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水晶のような、夜の冷たいにおいを孕んだ風が頬を撫でる。
資格は社会的な地位とは必ずしも連動しない。アメリカ大統領でさえ迎え入れられるかどうかははなはだ疑問だ。
旧大陸の同類はふだんは閉じたコミュニティを形成しているか、遠い昔に手に入れた同伴者を連れている。あまりに世代のちがう相手との結婚がうまくゆかないことが多いのと同様の理由で。もちろん長い年月のうちに飽きがくることはあるから、その場合は若い仔羊を探すこともあるけれども、大抵の場合、かりそめの情事が
神がアダムの肋骨から
しかしその方法を知らなかった私は、あたら若い命の
彼女の、あのおびえたようなまなざしが今も、心臓近くに刺さった棘のように私をさいなむ。私のことを愛していると思っていたし、私も彼女を愛していた――たとえ四百年が経って恋の炎は消えたとしても、思い出は燠火のように残り、拒絶された記憶もまた、おそらくは死ぬまで刻まれる。魂の一部を持っていかれるようなものだ。
経験したことのない者にはわからない。絶対に。わかろうはずもない。好んで経験したいたぐいのものではないかもしれないが、自分で選べるようなものではない。神の炎に打たれるようなものとでもいえばいいのか。
そしてそのかたわれがいなくなってしまったいま、失われたものは二度と
……ああ、神様――
それが人間としての彼女のさいごの
そんなものを後生大事に抱えていてもなんの足しにもならないというのに、
柄にもないことを思い出させるロンドンに呪いあれだ、ローマより若いくせに霧と死に沈んでいるような街に。
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