第三章 わりと重要なサブクエ

第33話 緊急クエストだよ、全員集合!



「さて、それでは『波刃の剣心フランベルジュ』のリーダー、フランツさん。——というわけなので、貴方あなたにはこの混成パーティーのリーダーをしていただきたいのですが、よろしいですか?」


 目の前にいる、半森人ハーフエルフだという極めて美しい容姿のギルド職員が、オレにそう尋ねてくる。

 いや——質問すると見せかけて、実際のところ、これは命令みたいなものだろう。オレに拒否権などなさそうだ……

 というか……オレが、オレが、こののリーダーだって? 冗談じゃない! 無理に決まってるだろ!?


 そもそも、なぜこんなことになっているのか。

 その発端ほったんは、今朝、オレ達の宿にこのギルド職員——イスタさんが来たところまでさかのぼる……



 ——

 ————

 ——————


 

 今朝、オレが宿の一階でパーティーメンバーの三人とユメノとで朝食をとっていたら、突然、彼女は現れた。

 オレ達が食事しているテーブルのところまで来ると、彼女は開口一番に——


「貴方達は、先日に『ゾウルからギンザまで——“魔の森”を通るルートでの護衛依頼』を受けた、中級者ミドルクラスの『波刃の剣心フランベルジュ』というパーティーのメンバーで、間違いありませんか?」


 唐突にそう聞かれて、多少面食らいながらも、オレ達は頷いた。

 すると彼女は、オレ達に、今すぐにギルドに出てくるように——と言ってきた。

 なんでも、ギルドより依頼クエストが発令されて、それによってオレ達は招集されているのだという。

 急いでいる様子の彼女が、「すぐに来てもらえますか、今すぐに」と言うのをなんとか取りなして、もう少し詳しい話を説明してもらう。


 そうして、簡潔に説明してもらったところによると——

 

 今回のクエスト発令の発端は、オレ達がギルドに上げたにあるという。

 街に程近い“魔の森”に“空装領域レイヤーフィールド”があるなんて寡聞かぶんにして知らなかったギルドは、それが本当なら一度、調査する必要がある——という結論になったようで、さっそく今回その調査をする運びとなったらしい。

 ——どうやらギルドは、オレ達のした報告をちゃんと信じてくれたようだ。……少なくとも、こうして実際に自分達で調査しようとするくらいには。


 それで、なぜオレ達にその話をしに来たのかというと、オレ達にもやって欲しいことがあるからだと。

 いや、オレ達というか、正確には用があるのはみたいだが。

 

 オレ達にして欲しいことというのは、要は「道案内」だという。

 オレ達——特にローグは、実際にそこに行ったわけなので、“魔の森”の中でフィールドのある位置を正確に把握している。その情報は、今回の調査クエストにはとても役に立つ。

 フィールドのある場所まで案内してもらうために、道を知っている偵察役サーチャー——つまりはローグが必要というわけだ。


 そして、結論から言えば、その辺りの事情を聞いたオレは、最終的に、この依頼を受けることにした。

 

 もちろん、“魔の森”の危険性はオレ自身、重々把握している。あそこのモンスターの強さについてはまだ記憶に新しく、鮮明に脳裏に焼き付いている。なんせ、ほんの数日前のことだからな……。

 だがそれを考慮した上で、受けるに足るだけの見返りメリットを提示されたのも事実だった。

 場所柄からして、今回の依頼クエストの難易度が高いのは明白で、つまりはその難度に見合う報酬があるというのも、これまた明白だった。

 

 本来ならそんな高難度の依頼など、中級者ミドルクラスが受けられるものじゃない。

 しかし今回はとして、特別に依頼に参加できるわけだ。考えようによっては、これはとんでもないチャンスと言える。

 ギルドがじかに発令した特殊な依頼であることをかんがみれば、単純な金銭なんかの報酬についてだけでなく、むしろギルドからの評価が高まることへの期待が大きい。


 “魔の森”の危険性についても、絶対は無いが、ある程度の見通しは立っているようだったので、リスクは許容できる範囲内だと判断した。

 というのも、ギルドも“魔の森”の危険性はしっかりと把握しているので、今回の調査依頼のメンバーについては、自分達で揃えられる限りの精鋭を揃えたという。

 ——実際、ギルドに向かってから引き合わされたメンツを見れば、ギルドが言ったことにいつわりはなかったのだと納得した。


 あともう一つ、この時のオレの判断を後押ししたのは、他でもない、ユメノの存在だ。

 というのも、ローグ一人に参加させるわけにはいかないという理由で、オレ達フランベルジュは全員で依頼に参加することが認められたのだが……

 ——あの時はこっちのルーキーユメノも、臨時のメンバーということでオレ達のパーティーの一員みたいなものだったんですが、彼女も参加出来ませんか?

