第23話 刻んでやる……この名を、誰もが忘れられぬように……!



 ——ああ、死ぬのか、俺……


 そう実感すると、まるで噂に聞く“死に際に見る幻想走馬灯”のように、これまでの人生の記憶〜冒険者レイブンの半生〜が脳裏に過ぎていく。


 冒険者に憧れた。自由で、夢と浪漫ロマンに満ちた生き方。

 平凡な村に生まれ、安定した暮らしよりも刺激を求めた結果、年頃になると冒険者になるために街に出た。

 

 コツコツと依頼をこなし、仲間も見つかり、パーティーを組んで、ランクも上がった。

 とりあえずはいっぱしと言われる修練者ノービスランクに上がり、貯めた金で職能ジョブも手に入れ、さてコレからが本番——と思ったが、そこで壁にぶつかった。


 冒険者として成り上がるためには、ジョブの力は必須だ。

 当然、仲間の二人にもジョブを持たせるつもりが、それが上手くいかなかった。

 理由は単純、仲間の二人——クロイとウィングが獣人ビーストだからだ。

 俺が『職能授与の儀ブレスギフティング』を受けた時より明らかに高額な料金お布施。噂では聞いていたが、神殿が源人オリジン以外にはジョブをやりたがらないというのは本当だった。


 上に行くためにはジョブは必須。もちろん、駆け出しルーキーの頃から一緒にやって来たコイツらと、いまさら別れるつもりもない。

 しかし、俺一人分の金を捻出するのも大変だったのに、さらに高額な料金を二人分などそうそう貯まるものではない。

 だが、俺一人だけジョブを持つという不平等な状況は、パーティー内にも不和をむ。

 なんとか早急にまとまった金を作りたい——そんな時に、今回の依頼を見つけた。


 破格の報酬の護衛依頼。本来なら護衛依頼自体、ノービスランクが受けられるものではないが、の依頼ゆえにランクは不問だった。——いや、そもそもランク指定する時間すら惜しんだか。

 至急の依頼、それゆえの“魔の森”を抜けるなんていうふざけたルート設定。

 

 一体どんな事情があるのか知らないが、魔の森を通る——ましてや奥部近くを突っ切ろうなんて、正気の沙汰じゃない。

 だが、そんな事情はどうでもよかった。俺が気にするのは、報酬が高くて、俺でも受けられるランク不問というところだけ。


 もちろん、魔の森の危険性については俺も把握している。そこまで詳しく知っているわけでもないけど、それなりにランクの高い冒険者でも避けるヤベーところだってくらいは。

 だが、だからこそ俺にもチャンスがあるんだ。誰も行きたがらないから、ノービスでも参加出来るんだ。


 正直、今思えば、俺は焦っていたんだろう。

 普段ならもっと慎重にやっている。死んだら元も子もないなんてのは分かってる。

 だが、冒険者稼業は死がつきもので、リスクを取らないとリターンは得られないというのもまた事実。

 

 そもそも、高いリスクに見合うほどの高いリターンが得られるような状況自体がまれなんだ。

 普通は突如として思わぬリスクに見舞われて、なんとか切り抜けてもそれに見合うリターンなど得られず、命があっただけ儲けもの。でなければ普通に危機にのまれて呆気なく死ぬ。それが冒険者って生き方だ。

 俺だっていつそうなるかは分からない。だったら、生き残れば確実に大金ハイリターンを得られるワケあり依頼ハイリスクに賭けたっていいじゃねーか。


 仲間の二人は最初反対した。それでも最終的には乗った。俺が押し切った部分もあったが、二人だって現状には満足していないんだ。

 ただ、それでも今回の依頼は俺が巻き込んだ話だ。

 俺は……パーティーリーダーとして、責任者として、ケジメをつけなくちゃならねぇ。

 ——だから、今こうなっているのも俺の責任だ。


 あっちのパーティーのリーダーの——フランツとか言ったか、あの『剣士ソードマン』、……まあ、アイツを恨むことはない。

 確かにアイツの指示で俺は囮になった。だが、ヤツの判断が自分でも正しいと思ったら俺は従ったんだ。

 

