第28話 それが、蓋を開けてみてびっくり、すごい好みの感じだったんですよ——by従業員Mさん



 あーしとモイラは冒険者ギルドから出ると、ボンドルドさんに教わった商会お店に向かう。

 店の場所についてはモイラも知っていたので、あーしはモイラの案内について行った。


 たどり着いたお店は、かなり大きなところだった。見た目も中々に立派で、うん、儲かってそーなフインキあるね。

 

 あーしとモイラは、お店の建物の中に入る


 ボンドさんいわく——このお店は手広くなんでも扱っている大店オオダナだから、欲しいものがなんであれ、大抵は揃うだろう——ということだった。

 いやガチで、金があったら欲しいものなんて今のあーしにはそれこそいくらでも思いつくので、とりま思いつく限りのモノを買っちまおうかな、と思ってる。

 

 なんせこちとら、所有財産なんて今持ってるモノがすべてやぞ。その内の大半は身につけている服とかやぞ。それも、くっそボロくて着心地サイアクの服やぞ。

 ゆーて冒険中も、暇さえあれば着替えてーって考えてたかんな。まー、ゆうて忙しい旅だったから、あまりそんな事を考えるヒマも無かったのは、これは不幸ふこー中のサイワいとでも言えばいいんか? あぁ?

 ——っといけねぇ、せっかくのお買い物なんだから、世の理不尽を嘆くんじゃなくて、この瞬間を楽しむことだけ考えないとね!


 とりまあーしは店員さんをつかまえて、ボンドさんから受け取った紹介状を渡す。

 受け取った店員さんはそれを確認すると、あーしらの事をチラッと見て、「それではただ今、担当の者を呼んできますので、こちらで少々お待ちください」と言って、あーしとモイラを待合室的なところへ通すと、自分はどこぞへと向かっていった。


 ……さて、なんかこんなヤツ前にもやった気がするなぁ。んで、そん時はその後ロクな事にならなかった気もするなぁ。

 まあ、今回はちゃんと信頼できる人に書いてもらったやつだし、なんなら内容についてもモイラとかに確認して貰って問題なかったし、だから大丈夫だと思うケドね。

 とはいえ、やっぱ一番は自分で文字が読めたら、それで解決なんだケド。しっかし今から文字習ってもすぐに覚えられる気とかしないし。

 はぁ……なんかこのイヤリングの時みたいに、それも上手いこと解決しねーかなー。


 そんなカンジのコトを待ち時間にモイラと話していたら、モイラがこんな事を言う。


「確かに、文字が読めないと大変だよねぇ。そうだねぇ……うーん、スキルの中にはその辺をどうにか出来るモノもあったような気もするけど、そのためには、まずはジョブにつかないとだもんねぇ」

「えっ、そんな便利なスキルとかあんの?」

「あ、うん。多分、そんな感じのスキルもあると思う。そうだね……例えば、確か鑑定系のスキルなら、ある程度文字が読めるようになったりとかするって、聞いたことがあったような……」

「マジ? ……んなら次は、ジョブだナ。あ、でもなんかケッコーお金かかるんだったよね?」

「まあね。でも、今のユメノなら普通に払える額だよ。護衛依頼の報酬で貰えた額だけで、十分足りるから」

「なーる。まあ、ゆーてアレも大金だったしね」


 あーしが新たな目標を見つけたところで、待合室にこの店の店員さんの服を着てるおねーさんが入ってきた。

 おねーさんはあーしらの方を向いて、礼儀正しくアイサツしてくる。


「初めまして、私は本日お客様のご案内を務めさせていただきます、案内係のミーシャと申します。ボンドルド様のご紹介ということで、本日は私がお客様に付き添いご案内をさせていただきます。ユメノ様、どうぞよろしくお願いします」

「あ、はいっす」

「——そちらは、お付き添いのモイラ様ですね?」

「は、はいっ」

「モイラ様も、本日はどうぞ、よろしくお願いします」

「あ、はいっ! こ、こちらこそ、よろしくお願いします……!」


 こんなに丁寧な接客は、なんだか日本にいた頃を思い出すナァ。

 向こうじゃこのくらいはそんなに珍しくもなかったケド、コッチだと割と珍しいのかも。

 現にモイラとか、めっちゃキョドってるし。慣れてないっぽいよね。なんか自分も様付きで名前呼ばれたことにスゲー驚いてる。

 

 あーしらの事は紹介状で文字通り軽く紹介されてたっぽいから、名前呼ばれるのは分かるんだけど、にしてもチョット丁寧過ぎる気もすんなー。

 なんか付き添いの人がついてくれるとか、コレがフツーなんか? けっこーなVIPビップ待遇じゃね?

 だとしたら、それってボンドさんのお陰だよね? あの人ってそんだけやり手ってコト?

