第32話 導きの言葉を授けましょう——byギンザの母



 こりゃもー、ウンと言うまで引かねーぞコイツは……と思ったあーしは、うらないを受けるコトにした。断るのを諦めたとも言う。


「それでは、占うにあたって、まずはプロフィールを教えてもらえますか? ——この紙に『名前』、『年齢』、『性別』、『種族』、『出身地』、『生誕暦』、『信仰する神』、『その他』——を、記入して下さい。

 名前はフルネームで、出身地は国の名前など大まかでも構いません。生誕暦も年や季節まででも、分かる範囲でいいです。分からないところは、無しとか分からないで埋めていいですので、とにかくすべて回答するようにしてください。——あ、その他については、趣味や特技や職業など、自由になんでも書いてもらってどうぞ。……ちゃんといつわりなく本当のことを書いてくださいね。でないと正しい占いの結果が出なくなりますから」


 そう言って紙とペン的なのを渡されたあーし。んでも……


「あのー、これ、書くって言われても、そのー」

「……もしかして、文字が書けませんか?」

「いやー、書けはするケド、、っつーか……」

「……えーっと、大丈夫ですよ、私も“鑑定”のスキルを持っていますので、大抵の文字は読めますから」

「んなら、まあ……ワカリマシタ」


 日本語で書いたら読めねーよね? って思ったケド、“鑑定”持ってんなら読めるか……。

 

 あーしは言われたとーりに書いて、紙の質問を埋めた。

 書いた紙を渡すと、占い師さんはソレに目を通していく。


「はい……えっと、名前は『夢野衣音ユメノイオン』さん、年齢は『十七歳』、性別は『女性』、種族は『オリじ——」

「や、ちょい待ち!」

「え、なんですか?」

「いや……あーしの名前、それ読みが違うわ」

「え?」

「あーしの名前、『衣音ジャスコ』だから」

「えっ……?」

衣音イオンと書いて、ジャスコと読むの」

「へ、なんですかそれ?」

「ナニって言われても……なんだろ〜ねー、地方の出身だからカナ〜、……なんつって」

「…………」困惑したフインキの占い師さん。

「……まあ、普通じゃない読み方なんだよねー」——さすがの“鑑定”スキルでも、キラキラネームは無理ってコトか……

「な、なるほど、特殊な読みだったんですね……分かりました。——え、えーっと、それでは続きを——」


 占い師さんは、あーしの書いた内容を最後まで確認していった。

 

 あーしはちゃんとショージキに書けるだけ書いた。『種族』とか、『信仰する神』とかはショージキよく分からんかったケド、神殿でもそう言われたから種族はとりま「オリジン」て書いたし、神の方もちゃんと「仏教」って書いた。

 他は分かるから、それもちゃんと書いたし。

 ちな『その他』は、趣味が「ショッピング」と「カラオケ」、特技は「耳を動かせること」と「剣技ソードアーツ」、職業は「高校生」と「動画配信者」、ついでに部活も「テニス部」と「陸上部(助っ人)」ってとこまで書いといた。


 んでまあ、あーしの名前については……初見で読める人はゆーてゼロだから、イマサラ気にするコトではナイ。

 はぁ……こんなクソふざけた名前のせーで、あーしが今までどれだけ苦労くろーしてきたことか。

 

 まあ、お陰で色々と耐性がついたのは確かなんだケド。男子とか確実にからかってくるから、それに対処している内にあーしの精神は鉄の強さを手に入れたンよ。

 友達とかはフツーに、苗字で呼んだりイオンって呼んだりしてる。ジッサイあーしも、下の名前でガチで呼ばれるのはあまり好きではナイ。

 まあアッキーは例外だけど。アイツはあーしのこと「ジャー子」って呼ぶケド、これは愛称みたいなもんだし。


 アッキー……。

 ……そういや、あーしがコッチに来てからすでに数日経ってるよね。……向こうでは行方不明扱いなんだろーか。アッキーも心配してるかな……。

 名前はふざけたのつけたあーしの親だけど、フツーに家族とは仲悪くないからね、あーしは。オカンとオトンも、さすがにこんだけ居なかったらあーしを心配しているハズ……一人娘だし……。


 日本……あーしの故郷……帰りたい……ケド、どうやって帰ればいい……?

 もしも本当に、この占いでその手がかりが掴めるなら……そう思えば、あーしも少しはマジメに書こーという気にもなる。


 あーしが日本のコトなんかに思いをせている間に確認が終わったよーで、占い師さんは紙から顔を上げた。


「——はい、確認出来ました。それじゃあ、これより占いを開始します。では夢野さん、水晶玉に手を置いて貰えますか?」

「あ、ハイ」

「では、いきます……」


『“運命占視オラクルヴィジョン”』


「……まず、貴方あなたには今、探しているものがある」


 ——まあ、あるっちゃある。モノってか、日本に帰る方法だケド。


「それは物品……ではなく。人……でもなく。——そう、場所」


 ——まあ、そうとも言えるカナ。


「もっと言えば、その場所まで行く……方法」


 ——ッ! 合ってる……!?


