第22話 ユーアーデッドすることナッシングれ



 あーしによって二つに分かれた大サソリは、しかしまだウゾウゾと動いていた。


「——しっかり……しっかりしろっ、ランドッ——!」


 あーしは真っ二つになってなお、びみょーにウゴメいているサソリをいまだに警戒していたケド、フランツさんのその声を受けて警戒を切り上げると、自分もランドさんのそばへ向かった。


「と、とりあえず、これを抜くぞ……っ!」


 ランドさんに刺さったままのサソリの尾は、未だにウネウネとのたうっていた。——キモッ!

 フランツさんはその動きを押さえつけながら、ランドさんより尾を引き抜くと、そのキモいブツを放り捨てる。


「ぐっ、ど、毒か……っ!」


 尾の針に貫かれたランドさんの傷口は、針による負傷というだけでなく、何やらシュワシュワと煙を上げて、今なお彼に苦痛を与えていた。

 

 その場には、フランツさんのパーティーが全員揃っていた。

 ローグとモイラは——見たところ怪我は無さそう。

 フランツさんは——よく見れば左腕があらぬ方向に折れ曲がっている。

 しかし彼はそんなこと気にする素振りもなく、視線はランドさんに釘付けだ。

 言うまでもなく——カレランドさんが一番の重症だ。


 フランツさんが、ランドさんの傷を見ながらモイラに声をかける。


「モイラ……浄化は、解毒は出来そうか……?」

「うっ、うぅぅ……」

「モイラ! ……どうなんだ、“生体診察メディカルスコープ”を使っ——」

「ダメです——! 私の“浄化の光ピュアライト”では、この毒には効きません……! それに、毒を抜きにしてもっ、この怪我の規模では、治癒、すら……」

「……っ、……そう、か」

「フランツ! すぐにボンドさんのとこに連れて行こう! あの人なら、強力な“治癒の水薬ヒールポーション”なり“解毒剤アンチドーテ”なり持ってるはずだ……!」

「——! そ、そうだな、よし、オレが抱えていくから、ローグは警戒——」

「……フラン、ツ」

「ランド!? お前、無理に喋るな! 待ってろ、すぐに助けてやるからな……!」

「……いい」

「——は? な、なに——」

「……いい、置いて行け、俺はもう……助からん」

「ばっ、ランド、何をっ……!」

「……冷静になれ、フランツリーダー。俺たちの、仕事は、馬車を守ることだ」

「ラン、ド……っ!」

「……レイブンの、こともある。俺に使う、時間など……ない! 今すぐ、ユメノを連れて、馬車に戻れ……!」

「おいランドっ! ふざけたこと言うんじゃねぇ! お前を置いて行くなんて——」

「フランツ……ッ!! リーダーなら、決断しろ……!」

「………………………………せめて、介錯かいしゃく——」

「あのー、ちょ、ちょっといーすか?」

「ユメノ……、なんだ……?」

「いや、ちょっと試したいことあるから、やってみても、いい……?」

「試したいこと、だって……? 一体——」

「……ユメノ、俺に、なのか?」

「あ、うん」

「……やってくれ、すぐに」

「あ、ハイ、りょーかい」

「——お、おい」


 さて、さすがのフランツさんも、この状況ジョーキョーでは普段の冷静さを発揮できていないよーだ。ま、とーぜんだよね。

 あーしとしても、内心は色々と焦ってたりしてるケド、他のみんなが慌てまくってっから、むしろその分冷静なってる的な。

 つーかむしろ、一番冷静なのランドさんじゃね? やっぱこの人半端ハンパねーわ。

 

 そんなランドさんがこのままデッドするなんて、あーしは認めん。

 とはいえ、あーしに何ができるのかというワケだけど。……ひとつだけ、試したいことがある。

 上手く行くかなんてまったく分からないケド、試せるコトは試したい。

 

 ……どうかな、鞘くん。キミ、今のランドさんも、回復できたりせんすか?

 ……ま、とりま試してみるしかない……ね。


 あーしは剣くんを鞘に収めると、ベルトから鞘を外す。

 そして、ランドさんの傷の上に鞘をかざす。

 ——他の人でも回復できるのか、そもそもこの酷い傷を癒せるのか、なんなら毒がどーとかも言ってた……ケド、どうか、鞘くん……タノム……!


 すると、ランドさんの上にかざした鞘くんが光を発する。

 光はランドさんの怪我した腹部に降り注ぎ……

 その傷を……

 傷を……

 

 ……癒してるくね? コレ?

