第35話 テイル、リーパー……??


 

 竜が船を引っ張って空を飛んでいく。

 

 少しずつ高度と速度を上げていった船は、今や中々の高さを中々の速度で飛んでいた。

 さえぎるもののない甲板からは、空からの景色を存分に堪能たんのーすることが出来た。


「うおおぉぉぉぉ……!!」


 あーしが甲板のへりにある手すりのようなヤツから身を乗り出して下を眺めてみたら、そこには一面に広がる森の姿があり、それがすごい勢いで後ろに流れていっていた。

 空飛ぶ船はすでに、マノ森の上空を飛んでいた。


「まったく、ユメノったら、まるで子供みたいね。あんなにはしゃいじゃって」

「わ、私も、内心はかなりドキドキしてるよ。なんせ、“飛空艇フライトセイル”なんて初めて乗るから。——やっぱりラナさんくらいになると、飛空艇にも乗ったことあるんだ……?」

「い、いや、乗ったことは無いけど……まあ、わたしの場合は、やろうと思えば自力で飛べるし、別にこんな景色、珍しくもないというか……」

「へぇー! やっぱり凄いね! ——そうだよね、私と同い年でもう“上級職スペリオール”だし、ランクも熟達者ベテランだもんね……」

「べ、別に、わたしが特別に天才なだけで、その歳で中級者ミドルなら、モイラも十分優秀だと思うわよ……!」

「いやぁ、私がここまでこれたのは、一から十までフランツさん達に助けられたお陰だから……」

「——いいじゃない」

「えっ?」

「……つまり、パーティーメンバーに恵まれたってことでしょ。それって、幸運なことよ」

「うん……! ウチのパーティーのメンバーはみんな私に良くしてくれるし、私、本当にいい人たちに巡り会えたと思う」

「……そ、よかったわね」


 近くではモイラとラナがだいぶ仲良くなっていて、二人でなにやら話していた。

 

 出航後もラナと色々話していたら、そこにモイラもやって来て、三人で話している内にあーしらはけっこー仲良くなっていた。

 最初はモイラはランクが上のラナに遠慮してて、ラナはラナで高圧的こーあつてきな態度だったんだケド、あーしが間に入ってフォローしてる内に、ようやく打ち解けてきたって感じ、みたいな。

 

 まあ元々あーしら同い年だから、ランクとか気にしなければフツーに仲良くなれるっしょ、って感じにあーしは思ってたし。

 なんなら二人とも魔法使いだから、さっきまではそれの話題で盛り上がってたりしてたし。

 あーしは魔法についてはなんもワカランチンなので、こうして景色を見ることにしたとゆーワケよ。


 と、そんなあーしに話しかけてくる人がいた——イスタさんだ。


「えっと、貴方あなたは……ユメノさん、でしたよね?」

「あ、ハイ、そーっすけど」

「少し、お話いいですか?」

「いーっすよ」


 イスタさんはあーしの隣に来ると、あーしにならって船の手すりに寄りかかり、あーしと下方の景色に交互に目をやりながら、話し始めた。


「貴方については、一応、例の護衛依頼の報告書には目を通しました。……それで、確認なんですけど、その護衛依頼の際に討伐されたモンスターの素材ということで、ギルドには強力なモンスターの珍しい素材などがたくさん持ち込まれていたようですが……あれらを倒した張本人がユメノさんだというのは、これは本当ですか?」

「んーと、タブン、そーだと思いマス。あの、メタルトカゲとかのやつっすよね?」

「……えっと、“鋼装蜥蜴メタリックリザード”のことですか?」

「あ、ハイ、そーっす」

「そうですね、それもですけど……では、他のものたちは?」

「他って、どれのことっすか? ——あー、いや、あーし、名前とかゼンゼン覚えてなくてー」

「そうですね……では、“死鎌の尾鞭獣テイルリーパー”については、どうですか?」

「……」

死鎌の尾鞭獣テイルリーパー——危険度Lvデンジャーレベル44……今回のこの調査隊でも、しっかりと対応できないと危険な相手です。——このメンバーの中でも、テイルリーパーに単独で対処できる者など、それこそ聖英級マスタークラスのランスリータくらいでしょう」

「……」

「滅多に討伐されないモンスターなので、ギルドも色めき立ってましたよ。特に、連中の鎌については、希少な素材ですからね。——まあ、一つは破壊されていたようですが。

 しかも、一気に二体もですからね……ええ、そこも驚きました。連中は特に群れを作るモンスターではありませんが、別に単独行動しかしないというわけでもないようですので……一度に二体が現れることも、そうあり得ないことではない」

「……」

「ですが、連中をに相手取るなんて、ちょっと信じられないんですよ。それも、遠距離から始末したというならともかく、近接戦で仕留めただなんて……。フランツさん達の報告が疑われたのも無理はありません。そんな話、普通なら酒の席の与太話のたぐいですから」

