8-4

「お前と一緒にキースを殺した吸血鬼はイギリス人か?」

「え……いや違う、えっと、たしかアイルランド人……って言ってた、と思う」

 ラッセル氏はまた何事か考え込む様子を見せ、

「最初に神父に遭ったときのことを覚えているか?」

「あー……うん、たしかケーサツ署だったよ」

「どちらから声をかけたんだ?」

「私です」と私は言った。「彼の身元保証人を頼まれたので、本人かどうかたしかめようと思って名前を……」

 アルフレッド・ラッセル氏はしばらくのあいだこちらを、ほとんど黒に近い蒼いでじっと見つめた。野生の獣が人間と出くわしたときに、緊張と好奇の入り混じったまなざしを向けるように。

 それからおもむろに口をひらいた。

「お前はその男と一緒に行け、ディーン」

 ディーンがはじかれたように顔をあげた。

「お前は――結果的に父親殺しのかたきを討ったが、そうする前に群れに知らせなかったし、そのうえ、一族クランの掟に反して吸血鬼ヴァンパイアの手を借りた。おまけに、先に神父にしまった。だからお前をこれ以上この群れクランにおいておくわけにはいかない。出ていけ――そして二度と戻ってくるな」

 大きく見開かれたディーンの目に、みるみるうちに光るものがあふれたのがわかった。だが彼はかろうじてそれを外にこぼさずにいるようだった。

「……キースの子供はどうするの?」

 彼はひび割れた声でいた。

「我々が探し出してなんとかする。お前には関係ない」ディーンが蒼白になったのに気づいたのか、「……安心しろ、殺したりはしない」

「……うん」

「話は終わりだ」

 ディーンはソファから立ち上がるのさえつらそうだった。膝に手をついて、老人のようにのろのろと身を起こす。手を貸すことはできない。彼のプライドを傷つけてしまうことになる。

「ディーン」先に立ったラッセル氏が呼んだ。意外なほどおだやかな声だった。

「俺は父さんのゆくえをずっと探していた。それで――そのことで、お前や……皆のことを放っておいて、すまなかった。お前とキースがこうなったのは俺の責任でもある。父さんが俺たちのことを置いていったんじゃないとわかってよかった。そんなことするはずがない。するはずがないと……ずっと思っていた。……父さんのことを知らせてくれたことに礼を言う」

 ディーンは下唇に血がにじむほどきつく唇を噛んで兄を見た。

「泣くな。いつまで甘ったれているつもりだ。お前はもう群れの末っ子オメガじゃあないんだ」

 群れのトップアルファが見せた雪解けのようなやさしさは一瞬で消えていた。




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