第二章 冒険者登録、からの〜初依頼

第13話 自己評価なら純白に輝いているんだケドね



 とりあえず何事もなく朝を迎えてからしばし、現在のあーしは、冒険者ギルドなるところへ向かっていた。


 

 ————朝、目が覚めた時に相変わらずボロい部屋だったことで、とりあえずあーしは、今の状況ジョーキョーを現実として受け入れることにした。

 いやー、昨日寝る前までは——いうてコレ、夢ちゃうの……? っていう気持ちがけっこうあったのよ。

 でも一晩経っても相変わらずそんままだったから、もうコレが今のあーしのリアルってことでやってくことにした。

 

 そうは言っても、いちおー昨日寝る前に——もしコレが夢じゃなかったら、明日からどーすっか……ってのはちょっと考えてた。

 その結論として、「とりまカネ、やっぱカネだな」ってことになったので、まずはカネを稼ぐのが目標もくひょーだ。

 

 すでにあーしは朝ご飯も食べ終わってる。朝もあの宿で食べられたから、面倒だしあそこで食べることにした。まあ別料金だったけど。

 迷ったけど、カブトは今日も被ってる。まあ、アレなら自力で外せるし、魔法の効果はともかく純粋に頭を隠すのには使えるしね。


 とはいえ魔法の効果についても、いちおーちゃんと働いているのかなーとは思う。

 というのも、朝メシについてやり取りした女将おかみさんの反応が、まるっきりあーしのこと忘れてるカンジだったから。

 その時に本人も——このアタシが客のことを忘れるなんて——みたいなこと言ってたから、もしかしたら魔法の効果が出てるのかな、なんて。まあそんなこと言いつつ、女将さんが実はフツーに忘れっぽいだけかもしれないけど。


 それでギルドとやらに向かっている理由りゆーは、ネズミちゃんに聞いていたから、なんダヨネ。

 ——あーし、これから先、どうしよう? とりま金さえありゃなんとかなるとは思うんだけど、その金をどうやって手に入れたもんか、と……

 そんな感じのことを昨日すでに相談していたのだけど、ネズミちゃんは「それなら冒険者やればいいよ」と言ってきたのデス。

 

 聞いたら冒険者というのは、何でも屋みたいな職業で、誰でもなれるらしい。身元が不明なヤツでも。

 つまりはフリーターとかそんな感じのやつカナ? とあーしは納得した。よっぽどユルいアルバイトみたいな感じなんやろー、たぶん。

 今のあーしは履歴書だって書けないんで、普通ならマトモな職はおろかアルバイトすら出来ないハズ。

 だけど冒険者とかいうのは、犯罪者以外ならマジで誰でもいけるってくらいのレベルらしいから、今のあーしでもやれるっちゅーハナシ。

 んならとりま、そん冒険者ぼーけんしゃとかゆーのやってみっか、ってーコトになったワケ————。


 

 つーわけで、あーしはとりあえず冒険者になるために、ギルドってところに向かっているのだ。

 てか着いた。ここがタブン、その冒険者ギルドってとこのはず。


 建物は結構デカい。そしてなんとなくイカつい。ちょっと入りづらいフインキ出てる……。

 ……まあいいや、とりま入りましょ。


 まずは受付で、冒険者登録ってヤツをするらしい。

 その際には気をつけてね、ってネズミちゃんは言っていた。お金かかるからって。

 そうは言っても、あーしの今の持ち金はほぼゼロなんだけど。ネズミちゃんの店で使って、宿に泊まったらもうなくなっちゃった。

 んじゃどーすんだよって話だけど、なんかギルドってとこは色々と売ることも出来るから、金が足りない時は売ればいいと言われた。

 

 あーしの持ち物には、確かにカネ以外にも強盗たちから奪っ——貰ったブツがいくらかあるけど、さーて、これでどんくらいの値が付くんかねー。ぶっちゃけ、大したカネにはならん気がするのやけど。

