第38話 ほう、それが知りたいか、ならば教えてやろう……、それは——



 とりあえず洞窟の中に入ったあーしらは、ひとまずここで一度休憩を取ることになった。


 え、テリパはどうしたって? や、フツーにヤッたよ、ぜーいん。

 スニィクさんが外まで引っ張ってきたヤツを、あーしが始末する、と。

 初っ端から六体くらい一気に来たケド、すれ違い様にゼンブぶった斬った。

 んでその後も洞窟にいるヤツをゼンブ誘い出して、ゼンブ始末した。

 

 “機動装甲パワーアーマー”使ったあーしならテリパの動きにもちゃんとついていけてたし、そんなら剣くんの敵ではない。

 それでも数が多かったからなかなか大変ではあったケド、そこは“剣技ソードアーツ”を使うことでなんとかした。

 初見で不覚をとったカンジの前回とは違って、今回はすでに心構えが出来てたからね。開幕ブッパすれば“剣技”も問題なく使えるんよ。

 

 使ったのは“推進剣撃ブレイドスラスター”ってワザ。フランツさんに最初に伝授してもらったヤツ。

 コレを上手いこと使ったことで、あーしはとんでもない速度で動くテリパにすら匹敵する速度で動くことができた。

 フツーなら速すぎてちょっと体への負担もヤバそうなんだケド、“機動装甲パワーアーマー”使ってるあーしなら問題ナシってね。


 さらには、あの時との違いとして、他の装備が変わっているのもある。

 一番大きいのはマントだ。テリパと全力で戦ったらスゴイ実感したんだケド、あーしの速度がかなり変わってる。めっちゃ速くなってる。だからその分、素早い敵のテリパとも戦いやすい。

 

 他にも、ブーツやグローブも地味に貢献してる。

 足にぴったりフィットするブーツは動きやすいし、グリップもかなり効くから滑ったりもしない。

 グローブは、素手よりもむしろ剣をしっかり握れてるよーな感覚あるくらいなので、お陰で振り回してすっぽ抜けるよーな恐れもナイ。

 この二品も魔法の装備ってハナシだったし、やっぱその分イロイロと使いやすくなってんだろーね。いやー、やっぱおススメを買っといてよかったわ。


 まあ一番の違いはやっぱり、ジョブなのかなって思うケドね。

 スキルはもちろんだけど、スキル以前にジョブって獲得するだけでイロイロと強化されるもんらしーし。ジッサイあーしも体が強化されてる感あるし。


 まー、てな感じで、あーしがテリパをサクッと一掃したんで、すんなりと洞窟に入ることが出来たんよ。

 ……まあ、バトルはすんなり終わったケド、その後がすんなりじゃナカッタんだケドね。

 つーのもさ……


「キミ! ユメノくん! 何度も言わせてもらうがっ、本当に素晴らしかった! 先ほどのあの戦いぶり! なんと美しく! なんと鮮烈な業前わざまえだったことか! ボクが今まで見てきた中でも、一等強くて、そして、美しかった……!

 ——舞い上がる金髪、ひらめく外套マント、そしてきらめく剣閃……流れるような動き、しかしてその速さは疾風——いやさ、もはや閃光。あんなに流麗な“踊身舞剣フルードフェンシング”は、いまだかつて見たことがない!

 その美しい剣を見た時から、なんとなく只者ただものではないと感じていたが……やはりボクの目に狂いはなかったようだね……!

 あれほどに冴え渡る技量とくれば、さぞかし名のある師匠の元で剣を学んだと見た。お願いだ、是非ともボクにもその教えをご教授願いたい!