「貴方には行きたい場所、あるいは、場所がある。しかしそこに至る方法が、なぜか分からない……そうですね?」

「……ハイ、そうっす」

「ではこれから、その方法について具体的に探っていこうと思います。それでは夢野さん、自分の望み——帰りたい場所のことを、頭に強く思い浮かべてください」


 あーしは目を閉じると——日本のこと、我が家のこと、家族のこと、友達のことを——脳裏に強く思い浮かべる。


「……………………ふぅん……えぇ……これは…………! ……なるほど。——ええ、分かりました。夢野さん、もういいですよ、目を開けてください」


 あーしは閉じていた目を開ける。


「結論から申しますと……貴方が望みの場所へ至る方法、それ自体はちゃんと存在します。それは不可能ではありません」


 ——ッッ!!


「仮にですが……貴方が望みの場所に至る方法がまったく無い——と、そういう運命なのであれば、占いの結果自体が出てきません。しかし、結果はちゃんと出ました。なので、その方法はちゃんと存在するということです」

「マジ!? んじゃそれ教えて! オネガイッ!」

「……ですが、そこに至るまでには、とても困難な道のりが必要なようです。今の時点では、その方法の全容が私にも視えないくらい長く困難な道の先にしか、そこに至る方法は存在しません。……貴方には、その困難な道に——運命に、挑む覚悟がありますか?」

「あるある! ありマス! いやマジで、どんなにタイヘンでもやるから、あーし!」

「……分かりました。ですが私にも、現時点で見えているのはその道のりのの部分のみです。それがどう最終的に貴方の望みの成就じょうじゅに繋がるのか、それも分かりません。それでも、よろしいですか?」

「ゼンゼン、いーっすよ」

「分かりました。それでは占いの結果をお伝えします。——まず、貴方は特別な剣を持っていますね? 今もそのマントの下に身につけている、その剣です」


 ——ッ!


「どうやらその剣が、遥かな道のりの“導きの鍵ガイドキー”となるようです。なので、まずはその剣について詳しくお調べなさい。その方法——向かうべき場所は……大いなる迷宮ダンジョンの上に築かれた都市、『迷宮都市ライラドーラ』、です」


 ——ライラドーラ……?


「そして……そこに居る、“一番腕の良い鑑定士”に、剣を見せて鑑定してもらうのです。それが貴方の、長い道のりの最初の一歩となることでしょう」


 ——剣を、鑑定……。


「そう。——ついでに、自分自身についても鑑定してもらえばいいでしょう。そうすれば、先の神殿では判明しなかった、二つの『???正体不明なジョブ』の正体も判明するでしょう」


 ——ッ!?


「ふふ、驚きましたか? 占い師が視るのは未来だけではありません。過去も視るのです。過去と未来は繋がっていますから。片方だけでなく、両方視ることが占いです」


 ——ふぉぉ……。


「さて、迷宮都市での活動の中では、道行きに迷いが生じる時もあるでしょう。そんな時にしるべとなる“導きの言葉キーワード”を、いくつか授けておきます。

 まずは、『迷った時には、あえて困難な道を選ぶこと』。そうすることで、むしろ迷いは晴れて、良い結果に辿り着くことが出来るでしょう。

 次に、『ヒントは意外と近くにある』。身近なところに、ヒントは隠れています。

 最後に『一方より見ただけでは、本質は分からない』。なんでも見方を変えることで、別の面が見えてくるものです。固定観念や第一印象にとらわれ過ぎないように、ということですね。

 ——さて、迷った時はこれらの言葉を思い出してみて下さいね」


 ——うぉぉ、これはまたなんか占いっぽいやつが来たゾ。


「それで、迷宮都市に向かうべき時期ですが……すぐではありませんね、ええ。——どうやら貴方には、まだこの街でやる事があるようです。この街を出るのは、それが終わってからになるでしょう。この街に居れば、いずれ貴方の元に仕事が舞い込んで来ます。その依頼は、こなして損はありません。誘いには乗ると良いでしょう」


 ——誘いには乗るが吉、ってカンジ? これもなんか占いっぽいね。


「仕事が終わる頃には、貴方の元に良き出会いが訪れているようです。あるいはその出会いによって、貴方の道行きに同行者が増えることになるかもしれません」


 ——同行者……つまり、仲間? が、増える……?