「……」

「だけど、彼らは嘘を言ってはいなかった。……少なくとも、本人は事実だと信じていることを話していた。

 ……さて、ギルド職員としては、偽りのない真実を知る必要があるんです。——まあ、個人的な興味もありますが。それに、ユメノさん、これは貴方の査定にも関わってくることですから。昇格ランクアップの査定に、です。

 なので、教えてくれませんか? 実際のところ、“死鎌の尾鞭獣”はどうやって倒されたのか」

「……」

「どうしても、何かしらの理由があるというのでしたら、黙秘するという選択肢もあるでしょう。ですが、それにしても、最低限、黙秘の理由くらいは話してもら——」

「や、すんません、チョット思い出せないっすわ……」

「……そうですか。あくまで、とぼけるつもりなんですね……?」

「ん? や、テイルなんとかって、どんなヤツでしたっけー? なんかデカい虫みたいなヤツ……?」

「は? ……あ、いや、アレです、尻尾が鎌になってる、小型の、えーっと、とにかく素早くて——」

「あ、アレ!? あのクッソはえーやつね、あー、分かった分かった。あー、うんうん、アイツはマジで強かったわ。うん、一番強かった、マジで」

「……えっと」

「んで、え? コレをどーやって倒したかっすか? ……いや、どーやっても何も、フツーに斬っただけっすケドね」

「……えっと、普通に、とは?」

「いや、だから、フツーに、ヒュッてくんのをガッ——ってやって、んでズバ! ズバ! ……みたいな?」

「…………はあ、なるほど。……えっと、つまり、ユメノさん、近接戦で倒したというのは、間違いないんですね?」

「そーっすね」

「二体目は、どうやって出てきたんですか?」

「二体目っつーか、ほぼ同時に来たよね。んで同時に倒したって感じ?」

「ほぼ連戦だったと?」

「連戦ってか、まあそっからはデカサソリとかデカい木とか、ゆーて連戦だったケド」

「サソリ? いえ、リーパーについては……」

「ソイツはだから、二匹同時に来たから、二匹同時に倒したよ」

「同時に、ですか……?」

「うん」

「近接戦で……?」

「うん」

「………………なるほど」


 それからイスタさんは、何やら黙ってしばらく考えこんでいた。

 んであーしが——えーっと、もー話は終わったんかな、コレ……って思い始めたところで、彼女がまた口を開いた。


「……分かりました。とりあえず、貴方の言葉を信じることにします。……そのですね、ユメノさん。実のところ、今回の依頼に貴方も同行してもらったのは——その許可が出たのは——依頼を通して貴方の力量を見定めるという、そういうギルドの思惑おもわくが含まれていたからなんです。貴方についての報告の内容は、それだけでは頭から信じることは出来ないレベルの話でしたのでね」

「はあ、そーだったんすか」

「ええ。……まあ、そういうことなので、もしかしたら、貴方には道中、何らかの指示をすることになるかもしれません。その際は、よろしくお願いしてもいいですか?」

「……えーっと、指示って、どんな感じのやつなんすか?」

「そうですね……貴方の実力を確認するために、何度か戦闘に参加してもらうとか、まあ、その程度ですよ」

「そんくらいなら、別にいいっすよ」

「ありがとうございます。——まあ、本来ならユメノさんも『波刃の剣心フランベルジュ』の面々同様、今回は補助要員としての参加なので、戦列には加わらない扱いとなるのですが……そういうわけですので、もしもその時が来たとしたら、よろしくお願いします」

「うぃっす」

「それでは、質問は以上ということで……よろしいですか? 他には何もないですか?」

「んー……あっ、それなら、一個聞きたいことあったんすケド」

「なんでしょうか」

「いや、イスタさんに名前と顔が似てる人に、あーし、なんか会ったことがあったよーな気がしてて……」

「……それって、もしかして、ゾウルの冒険者ギルドで、ですか?」

「ゾウ、ル……? あ、ハイ、そ、そーっす」

「それは、アスタというギルド職員のことですか……?」

「あ、ハイ! そっす、その人っす」

「なるほど……そのアスタという人物は、私の実の姉です。なのでまあ、似ているのは当然ですね」

「へぇー! オネーさんだったんすねー」

「……ユメノさんは、姉と依頼のやり取りをしたんですか?」

登録とーろくしてもらいました、冒険者の」

「登録、ですか」

「ハイ、あの護衛依頼受ける前に、初めてギルドで話しかけたのが、あの人だったんで」

「……え、登録して最初に受けたのが、護衛依頼だったんですか?」

「そっすね」

「……」


 なんかイスタさんが、なんとも言えない顔してこっち見てくる。


「……な、なんスか?」

「いえ……そうですね、なんだか私、ユメノさんにより一層興味が出てきました」

「は、はぁ……??」

「あの、ユメノさん、もう少しお話聞かせていただいても構いませんか?」

「うーん、ま、少しなら」


 というわけで、あーしはイスタさんとも少しばかり親睦を深めたのだった。


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