 まあ最悪の場合は——足りなかったら、またここに来て制服を売れば確実に足りるだけの分を払うから、またおいで——とネズミちゃんは言っていた。

 なるだけ制服を手放したくないあーしとしては、なんとか足りてほしーものである。


 問題があるとしたらもう一つ、この兜のことだ。

 人前では正体隠すためにやっぱり被っておくべきだと思うけど、勝手なこと言われたらタマランのよなー。

 まあ、なんか変なこと言い始めたら、そん時はすぐに発言セリフを止めるしかないかー。

 どうも毎回なるってワケじゃないみたいんだけど、その分いつ来るか分からんので構えとかなイカンのじゃ。

 まったく、メンドーなことになったもんジャン……


 そんなこんな考えつつ、あーしは受付に並んだ。

 少し待つとあーしの番が来たので、あーしは慎重に身構えつつ、ゆっくりと受付のオネーさんに話しかける。


「あー、えっと、冒険者登録とーろく? ってやつ、したいんすケド……」

「はい、新規登録ですね?」


 あーしは無言で頷く。

 喋らんでいいところはなるべく喋らん。あーしはコレを被っているときは無口キャラじゃ。


「ではまず……この魔道具に触れてもらえますか」


 なにやらよく分からん道具どーぐが出てきた。

 これもなんかマドーグって言ったな。つまりは不思議な魔法の道具か。

 念のため剣くんを確認する。……特に問題ナシ。

 しかし、うーん、なるだけ喋りたくはないけど、これが何なのかは気になる。さすがに説明聞いてみっか。


「“触れるのはキミの心で——”っんん!」

「……?」

「“……あなたのプロフィールを——”っんぅ」

「……??」

「“…………キミの名前は——?”っんっん」

「私の名前ですか……? アスタと言いますけど……」

「…………あ、あー、アスタさん、あの……この道具はなんなんす、か? 詳しい、説明、おねがいしゃす……」

「あ、はい、分かりました」


 マジで……なんでやたらとナンパしようとしてんだよコイツはっ!? ——いや確かにこの受付のオネーさん、なんかやたら美人ビジンだケド!

 アスタさんは不思議そうな反応をしながらも、あーしに道具の説明をしてくれた。


 説明を聞いたところ、この道具は、触れたものの「心根の清さ」を測る機能があるという。

 犯罪者とかが触れたら赤っぽくなって、普通の人は緑、良い人なら青っぽくなるとか。そんでよっぽど悪いヤツはもはやドス黒くなってきて、逆にめっちゃ良い人とかは白になって光り出すんだと。

 はーマジかよそんなんあんのかめっちゃスゲーなーとか思いながら、説明が終わって差し出されたのでそんまま受け取る。

 ……いやあーし昨日イロイロやらかしてね?

 ヤッベッ——!?


 しかし時すでに遅し、あーしはガッツリ触れてしまっていた。

 するとみるみる道具の色は変わっていき——じゃっかん赤みのある緑って感じの色になった。

 ——これはっ……!?


 …………セーフ?


 アスタさんの方を恐る恐る確認してみると——


「——はい、大丈夫ですね。それでは、続いて登録に必要な質問をしていきますので、回答をお願いします」

「“おや、こんなものか、てっきりもっと真っ赤になるかと——”」

「ふふっ、まあ、大体の人はこんなものですから。多少赤いくらいは問題ないので、大丈夫ですよ」


 いらんこと言うなアホ……!


「それでは……まず、お名前を教えてください」

「……夢野ユメノ、です」

「はい……では次、年齢は?」

「……十七歳、っす」

「はい……では種族は?」

「“悠久の時を生きている——ハイエルフだ”」

「……十七歳なんですよね?」

「いやそのっ、……種族ってなんすか……?」


 聞きなれない単語が来たから思わず質問しようとしたら、また勝手に意味不明なことを言いやがる——!

 つーか種族ってナニ!? 種族なんて……人間以外に何かあんの……?


「種族は、源人オリジンや、獣人ビーストや、鉱人ドワーフや、それから先ほどあなたのおっしゃった森人エルフ——いや、精霊森人ハイエルフですか、そういうくくりのやつです」


 なんか色々あるし!?


