3-8
そういや、なんとかいう司教のとこでザンゲするとか言ってたな。
そう思って、司教だかがいるっていう教会にも行ってみることにした。
よく考えたら、もともとボストンかどっかの教会にいて、そこから逃げ出してきたっていってたから、マジで俺に愛想をつかして逃げ込むならやっぱり教会かもしれない。
それまで俺は教会になんか全然キョーミがなかったから、司教ってのがどこにいるのかも、カトリックとプロテスタントの教会がどう違うのかもよくわかっていなかった。
マップに表示された教会はやたらたくさんあったけど、ほとんどがプロテスタントの教会で、そこの牧師が大聖堂の場所を教えてくれた。牧師がジェレミーみたいな格好をしてたもんだから、ますます区別がつかない。
大聖堂はテレビで見たことのあるパリのノートルダム寺院みたいなゴツさとデカさだった。うちの教会の三倍はあるだろう。正面玄関だけでも扉が三つもあるし。
信者なんだかただの観光客なんだかわからない参拝客と一緒に中に入って、聖職者の姿を探す。ちょうど、脇の通路のマリア像の前に花を供えている年寄の神父がいたので、声をかけて事情を話すと、じいさんは、ここで待っているようにと言って外へ出ていった。
しばらくして連れて戻ってきたのは、同じくらいの
「カーク司教だよ」最初に話をした神父が言った。「君のことはお話ししてある」
「あのっ……クリスが――マクファーソン神父がここに来てませんか」ろくなあいさつも忘れて俺は言った。「二週間……いや十日前だったかも、に俺、神父とその、ケンカっていうかちょっと言い争いして……そんでもしクリスがキレて家出するんならここかなって思って――もし知ってるんなら……で、クリスがまだ怒ってるんなら……俺あんなこと言うつもりじゃなかったって伝えてほしくて、だから……」
途中から自分でもなに言ってるのかわからなくなった。反省してるから帰ってきてほしいなんて、女房に逃げられた亭主みたいなそんなみっともないこと、こんな初対面のじいさんの前で言うつもりなんてなかったのに。おまけに涙腺もおかしくなってきて、俺は床の敷石の模様をにらみつけてなんとか涙をこらえた。
「ディーン君、といったね――」司教のじいさんはとまどっているみたいだった。「君がマクファーソン神父とどんな話をしたのか、残念ながら私はなにも知らないんだ。彼が最近ここに来たのは一か月ほど前だし、今日君が訪ねてきてはじめて、彼がいなくなったことを知らされたくらいなのだから……」
「あの、それじゃ……」
まあ座りなさい、とじいさんは言い、俺を支えるようにして近くのベンチに座らせた。自分もその横に、ちょっと小太りの体を押し込む。
「クリスが自分からいなくなることなんてないと思うんです、でっ……でも、何年か前にボストンだかどっかから逃げてきたって聞いたから、また俺のことで悩んでそれで……だけど
「その話は私もレオーニ神父から聞いているが……君のことは、君を教会で預かることになったときに報告を受けたくらいで、君についてなにか悩んでいるという相談をこれまでに彼からされたことはないよ」
「えっとその……告解とかでも?」
「君がなにを心配しているのかわからないが」司教のじいさんは困ったように、白髪まじりの眉を寄せた。
「たとえなにが話されたとしても、告解の中で聞いたことを、ほかの人に漏らすことはないのだよ」
神父さんて、秘密主義なのね――
いつだったかメルに言われたセリフが今になってよみがえってきた。たぶんあれは魔女が言わせたことだと思うんだが――もしかしたらクリスは本当に、スータンの中にカードを隠しているのかもしれない。それもけっこうたくさん。
「もし彼がここに来たら、必ず君に連絡すると約束しよう。それから……彼がいなくなって、ほかの信徒の皆さんも不安がっているのではないかい?」
俺はああとかうんとかよくわからない返事をしたが、カーク司教は横に立っていた年寄の神父と小声で話し合い、
「とにかく動静がはっきりするまでは、過度に心配せずに、君はこれまでどおりの生活を送るんだよ、いいね。ほかの人たちの動揺を小さくするためにも、せめて日曜のミサにはあずかれるように、あとでべつの教会から神父を
残る心当たりは……ものすごく嫌な想像だけど兄貴たちしかいなかった。
だけど仮にそうだとしてもなんで今ごろ? しかもどうして俺にひと声もかけずに? 俺が反対すると思ったのか? これまで俺の気持ちなんてほとんど気にすることなかったのに?
トシが近いのはバートとバーニーの兄貴たちだけど、俺が事情を話したが最後、やってなくてもやったって絶対ウソつくに決まってるからやめた。
ギルの兄貴なんかにかけたら、このクソ忙しいのにクソ坊主のクッソくだらねえ件なんかでかけてくんじゃねえよふざけてんのかこのクソ野郎ぶっ殺すぞ今からそっち行くから首洗って待ってろって言われそうだから……やめた。
それで俺はおそるおそるロジャーの兄貴にかけた。ロジャーからギルの兄貴の耳に入るだろうけど、それはそれでしかたない。
けど兄貴は出なかったから(大体ロジャーの兄貴が電話に出たことがあったか記憶にない)、ほっとして……だけどやっぱり気になって、今度はキースの兄貴にかけてみた。
耳元でずっとコール音が鳴ってるあいだ中、俺は出てくれとも出ないでくれとも願っていた。
案の定キースは出なかったけど(また役所にでも行ってるんだ)、そのあとしばらくして着信音がして、メッセージが
《今ちょっと電話に出られない。どうした?》
俺は指がこんがらがりそうになりながらメッセージを入力した。
〈俺が厄介になってる神父が二十日くらい前から行方不明なんだけど兄貴たちなんか知らない?〉
《俺の知ってる限り、ギルたちはなにもしてないしなにも知らないと思うぜ》
クリスが見つかったわけでもないのに、おかしな安心感で膝の力が抜けて、俺はその場にへたりこみそうになった。
――そうだよな。いくらなんでも兄貴たちじゃないよな。きょうだいを疑うなんてどうかしてる。あのすぐに手が出るギルの兄貴だって、女に乱暴してるとこなんて見たことないし。
《なんか耳に入ったら知らせようか?》
〈ありがとう、頼むよ〉
やっぱキースが一番頼りになる。
〈でもギルの兄貴たちには黙っといてくれる?〉
あいつクリスのこと嫌ってるし、バレたらいろいろうるせえだろうから。
《OK》
その夜、俺はほんとに久しぶりに、途中で変な夢を見てうなされたり飛び起きたりすることもなく寝られた。
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