 ——二体のモンスター、どちらも大型。

 ——一つのパーティーで、一つずつ足止めする。

 ——一方は足が遅そうな巨人系の魔物モンスター、もう一方はデカい虫で、動きはそこそこ。しかも進行方向はこちら。

 ——全員で生き残るもっとも可能性の高い方法は、『波刃の剣心フランベルジュ』で虫を足止めし、巨人を『†血塗れの黒翼†ブラッディブラック』が囮となり引き離す。

 ——囮なら直接戦わなくてもいいし、相手は足が遅いようだから、なんとかなるかもしれない。


 そうして俺は一人、巨人を引き離す囮となった。

 ——囮なら一人いればいいし、馬車の守りが無しってのはな。

 そう言って二人は残した。まあ言った事は事実だし、この役目をするとしたら俺だ。

 ジョブ持ちで一番生き残る可能性が高く、なにより……依頼を受けると決めたリーダーである俺が。


 実際、でくわしたのは足の遅い巨人のモンスターで間違いなかった。

 “妖巨人トロール”——動きは鈍いが巨体から繰り出される怪力は驚異的、そして再生能力を持ち、とにかく体力が高い。

 しかし、戦わずに注意を引いて誘導するだけなら、俺にだって出来なくはない。


 事実、途中までは上手くいってた。

 ヤツは遠距離攻撃などは持っておらず、ひたすら近接攻撃を繰り出すだけだった。

 俺はそれが届かない距離で、付かず離れず、ヤツの注意を引き誘導する。

 そうは言ってもその攻撃の威力は凄まじく、食らえば俺など一撃とて耐えられはしないだろう。

 それでも俺は、攻撃を食らうことなくなんとか逃げ続けていた……そう、コイツトロールの攻撃からは。


 巨体の破壊者から逃げ続けた俺は、最終的に捕まってしまった。別のモンスターに。

 “妖動木トレント”——コイツらは木に擬態したモンスターで、待ち伏せが得意だが自分でも動ける。

 必死こいて逃げていた俺は、コイツらの棲家すみかに気づかずに踏み込んで、あっさりと捕らえられた。


 それでも俺は、その時点ではまだ完全には諦めていなかった。

 ほぼほぼ諦めていたのは確かだが、最後の希望——トロールとトレントの争う隙に運良く脱出する、という望みがまだあったから。——ほとんど達成の望みなどない運頼みでしかないが、それでもひと匙の希望というやつが……


 しかしすぐに、そのはかない希望もあえなくついえた。

 なぜなら——トロールとトレントはまるで争うことなく、どころかお互いを認め合っているような素振りで、どうも両者は元から協力関係を築いている間柄だった——というオチだったから。


 その様子を見ていたら、——まさか、という考えが脳裏にひらめいた。

 ——まさかトロールは、最初から俺をここに追い込むつもりで誘導していたのか……? なんて。

 自分が誘導しているつもりが、そのじつ、相手に誘導されていた——

 愚鈍の代名詞のようなトロールに、そんな知恵があるハズが……なんてのは、俺のあなどりだったと言うのか。

 足の遅いトロールだからこそ、獲物を擬態する魔物という罠木にそっくりなトレントに誘い込むのは、確かに合理的だ。

 

 あるいは偶々たまたま、すべては偶然なのか?

 トロールの知恵というより、何らかの偶然でそんな協力関係が生まれていたのか?

 もしくは、トロールにはそんな生態が実際にあって、俺がそれを知らないだけなのか?

 だとすれば、それこそは俺の知識不足であり、実力不足の証明でしかないが。


 ……まあ、俺がその答えを知る事はもう出来ないようだが。


 意識が現実に引き戻された——。

 現状の俺は、トレントのツタとも枝とも取れる何かに絡め取られて身動きが取れない。

 そして目の前にはトロール。今まさに俺に向けてその手を伸ばして来ている。


 自分の最後の瞬間なんて想像もしていなかったが、まさかこんな終わり方だったとは。

 俺は——せめても苦痛から素早く解放されるような最後おわりとなってくれ……と願い、目を閉じ——


 ——閃光。


 閉じる寸前の視界に何かがひらめいたと思って、目を開けたならば、そこには——

 腕を切り落とされたトロールが、その切り口より大量の血を噴出させながら、痛みにうめいて仰反のけぞる姿が映っていた。


 そこからさらに視線を動かせば——

 こちらに向けて全力で走って来ている、一人の人物の姿が。


 ——ッ! あのルーキー、まさか、助けに来てくれたのか……?!

 

 ——え、じゃあコイツ、あのクソはえぇ二匹の魔獣すら倒したってのか……!


 傍目から見ても、あの二匹は完全に手に負えない系のモンスターだった。まさに奥部のモンスターと言って相応しい存在。あんなモンスターを倒せる冒険者など居るのか? 居るとしたら、一体どれだけのランクのやつだってんだ……?

