間章 新たに得たもの、そして、これからのこと

第27話 契約内容をご確認の上、無理のない範囲での……



 明けて翌日。

 ゆーてあーしが起きたのは、昼前くらいだった。

 あんだけの冒険こなした後で、ちゃんとしたベッドでスヤァとしたら、ま、そーなるよね。


 起きたら一階でご飯食べて、その後はまた部屋に戻ってグダグダとやっていた。

 したら午後になってからボンドルドさんが宿までやって来たので、あーしらは冒険者ギルドに向かった。


 ギルドでレイブンのパーティーと合流したら、さっそく依頼の完了手続きとやらをやる。

 と言っても、それをやってるのはおもにボンドルドさんで、あとはフランツさん。あーしは後ろでぼーっとしていた。

 したら手続きはだいたい終わったみたいで、最後に報酬の受け渡しになった。


 この報酬の受け渡しってのが、ちょっと問題があるかも——という話だったのだけど、けっきょく問題なくサクッと終わった。

 とゆーのも、誰も報酬について文句をゆーことがなかったから。

 本来なら、イロイロと揉めて時間がかかることもよくあるらしい。

 さらに今回の依頼は急ぎってことで、色々と条件がテキトーになってる部分もあったらしいので、その分余計よけーにその可能性があった。

 だけどジッサイは誰も文句を言ったりせずに、最初に決められていた額をボンドさんから受け取った。


 その額、しめて二百万リブリス。んであーしだけは倍の四百万リブリス。

 なんでも、事前の取り決めでは最低報酬が二百万で、働きによりそれにプラスされる、というものだったらしい(あーしは今知った)。

 つまり厳密な額が決まっていないわけで、そーなるとフツーは少しでも報酬を増やそうと交渉(という名の言い争い)を展開するのが冒険者のツネ——という話だった。

 

 しかし今回は、むしろ報酬を受け取る側が辞退しようとしてさえいた。

 フランツさんとか、レイブンとか、——自分はまるで役に立てなかったから、本来なら報酬をもらう資格は無いです——とかなんとか。

 けっきょく、ボンドさんに色々とさとされて、みんな受け取ることになったけど。額は最低の二百万でいいです——と、みんなして言っていた。

 

 じゃーそれで、なんであーしだけ倍貰ってんかとゆーと、あーしが「そんならあーしも二百万でいいよ」って言ったら、ボンドさんやみんなが——いやいやお前はもっと貰うべきだろ。てか貰え——と言ってきて、それで倍の四百万もらうことになった。

 なんか自分だけそんな貰うのはどーなんだと思わなくもなかったケド……ま、くれるってゆーなら貰うわ。

 つーわけであーしは、昨日の一文無しから一転、一気に四百万リブリスもの大金を手に入れたのだった。

 ——ちな昨日ボンドさんに借りたカネやらについても、ちゃんと返そうとしたんだケド、それくらいいいからって断られマシタ。


 んで、依頼の手続きが終わったところで、次は素材を売り払うってんで、あーしらは売る用のカウンターに向かった。

 とりまあーしが昨日倒したモンスターの素材は、ギルドで全部売ってしまうことになった。

 他所に売るのもメンドーだし、ギルドに売ればそれは冒険者の成果として換算されることにもなるから、とゆーことで。

 カウンターに行ったけど、量が量だからってことで、裏に回ってそこで引き渡すことになった。


 なにやらバックスペース的なところにあーしらは移動する。

 そして、そこにボンドさんが“箱”を取り出して、さらにはその箱から次々と素材を出していった。

 ボンドさんの箱から大量に出てくる素材の山を見ては、その量にギルドの職員の人も驚いていた。

 取り出すだけでも結構な時間かかったし、ケッコーなスペースがそれだけで埋まっちゃったし。改めて見てみれば、中々の量だわコレは。

 

 ギルドの人も、最初は出されるものを順次確認していってたけど、その手が追いつかないほどドンドン出てきて素材の山が積み上がっていくのを見ている内に、その動きはいつの間にか止まってしまっていた。

 最終的には——量が量だし、なんか珍しいものも色々あるから、査定にも相応の時間がかかるので、金額などについてはまた後日——ということになった。


 なのであーしらは、その場からギルドの建物の中に戻った。

 んで、とりあえずもう今のうちに、素材の売却額をどう分配するかを話し合うことになった。


 だけど、その話し合いに取り組もうとしているのはボンドさんくらいで、他のみんなは——自分の取り分は無いだろうな——って感じのフインキだった。うーん、なんか昨日のモイラもそんな感じのことを言ってたケド……

 でもあーしとしては、やっぱみんなの分もあると思ってるので——みんなの分もあるよね? って言った。

 したら、みんなは驚いた反応をして、——いや、でもなぁ……、って感じにあーしに説明してきた。


 なんでも、みんなが言うには、冒険中に倒したモンスターの素材の権利については、事前に取り決めがない場合は、慣例として「倒した人が権利を得る」ってのがフツーらしい。

 それでいくと今回のやつは、

 

