 どーゆうことかというと、なんかだだっ広い空間の中に、足場となる部分だけが浮いているとゆーか……

 それ以外はすべて、暗闇の中に消えしまっていて見えない。

 

 道のようなものは続いているんだけど、その細い道の左右は断崖絶壁で、そこから下はまるっきり奈落の底へでも繋がっているかのよーな真っ暗な闇。

 天井までもかなり遠い……ってか、上を見上げてもそこにあるのはただの闇。

 まるで真夜中に見上げた空のよう。それも、——なんてのがあれば、こんな風に見えるんだろーか……。


 うーん……なんかヤバそうだな、ココ。

 道はいちおーあるケド……つーかこの道も、もはや道ってか橋? みたいな、もう下まで続いてないのよ。浮いてんのよね。

 てことは、あーしの来たとこの壁と繋がってるだけってコト? なんかそれ……途中で折れたりせん?


 ……やー、ここはやめたがよさそーカナ……

 戻っか?

 一本道だったから、戻るならもうアリの方に行くしかねーってことになっケド。

 ま、しゃーないか……


 そう思って、後ろに振り返ったあーしは——絶句した。


 ……しばらく、意味が分からなかった。

 見える光景が、信じられなかった。

 少しして、よーやく状況じょーきょうが飲み込めた。


 ——いや……帰り道、無くなってんすケド……?????


 振り返ったあーしの目の前には、それまで進んできた洞窟は影も形もなく——

 そこにあったのは、ただただ真っ暗な闇だけだった。


 ………………。


 …………っえ、んじゃこの足場、フツーに浮いてるってコト……?


 

 とりまあーしはその場に座り込むと、ポーチから取り出した水筒から水を飲んで、落ち着こうと努力してみる。


 ……いやゼンゼン落ち着かねーよ。

 待て待て、イカンイカン。焦ってはダメぞあーし、マジ落ち着け。

 

 いやさ、お前コレ……あーしが暗所恐怖症とか高所恐怖症とか、あと突発的帰り道消失アクロバティック迷子恐怖症とかだったら、もうすでに発狂はっきょーしちゃってるやつじゃん。

 うん、帰り道無くなってるんだわ。帰り道どころか、今まで歩いてた洞窟がまるごと無くなってるんよ。

 洞窟ってか——洞窟とはつまり穴なんだから、その穴が空いている……地面とか、土とか、そーゆうのがまずあるはずなんだけど、それも全部消えたワケよ。

 

 ………………。


 ……おけおけ、分かった。

 アレだ、コレはもう考えても分からん。どーしょーもない。ダロ?

 んなら、よ、これからどーするかっしょ。

 

 つってもまあ……前に進むしかねーだろーケド。

 ただまあ、いきなりこんな事になった以上は、あーしとしてもチョット慎重しんちょーにならざるをえん。


 そうだ……今こそ、このポーチが真価を発揮する時——!

 

 。

 。

 。

 

 あーしはポーチの中をひと通りあさって、使えそーなアイテムをとりまピックアップしてみた。

 

 ……いやぁ、改めて確認してみると、買ったものがたくさんありすぎで、自分でも把握しきれていないってのが分かった。

 買った時にいちおー説明を受けたんだケド、一度聞いただけのソレを覚えているかと言われると……ウン。

 ショージキ、すでに何のアレか分からんやつがいくつもあって、最初はマジで——これ、どーしよ……と、思ったワネ。


 でも、あーしはそっから解決策を見出した。

 いやね、ふと思いついて、“汎用鑑定ノーマルアナライズ”のスキルを使ってみたんよ。

 したらアイテムの名前とか、使い方が判明したんよ。

 おかげで、せっかく買ったアイテムの、どれが何でどう使うのか……ってのもバッチリ解決っす。

 いやー、マジで『探索者シーカー』なっててよかったワ。


 とゆーわけで、ピックアップしたアイテムをずらっと確認していきましょー。


 まず食い物と水について。

 これは問題ない。食い物は色々たくさん買ってるのが入ってるし、飲み物もたくさんある。

 飲み水に関しては、“湧水樽スプリングバレル”ってやつと、“魔法の水筒マジックボトル”って二つのアイテムがある。

 この二つの“鑑定”による説明は、こんな感じ。


 “湧水樽スプリングバレル”——自然の魔素マナより純水を湧き立たせるたる

 

 “魔法の水筒マジックボトル”——内部の容量が拡張された水筒。重さも軽減される。“清浄加工クリアコート”により汚れない。

 

 このタルは時間経過で水がいくらでも湧き出てくるから、それを水筒に入れておけば、水に関しては問題ナシって感じ。


 それじゃあ次なんだけど、明かり関係ね。

 いくつか使えそーなのを出してみた。

 

 “魔気角灯マジックランタン”——魔力で動くランタン。

 

 “暗視軟膏ナイトアイ・アングウェント”——まぶたに塗ると、暗闇でも見えるようになる。

 