 と尋ねたら、普通にユメノの参加も認めてもらえたのだ。


 ——ユメノがついて来てくれるのなら……うん、何が来ても大丈夫だな、たぶん。


 彼女の参加により不安が払拭ふっしょくされたオレは、それが最後の決め手となった。

 ユメノ本人が参加してくれるかどうかの心配については、まるで無用だった。なぜなら、本人がすごく乗り気だったから。

 ユメノの実力なら、確かに“魔の森”だろうと臆することはないだろうけど、それにしてもやる気だったので、不思議に思って本人に理由を聞いたら——「いや、誘いには乗るのが吉って、占いにも出てたから。さっそく来たわコレ」とかなんとか、よく分からないことを言っていたが……


 というわけで、話を聞いたオレ達は、それからすぐに準備をしてギルドに向かった。



 ギルドには、依頼のために集められたという精鋭の冒険者達がすでに揃っていた。

 イスタさんの案内でここまで連れてこられたオレ達は、そこでそのメンバー達を紹介されることになった。

 そうして……オレはここで、同じ冒険者としては遥かな高みに存在する面々と、邂逅することになった。


 今回の依頼に際して、“魔の森”の調査にあたるパーティーを編成するために、普段はそれぞれ別々のパーティーに所属している、トップランカーを集めたメンバーが選出されていた。

 それはつまり、このギルドに所属する冒険者の中から、考えられる限り最高の組み合わせで編成されたパーティーが、ここに結成されたということで。

 それは一言で表すなら、「できうる限りに最高のメンバーを揃えたドリームチーム」と言ったところだろうか。


 自分自身も今回の依頼に同行するという——ギルド職員のイスタさんは、そんなメンバーを前にしても、なんら変わった様子はなかった。

 それまで通りの平静さを保ったまま、オレ達を連れて彼らの元までやってくると、平然と全員に向けて声をかける。


「それで……例の件については決まったのですか?」


 すると、蜥蜴人リザードマンの冒険者がそれに答えた。


「いや、ぜーんぜんさ。だってよー、大体よー、イスタの姐御あねご、こいつらってば、どいつもこいつも『自分が一番!』って感じの連中なんだからよー、そもそもが無理な話だったんだよなー」

「ふぅ、やれやれ、ひどい言い草だね。まあ、間違ってはいないけどね。確かに、ボクがこの場で一番輝いているというのは、これはもはや言うまでもないことなのは明白である事実としか言いようがな——」

「黙るにゃぁ、ナルシハット。おめぇが喋りだすと収拾しゅうしゅうがつかなくなるからにゃ」

「おいおい、ボクのことを変な風に呼ぶのはやめてくれないかな? 新顔に名前を誤解されてしまったら困るじゃないか。——それで、イスタ嬢、そちらの面子めんつが、くだん中級者ミドルクラスの子たちなのかい?」

「ええ、そうです。——彼らの紹介は必要ありませんね? では、まずはあなた方を彼らに紹介しますので」


 そう言うと、イスタさんはその場の冒険者達を一人ずつ紹介し始めた。


「——さて、それでは分かりやすいように役割ロール別に紹介しましょう。では、まずは盾役タンクのお二人から紹介します」


 手始めにイスタさんが示したのは、獣人ビーストの女性だった。


「彼女がタンクの一人目、人呼んで、“武踊”のサーヴァルサーヴァル“ザ・バトルダンサー”冒険者等級アドベンチャーランク到達者プロ、です」

「……え、あちしの紹介、それだけ? ——あー、あちしはサーヴァルにゃ。見ての通りの猫獣人キャットビーストにゃ。ちなみに、あちしのジョブは『豪拳闘師ベイルナックラー』にゃ。にゃので、このパーティーでは二人のタンクの内の一人として、回避盾役フラッターをするにゃー。ま、よろしくにゃぁ」


 ——プロクラス……!!