「え……あーしの種族、なんなの?」

「いえ、私に聞かれましても……」

「普通の人間ってのは……」

「それなら源人オリジンですね。……では種族はオリジンと……はい、それでは、職能ジョブはお持ちですか? お持ちの場合は申告していただく必要がありますが」

「“君への愛をうたう……吟遊詩人さ”」

「……はい、『吟遊詩人バードマン』ですね、では——」

「ちょい待ち! 違う違う!」

「ん? 吟遊詩人ではないのですか?」

「“愛をうたわせてくれ、この場で——”」

「あ、いえ、お気持ちは嬉しいのですが、ここではちょっと……」

「違う違う! ……ちょっと待って! まず、ジョブとやらの説明をして! あとあーしは吟遊詩人でもないから!」

「はぁ……?? えっと、ジョブというのは、法の神殿などで『職能授与の儀ブレスギフティング』を受けることで身につく一種の加護、そしてその加護の系統の詳細のこと、と言えばお分かりになりますか? ……それで、あなたのジョブは『吟遊詩人』ではないということですか?」


 あーしはとりあえず無言で頷く。


「では、他のジョブはお持ちで?」


 首を振る。


「そうですか……では、ひとまず質問は以上です。……一応、繰り返しておきますね。名前は『ユメノ』さん、年齢は『十七』歳、種族は『源人オリジン』、ジョブは『無し』、……こちらでお間違いないですか?」


 あーしはコクコクと頷いておく。


「では、こちらで登録させていただきます。登録料として一万五千リブリス、お願いいたします」

「“……実は、手持ちが足りなくてね……今日という日にキミと出会った記念にサービスってことには、ならないかな?”」

「いえ、そんなサービスは受け付けておりません」

「……あー、あの、なんか買い取ってもらってその分から払うとかは……?」

「買い取りは受け付けてますよ。本来は別カウンターになるんですけど、この場でうかがってもいいですよ」

「あ、じゃあこれ……」


 あーしは鞄の中からとりあえず売れそうな物を取り出していく。

 水の袋(クサいからいらん)、ナイフ、食料(自分で食う気しない)、ロープ、他にもよく分からん道具類が色々——


 アスタさんは、いかにもガラクタの集まりって感じのラインナップに分かりやすく呆れたような顔を浮かべた。


「……この辺りの雑貨類は、売ったところで捨て値にしかなりませんので、お戻しになられて下さい」


 そう言って水の袋とか食い物類を戻される——が、あーしも要らんのですよ、ソレ。


「や、それ要らないヤツなんで……安くても良いっす」

「……そうですか、分かりました。……まあ、まともな値が付くのはこのナイフと、あとはこの魔石がいくつかと、野営道具類ですか。この道具たちはちゃんと使えそうですけど、売ってしまってもよろしいんですね?」

「“売らなくても足りるのかい?”」

「いえ、足りないですね。全部売って、ギリギリというところですかね」

「……そんじゃ全部売りまーす」

「分かりました。それではこちらの売却額で登録料の代わりとしますので」


 なんかフツーに会話になるパターンもたまにあるんよねー。……でもそれ、余計にタチ悪くね?


「それでは続いて、“冒険者証ライセンス”の発行手続きを行います。ライセンスの作成の際には本人の因子が必要となりますので、血液の提供をお願いいたします」


 そう言ってアスタさんは、あーしに針のようなモノを渡してきた。

 よく分からなかったケド、うながされるままにあーしは、手袋を外して指の先をプスっとやった。

 すると針はあーしの血を吸って赤くなる。痛みはほとんど無く、なぜか刺した指先の傷も残っていなかった。

 あーしはアスタさんに針を返す。


「——はい、どうも。それではこれより冒険者証ライセンスをお作りしますので、少々お待ちいただけますか。待ち時間で冒険者についての説明をすることも出来ますけど、どうなさいますか」

