4-3

 ぜんぜん動かないクリスを見ながらただベンチに座っているのは、一瞬一瞬が永遠みたいに感じられた。

 このままクリスの目が覚めなくて……弱っていって……もし死……とかしたら……俺は本当にひとりぼっちになっちまう。

 俺にはまだ兄貴たちがいるって思おうとしたけど……ダメだ。兄貴とクリスとは違う。

 これが兄貴の誰かだったら、俺は今ごろキレてる。兄貴をこんな目に遭わせたやつをみんなで嗅ぎつけて噛み殺してやるだろう。今すぐにでもだ。こんなとこにじっとしてる理由なんかない。

 けどクリスは……俺は怖くて目が離せない。またちょっとでも目を離したすきにクリスになにかあったら……今度こそ自分がどうにかなりそうで怖いんだ。

「……なあ」

 俺はベンチの横で、腕組みをしたまま壁にもたれて立っているニックに聞いた。

「吸血鬼に、なったらさ……死なないんだよな?」

「ふつうは、人が死ぬのは一度きりだ」

 ニックの声は、騒がしい廊下でも、裁判官の判決みたいにハッキリ聞こえた。

「あんた……クリスのことをできるか?」

「できなくはないが、むずかしいな」

 俺がって言ったも同然なのに、やつはなんの感情もこもっていない目で、ICUのガラス窓の向こうをじっと見つめた。

「ひとつは、私が血を与える必要があるから、意識不明では困る。もうひとつは、永遠に私のものになると誓ってもらわないとならないことだ。神父は同意しないだろうな」

「そうだね……。でも、できなくはないんだろ?」

「相手の同意なしに血を与えても、化物ばけものができあがるだけだ。以前はそれで失敗した」

 ……ああ、ふたり目の奥さんのときか。

「仮に神父が同意したとしても、これにはちょっとした弊害がある」

「どんな?」

「人間としての善良さは失われる」

「それって、あんたみたいな鼻持ちならないやつになるってこと?」

 ニックはフンと鼻を鳴らした。

「あんたの傲慢さは生まれつきだと思ってたけど」

「昔のことは忘れたが、生きていたころはもう少し謙遜の徳をもっていたかもしれないな」

「……それは嫌だな。俺は、たまに説教するけど、やさしくて、面白くて、ちょっとおっちょこちょいなクリスが好きなんだ」

「私もだ」

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