 ——頼む、この通りだ! ボクはもっと剣の高みを目指したい! ボクの理想とする強くて美しい剣には未だ届かないこの身からすれば……キミの見せてくれた剣はまさに、ボクの理想の一端を体現していた。いや、ほとんど理想そのものと言っていい。

 キミに出会えたのはまさに運命だ! 出会うべくして、ボクとキミは出会ったんだよ……剣で語り合い、剣を高めあうために。

 さあ、ユメノくん……是非ともボクに、君の剣を、教えてくれ!!」


 てな感じで、なんかスゲー迫ってくんのよ、この人。

 今は休憩中なんだけど、ひたすらあーしに話しかけてくる。

 やれ——キミの技はスゴイ。ボクにも教えてくれ。使っている剣自体もすごいね。ちょっと見せてくれないか? キミは容姿もイカしてるね。流れる金髪と透き通るような碧の瞳、とても美しい。それにその服装も、うん、とてもキュートだ。ああ、そのマントもいい。それに、なんとなく所作も上品だ、もしかして高貴な生まれなのかい? 異国風エキゾチックな美貌だね、異国の出身なのかな? その独特な言葉遣いは、やはり別の言語圏からきた証? いや、ボクはそれもキュートだと思う。……やれやれ、また一つ、キミの魅力を見つけてしまった。まったく、キミはどこまで、ボクを魅了すれば気が済むんだい……?☆


 いやマジで、反射的にぶん殴ろうとするのを抑えたあーしを誰か褒めてクレ。年上だから耐えたケド、年下だったらぶん殴ってたワ。

 つーか剣を教えてとかいいつつ、途中からフツーにナンパに切り替わってんダガ?


「——やっぱり、それだけの技はきっと、誰ぞ著名な師匠がいるものだと思ったんだけど、この辺りの出身ではないならそうとも限らないのかな? キミの剣技は一体誰から習ったんだい?」


 それまで通りテキトーにあしらおうと思っていたあーしは、しかしその言葉にピンときた。


「……“剣技”を誰に習ったかと言われたら——」

「おっと、ついに教えてくれるのかい?」

「いや、あーしの師匠はこの場にいるから」

「えっ?」

「あそこ」言ってあーしはフランツさんを指差す。

「え?」

「あの人——フランツさんから、あーしはすべての剣技を教わったんだよね。だからまあ、あーしの師匠ってゆーならあの人だよ」

「なっ、まさか……そうだったのか……!?」


 するとトランシェさんは、フランツさんの元にすっ飛んでいった。


「フランツ君! いや、フランツさん! まさか貴方あなたが、ユメノくんの師匠であったとは……! 申し訳ありません、てっきり貴方はただの付き添いの道案内だとばかり……思えば、これまでも失礼なことをなんぞ言ってしまったような気も……いや、本当に申し訳ない! その件については如何様いかようにも謝罪いたしますので、どうかこのボクにも、貴方の剣を伝授してもらえないだろうか……? どうか、お願いします! 貴方を師匠と呼ばせていただきたい……!」