 だがここにルーキーがいるという事は、つまりはそういうことだろう。


 ——じゃあ俺、助かった、のか……?


 だってあの二匹に比べたら、トレントはおろかトロールだって大したことないハズだ。

 さすがにモンスタートレントに人質を取るなんて知恵はねーだろうし、いや、そもそも——


 気づけば目の前までやって来ていたルーキーは、一切の躊躇ちゅうちょなく、俺に向けてそのやたら装飾華美な剣を振る。

 すると俺を捕らえていた縛りは解ける。——しかし、俺の服にはカスリ傷すら付いてない。

 自由になり、しかし足腰立たずに地面に膝をついた俺の後ろで、「ギチギチギチッ!」と聞こえたこれは……トレントの断末魔か? 何やら太い木をぶった斬るような音もしたし、多分そうだろう。

 

 反応が追いつかないほどスピーディーに俺を救出したルーキーは、今は俺の前に立って、依頼中にも一度も脱いでない兜の向こうから視線を投げかけている。


「や、なんとか間に合ったみたいだね。良かった〜。イレ——レイブン、怪我は……あるっぽいけど、ダイジョーブ? 立てる?」


 ……コイツいまだに俺の名前うろ覚えじゃねーか。そんなに覚えづらいか……? それともコイツがアホなのか?

 ……なんてな、命の恩人に対してそんな事を言うほど、俺は恩知らずじゃねえ。


「……俺のことより、トロールはまだ死んでねーぜ?」

「……あ、このデケーのトロールってゆーの? へー。——ってなんかコイツ腕治ってね……?」

「……トロールは再生能力がある。腕の一本ぐらいは余裕で生えてくる……らしいぜ。俺も実物見るのは初めてだが」

「うわっ、キモッ——いし、めんどーだな、ソレ。……ま、剣くんならなんとかなるっしょ。——そんじゃ、い……レイブン、動けるならちょっと下がっててほしーんだケドも、いけそう?」

「ああ、努力する……」

「“ヤツの返り血を浴びたくないのなら、離れておくことだ。きっと真っ赤になってしまうからな”」

「……そうかい」

「……ま、そーゆうことで」


 そう言うとルーキー——いや、ユメノはトロールに向かっていく。

 腕を斬り落とされた衝撃に後退していたトロールも、その腕も完全に治りかけては、すでに立ち直っているようだった。

 

 自分よりも何倍もデカい巨人と相対しても、ユメノはまるで怯む事なく、自然な動作で距離を詰めていく。

 トロールがその巨腕を振りかぶり、ユメノに向けて振り下ろす。

 その腕が地面を叩きつけて、大音量と凄まじい振動を起こしたと思ったら——ユメノの姿はそこにはなく、なんかトロールの首から上が斬り飛ばされていた。

 ……いや、何が起きたんだよ。ユメノは……後ろに回ったのか?


 首から上を失ったトロールは、頭部のあった場所より血の噴水を上げながら、膝から崩れ落ちる。

 しかし、そうして沈黙していたのも束の間、トロールは膝立ちの状態からさらに腕を振り回して暴れ出した——って、マジかよっ、コイツ首飛ばされても死なねーのかっ!?


 するとトロールの背後より、ヤツより長大な光の刃が現れて——


『“波動刃撃ブラスターエッジ”』

『“多段同撃デュアルスラッシュ”』


 直後に振り下ろされた光の刃は、トロールをやすやすと斬り裂くとさらに分裂していき——

 トロールの巨体をバラバラに分解すると、血と臓物を辺りに撒き散らしたのだった。

 ——ってマジでこっちにめっちゃ降ってくるっ!?


 結局、体がいまだに動かない俺は、甘んじてその真っ赤な雨を目を閉じて引っかぶる。

 ……だが考えようによっては、これで動けるようになるかもな。


『“血盛回復ブラッドヒーリング”』


 俺は、自身のジョブ——『鮮血戦士ブラッドウォーリアー』のスキルの一つである、血を消費して傷を癒すスキルを発動する。


 ——……なんだ? これは、再生能力持ちのトロールの血を使ったからなのか? やけに回復が早いし効果も高いぞ。


 へぇ……そんな効果もあったのか。モンスターの返り血でも使えるのは知ってたけど、相手の特性によっても効果が変わるとはね。

 まあ、今は都合がいい。

 どうもトレントは麻痺系の技を使ってきていたみたいだが……それもだいぶ治ったな。


 ようやく動くようになった体を立ち上がらせて、トロールを——いや、トロールを見る。

 今やそこには、バラバラになった肉の塊があるのみだった。

 さすがのトロールも、一瞬でここまでバラバラにされちゃあ、再生もクソもないか。……つーか、流石にここまでしなくても倒せると思うけどな。

 

