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 けどバザーがおひらきになって静かになると、兄貴の言葉がどうにも気になってきた。

 夕方の光のせいもあるのかもしれない。狼になったときのキースの眼の色に似てる――それに、俺の思い過ごしでなきゃ、クリスのことをじっと見てたときの兄貴の目は本気マジだった。

 なおさら悪ィことに、きょうだいの中じゃキースの兄貴だけは、Ωオメガの俺にウソつくようなやつじゃなかった。だから――でも――考えようによっちゃ、兄貴は「冗談だよ」って言ったんだし、そう言ったからにはやっぱりあれは俺の見まちがいだって思いたいけど……だけどキースは冗談だったとしても、俺たちは家族クランだから、なんかのついでにキースがギルの兄貴たちにしゃべらないとも限らないし……そしたらあの兄貴たちのことだ、これまでのことがなくたって、目の色変えるに決まってる……。

 想像したくないのに、例のトラックドライバーの件を思い出しちまって、俺は水から上がった犬みたいに震えた。あのときはなんとも思わなかったけど……クリスがもしあんなことになったら……俺にはなにを残すって……兄貴、ほんとに本気じゃないよな?

 あんまり長いことぐるぐる考えていたもんだから、夕飯ができたってクリスが呼んでるのも気づかなかった。

「電気もつけないでどうしたんだい? 寝てるのかと思ったよ」

 クリスはグリーンピースの冷たいスープをボウルに注ぎながら言った。

 緑色の液体って、いつ見てもあんまり食い物には思えない。なんかエイリアンの血みたいだ。

「今日は暑かったし……ちょっと疲れたのかも」俺は言った。

「そうだね、でもそのおかげでレモネードやパンチは全部売れたし……」

 クリスがにこにこしながらしゃべってるのも、ほとんど耳に入ってこなくて、俺はテキトーにあいづちをうっていた。

「……ディーン、どうしたんだ? 本当に熱中症なんじゃないのか?」

 クリスがスプーンを持つ手を止めて聞いた。

「体が熱かったり、頭痛とか吐き気があったりしないか?」

 心配そうに、ちょっと眉を寄せて俺を見る。

「……いや、べつになんでもねーよ、ほら、飯も全部食ったし。あと一週間くらいでガッコが始まると思うとさあ、なんかで……」

 クリスは吹き出し、でも次の瞬間には、悩んでる高校生に対して失礼だと思ったのか謝ってきた。

「ああ、そうか、それならいいんだ。でも万が一ってこともあるから、寝る前にはいつもより水分をるんだよ。お前がいつも走りに行くときに持っていっているスポーツドリンクでいいから」

「あんたは俺のおふくろかよ」

 俺が口を尖らせるとクリスは笑って、「遅い反抗期だね」と言いやがった。

 クソ、ひとが誰のせいで悩んでると思ってんだ。

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