 “照明弾スター・シェル”——打ち上げたら、その場にしばらく浮かんで、周囲を照らす。


 今はまだ以前にかけられた魔法の効果が残ってるから見えるケド、いつ切れるか分からんし、その時にはコレらを使う事になるやろう。


 では次は、さっきの反省を踏まえての準備のやつ。


 “呼気器エアマスク”——小型の酸素ボンベみたいなアイテム。口元にサッと装着するだけで、水の中でも息が出来る。

 

 “潜水服ダイビングスーツ”——全身を覆う見た目宇宙服みたいなスーツ。かなり深く潜っても平気なくらい頑丈。


 実はこんなんも持ってたんだよね。まあ、さっき流された時には、取り出すヒマもなかったんだケド。

 今はリンクも切れてっから、次なんかあったら魔法の助けはナイ。だからこんなんも準備スタンバイしておかないと。


 では次、探索に使えそーなアイテム。


 “魔動鋼線マジックワイヤー”——使用者の意思に従い自在に動くワイヤー。(一定の範囲内で)長さも自在に変更可能。


 “魔気球マナバルーン”——魔力により浮力を発生する気球。浮力を大きくするほど気球自体も大きく膨らむ。(※初期状態での大きさは、手のひらに収まる程度)


 “導きの羅針盤ガイドコンパス”——特定の対象ターゲット設定セットすると、その在処ありかを指し示す。——時刻計、高度計、経緯計、天候計、方位計を搭載。——付属の絵札カードを対象に設定することも可能。


 こっから探索していくのに使えそーなアイテムたち。

 特に三つ目のコンパス。コイツにはかなり期待してる。ここから脱出するのに役に立ってくれるハズ。


 最後に一つ、魔法のアイテムを使うのに必要なアイテムがコレ。


 “充魔器マナチャージャー”——魔道具に魔力を充填じゅうてんするための魔道具。


 どーも魔法のアイテムを使うには、電気ならぬ“魔気”だか“魔力”とかゆーのが必要みたいなんだケド、それを充電——ではなく充填するのに必要なのが、このアイテム。

 どうもここでいう“魔力”とかゆーのは、あーしが剣くんや鞘くんを使う時に使ってるあの謎のパワーと同じものっぽい。

 とゆーのが、コレを使って(あーしの持ってるっぽい自前の魔力を)一通りアイテムたちに充填してみたら分かったカンジ。


 さて、では、充填とやらも終わったみたいだし、さっそく使って試してみっか?


 うーん、何から試そっかな。

 まあ、やっぱりこのコンパスからかな。

 この“導きの羅針盤ガイドコンパス”というアイテムは、なんか設定したものを探すことが出来るとゆーアイテムらしい。


 実はこのアイテム、日本ウチに帰るためのナビに使えるんかなぁ——って思って買ってみたんだよね。

 まあ、試してみる前に例の占い師さんに会ったもんだから、けっきょくまだ一回も使ってねーんだケド。

 

 さて、ではこれで何を探すかというと、とーぜん、ここから出るためのアレよ。

 付属品のカードをセットすることも出来るってことだケド、このカードに関しても色々あるんやけどね。

 でもまずはこの「出口」ってカードでしょ。コレをセットして試す。


 これで上手くいけば、この針が出口を指すってことジャン?

 したら後はそっちに行くだけよ。ほら、カンタンだね。


 あーしはさっそく、「出口」のカードをセットして、コンパスを起動してみた。

 すると、コンパスの針がグルグルと回って……グルグルと回って……グルグルと回って…………

 いや、止まんねーんだけど……? は? どゆこと……?


 そのいつまでも針が定まらない様子を眺めていると——ふと、あーしの脳内に、以前に占い師のマムさんと話した時の一節が思い起こされた。


 ——『貴方あなたが望みの場所へいたる方法、それ自体はちゃんと存在します。それは不可能ではありません』……


 ——『仮にですが……貴方が望みの場所に至る方法がまったく無い——と、そういう運命なのであれば、占いの結果自体が出てきません。しかし、結果はちゃんと出ました。なので、その方法はちゃんと存在するということです』……


 ——……。


 ……そーゆう、コトなのか……?


 ……え、出口ないのここ?

 ……や、それ、困るんすケド……。


 いやいや、入ってこれたんだから、出られんってことは無いっしょ。

 そのマムさんとの占いでだって、あーしが日本に帰る方法はあると出たんだから。こんな所からすら出られないなんて、そんなことあるわけナイっつの。


 ……聞き方が不味ったんじゃネーノ〜?

 ほら、以前、剣くんに聞いた時だって、何度か聞いたら上手くいったワケだし。

 とりまもっかい、チャレンジしてみっぞ。

 

 成功するための、たった一つの絶対の秘訣——それは成功するまでチャレンジを続けること。途中で諦めないとゆーこと。

 失敗とは、諦めたその瞬間のことをゆーのだ……!