 まったく、ユメノのヤツ……マジで何者なんだよ。

 まあ、コイツが後で助けに来てくれるんじゃねーかと思ったからこそ、俺も囮になる決意を固められたところはあるんだが……。

 ……ん、だがコイツが来るまではその事を完全に忘れていた……? なに? こんなに目立つヤツなのに? しかも助かる望みとなりうる存在を、普通忘れたりするか?

 いや……それだけ俺も追い詰められていたのか。まあ、トロールと追いかけっこするなんて経験すりゃ、それもそうか。


 当のユメノは、あの“血の雨ブラッディレイン”の後だと言うのに、まるで血が付いた様子もなく無事であった。

 いや、マントは結構ボロボロになってる……違うか、これは元からだったか。そうか、あのクソ速え魔獣の仕業かな。

 

 ユメノは俺のそばに来ると、申し訳なさそうにこう言った。


「や、ゴメン、マジで血祭りになっちまうとは……あー、めっちゃかかっちゃってんね。まー、その、後でモイラにキレーにしてもらお?」

「ふっ、気にするな。血まみれになるのもたまには悪くない……今はちょうどそんな気分だった」

「“……そうか、なら……よかったな?”」

「ああ……何にせよ、お前が来てくれて助かったぜ。礼を言わせてくれ。……ありがとな、ユメノ」

「……あー、おれーをゆーのはちょっと早かったカモね……」

「——ん?」


 よく分からない反応を見せたユメノに注目すれば、何やら彼女はあらぬ方向に意識を向けていた。

 釣られてそちらを見ると——


 バキバキバキバキッ——!!!


 周囲の木を押し退けるように出てきたのは、自力で動く大木だった。


「これはっ——『妖大樹エント』っ!? トレントの親玉っ……!?」

「——! ヤバッ、下がってッ!」


 そのユメノの言葉に反応するより早く、エントの攻撃——しなる枝による鞭のような一撃が目前に迫り——


 ——バキッ!!


 ユメノが剣の一振りで打ち落とした。

 しかし、エントは枝を斬り落とされてもまるで痛みを感じた素振りも見せず、どころかいくつもの枝を使ってさらに激しく攻撃をしてくる。


 バキキキキキキキャッ!!!


 しかしユメノもそれをことごとく打ち払っていく。

 目にも止まらぬ速さ——実際に俺にはもうその枝の動きはまるでとらえられない——の枝撃えだげき、しかしそれを完全に防いでいるユメノ。

 余裕で迎撃しているように見えたが、そのユメノから焦ったような声が出る。


「くっ——、ちょっ、イーブン、ボーッとしてないで後ろ行って! はよ!」


 言われてハッと——確かに一連の動きに見惚れるように——ほうけていた自分に気がついて、急いで後ろに下がる。

 するとユメノも俺の後を追うように後退する。——チッ、俺が邪魔になってたっ、余裕に見えてギリギリだったのかっ……!?

 そう思ったが、ユメノは後退によって出来た一拍の猶予を使って——


『“多段同撃デュアルスラッシュ”』


 複数連撃の“剣技ソードアーツ”を放つと、一気にすべての枝を吹き飛ばす。

 それに連続して——


『“飛翔剣撃エアスラッシュ”』


 遠当ての攻撃を放つと、飛翔する斬撃がエントの幹に大きな傷跡を作った。


 ギギッギギギギギィィッッッ!!!


 これにはさすがのエントも、悲鳴のような音を出して反応を見せる。

 しかしそれでも致命傷には至らないようだ。むしろ、深傷ふかでを受けたエントは大きくのたうつと——いや、これはっ!?


 ぶおん、とエントの巨体が宙に跳び上がった。


 ——嘘だろっ!? お前そのデカさでそんな跳べんの?!


