第15話 ギンザの街へ、いざ出発!



 フランツさん達と自己紹介が終わったと思ったら依頼主のおじさんボンドルドさんが来て、あれよあれよという間に出発することになった。


 現在のあーしは、ナントカっていう街へ向かうボンドルドさん一行と一緒に、街の外の道っぽいのを進んでいる。

 なんかまるで名残を惜しむ間も無く街を出てしまったから不安に駆られるかと思ったケド、そもそも名残を惜しむほどあの街に長く居たわけでもないし、惜しむほどの体験もしてナカッタ。

 なんなら忘れてぇくらいだし、なんの問題もネーわ。つーかそもそも名前も知らねーからねアノ街の。


 そんな感じなので、あーしは街を離れることにも特に不安とかも感じてなかった。まあ一人で行ってるワケでもないし、みんなで行くなら怖くねーってヤツだね。

 

 一緒に行動しているのは、商人で依頼主のボンドルドさん。それから四人組の冒険者パーティーのフランツさんたち。パーティー名は忘れた。

 あともう一つ、依頼受ける時にいたもう一人がリーダーをしているパーティーも同行している。

 

 こっちの人らとも出発の時に軽く自己紹介したけど、まあ急いでたからテキトーだったし、ロクに覚えてない。

 男三人組で、リーダーの名前だけはなんとか覚えた。えーっと……アレ? あー、アレだ、そう、イレブン……だったかな。

 パーティー名も聞いたんだケド、フツーに忘れた。なんか中学生が考えそーな名前だなって思ったことダケは覚えてんだけどなー。

  

 まあこの三人組の方は大して関わることもなさそーなので、テキトーでいっかな、ってカンジ。

 あーしは基本的にフランツさん達について、彼らの言う通りに動けばいいってことだから。


 そのフランツさん達は、歩きながらボンドルドさんの馬車について行ってる。あーしもそれに歩きで追従してるワケなんだけど。

 これ、馬車……と言っていいのか、まあ馬が引いてるから馬車なんだろーけど、でも車輪がついてないんよね。荷台というか、あの引いてる部分に。

 は? どーゆうこと? って思うかもだけど、なんか浮いてんすよ。その荷台の部分。なんかそーゆう機能がついてんだって。

 

 これなら森の中でも普通に進めるから大丈夫——とか言ってたけど、あーしは謎に浮いてる荷台を見て——ほぇぇ……ってなったよね。

 つーかこれ馬で引く必要あるんか? とか思ったけど、浮くだけだから引っ張るやつは必要らしい。

 

 あーしが謎の馬車を見ながら歩いてたら、フランツさんが話しかけてきた。


「ユメノ、そろそろ街道を外れて“魔の森”に向けて進路を取ることになる。そうなると戦闘が増えるだろうから、今のうちに言っておく。

 とりあえず、道中の敵にはオレ達ともう一つのパーティー、『血濡れの黒翼ブラッディブラック』……言いにくいな——だったか、あっちのパーティーとオレ達四人であたるから、ユメノは後ろでボンドルドさんのそばについていてくれ。基本的には戦闘には参加しなくていい」

「え、いいんすか?」

「ああ、知り合ったばかりのユメノをオレ達のパーティーに組み込んでも上手く連携出来ないだろうし、かと言って単独で戦わせるわけにもな……だからまあ、ユメノは後方待機で頼む。それでいいか?」

「まあ、あーしはそれでいーけど」

「そうか、うん、それじゃ、よろしく頼む」


 フランツさんの言葉通り、それから程なくして、あーしら一行は森の中に入っていった。


 森の中の道なき道を進んでいく。

 あーしとしては昨日も森は通ったし、みんなもいるし、森に入るにあたって特に思うことはナイ。

 でもあーし以外の人たちは、森に入ってからは明らかに緊張の度合いを高めているよーだった。


 森の中では一列になって進んでいた。

 先頭がフランツさん達(と、あーし)で、その次に馬車、そんでその後ろにもう一つのパーティー。

 んで、あーしらの中でも一番先頭にいるのはローグ。その後ろにフランツさんとランドさんが続いて、最後がモイラさん。あーしはさらにその後ろ。

 なんでローグが先頭なんだろ? てっきりリーダーのフランツさんが先頭なんだと勝手に思ってた。

 疑問に思ったあーしは、まあヒマだったのもあり、すぐ前を歩いてるモイラさんにそのことを尋ねてみた。


「え? だってそれは、ローグのジョブが『斥候スカウト』だからですよ」


 ……え、説明終わり?


