5-7
耳に響く声が自分のものとは思えないほどあさましい。嬌声と思われても言い訳がきかないほどの……いっそ喉が潰れてしまえばどれだけいいか。
自分の体がどうなっているのか
喘ぎに重なるようにしてなにかが鳴り出す。マットレスに機械的なかすかな振動が伝わる。
薄く目をあけると、
「誰だよ、
そこに表示されている名前は……
「――おっと」
男が体を
「まったく、油断も
呼び出し音はずっと鳴っている。彼はなんの用があって……なにを考えて、“群れ”のきょうだいに電話を……。
火照っている頬がひやりとした。
「――は、なんだよあんた、泣いてんの?
違……いやもうよくわからない、どうしてこんなときにこの男の声が……のそれに聞こえるんだろう……。ぜんぜん、ちがう、はずなのに……。
「へえ、面白いな。涙まで甘い」男が目尻に唇を寄せて吸い上げる。濡れた舌の感触。「ぜんぶ食ったらどうなるかな。あいつにはちょっとは残しておいてやるって言ったけど――」
音は途切れない。もう何コール目だろう、よほど急ぎの用でもあるのか……それともなにかきょうだいに助けてもらいたいことでも……。もしかしたら彼になにか……
「なあ、電話に出てやろうか?」奇妙なほどやさしい声音。
「や……っァあ、い、嫌だ……」
声が……聞こえたら、
「遠慮すんなよ、兄弟が困ってるんならさあ、なにかしてやらなきゃな。俺にだってそれぐらいの優しさはあるんだぜ」
薬のせいで過敏になっている首筋を唇と舌でなぞられて、うなじから背筋に電流を流されたような感覚が走る。気持ち悪……いはずなのに……尾骶骨の
「こっちもだいぶ慣れてきたみたいだな」
「く、ぅ……っン」
駄目だ、こんな状況で……。
突然頭上で哄笑が轟いた。
マットレスの上で鳴り続ける携帯電話をつかんだ手が、みるみるうちに、灰褐色の――
「なっ……」
体内に捩じ込まれたそれもまた膨れあがるのを感じる。まさか、ありえない――それだけは絶対にありえない!
おぞましさに全身の熱が一気に引いていく。
肘を使って逃げようとして、脇腹がなにかに刺されたように痛んだ。
「あっ……ぅ、ぐ……ッ」
思わず振り向いた視界に入ったのは、長さの三分の一ほどが皮膚を破り肉に食い込んでいる黒い爪。反射的に背を丸めてうめく。
「――!!」
熱い息がうなじにかかる。犬や猫が仔を運ぶときに首の根元を噛むように、落とし格子の杭のように尖った牙に動きを封じられていた。
向こうがお遊びのつもりでいるのか本気なのかわからない。下手に首を動かしたら嚙み切られそうだ。冷たい汗と狼の涎が鎖骨の窪みを流れ落ちる。おぞましい……のに皮膚がむずがゆい。ぞわぞわする。
ざらついた舌でそこを舐め上げられ、喉の奥からひきつったような音が漏れ出た。
一度は去ったはずの熱がまたよみがえってくる。
反射的に腰を引いたのが
男が――灰色狼が――昂奮にまかせてめちゃくちゃに突き上げるたびにあちこちにやたらめったら噛みつき、人間のものではない舌で舐めずる。そのたびに膀胱の裏あたりが刺激されて……。
堪えきれずに大きな喘ぎをあげていた。
これが自分の声か、別人のではないかと思うほどのうわずった声と、遠雷のような狼の唸りが混じりあう。浮遊感でめまいがする。閉じた
恥も外聞もなく叫んでいた。
体の
相手がそれに応えたのかどうかもわからない。まともにものが考えられない。これは現実のはずなのに……夢と区別がつかない。妙にリアルだ。闇の中を高く投げ上げられて――それからどこまでも
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