 初っ端からすごいのが出てきたぞ……! というのが、正直なオレの感想だった。

 プロクラスと言えば、冒険者として到達できる、ある種の限界と言っていい。


 ——“二つ名ダブルネーム”持ち……それに、この『豪拳闘師』ってジョブはおそらく、“上級職スペリオール”だ。


 最初の一人から驚愕の実力者が出てきて、オレは衝撃を受けていた。しかし、そんなオレの内心になど構うことなく、イスタさんは次々と紹介していく。


「では次、もう一人のタンク。こちら、人呼んで、“聖壁”のマスカトールマスカトール“ザ・セインツウォール”。ランクはプロ」

「……紹介が雑というか、短いのである……。——うぉっほん。我が輩の名はマスカトール。えある『聖騎士セインツナイト』のジョブにつきし者、なのである。このパーティーの盾として、真摯しんしに、かつ紳士に! すべての脅威から皆を守護まもると誓うのである。——同行する以上は、諸君らも我が輩の庇護の対象なのである。なので安心して、この紳士たる我が輩の後ろについてくればよいのである」


 そう言ったのは、重厚な鎧に身を包んだ大柄の男だった。

 頭部もすっぽりと隠れる兜を装着しているので、種族はおろか顔も分からない。——まあ、ジョブからしておそらくは「源人オリジン」だと思うけども……。


 ——しかし、『豪拳闘師』の次は『聖騎士』とは……これまた強力なジョブが来たな。『聖騎士』のタンクとか、確かにすごい安心感だ。


「では続いて、今度は前衛の攻撃役アタッカーの二人を紹介します」


 そうしてイスタさんが初めに指し示したのは、先程サーヴァルさんに“ナルシハット”と呼ばれていただった。


「えー、こちらは人呼んで、“繚乱”のトランシェトランシェ“ザ・ブリリアントラッシュ”。ランクは、確か……プロ、でしたっけ?」

「もちろんっ! それで合っているとも。うるわしのイスタ嬢。ああ、君は今日も美しいね。その金色こんじきに輝く髪と、吸い込まれそうな翡翠ひすいの瞳のコントラストは、まさに今生こんじょうに現れし奇跡の美の体現そのもの——」

「えー、では次、もう一人のアタッカーは——」

「——ん待て待てぃ! まだボクの自己紹介は終わっていないのだけれどっ!」

「早くしてもらえますか? 時間が押してますから」

「ふむ、しょうがない。本来なら、どれだけ時間があったとしても、ボクの美しさを紹介するにはまるで足りないのだ☆け☆れ☆ど——」

「……」無言で睨むイスタさん。

「分かった分かった、それでは手短に自己紹介するとしよう。——ボクの名前はトランシェ、“繚乱”のトランシェトランシェ“ザ・ブリリアントラッシュ”……だよ、キミたち、分かったかい? オッケー? ——よーし。さて、ボクのジョブは『魔剣士マギアフェンサー』だ。そう! キミたちがこの一行に加わるということは、ボクの勇壮ゆうそうなる剣技と華麗なる魔法を合わせた“魔剣技マギアソードアーツ”の、その美しいだけではない強さについてを、キミたちは目の当たりにすることになる、ということだね。……ああ、誇るといい。それは一生、心に焼き付く壮麗なる思い出となることだろう……このボクの、輝かしい美貌びぼうと共に、っね☆」


 ——手短にすると言いつつ長い……っじゃなくて、えっ、『魔剣士』!?


 ——じゃあこの人っ、“右に剣、左に杖トゥー・ウェイ・プレイヤー”なのか……ッ!!


 前衛で戦いながらも魔法も使える両刀使いスペシャリスト……極めて珍しい資質。

 確かにその顔は、女と見紛みまがうほどに美しく整っている。その上、プロクラスで『魔剣士』とくれば、世の女の子たちが放っておかないだろう。

 お洒落しゃれな帽子と、どこぞの貴公子といっても差しつかえのないファッションは、いかにも洒落男といった風情ふぜいだが——

 ……んー、いや、待てよ。

 この人、本当に男なんだろうか? 言動からして、てっきりそうだと思ったけれど。実際のところ、顔も声も中性的だから、あるいは、ひょっとすると……


「——相変わらず話が長いぞ、“繚乱”。またぞろ、ずらずらと詩人のような言葉を並べ立てよって。貴様と並んで紹介される、こちらの身にもなれというのだ……」

「ええ、では次、貴方の紹介の番ですね。こちら、人呼んで“竜——」

“竜嵐”のランスリータランスルィィィタ“ザ・ドラグストリィィィィム”!! ——ああ、うるわしのランスリータ! なんなら、キミの紹介はボクが請け負ってもいい。いや、是非ぜひともボクにやらせてほし——」