 ・事前の取り決め——無し。

 ・倒した人——あーし。

 

 ということで、あーしのほぼ総取りだとしても、誰も文句は言えナイ、と。

 唯一、運ぶのに力を貸したボンドさんについては、いくらかの取り分を要求する権利があるだろう、という話だった。……うーん。


 ……確かに、一日目の時点で、素材を回収するくらいの強さのモンスター達とメインで戦ってたのはあーしだったケド。でも、そん時にはフランツさんのパーティーのみんなが色々サポートしてくれてたし。特にランドさんは、役割的にもめっちゃ頑張ってたワケだし。

 二日目以降の、奥部の連中については、確かにほぼあーしがメインだったケド。でも、ここではモイラのサポートがめっちゃ助かったし。

 てかローグについては、全体通して活躍してたし。あとフランツさんも、やっぱり指示くれるのは助かるし。あーしは冒険者なったばっかだから、ゆーて分からんことだらけやから。


 んでボンドさんについては、フツーに取り分あるよね。そりゃ、あんな大量の荷物なんてボンドさんいなかったら運べてないワケだし。そー考えたら、むしろ、ボンドさんに関してはあーしとイーブンやろもう。半分こが妥当ダワ。

 レイブン達についても……まあ、いちおーイロイロとやってくれてたし。特にレイブンは、一人でおとりになって頑張ってたしね。

 あん時出てきたデカい木とかは……あーしが丸ごと吹き飛ばしたから素材は回収出来なかったケド……。まあ、ならその分はあーしが補填してやるべきカモなー。

 

 そんなあーしの意見も表明して、それからみんなとも話し合った結果——最終的には三等分することになった。

 あーしが一つ、ボンドさんが一つ、そして残り一つを残りのみんなで分ける。

 と、なんかそんな感じになった。

 

 みんなが三分の一をどう七人で分けるのかについては、そこは七人で後からまた話し合うことになった。

 という感じでみんな納得してたみたいなので、それならあーしも別にそれでいーっすケド。


 とりまあーしの取り分についての話はすでに終わったよーなので、そこは助かった。

 この頃にはあーし、すでに事務的な処理ってのに疲れてきてたし、それに……早く終わらせてやりたい事が、今のあーしにはあったから。

 やー、依頼の報酬の四百万についてはすでにあるわけよ、あーし。そんだけの大金あれば、もう次にやることはひとつっしょ。——そう、買い物ダ。

 よーし、このあとにやるこたぁ、決まったナ。


 あーしがそんなことを考えている間に、みんなの話し合いも一段落したよーだった。

 さて、これで今回の依頼の後処理はよーやくゼンブ終わったカンジかな……?

 やれやれ……冒険が終わった後にもまだ仕事が残ってた、ってカンジだね。


 あーしはよーやくメンドーな事後処理が終わったってことで、ギルドのテーブルの上にぐでっと倒れかかった。

 周囲のみんなも、一段落の空気に少しリラックスしたフインキになっている。

 そんな中で、フランツさんが口を開く。


「よし、それじゃ……残りは“例の件”の報告だけですね」

「ヴェッ——!?」


 忘れてた……! なんか報告せなあかんてゆーとったわ……。


「ユメノ、どうした……?」

「……いや、もーゼンブ終わったモンだと思ってたから……」

「……そうだな、ま、ユメノはこれで終わりでもいいかもだな。アレの報告については、オレやボンドさんの方でやっておけばいいから。ユメノはここで解散でもいいぞ。——ま、参加したいなら構わないけどな」

「しなくていーなら、せんせん。そんじゃ、任せていーい?」

「ああ。報酬もあれだけ分けて貰ったんだから、これくらいは任せてくれ」

「“ふっ、それは分けた甲斐があったな”」


 つーかジッサイ、依頼においてもフランツさんには色々とサポートしてもらってたし、むしろ戦闘面以外のサポートもかなり助かってっから。やっぱその分の報酬ギャラは払わなやろ。


 すると今度はボンドルドさんが、あーしの方を向くと、何やら改まった様子で語りだした。


「そうだね、その辺りは僕らにやらせてくれ。——ユメノ君のお陰で、僕も今回は随分と儲けさせてもらうことになった。もっとも、それ以前に、そもそも今回の依頼を無事に達成出来たのは君のお陰だ。その点だけでも、感謝してもしきれない。正直言って、あれっぽっちの報酬ではその働きに全然釣り合いが取れていないよ。……商人として、受けた恩は決して無碍むげにはしない。それが僕の信条だ。——だからユメノくん、この恩に報いるためにも、君とは是非ともこれからも長い付き合いをしていきたいと思ってる。僕にできることなら、なんでも協力するつもりだから、なにかあったら気軽にたよって欲しい。力になるよ。僕はこう見えても、商人として長いことやってきてるから、それなりに顔も広いしね。商売以外のことでも、意外と力になれるかもしれないよ」

「はぁ、ナルホド……。あ、それなら、ちょっとオネガイがあるんですケド」

「なんだい? なんでも言ってくれ」

「いやー、せっかくお金も入ったから、あーし色々と買いたいと思ってたんすケド、なんでー、なんかー店あったら教えてほしーなーって」

「おお、そういうことなら、僕も付き合いのある知り合いの商会を紹介するよ」

「お、マジすか。アザマス」


 やった、オススメの商会を紹介してもらえるって。……いやシャレじゃねーよ?