 まあ、されて困るもんでもねーし、構わんけどね。つーか分からんことはゼンブこの人に聞けっから、むしろかなり助かるよね。


「それでは……ユメノ様、本日は何をお求めですか?」


 さっそく聞かれたので、あーしはとりま重要な順に聞いてくコトにする。


「えーっと、髪の色を変えたいんすケド……なんかそんなんが出来るのがあるって聞いて」

「それでしたら、当店にも染髪薬せんぱつやくならいくらか取り揃えておりますが」

「あ、そうそう、そんなヤツですっす」

「かしこまりました。まずはそちらの売り場の方までご案内致します。どうぞこちらへ」


 とゆーわけで、まずは髪染めるヤツの売り場に案内してもらった。

 店内を移動して、その売り場のところまでやって来た。——ここは何のコーナーなんだろ?


「こちらはおもに魔法薬のたぐいを取り扱っている売り場になります。染髪薬については——こちらです」


 あーしの目の前には、ズラリとよく分からない薬品の入ってる感じのビン的なやつが並んでいた。


「染髪薬には、単純に染めるだけのものと、恒久的に色を変えるものの二つの種類がありますが、どちらをお求めになりますか?」

「えっ、二つ? えっと、何が違うって……?」

「そうですね、恒久的に染められるタイプですと、一度使えば以降は染め直す必要もないので、単純に染めるだけのタイプに比べると手間はありません。もちろん、その分値段は高くなるのですが、何度も染め直すために薬を買い続けることを考えれば、むしろお得と言えるでしょう。——もっとも、それは一つの色でずっと固定の場合に限りますが。色自体を変更していくとなれば、単純な染めるタイプの方がいいでしょうね」

「ん……? えっと、一度使えば染め直さないでいいの? いや、でも、髪が伸びたらまた染めなきゃじゃない……?」

「あ、いえ、その必要はありません。恒久的に色を変えるタイプは、使用者の髪色を根本こんぽんから変えてしまいますので。それはつまり、新たに生えてくる髪の色も変わるということです。なので、一度使えば以降は染め直しの必要はないんです」

「——!!」


 ……マジかよ?!

 ……いやそれ、めっちゃ便利だわー。

 ……あー、ナルホド、って、つまりはそーゆー事なのね。

 いやマジで、文字通りネモトから変えられるってワケか。

 うーん、ま、あーしはそっちのがいーかな。

 とりま黒から別のに変えればいーわけだし、染め直しの手間がなくなるなら、むしろそれ一択だな。


 つーわけであーしは、お高いケド便利な方のヤツを買うことにした。

 いちおーさらに聞いてみたら、元の色に戻したい時は専用の薬使えば戻せるらしいし、他の色に変えるのもまた薬使えば出来るらしーし、それなら問題ねーな。


「うん、んじゃそっちのイッパツで済むやつでちょーだい」

「かしこまりました。——僭越せんえつながら、ユメノ様、髪の色をお変えになるのでしたら、ついでにこちらの商品などもいかかでしょうか? せっかくなので、この機会にこちらもお試しになりませんか?」


 そう言ってミーシャさんは、髪染め薬のすぐ隣にある、こちらは小さいビンを指し示す。


「えっと、こっちのはなんなんすか?」

「こちらは、染眼薬せんがんやくになります」


 ……なんて?


「え、なに……?」

「染髪薬が髪の色を変える薬なら、こちらはになります」

「目の色、を……??」

「こちらについても、一時的に染めるものと、恒久的に変えるものがございます。——いかがでしょう? 髪の色を変えるついでに、瞳の色も変えてしまっては? きっとそれだけ気分も大きく変わると思いますよ」


 ……ふーむ。

 いや、まあ、魔法の薬なら、そんなヤツもあるんやろ。ま、そこはいーわもう。

 そうねぇ……いや、ゆーて黒目ってのもけっこー目立つっぽいのよね。ゆうておらんから黒目。みんな大体違う色の目ぇしてる。

 うーん、ま、せっかくだから、そーゆうコトなら目の色も変えちまうかなー。

 聞いたとーりならカラコンカラーコンタクトよりよっぽどラクだし。変装としても、そっちのがより完璧ってモンっしょ。


「あーハイ、そんなら、こっちのも買いまーす」

「ありがとうございます。こちらの薬も恒久的な効果の方で——」

「うんうん、そっちでよろしく」

「かしこまりました。それでは、色の方はどうなさいますか? まずは、髪の色については……」

「“それはもちろん、高貴なる輝きの色である——金だ”」

「金、ですか……? あ、はい、かしこまりました。——それでは、瞳の方の色は——」

「“あの空のような……あおだね”」

「“金”と“碧”、ですね。承りました。——どうでしょう、これからすぐにお使いいただく事も出来ますが、いかがいたしますか?」

「……あー、うん……じゃ、すぐ使いマァス」


 ここぞという時に出てきやがるな……!

