The Oath of Tyndareus
6-1
クリスが目を覚まして親父さんたちの顔を見たときの第一声は、「父さん……仕事は大丈夫なの?」だった。
そんなの気にすることじゃないと親父さんは言い、おふくろさんがクリスを抱きしめて泣き崩れたので、それ以上なにも言わなかったが、生きるか死ぬかの状況で心配して飛んできた家族に最初に言うことがそれかよ。
おふくろさんたちを優先して、病室のすみっこに立っていた俺をおふくろさんが手招きした。
「ディーンもずっと心配していたのよ――ほんとうによかった。神様には何度感謝しても足りないわ」
「……お前には迷惑をかけたね」久しぶりに声を出したせいかひどくかすれていて、別人みたいに聞こえた。「家族に連絡してくれたのはお前?」
「いや……俺じゃない、ニックだよ」
「私たちはフランチェスキーニ司教から連絡を受けたんだよ」
「ああ、そう……。それじゃああとでミスター・ノーランにもお礼を言わないとね」
おふくろさんたちはまだなにか言いたそうだったが、目が覚めたばかりであんまり長いことしゃべらせるのもどうかってことで、俺たちはいったん外に出た。
入れ替わりに病室に入って行った看護師の質問に答えているクリスを、俺はふりかえって眺めた。
おふくろさんたちがいなかったら、俺も抱きついて、嬉しくて泣いていたかもしれない。けど、おかしなことにそんな気持ちは全然起こらなかった。っていうより、俺に向けられたクリスの眼を見た瞬間、なにもかも吹っ飛んだっていっていい。
そこに映っていたのは――俺の見まちがいでなけりゃ――恐怖と嫌悪だった。
なにかのまちがいだと思いたかった。だってそれは一瞬で消えたし、俺のうしろに悪魔の幻でも見たのかもしれないし。
それでも、どういうわけだか、またこの世でおふくろさんや
俺はスマホを取り出して、ニックのやつに、クリスが目を覚ましたってメッセージを送った。このあとやつへの支払いがどうなろうと、パトロンへの義理は果たさないとな。
「みなさんの中で、献血にご協力いただけるかたはいませんか?」
夕方になってニックがやってきたとき、看護師が聞いた。
「もちろんですが……どうかしたんでしょうか?」クリスの親父さんが聞きかえす。
「息子さんの搬送時に失血による血圧の低下がみられたので輸血を行ったのですが、息子さんの血液型がAB型のRh
「血ならなんでもいいんじゃないの?」俺はななめうしろに立っている血の専門家に聞いた。
「お前は馬鹿か。異なる型の血液を輸血すると、血液が凝固して死に至るんだ。AB型は誰からでも血をもらえるが、Rh-だと、一度目はいいが、二度目にRh
「俺、調べてもらってもいいよ」
俺は看護師に言った。クリスの家族も全員協力を申し出た。
一番丈夫そうなのはニックだったが、看護師は最初、俺と一緒にいるやつのほうを見ていたのに、今は誰もいないみたいにふるまっている。
まあ、死人の血を輸血したらどんな問題が起こるかわからないからな。
調べてもらったが、結果は全員がRh+で、俺がO型、クリスの両親も
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