「え、なんでスカウトってのだと先頭になるの?」

「……えっと、斥候スカウトは索敵能力や地形把握に優れたジョブなので、魔物モンスターひそんでいて決まった道もない森の中を進む場合は、一番適した能力を持ってるスカウトが先頭で進んでいくわけですけど……」

「へー? スカウトってそーゆうやつなんだー。——あ、モイラ先輩、あーしには別にタメ口でいーよ? あーしのが年下だろーし」

「そう……? じゃあ、えっと、ユメノ……は、いくつなの?」

「“百より先は数えてないな”」

「ええっ?」

「——いや、十七、十七歳」

「……そうなの? なら私と同い年だよ」

「え、マジ? あーしらタメだったの?」

「なーんだ、ユメノってそんな歳だったんだ。それじゃ私のこともモイラって呼んでよー」

「あ、うん、わかった」

「私、同い年の女の子の冒険者って初めて会うかも! ……ねえ、せっかくだから、もう少しお話しない?」

「“もちろん、構わんぞ”」


 “ヤツ”に言わせるまでもなく、ただ歩いてるだけでヒマだったあーしとしてもさんせーだ。

 なのであーしは、それからもモイラとおしゃべりしながら進んでいった。


 たまに“ヤツ”が余計なセリフを挟んできたけど、そこまで気にすることなくあーしはモイラと色々話す。

 基本的にはあーしが色々と質問して、それにモイラが答えてくれる、という風に会話は進んでいった。

 モイラはあーしが知らないことが多すぎることに驚いているみたいだったけど、聞いたことにはなんでも親切に答えてくれる。

 なんかよーやくまともに話せる相手ができたって気がする。じっさい最近はわりと会話に飢えてたあーしは、ここぞとばかりにモイラとおしゃべりする。

 まあ時々“ヤツ”が出てくるせいで、たまに変なこと言うヤツ認定されてるだろうのはしょーがないと諦める。


 そんな風にモイラと話しながらしばらく歩いていたら、先頭のローグが声を上げた。


魔物モンスターが近い……! 素早いヤツらだ、回避できない、おそらく会敵する——!」


 それにフランツさんが返事をする。


「了解——みんな、戦闘準備! ……で、どっちからで、数はいくつだ? あと、族種カテゴリは分かるか?」

「数は……七ってとこだな。たぶんウルフ系だ。コイツらは鼻がいいからな、もう捕捉されてるはずだ。二角フタカクの方向、距離は二百ってところか。ヤツらの速度なら、ここまではもうあっという間だぜ」

「分かった。——みんな聞いたな、二角の方向、数は七。ランド、引きつけ頼む」

「……おう

「支援は要りますか?」

「この辺りのモンスターなら、まだ必要ないだろう」

「分かりました」

「あの修練者ノービスのパーティーはどうする?」

「事前の取り決め通りさ。オレ達が迎撃、アイツらは馬車を守る。ローグ、アイツらと、あとボンドさんに、敵が来たことを伝えて——いや、ユメノ、頼めるか?」

「“了解、任せておけ”」

「頼んだ。なるだけ止めるつもりだが、数が多いし抜けるかもしれん。君も気をつけろ。——よし、ランド、行くぞ」

おう……!」


 何やら唐突に急展開始まった……!

