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クリスの家族が病院に到着したのは、クリスが運ばれてきてから二日目の夕方だった。
ICUのあるこの階は誰かやなにかがひっきりなしに出入りしていたし、ニックはもともといるんだかいないんだかわからないようなやつだから、俺はしばらく前から、自分のまわりでなにが起ころうが不感症みたいになっていた。
けど、さすがに目の前――ICUと俺のあいだ――に立たれたら、いくらなんでも気づく。
影が落ちたのでイラっとして顔をあげると、病院のスタッフの女性と、知らない家族連れ――夫婦と、高校生くらいのガキふたり――がいた。
全員俺に背を向けて、病院職員が手ぶりでICUの患者について説明しているのを聞いている。そのうち母親のほうが口に手を当てて、小さく、それこそ
それからスタッフがこっちを向いて、俺のことをなんとか言った。
クリスの家族はクリスとぜんぜん似ていなかった。
顔立ちもごくふつうで、美男美女っていえるほどのものはないし、髪もあんなきれいな金髪とかじゃなく、茶色で、弟は俺と同じ黒髪だった。
なにより匂いが違う。四人からは同じ群れのにおいがしたが、クリスからはそのにおいはしなかったからだ。
「君がクリスにつきそっていてくれたのかい? はじめまして。クリスの父、アンソニー・マクファーソンだよ。こっちは妻のセアラ、クリスの弟のベンジャミン、それから妹のカレンだ」
クリスの親父さんは右手を差し出した。痩せて銀ぶち眼鏡をかけた、銀行員みたいな、おそろしく目立たない人だが……おだやかな口調と態度がクリスに似ていて……握手するより先に、俺はまたみっともなく涙が出てくるのを止めることができなかった。
「……ディーン・ラッセルです。家の事情で……教会に……クリスに、世話になってて……俺が……一緒にいたのに、こんなことになって……ほんとうに……ごめんなさい……」
「君のせいじゃないよ」
鼻水まで出てきたのに、親父さんは構わずに俺を抱きしめた。おふくろさんの手も俺の肩にかかるのを感じた。
「事故なんだろう? 君のせいなんかじゃない。そんなことより、クリスについていてくれてありがとう。彼もきっと喜んでいると思うよ」
俺たちはベンチに並んで腰かけた。
クリスのおふくろさんは年のわりに若々しい顔つきの人で、なんとか俺を励まそうとしているのか微笑みかけてくれたが、無理をしているのはその赤くなった目からもすぐわかった。俺と同じくらいか年下の弟と妹は、どうしたらいいかわからない様子で、じっとおとなしくしている。
……そうだよな。俺だってどうしたらいいかわからない。
そこへ、事務方に呼ばれていたニックが戻ってきた。クリスの両親に挟まれている俺を見て、おや、という顔をする。
「失礼、マクファーソン神父のご親族ですか?」
「ええ、そうですが……あなたは?」
親父さんがとまどったように、見舞客というよりなんかの営業みたいな格好のニックを見上げる。
「私は神父の友人で、ドミニク・ノーランといいます。ここにいる彼と同様、神父と教会にはたいへんお世話になっていましてね……」
「ああ、ではもしかして、あなたがフランチェスキーニ司教に連絡してくださったのですか」
「ええ。間に合ってよかった」
親父さんは立ち上がって、同じように家族を紹介していったが、ニックが手を差し出すこともなければ、誰もニックと握手しようとはしなかった。
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