「黙れっ、れ者が! 貴様に紹介されるなど、虫唾むしずが走るわっ! いいから口を閉じていろっ、この軟派ナンパ者が……!」

「そう言われても……美しい女性を口説くのは、ボクの“人生の意義ライフワーク”なのだけれど——」

「……いいから、黙れ……!」


 ——その瞬間、空気が凍り、そして震えた。

 忠告ちゅうこくの言葉と共に彼女より放たれた“威圧プレッシャー”は、こちらに向けられたわけでもないのに、心底からオレを震え上がらせる威力があった。

 その“威圧”を真っ向から受けたとくれば、さしものトランシェも冷や汗を流して口を閉じていた。——まあ、それでも顔には柔和にゅうわな微笑を浮かべたままだったのは、さすがはこちらもプロクラスというべきなのか……。

 

 しかし、この“威圧”は……彼女の方こそ、一体どれ程の——


「……さてと、それでは改めて紹介します。彼女はランスリータ。人呼んで、“竜嵐”のランスリータランスリータ“ザ・ドラグストリーム”……彼女のランクは、聖英級マスタークラスです」


 ————ッッッ!!!


 ——“聖英級マスタークラス”……!!


 ——到達点たるプロクラスの、……!


「我が名はランスリータ。この身は『竜騎士ドラグーンナイツ』の職能ジョブを有している。……先程は少々、しまって、すまなかったな。われも竜と名のつく力を宿す身なれば、その逆鱗げきりんに触れるものもあるということだ。——どこぞの軟派者などは、その最たる例だな」


 ——『竜騎士』……ッッ!!!


 かように有名で、しかして実際にそのジョブを有した人物をみないジョブというものも、中々ないだろう。

 『竜騎士』——このジョブは、それを知ることとなった諸人もろびとすべてに羨望と畏怖とを否応なくいだかせてしまうような……そんな、希少さをおぎなって余りある勇名を馳せているがゆえの、とんでもない知名度の高さを有するジョブだと言えるだろう。


 ランスリータと名乗った彼女は、トランシェが誉めるだけあり、確かに美しい容姿の女性であった。

 だがしかし、その内面から漏れでる“波気オーラ”ときたら——なるほど、これが“聖英級マスタークラス”……! と、オレをうならせる覇をまとっていた。


「さて、ランスリータさんのお陰でうるさい誰かさんも黙りましたから、次、どんどんいきましょう。——お次は後衛の、回復役ヒーラーです」


 続いてイスタさんが指し示したのは、神官服を着た落ち着いた印象の女性だった。


「彼女は人呼んで、“静謐”のエリーゼエリーゼ“ザ・クワイエット”。ランクはプロです」

「……はい、わたくし、エリーゼと申します。『神導官アークプリースト』の職能ジョブを拝しております。……どうぞ、よろしくお願いいたします」


 ——『神導官アークプリースト』……モイラのジョブである『神官プリースト』、その“上級職”に当たるジョブだな。


「はい、それでは続いて、後衛の魔法役メイジですね」


 そう言って次に示されたのは、モイラやユメノと同年代に見える女の子だった。


「彼女は人呼んで、“颯唱”のラナラナ“ザ・スキップチャント”。ランクは熟達者ベテランです」

「ふん……ラナよ。ジョブは『術式詠師コードトーカー』。……ま、よろしく」


 ——すごいなこの子、その歳でベテランクラスで、魔法系の“上級職”持ちだなんて。……これは俗に言う、天才というやつなのかな。


「では次、後衛の偵察役サーチャーをしてくれるのが……えーと——ああ、そこですね。はい、この人です」


 そうして示された先には——うおっ、この人、いつからここに居た……?!