 うわ、なんか頼まれたわ。“ヤツ”が勝手に返事しやがったケド。

 えーっと、伝えてくれって言ったよね、あの三人組に、敵が来たって。

 オッケー、んじゃ行くか。


 あーしは馬車の方に戻っていく。

 すると、馬車の上のボンドルドさんが話しかけてきた。


「敵かい?!」

「あ、ハイ」

「……どんな敵かは?」

「“ウルフ系が七程度、もう会敵する。まあ、フランツ達で対処できる規模だ”」

「そ、そうか。どっちから来るんだ?」

「……えーっと、あっちの方」あーしはローグの指していた方を指差す。

「そうか、わかった。彼らにも伝えてくれるか?」そう言ってボンドルドさんは、後ろのパーティーを示す。

「あ、うん、そのつもり」


 あーしが馬車の後ろに行くと、イレブンが反応して話しかけてきた。


「ん、駆け出しルーキーか、どうした?」

「“どうしたと思う? そう、敵襲だ”」

「何っ!? どっちだ?」

「あー、向こう」あーしは指差す。

「分かった。——よし、行くぞお前ら!」

「え、ちょ、ちょい待ち!」

「なんだ?」

「や、イレブン達の役割って、馬車を守る方なんじゃナイの?」

「そうだけど。やっぱり参加してほしいって言いに来たんじゃねーのか?」

「違うけど」

「なんだよ……つーか俺の名前はレイブンだぞ。お前さっきなんつった?」

「え、レイブンって言ったけど?」——そういうことにしておく。

「……まあいい。——それじゃ、中級者ミドルクラスのお手並拝見といくか」


 そう言ってイレブン——じゃなくてレイブン達は馬車の前まで移動していくので、あーしもついて行く。


 前まで来ると、すでにモンスターとの戦闘は始まっていた。

 馬車より少し離れた場所で、ローグの言った通りオオカミっぽいヤツが七匹くらいと、フランツさんとランドさんが戦っている。

 その少し後ろでローグは弓を構えていて、モイラも武器を構えていた。

 

 オオカミは基本的にランドさんを襲っていた。ランドさんはどっしりと構えて、飛びかかってくるオオカミを大きな盾でいなしている。

 そんなオオカミ達を、フランツさんが手にした剣で一匹ずつ仕留めにかかる。


 ——すげぇ、めっちゃバトってるやん。

 臨場感アリアリのガチの戦闘バトルを間近で見て、あーしはコーフンする。


 オオカミの数が多いからアレかと思ったけど、ランドさんはたくさんのオオカミがいっぺんに来ても平然へーぜんと対処していた。


「ほう、やっぱり盾役タンクがいると安定感が違うか。数が多い場合は特にな」


 横からイレ——レイブンが言った言葉が耳に入る。


 オオカミをメインで倒しているのはフランツさんだった。ランドさんは防御に専念している感じで、後ろの二人も特に手を出していない。


「あの剣士ソードマンも、なかなかのもんだな。これなら後衛の出番は無いかな」


 確かに、けっきょくフランツさんが一人ですべてのオオカミを倒してしまいそうだった。

 しかし、そこでオオカミの一体がランドさん狙いを突如やめて、こちらに突っ込んで来た。

 そして、手前にいたローグとモイラの二人と対峙する。ローグがすぐさま弓を向けたけど、オオカミはそこからさらに進路を変えて疾走する。

 ——ってコッチに来るじゃん!?


 そう思った次の瞬間にはオオカミは目の前に迫っている。あーしの体は自動的に動いて右手を剣へと伸ばして——


「ふんっ——!」


 あーしが剣を抜く前に、隣のレイブンがオオカミに斬りかかっていた。


 ギャン——!!


 レイブンに斬られて吹き飛んだオオカミがそんな声を上げる。

 しかしオオカミは仕留められておらず、すぐに起き上がってこちらを向いた——その頭に矢が突き刺さる。


 パタリ——オオカミはその場に倒れ伏した。


 見ると、ローグが弓を放った姿勢でこちらを向いていた。

 さらにその向こうを見ると、フランツさん達もすべてのオオカミを倒したようだった。


 フランツさんがランドさんを連れて戻ってきた。


「悪い、一匹抜けられた。大丈夫だったか? 怪我はないか?」

「平気だぜ。俺が対処した」

「そうか、助かったよ」

「ふん、気にするな。それが仕事だ」

「……ユメノ、君も平気か?」

「“当然”」

「ならよかった」


 それからフランツさんは、ボンドさんに声をかける。


「ボンドさん、ウルフの素材はどうしましょうか」

「先を急ぎたいし、どうも普通の森狼フォレストウルフみたいだし、放置でいいかな?」

「そうですね、分かりました。それじゃ先を急ぎましょう」


 というわけで、あーしらは先を急ぐのだった。


 それからも散発的にモンスターがやってきて戦闘になるバトることもあったけど、どれも少数だったのでフランツさんのパーティーで対処できた。


 そうしてしばらく進んだところで、わりと開けた場所に出た。

 そこでフランツさんが、ボンドさんに提案する。


「この辺で一度休憩しましょう」

「そうだね、そうしよう」


 てなわけで昼休憩になった。

 

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