「“説明もいいけど、キミについても知りたいね”」

「今は勤務時間中ですので……それと、個人的には、お顔も分からない人からのアプローチには答えようがないというのが本音です」

「“……面食いなのかな?”」

「まあ、否定はしません」

「……説明、おねしゃーす……」

「かしこまりました。では、少々お待ちを」


 するとアスタさんは軽く席を外したけどすぐに戻ってきて、それから冒険者についての説明をしてくれる。

 あーしはそれに相づちを(無言で)打ちながら、話を聞いていった。

 

 冒険者がどういうモノなのかについては、いちおーネズミちゃんにも大体のハナシは聞いていた。

 冒険者のおカネの稼ぎ方は、大きく分けて二つあって、一つはギルドで受けた「依頼」を達成して報酬を貰うというやつ。

 もう一つは、なんかテキトーに売れそうなモノを持ってきて売る、というやつ。

 「依頼」については色々な種類があって、なんか「指定のブツを取ってきてくれ」とか、「道行きの護衛をしてくれ」とか、「◯◯って魔物モンスターを倒してくれ」とかあるらしい。

 

 うん、なんかこの辺って、モンスターとかいうヤベーやつらがいるんだって。なんかスゲー強くて凶暴な野生動物やせーどーぶつみたいなヤツらが。

 人が住んでいる近くにはあんま居ないんだけど、森の奥とか、なんか洞窟ん中とか、そういうところに大体居るってハナシ。

 たぶんだけど、あーしが最初に居た森で出てきたクソでけークマ、アレもたぶんそのモンスターってやつだったっぽい。まあ、あのクマとか見るからにヤベーやつだったよね。

 

 んでなんか、こういうモンスターを見つけたら、とりあえずぶっ殺しとけってのも冒険者の仕事らしい。

 こいつらほっとくと危ないし、倒したモンスターの死骸は素材として売れるから、それを売るのも冒険者のメインの収入源とかなんとか。

 つーことはあのクマの死体も、ここに持ってきたらカネに換えられたみたいね。まあ、あんなデカいの重くて運べねーけど。

 だから、冒険者は高く売れるところだけ剥ぎ取って持ち帰るのが基本、なんだって。


 冒険者ってのはそんな感じで、だいぶアブネー仕事みたいなんだよねー。とりま腕っぷしがないとつとまらねーみたいな。

 フツーならあーしみたいな可憐でか弱いオンナノコのやる仕事じゃなくて、ゴリゴリのゴリラみたいなおっさんがやる仕事ってコト。

 でもあーしにはグリグリなクッマでも仕留められる剣くんがあるから、なんとかなるんじゃねー? ってカンジ。


 アスタさんは他にも、冒険者にはランク制度があって、真面目にやってたらランクが上がって良いことありますよ、みたいな話とか、冒険者の守るべきルールとか、色々と説明してくれた。

 ショージキいっぺんに色々と言われてもゼンゼン覚えられなかったケド、あーしはとりあえずうんうんと聞いていた。

 アスタさんもあーしが大して理解してないことを察してたのか——まあ細かいルールは冒険者の活動をしていく中で自然と覚えていきますよ、と言っていた。


 そして、あらかたの説明が終わったっぽいタイミングで、何やら別の職員の人が持ってきた物をアスタさんに渡した。

 受け取ったアスタさんは、それをあーしに差し出すと、説明を始めた。


「これがあなたの冒険者証ライセンスになります。肌身離さず持ち歩いてください。身分証の代わりにもなりますので、街を移動する際にはこちらを提示してください。

 このライセンスは特殊な効果を持っていて、ユメノさん本人にしか効果がありませんが、登録の最初に使った魔道具と同様の機能を持ちます。つまり、このライセンスに表示されている色が、そのまま持ち主のを示す指標となる、ということです。

 冒険者稼業は、個人が主体の自由業です。だからこそ、それぞれの個人の品格が問われます。あなたの行いは、ライセンスの色として視覚化されます。どうか、このライセンスを白く輝かせるような活躍を期待しています。

 では、冒険者登録は以上で終了です。お疲れ様でした。

 ……ちなみに、このライセンスは、無くしたら再発行にまた発行料がかかりますので、無くさないように気をつけてくださいね」


 受け取ったあーしのライセンスは、じゃっかん赤みがかった緑色に変化した。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る