 ……まあ、おんなじ事をやり続けたら意味ないんだケドね。だから再チャレンジするなら、やり方を変える必要がある。

 というか変えるべきはカードじゃろ。

 他のカード……なんかいいのあるかな……

 

 ええっと——「水」、「食料」、「安全地帯」……違う。

 ……「魔力」、「生命」、「動物」……「宝」、「罠」、「道」、「街」、「人」、「金」——てかけっこーたくさんあるんだよなー、このカード……。

 ……「道具」、「所持品」、「武器」……「希望」——っん?

 

 ……「希望」?

 “希望”ってなんや? ちょ、カードを詳しく“鑑定”——


 “「希望ホープ」のカード”——“導きの羅針盤ガイドコンパス”に設定セットして起動することで、使用者の最も強く“希望”する事象を指し示す。


 ……ナルホド?

 んじゃアレだ、これセットしてから、ここから出るコトを考えたら、出るためのアレを指してくれるってコト?

 ……でも、これで次もグルグル回ったままだったら、ソレ、今度こそ夢も希望もナイってコトっすか……?(わら)


 や、まあ、まずはやってみてからっしょ。


 あーしはコンパスに「希望」のカードをセットして、そして、“ここから出る……!”というのを強く強く念じてから、コンパスを起動する。


 すると果たして——コンパスの針はグルグルと回り……グルグルと回り……グルグルと回って…………


 ——いやはよ止まれや!!!


 すると針は止まった。

 

 や、待て待て……それ、どっちなん……?

 ちゃんと“脱出の希望”を指してんの? それとも、あーしが“止まれ!”って望んだから止まったん?


 ……っと、そーだ、こーしてみれば——


 あーしはコンパスをテキトーにグルグルと回してみる。

 しかし針は、、微動だにしなかった。


 ……うん、よし。コイツはちゃんと、“希望”を指しているみたいだね。


 さて、これで文字通り、脱出の希望の一筋は繋がった——ってカンジかな。

 少なくとも、出る方法が無い——、とゆーことは分かった。

 んなら後は、フツーに針の指す方を目指すだけジャン。


 まあ、“希望”はあると分かったことであーしの気持ちもだいぶ落ち着いたので、進む前に、も少し色々と試してみるとする。


 周りを探ろうにも、少し離れたところとかもう真っ暗なんよね。

 魔法の効果で暗闇を見通せるハズなのに、それでも見えない。

 ——というより、なのか……?

 つまりそこには闇があって、それをちゃんと見てる、とゆーか。


 その辺を確認するためにも、コレを使ってみる。

 “照明弾スター・シェル”……コイツをテキトーにその辺にぶっ放してみっか。したら、少しは何かが分かるかもしれん。


 あーしはさっそく照明弾(——を撃ち出すための筒みたいなヤツ)を持つと、とりあえず後方の、元はあーしがやって来た洞窟があったハズの方に向けて構えた。

 や、もしかしたら、見えなくなってるダケ、とか……そんなこともあるかも知れないし。

 ……まあ、もしそうだとしても、だったらコンパスで出口ってやった時にそっち指すハズだし、可能性は低そうだケド。

 でもこの闇を照らしたらどうなるのかとかも気になるし、イロイロ試してみるのは必要だよね。


 よし、んじゃ行くぞ——光よ、闇を照らすノダ——うおらっ!!


 バシュッ——!!


 すると、構えた先に光の弾が勢いよく飛び出——マブしッッッッ!!!!


 ぐおっ——!! 眩しッッ!! ちょっ——、なっ、なんコレ……!?

 ——てか近ッッ!! はぁ——?!


 いやゼンゼン飛んでねーじゃん!

 

 ゼンゼンってか……ゼロじゃん。飛ばすために構えたヤツの、すぐ目の前に出たじゃん。

 もう目の前の地面に落ちてんだケド、光の球が……てか近いからスッゲー眩しいんよ。

 ちょ、こっ、コレ……ど、どーしよ……や、いったんしまうか。


 あーしは目の前で強烈キョーレツな光を放つ球を……とりあえずポーチの『耐久部』に突っ込んだ。


 ふう……これでよし。


 ……んで、ナニこれ?

 飛んでいくっつったよな? はぁ? 目の前に落ちたんだが?

 不良品……? いやでも、使った瞬間には、確かに勢いよく飛んでいくカンジのアレだったんだケド……反動とかもけっこーあったし。

 うーん……?


 ……とりあえず、もったいないからなんかに使うか、あの光る球。その内消えちゃうハズだし。

 まあいいや、とりあえず自力で投げつけてみよ。


 あーしはポーチから光る球を取り出すと——眩しさに顔をシカめながら——背後の闇に向けて放り投げる。

 なるべく遠くに投げるために、山なりに放り投げようと振りかぶった手から放たれたボールは——


 


 ………………はぁ???


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