 ……いや、治ってるくね、マジで。


 光はそう長い間出ていたワケではなかったケド、それだけの時間でジューブンな仕事をした。

 つまり、ランドさんの怪我は完全に治っていた。——少なくとも、見た目上は。


 あまりの出来事に、周囲のみんなは絶句していた。

 そんな中、ひとりランドさんは寝転がっていた上体を起こした。

 そんな彼の腹部に——あーしは鞘くんをスイングしてヒット——


「お、おいっ!? ユメノ!?」


 フランツさんが驚きの声を上げ、


「うっ、がはっ——!」


 ランドさんが口から噴き出したブツが、地面に当たりシュウシュウと煙を上げた。


「なっ、これはっ——毒!?」


 どーやら、体内に残ってた毒もちゃんと出てきたみたい?


 ランドさんはすべてを吐き出したよーで、じゃっかん口の周りをシュウシュウさせていたケド、それ以外は平気そうで、口の周りを手で拭うと——スクッと立ち上がった。


「…………治った、みたいだな」

「……嘘だろ、え、マジで?」

「な、治ってます……信じられない……」

「ランド……良かった……」

 

 それから、みんなしてあーしのことを見てくる。

 いやー、治って良かったわマジで。……うん、いや自分でも、こんなすっかり治っちまうとはネ。


「ゆ、ユメノ……き、君は、本当に——」

「……フランツ、どうやら介錯は必要ないらしい。——それで、次の指示はまだか?」

「——! そ、そうだな。……ああ、今すぐ、馬車に戻らないと、だな。——ランド、本当に平気なんだな?」

「……ああ、問題ない」

「そうか……! よし、みんな、すぐに馬車に戻るぞ。——レイブンも心配だ。急ごう!」

「……おう!」

「そ、そうだな!」

「わ、分かりました!」

「“了解だ、リーダー”」


 とりまあーしらは、馬車へと急いで戻った。

 

 馬車が見えてきた——

 ボンドさん達は無事だ。彼もこちらに気がついた。


「フランツくん! よかった! みんな無事だったんだね。……いや、ユメノ君が行ったんだから、それも当然か。——ほら見てくれ! このモンスター、ユメノ君が戦ってたヤツなんだが、なんとコイツ、『死鎌の尾鞭獣テイルリーパー』だ! しかも二匹! ユメノ君は二匹同時に戦って倒したんだ。信じられないよ! コイツらの危険度Lvデンジャーレベルを知ってるかい? Lv44だぞ! つまり聖英級マスタークラス相当だ。ということは、彼女はそれだけの実力者なんだね。いやー、ほんと、ビックリだね!」


 ボンドさんは何やら興奮気味に、あーしらにモンスターの死骸を見せてきた。

 確かにコイツはあーしが倒したあの二匹だケド……なんだろ、そいつってそんなにヤバ奴なん? いやまあ、確かにソイツめっちゃ強かったケド……


「なっ、えっ、Lv44……?!! ま、マスタークラスって——それ、本当ですか……?!」

「ああ、本当だよ。僕も実物を見るのは初めてだが……この尻尾の鎌みたいなのは間違いないだろう。確認した動きについても、とんでもない速さだっていう特徴は一致する。——いやまあ、確認どころか、速すぎて僕には見えなかったわけだが」

「た、確かに、オレでも辛うじて残像が追えるくらいでしたけど……」

「そうそう、それをユメノ君は二体同時だからね。彼女、本気で新参者ルーキーとは思えない——」

「お、おい、ちょっと! 呑気に喋ってないで、戻ってきたんなら早くレイブンを助けに行ってくれよ、なあ!」

「そんだけ強いなら一人でも行けるんだろっ!? 頼むよぉ……!」


 おう、レイブンの仲間の二人からめっちゃ頼まれてる。

 あーしはフランツさんに視線を向ける。


「……ローグ、付近の敵は?」

「——近くには、居ないな」

「レイブンの居場所は……?」

「……向こうだ。まだ生きてる。……ちゃんと敵を遠くに誘導していってるな」


 すると二人は歓喜する。

 

「レイブン! 生きてたっ」

「やった! なあ、早く助けに行ってくれ!」


 それには返事をせず、フランツさんは落ち着いてローグに確認する。

 

「——そうか、それで、距離は?」

「千ちょい、ってところか」

「……ユメノ、だそうだが、行けるか?」

「あーしはいいけど、みんなはどーすんの?」

「そうだな……ユメノは一人で先行してくれ。オレ達も馬車ごと全員で後を追う。向こうで合流だ。敵は……倒しておいてくれたら助かる」

「りょーかい。んじゃ、すぐ行くよ」

「頼む——あ、いや、ユメノ、キミは怪我なんかは大丈夫か?」

「へーきへーき。問題ないよ」

「そうか、それなら——気をつけて!」


 フランツさんの言葉を背に、あーしはすぐさまレイブンの元へダッシュで向かった。


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