 ……ま、えーわ、それで。どーせ髪染めたらもうオメーを被るコトもねーし、ソレは別れの言葉として受け取っといてやんよ。

 あばよ、おしゃべり兜……イマ、ここで、オメーともお別れダ……


「かしこまりました。それでは化粧室までご案内いたします。——あ、その前に、一つ注意点を申し忘れておりました。こちらの染髪薬を使われますと、髪の色だけでなく体のすべての毛の色が変わることになるのですが、よろしかったですか」


 ——えっ、マジ? 髪だけじゃねーの?

 ……それってつまり、マユも、マツゲも、あと……まあ、うん。

 ……ま、別にいんじゃねーかな。うん、別にえーわ。


 あーしはミーシャさんに連れられて、鏡とか置いてある部屋に移動した。

 個室みたいな部屋にあーし一人で入って、さて、さっそく薬を使いますか。

 ……うーん、でもチョット、使うの勇気いんな、コレ。

 使い方、聞いてみたらさ、って言われたんよね。うーん……ま、そーゆーコトなんすかぁ……。

 剣くんいわく、飲んでも害は無い。……んなら飲みマス。——それっ、りょーほーイッキじゃっ!


 んっ、……ぐぅっ、ング……!


 ……まあ、味に関しては……別にコレ飲料水いんりょーすいじゃねーしナ……。

 ——ん、んん、んんんっ……!!?


 薬を飲んですぐに、体の中からザワザワとした感触が広がっていった。

 全身、特に毛の生えている部分が——つまりは頭部なんかは特に——その感覚が強い。しかもなんか、髪の先とかフツーなら感覚通ってないところまでなんか感覚するし……!

 つーか目にもめっちゃきてる。痛くはないケド……カユい……? とりまムズムズするっ……!


 なんとなく無言でモンゼツすることしばし、ミョーな感覚は唐突とーとつに終了した。

 ……さて、これであーしのカラーチェンジが終わったってコトだよね? さて、鏡はっと——

 いや、そーじゃん、兜外さねーと見えねーわ。……はぁ、ハイハイ————ッッッッッッッッッッッッシャオラッッ!!!!


 兜を外して鏡を見てみれば、そこにあったのは——カラーチェンジ成功ver1.01版のあーし——ってカンジ。

 マジで髪がキレーな金髪になってる。

 うおー、あーしキンパツデビューしちまったノカー! チョット感激。ゆーていつかはしよーと思ってたから、キンパツは。

 

 つーかマジでマユやマツゲも金なってっし——って目! 色! アオなってる!

 オイオイ……これほぼあーしガイジンなってんでしょ。

 でも……まあ、まあ、いいんじゃナイ? んま、これならだいぶ周囲にも馴染むっしょ。

 

 さーて、そいじゃ、これでよーやくクソめんどーなメットなしで外歩けるわ、うーん、マジすっきり。


 あーしは兜を鞄にしまうと、化粧室から外に出た。

 外に出るとすぐに、そこで待ってたモイラとミーシャさんが反応した。


「——あっ、ユメノ! うわぁ、ホントにキレーな金髪になってるねー! 瞳の色も綺麗な碧色だぁ。うん、うん! すごい似合ってるよ!」

「ユメノ様……! とてもお似合いですね! ……どうして兜など被っていたのかと、不思議に思ってしまいます。これほどお美しいお顔をしていらっしゃるのに。それに、その金の髪と碧眼……まさにかの美しき種族、森人エルフのごとし、ですね……! ——あ、いえ、もしかしてユメノ様は、実際に種族はエルフでいらっしゃいますか? もしくは、ハーフの方とか……?」

「え? いや、あーしは別に、そーゆーんじゃないっすよ」

「そ、そうでしたか、失礼致しました……。——確かに、エルフというにはどことなく異国風エキゾチックな雰囲気がございますね。それもとても素敵だと思いますけども。——ごほん……えー、さて。それでは、ユメノ様。お買い物はこちらでお済みでしょうか。他にお探しのものはございませんか? ……僭越ながら申し上げさせていただきますと、ユメノ様はいち早くお召し物も変更なさるべきかと……せっかくの美貌が台無しです、もったいないです」

「あー、いや、そーですね、あーしも次は服かなと思ってマシタ、ハイ」

「——ですよね! はい、それでは装備品の売り場までご案内いたしますね。どうぞこちらへ——!」


 なんかあーしが兜脱いだら、途端にミーシャさんのテンションが数段上がってるよーな気がすんだケド、なんやろ、気のせーか?

 まあ、ゆーて今まで怪しい兜で顔隠したボロ服のビンボー人ってカンジだったし、イッキに態度変わってもむしろトーゼンなのカナ。

 いやむしろ、そんなヤツとかフツーの買い物すら断られてもおかしくないわ。——帰れビンボー人! 的な。

 そうならずに済んだのも、これもボンドさんの紹介のおかげダナ。いやぁ、マジ感謝。


 さて、改めてボンドさんに感謝したとこで……買い物の続きをガンガンしていくゼっ……!


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