 というわけで、ボンドさんからこの街にあるいーカンジの店を教わったあーしだった。


「紹介状も書いておこうか。これを渡して僕の名前を出したら、きっとよろしく取り計らってくれると思う」

「“うむ、ありがたく頂戴ちょうだいしておこう”」

「——そうだ、せっかくだから、払いは僕にツケておくように言っておくよ。そうすれば、手持ちを気にせずに存分に買えるだろう」


 ボンドさんはさらに、なんか気を回してくれたみたいだった。


「せっかくアレだけの素材を売って大金が入るというのに、すぐに使えないというのもこくな話だからね。ツケで買った分は、後から素材の報酬で払ってくれればいいから、遠慮せずに買い物を楽しんでくれ」


 ナルホド。つまりはボンドさんが立て替えてくれるカンジで、まだ貰ってない素材の報酬分も買い物できるってワケね。

 確かに、それは便利だね。せっかくなら一気にイロイロ買いたいし、助かるネ。


「それじゃ、一応、ツケ払いの約束については“商売契約トレードコントラクト”のスキルを使わせてもらってもいいかい? ——もちろん、これを使うのは、君を信用していないからという訳ではないからね。これは商売人としてのならいでもあるし、こちらがちゃんと約束を守るという意思表明としても、やっておく意味があるから」


 えーっと、まずナニをやるって?


 とりまあーしは、ボンドさんにそのナントカについて説明してもらった。

 どうやらこれも『商人マーチャント』のジョブのスキルの一つのよーで、商売ごとに関する約束に関して、“契約”としてちゃんとした力を持たせることが出来る、というスキルなんだって。

 まあ要は、口約束で後から——言った、いや言ってない——みたいにならないように、スキルってこと、みたいな。

 なーる。ま、あーしは約束破るつもりはナイし、ゼンゼン構わんスよ。


 ボンドさんが、さっき言ったことを紙面に書き記していく。


『“商売契約トレードコントラクト”』


 そして、その紙に向けてスキルを使用したよーだ。


「さて、それじゃ後は、当事者同士が同意すれば契約は成立だ。しっかり読んだら同意をしてくれ」


 と言って、紙を渡されたワケなんだけど……あーしって文字読めないんすよ。

 けっきょく、あーしが文字を読めなかったので、周囲の面々が代わりに読んでくれた。

 みんなで確認してみんな問題ナイって言ってたから、ま、ダイジョーブってことね。

 まあゆーてボンドさんは信用できる人だし、剣くんだってなんの反応もしないから、そーゆう意味でもダイジョーブだけどね。

 

 つーわけで、あーしは契約に同意のサインをした。

 すると確かに、あーしに対して作用したよーな感覚がした。コレが“契約”を結んだってことなんかね。

 さーて、とりまコレで、あーしは持ち金以上にイロイロ買えるってコトだね。


 契約も終わったところで、これでようやくお開きってコトになる。

 いや、まあ、フランツさん達にはまだ報告が残ってるケドね。

 そのフランツさんは、あーしの方を見て少し難しい顔をしていた。


「しかし、ユメノは文字が読めなかったのか。うーん、なんかこのままユメノを一人で行かせるのは不安な気が……」


 なんかフランツさんが、あーしの保護者みたいなことを言い出した。

 そんな……オカンみたいに心配してくれなくても、あーしも高校生よ? 一人で買い物くらい出来るって。

 まあ確かに、文字が読めないのはチョット不便だと思うケド。……つーかまず、あーしってイヤリング外したら言葉すらつーじないんよな。そういやそうだった。もうフツーにつーじるのがアタリマエになってたから、半分忘れかけてたケド。


 すると、そんなフランツさんの言葉に反応した人がいた——モイラだ。


「あ、あの、リーダー、そういうことなら、私がユメノと一緒に行ってあげてもいいですか……?」

「モイラが一緒に、か。うん、それなら安心かな。——まあ、買い物するんだから、女の子二人の方がいいよな。……ユメノの強さなら、女子二人だけでも別に問題はないか。ま、モイラも冒険者だし、その点はあんまり心配ないかもだが」

「コイツを一人で行かせるよりは、絶対そっちの方がいいと思うぜ」

「だな。それじゃモイラ、ユメノと一緒に行ってやれ。報告については、オレ達の方でやっておくから」

「分かりました。ありがとうございます。——それじゃ、ユメノ、行こっか!」


 なんかモイラもついてきてくれることになった。

 まあ、あーしも一人は少し心細い気持ちもないわけではなかったし、嬉しいケド。

 

 ……でも、なんかやたら一人だと心配されるのは、チョット気になるケド!


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