「……さて、とりあえず視える範囲では、こんなところでしょうか。どうでしたか、占いを聞いてみて。信じてみる気になりましたか?」


 そう言って占い師さんは、あーしのコトを見つめてきた。


 占い……ってゆーから、もっとなんかぼんやりした感じの——ええと、そう、抽象的ちゅーしょーてきなカンジのコトを言われるんだと、あーしは最初はそー思ってた。

 んでもジッサイに聞いてみたら、ケッコー具体的なコトを言ってくれるのね。

 まあ、中にはわりと抽象的でよく分からんやつもあったケド。

 

 占いって聞いて、あーしが最初乗り気じゃなかったのは——占いって、大体が聞いてもけっきょく何をすればいーのか分からんよーなボヤーってしたことしか言わんから、あーしけっきょくどーしたらいーか分かんねーし、だったら聞いても意味ねーんだわ——ってゆー思いがあったからなんよね。

 でも、こんだけ具体的に「どこ行ってこーしろ」って言ってくれるんなら、分かりやすいからあーしにも出来る。

 どーせ他に日本に帰る手がかりは何もないワケだし、んなら、とりまこの占いのとーりにやってみればいんじゃね? ってなるんジャネ?

 

 だから……うん、占いについては、とりま信じてやってみるコトにするわ。


「そうスね、んじゃー、そのとーりにやってみよっかな」

「そうですか……! それは良かったです。ええ、ええ、占いの通りに行動されたなら、きっといずれは貴方の望みも成就じょうじゅすることでしょう」

「えーっと、まずは迷宮都市ってところに行って、そこの鑑定士って人に剣を見てもらえばいいんだよね?」

「そうですね。ただ、一口ひとくちに鑑定士と言っても、あの都市にはたくさん居ますから。ちゃんと“一番腕のいい鑑定士”に頼んでくださいね。他のじゃダメですから」

「ハァイ。えーっと、それじゃ、鑑定が終わったら、次はどーすればいーの?」

「そうですね……それは、その時になってからまた占わないと分からないでしょう。なので、その時にまた私の元に来てください」

「りょーかいっす。じゃあ、終わったらまたここに戻って来たらいーのね」

「あ、いえ、私も旅の身の上ですので、ひとところにとどまってはいませんから、その頃にはここには居ないでしょう。ですので……そうですね、私と貴方の運命が再びまじわるその時も、占っておきましょうか」


 そう言って占い師さんは、再び占いをする態勢タイセイになった。


 しばらく水晶玉に手をかざしてウンウンやってから、「……分かりました」と言って、あーしの方を向いた。


「迷宮都市での一件が終わったならば、『サクラディア』という街に向かってください。貴方が到着する頃には、ちょうど私もそこを訪れているようです。なので、次はそこで再会出来るでしょう」

「はぁ、ナルホド……」

「貴方は……私がこれまで見てきた人たちの中でも、とりわけ不思議な運命を背負った方のようです。私としても、貴方の行く末には興味があります。……どうやら、貴方とは長い付き合いになりそうな気がします。夢野さん、今後とも、よろしくお願いしますね」

「あ、ハイ、よろしくっす」

「では……“この出会いに感謝を。そして、貴方のこれからの道行きに、導きのあらんことを”。——また会いましょう、夢野さん。今度はサクラディアの街で。それでは——」

「——あ、ちょっと待って!」

「ん、なんでしょう? まだ何か、占ってほしいことがありましたか?」

「あ、いや、そーじゃないケド。占い師さんの名前聞いてナカッタから」


 鑑定でも出てこなかったし。

 

「……そうですね、占い師は本名を名乗らないのが習わしですので……。では、——“シルバーマム”、とでも呼んでもらうということで……」

「うっす。——そんじゃ、マムさんで。……あ、料金は? ちゃんと払うっすケド」

「……そうですね、それでは今回は、中銀貨一枚五千リブリスでどうでしょう」

「はーい」


 占いの料金も払って、いよいよ占い師の——マムさんともお別れというところで、あーしはもう一個聞きたいことがあったのを思い出した。


「あ、待って、マムさん、最後に一つ、いーすかっ?」

「はい、なんでしょう?」

「やー、神殿の場所って、どっちですっけ?」

「……この街のですか?」

「ハイ」

「……さっき行ったのでは……?」

「……忘れマシタ」

「そ、そうですか……。…………えぇっと、では、私の占いについては、ちゃんと覚えていますか? ——いえ、覚えられそうですか?」

「……ショージキ、自信ナイっす」

「……では、簡単に紙にまとめたものをお渡ししておきましょう」

「すんません……アリガトーゴザイマス。——あ、その紙は、いくらっすか?」

「えっ? あー、いえ、こちらの料金は大丈夫ですよ」

「マジすか? あざまっす」



 つーわけで、あーしはマムさんに占いの結果を書いた紙をもらって、それからさよならバイバイした。

 神殿の場所については、別れ際にフツーに教わった。お陰で無事に着いた。——さすが占い師、道の説明も上手じょーずだった。


 神殿についてからはフランツさん達と合流して、それからも一緒に色々として過ごした。

 その後は夜になるまでそんな感じで過ごして、夜には宿に戻って寝た。


 

 そして翌朝、占い師さんシルバーマムが言っていた仕事ってヤツが、早くも向こうからやって来た。


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