 そしてエントは、トロールの死体の成れの果ての上に着地する。

 すると死体に向けて勢いよく根が広がっていき——


 ——吸収している……?? いや、それどころか……


 吸い上げられて干からびていくトロールの死体に連動するように、エントの幹に出来た傷が塞がっていった。


 ——嘘だろっ……?! 吸収して再生出来るのかっ? いや、これは再生能力持ちトロールから吸収しているからか……? いや、どっちにしろ……


 みるみるエントの傷が修復されていく。

 ただでさえ痛みもロクに感じないような厄介な敵なのに、再生能力まで手に入れたんじゃ、これはいよいよ手に負えないだろ……っ!

 こりゃあさすがのユメノと言えども苦戦しそうだぞ……じゃあ、逃げるべきか?

 一応、俺も動けるようにはなったが、しかし相手は木のくせにあんな跳躍もかましてくる相手だ。万全ではない状態で逃げ切れるか……?

 そもそも俺はコイツの攻撃手段もよく知らない。かろうじて、トレントの上位種としてエントってモンスターもいるって聞きかじったくらいだ。

 もしもコイツが遠距離攻撃なんて持ってたら——


 嫌な予感は当たるとでもいうのか、そんな考えは的中した。

 いまだトロールの上に陣取っているエントは、その場から動かずに離れた位置にいるこちらに攻撃を飛ばしてきた。


 ——これはっ…………葉っぱを飛ばしてんのか? ……いや、しかし……コイツもコイツでマジでヤベェな……


 高速かつ連続で飛んでくるエントの遠距離攻撃。

 恐らくは葉っぱのようなものを飛ばしているその攻撃は、葉っぱとあなどることなどできない威力を秘めている……ハズだ。

 実際にそれを食らっているヤツは、ボロボロに吹っ飛んでいっているからな、


『“流転柔撃ウェイブストリーム”』


 ユメノは飛んでくるエントの葉っぱをことごとく弾き返していた。エントに向けて。

 結果、撃てば撃つだけ、エントは自分の攻撃で傷ついていくこととなっていた。

 

 ……恐らくは“剣技”で、敵の攻撃をそのまま撃ち返しているのだろう、うん……。

 簡単そうにやってるけど、それ絶対そんな簡単な技じゃないと思うんだが。

 単純に弾くだけじゃなくて、正確に相手に撃ち返してるんだから。そりゃ、そんな事できたら、防御と攻撃が同時にできるからスゲー便利だろうけどよ……。


 らちがあかないと思ったのか、エントは葉っぱ攻撃を中断した。

 幹はすでにボロボロになっていたが、ソレもしばらくすると、これまた徐々に再生していく。

 やはり、生半可な攻撃では倒せないか。

 

 それでもユメノの攻撃力なら——トロールをバラバラにしたアレくらいの攻撃をすれば、このエントも流石に沈むだろう。

 しかし、エントはトロールと違い、枝による近・中距離に広く作用する攻撃と、さっきの葉っぱの遠距離攻撃まで持ってる。

 愚鈍なトロールとは違い、下手に近寄ることは出来ない……。ユメノは、どうするつもりだ……?

 

 ユメノの方を見ると、またもや巨大な光の刃を形成していた。

 そして——


『“波動刃衝撃エクステンスブレイズ”』


 ————ッッッッッッッッッッッッ!!!!


 放たれた衝撃により、大気は震え、地は捲れ上がり、轟音が響き渡って——

 それらが過ぎた後には、何も……何も残っていなかった。

 ユメノから一直線に、木々も、地面も、何もかもが吹き飛んでいた。

 ……当然、軌道上にいたエントも。——あと、ヤツの下にあった、トロールの残骸も。


 …………いや力技かよ……!


 ……つーかこの技、あのフランツって『剣士』も使ってたヤツだよな。……威力違い過ぎるだろ。もはや別物じゃねーか。


 いやマジでコイツ……ユメノ……何モノ……?


 俺はもはやどんな顔をして良いのかも分からず、恐らくは奇妙な表情をしているだろうまま、ユメノの方を向く。

 するとユメノもこちらを向いて、


「さっすが、フランツさん直伝の合体ワザ、つえぇ〜。——ね、レイ、ィブン。い、今の見た? マジヤバくね? つーか森ん中に道できてっし、ヤバ、マジウケる。ほんと剣くんハンパねーわ〜。——いやー、てかさ、イマサラだケド……なんで木が動いてんだよ、オカシーだろ」


 いやおかしいのはお前だ……!


 ……てか合ってるから、レイブンだから。

 間違えてないのに間違えたと思って言い直そうとしてしまったのをギリギリで持ち堪えたのをそのまま勢いで誤魔化そうとするな……!


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