 言われたフランツさんは、ぽけーっとした顔をしてしばらくほうけていたケド、しばらくしてから、


「………………は?」


 と言った。


「聞きましたよ、フランツさん。貴方がユメノくんに剣を教えた師匠だって」

「……え?」

「あれほどの逸材を育てた手腕も気になりますが、やはり貴方自身もまた相当の使い手なのでしょうね……」

「え、え」

「やっぱり! そうなんですね?」

「いや違う、ち、違う違う違う」

「違う? しかし、ユメノくんに剣技を教えたのは貴方なんですよね? ご謙遜けんそんなさってるんですか?」

「剣技を教えた……? あ、いや、確かに教えたというか——」

「ではやはり、貴方が師匠だったんですね。フランツ師匠、ボクにもどうか、剣の教えを授けてください! 貴方の教える剣が——あの美しい剣が、ボクの理想なのです!」

「え、えっ、えっ、い、いや——」

「そこをなんとかっ! お願いします!」

「いや、ち、違う……」

「お願いっ、します! 教えを受けるためなら、なんだってします! どんなに辛い修行にも、耐えてみせます! ですから、どうか、どうか……!」

「ちょっ、ちょ、な、なん、なに……?」


 フランツさんが必死の表情でこちらを見てきた気がしたケド、あーしは全力で目を逸らした。

 そのままあーしはそそくさと場所を移動して、また絡まれることがないよーに、誰かの輪に混ぜてもらおうと辺りを見回す。

 とりあえずラナとモイラが一緒に居るところがあったので、あーしはそちらに向かう。

 しかし、途中でやって来たイスタさんに捕まってしまった。


「ユメノさん……先程の戦闘、驚かされましたよ」

「はぁ、……そーすか」

「……」

「……」

「……フランツさんが師匠って、本当なんですか?」

「……まあ、間違いではナイとも言えないカンジというか……」

「どういうことです……?」

「いやー、まあ、フランツさんのお陰で“剣技”を覚えられたのは、事実っすから」

「……そうですか」


 あーしはイスタさんと話しながらも、少しずつモイラたちの方へ移動した。

 しかしなんかイスタさんもついてくる。

 もうそれは気にしないことにして、あーしは二人の元に向かう。すると、こちらに気がついたラナが話しかけてきた。


「ユメノ……アンタ、ほんとにルーキーなの? なによあの動き……ちょっと、すごいじゃないのよ……!」

「ああ、うん、どーも」

「最初はルーキーのくせにやたら態度デカいし何コイツって思ってたけど……なるほどね、あれだけの実力を秘めていたわけか……だからだったのね、納得したわ」


 おいラナ、お前あーしのことそんな風に思ってたんかい。

 えー、態度デカいつもりなかったケドなぁ。てかラナについては、年が同じでタメだから気安いカンジに接してるワケだけど。だってランクとか言われても、よー分からんし、あーし。


「だけどアンタ、アレだけの実力があるのに、なんでまだルーキーなのよ」

「いや、だってあーし、冒険者なったばっかだし」

「へぇ、そうだったの。じゃあ、モイラ達と組んだのも最近なの?」

「組んだってか、厳密にはあーし、臨時メンバーみたいなヤツだけどね」

「なにそれ?」

「あ、いや、ユメノって、前回の依頼で私たちと一緒になってね、それからなし崩し的に今回も一緒になったというか」

「……ふーん、正式なメンバーじゃなかったんだ」

「私としては、このままユメノには正式にパーティーに参加してほしいくらいだけど。……ユメノは、どう思う?」

「パーティーかー。それって誰とでも組めるん?」

「基本的には、誰とでも好きに組むことが出来ますよ。ただし、パーティーのランクは所属する冒険者のランクの平均となりますから、その点は注意が必要ですが。パーティーで依頼を受ける場合は、パーティーランクが参照されますので。あまりにランクが離れた者同士が組めば、どちらにとっても良くない結果となるでしょう。——っとすいません、つい説明口を挟んでしまいました。うっかりギルド職員としての習性が出てしまったようです」しれっとイスタさんが話に参加してきた。

「ねぇ、イスタ。ユメノのランクって、どう考えもルーキーはあり得ないわよね……?」

「……まあ、ラナさんの言う通りですね。今回の依頼が終わったら、その評価によってユメノさんのランクも変わるでしょう。彼女は前回の護衛依頼の分の査定もまだ確定していませんので……その分も含めたら、一気に上げることも可能かもしれませんね」

「ふーん。じゃあ、一気に熟達者ベテランくらいまで上がるのかしら? あるいは、まさか……到達者プロまでいっちゃう……?!」

「いえ、さすがにそこまでは……。ギルドの規定では、一度に上げられるランクには制限がありますし」

「え、そうなの?」

「はい、そうなんです。——基本は皆さん一つずつ上がるので、知らない人が大半なんですけど。それに、一定のランクからは試験なんかもありますからね。いくら戦闘力がずば抜けているからといって、それだけで一気に高ランクとはいきません」

「ああ、試験か。そういや、そんなのもあったわね。あっさり受かったからすっかり忘れてたわ」

「わあ……やっぱりラナさんってすごいね。私は中級者ミドルに上がるのもかなり大変だったなぁ……」

「……試験、だと……??!」


 ウッソだろ、冒険者にも試験とかあんのかよ!?

 つーかあーし、“鑑定”ないと文字すら読めねーレベルなんだケド、試験とか受かる気しなくねぇー?