 全身が丸ごと完全に隠される装備によって、その人物の素性すじょうはまるで判然としない。種族はおろか、彼か彼女かも分からないようなちだった。

 これまでは一切その気配を表していなかったので、まるで今初めてそこに現れたかのかと思うほどに、その人物は今の今までずっと存在感を消していた。


「えー、この方は人呼んで、“影瞳”のスニィクスニィク“ザ・シャドウアイ”。ランクはプロです」

「……」

「……あの、一言くらいは……何かありませんか……?」

「……オレはスニィク、ジョブは『密偵シークレットスカウト』……以上」

「あ、はい、どうも。ありがとうございました」

「……」


 顔を隠した——これはマスクなのか仮面なのか——真っ黒なソレ越しに話された声はくぐもっており、聞いてもやはり性別は判然としなかった。


「さて、それでは次で最後の一人です。彼は後衛というよりは、補助役サポーターですね」

「お、ようやくオレっちの出番かい」

「そうですね。ではポール——じゃなくて、ええっと、こちらの蜥蜴人リザードマンが、人呼んで“送走”のポールポール“ザ・トランスランナー”。ランクはベテランです」

「おうよ! オレっちはポール。まー、オレっちの役割というなら、サポーターの中でも運搬役ポーターだな。てなもんだからよ、つまり、“ポーターのポール”ってことだ。覚えやすいだろ? よろしくな! ——あ、ちなみにオレっちのジョブは『運送士トランスポーター』と『斥候スカウト』だぜ。あー、他の連中はみんな“上級職スペリオール”な中で、オレっち一人だけ“通常職ユージュアル”二つだけど、一応これでも“ダブル”だからな! いずれはオレっちも“上級職”をゲットするつもりだから、そこんとこよろしく!」

「なんの決意表明か知りませんが……まあ、メンバーとしてはこんな感じです。……さて、それでフランツさん——」

「——あぇ? あっ、あのぉ……」

「貴方に一つ、頼みたいことがあるんですが、いいで——」

「あ、あのぉっ!」

「——ん? ……あ、オリビアさん。そうでした、まだ貴方の紹介をしていませんでしたね」

「は、はいぃ……」

「はい、こちら、オリビアさんです。彼女は今回、フィールドの調査員として参加していただいています。なので、厳密に言うと彼女は戦力ではありません。まあ、そうはいっても、彼女もベテランクラスの冒険者ではあるんですけどね」

「は、はい、わ、私、オリビアといいます……。……あ、じょ、ジョブは、『呪導師アークシャーマン』です……へ、フヘヘ……。——あ、そ、そのぉ、フヒッ、よっ、よろしくお願いしますぅっ……!」


 どもりながらそう自己紹介した彼女は、ひと目見て呪術士然とした格好をしていた。

 いかにもな黒いとんがり帽子と、ダボっとした黒のローブ。ロングヘアーにしても長い前髪と目深に被った帽子によって、顔の上半分が隠れてしまっているので、顔つきについてはよく分からなかった。


「……さて、それではフランツさん。改めまして、実は貴方にお願いしたいことがあるのですが——」


 そう言って彼女は、とんでもない“提案”をオレに放ってきた。

 その“提案”というのが、最初にあったあの提案だ。つまり、オレにこのパーティーのリーダーをやれというのだ。


 なぜそんな提案をすることになったのかは、単純な話だった。

 なんでもオレ達を呼びに行く前から、このメンバーは誰がリーダーをやるのかを話し合っていたらしい。

 しかし、それぞれが第一線で活躍する高ランクの冒険者達である。その話し合いは難航したようだ。

 自分が戻ってもいまだに決まっていなかった現状を見たイスタさんは——それならば……と、こんなことを考えたらしい。

 いわく——この中から決めるのが上手くいかないのであれば、いっそのこと外野の人間に任せてしまえばいいのでは? むしろその方が角が立たないですし、適任なのかも——とかなんとか。

 そこで白羽の矢が立ったのが、偶然参加することになった——オレ達、の中でもパーティーリーダーをやってるってことで——オレというわけだ。


 

 ——と、まあ、そんな経緯で。

 オレがイスタさんに詰め寄られる最初の状況に、話は繋がってくるのだった。


 

 ——————

 ————

 ——


 

「……分かりました、やります。やればいいんでしょう」

「ありがとうございます、フランツさん。まあ、あまり気負うことはないですよ。あくまで形式的なものですから」

「そうですか……」


 結局オレは、押し切られてリーダーをやることを了承した……させられた。

 意外というか、イスタさんがオレを推薦したら、アッサリとドリームチームのメンバーも受け入れていた。


 その様子を見てオレは違和感を抱いて……すぐにある推論に思い至った。

 

 ——もしかして、この場合のリーダーって、みんなが押し付け合う損な役回りってことなんじゃ……?!

 

 ——中々決まらなかったのは、それぞれが自分がやるって自己主張したからではなく、お互いに押し付け合ってたからなのかっ!?


「あの、まさかと思いますけど、この場合のパーティーリーダーって、調査の責任者的な立場になったりとかするわけじゃないですよね……?」

「……さて、責任者も決まったことですし、これでようやく依頼クエスト発足ほっそく出来ますね」

「えっ、ちょっ——」

「それでは皆さん、速やかに出発といたします! 時間が押しているので、モタモタしている暇はありません。さあ、行きましょう」

「い、イスタさんっ!? ちょっ——」


 オレの問いかけも虚しく——それからやけにテキパキと準備を済ませた面々は、すぐさまギルドをつと、“魔の森”に向けて出発したのだった……。


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