 なんの科目が出んだろ? 数学とかマジ勘弁してくれよ? あーしはもうペンを剣に持ち替えたんよ。剣はペンよりも強しだろフツーに考えて。いやいや、いまさらテストの点がどーたらとかやりたくね〜って……!


 と、まあ、なんかそんな話をしている内に時間も経ったので、休憩は終わりにして、いよいよ洞窟の奥に進行を開始することとなった。


 休憩前と変わったことと言えば、あーしの扱いが、それまでの金魚のフンから戦力の一人に変わったことくらいカナ。

 イスタさんの提案により、あーしもフツーに戦力として戦いに参加することになった。とりま、さっきの戦いを見た面々からは、特に異論が出ることもなかった。

 トランシェさんは、あーしに加えてフランツさんの参加を推していたけど、それは本人フランツさんの強い意向により却下されていた。


「さて、では、これより奥に行けば、いよいよそこには“空装領域レイヤーフィールド”が待ち構えています。この先は何が起こるか分かりませんので、とりあえず今のうちに全員で“同調の契りリンクス・コネクト”を結んでおきましょう。——ではオリビアさん、お願いします」


 というわけで、進む前になんかあーしも魔法をかけてもらうことになった。

 そういやこの魔法、なんかさっきからちょくちょく出てきてた気がすんなー。で、これなんなんしょ?


 とりま軽く説明を聞いたところ、この魔法(細かく言うと“呪術”らしーケド)を使うことで、使ったもの同士には“繋がり”が生まれるらしい。

 それだけではせいぜい、お互いの位置がなんとなく把握出来るようになるとか、それくらいの効果しかないらしいケド。なのでむしろこの術は、他の魔法やスキルと併用することで高い効果を発揮する系の術なんだとか、かんとか。

 

 なんかこの術で繋がっている相手には、離れていても魔法の効果を届かせることが出来るよーになるらしい。敵味方が入り乱れる戦闘時なんかには、それはかなり有用とかゆー話。——特に、回復役ヒーラーとのコンボは鉄板とか、なんとか。

 まあそうでなくとも、はぐれた時とかにもお互いの位置を把握できたり、なんなら魔法による通信で連絡を取ったりなんかも出来るらしーから、フツーにかなり便利よね。

 まあどっちにしろ、この“繋がり”を利用するにはそれなりに経験とゆーか、慣れが必要らしーので、あーしにはあんま関係なさそーだケド。


 他にも、洞窟の奥は暗いので、視界を確保するための準備とかもして。

 明かりでも用意するのかと思ったら、それも魔法で“暗視”が出来るようにするって感じだった。や、まほーってマジで便利よね。


 そんな感じの準備も終わらせたあーしらは、洞窟の奥に向けていよいよ歩みを進めていく。


 そして、前回この洞窟の奥に行った時に引き返した地点までやって来た。

 ここに来るまでにも、以前感じた変な感覚を、今回も強く感じていた。

 今回はいよいよ、その感覚の先に踏み込むのだ。


「……ここですね。確かに、この先はフィールドになっていますね……」

「おお……マジで実在したのにゃ」

「うっひゃあ……こりゃあ、入る前からやべぇオーラをビンビン感じるぜぇ……」

「なんてことだ、“魔の森”の奥部に本当にフィールドが存在するだなんて……いやはや、ゾッとしないね」

「なんだ“繚乱”、貴様、ここまで来て今更、臆したとは言わんだろうな? その到達者プロ等級証ライセンスは飾りか?」

「ははっ、聖英級マスタークラスに言われちゃあ、さすがのボクもお手上げだ」

「気を引き締めてください。ここから先は、何が起きるか分かりません。油断していると足下をすくわれる、それがフィールドですよ。……さて、皆さん、心の準備はいいですか? では、行きますよ」


 それからあーしらは、洞窟の先の闇の中へと、その足を踏み出したのであった……


 ——つーかあーしは、未だにこの先のフィールドとかゆーのが一体なんのことなのか知らんのやけど……イマサラ聞けねぇか。いや、聞くタイミング逃したわ……。


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