The Apple of Discord
3-1
ミサのあとにバザーがあることもあって、その週の日曜のミサはいつもより大にぎわいだった。
教会の前庭から、足りない分は向かいの家の駐車スペースを借りていくつもテーブルを出し、ミサが終わったら大急ぎで、この日のために近所を回って集めておいたいろんな品物――子供服とか食器とか本が多いけど、たまに、〈
正直なところ二束三文にしかならないし、売り上げは全部慈善事業に寄付されちまうけど、ふだん教会に来ない人もこの日にはやってきたりするし、パトロール中の警察官が立ち寄ってレモネードを買ってったりもする。
信者の中に、本業がスーパーマーケットで実演販売をしてるっておっさんがいて、その人の手というか口にかかると、逆オークション方式でどんどん商品がまとめられてどんどん値段が下がっていって、ついには最後までテーブルの上に残っていたもの全部が、最前列で笑い転げていた誰かの車のトランクにおさまってるって寸法だ。
信徒席を見回して、今日もその人が来てくれてるから売れ残りの心配はしなくてすみそうだと俺は踏んだ。たぶん、エアコンが
そこで俺の視線は止まった。よく似た
クリスがおばちゃんたちとバザーの打ち合わせをしているのを確認してから、俺は入り口近くの柱に近づいていった。
キースの兄貴はちゃんとわかっていて、柱にもたれたまま、俺に向かってにやりとした。
一年半――いや、一年と八か月かな?――ぶりだっていうのに、兄貴はぜんぜん変わってなかった。まあ棺桶に片足つっこんでるような年寄りでもないんだし、当たり前っていやあ当たり前なんだろうけど。でも俺はそれがすごく嬉しかった。
ちょっと長めの黒い前髪に隠れた鋭い眼と、反対にいつも皮肉っぽく笑ってるみたいな口元、Tシャツの袖から伸びる腕はギルやロジャーの兄貴みたいにごつくはないけど、日に焼けて、鞭みたいな感じだ。
「よう、うまくやってるか?」
久しぶり、とか、なにやってたんだよ、でもなく兄貴は言った。
「う……うん、兄貴は?」
「
俺がなんのヒネりもない返しをしたのに、兄貴は笑った。
俺はこの四番目の兄貴が嫌いじゃなかった。というより、好きな部類に入る。っていうのは、
「けど……どうしたんだよ? その……ギルの兄貴たちは一緒じゃないの?」
おっかなびっくりで俺は聞いた。
「あいつがこんなお香臭いとこにわざわざ鼻つっこむわけないだろ、アホだな」
「あ、うん、そうだね……じゃ、アルの兄貴になにか言われて来たの? ――って、それこそ、んなわけないよな」
「そうさな、アルフレッドも相変わらずだけどさ、あんとき、お前は知らないだろうけど、自分が留守のあいだにお前が牧師だか神父だかに手なづけられたって聞いて、激怒して、ギルバートのやつを半殺しにしてたよ――俺が止めたけどね」
「……ほんと?」
「本当だよ。お前のことを心配してたよ」
胸の奥がじんとする。
アルフレッドの兄貴は俺のあこがれだった。すごくきれいな銀狼で、近縁の一族と走るときも、兄貴よりでかくてきれいな狼はいなかった。狩りの腕も抜群で、一度バッファローを仕留めたときは、俺はそのあとしばらく、自分がやったみたいに鼻高々だった。それに、うちの一族の中では一番おふくろに似ている。
「だけどアルの兄貴を止めに入って、キースは大丈夫だったの?」
「まあな。だって俺を半殺しにしてしばらく腕が使えないなんてことにでもなったら、誰があのクソったれの書類を作るんだ? アルは絶対に役人に頭は下げないし、ギルとロジャーの頭に詰まってるのはおがくずだし、バートとバーニーのやることといったら超テキトーだからな」
うちの中でちゃんと高校を出ているのはこの兄貴だけだ。ギルとロジャーは
「だから、お前が必要だって話したんだよ」
俺は思わず兄貴の顔をまじまじと見た。
「アルフレッドがブチギレしてたから、すぐ連れ戻してもよかったんだが、学校には行かせてもらってるみたいだったし、お前がどこにいようとメシ代はかかるんだし、だったらお前が多少お香臭くなろうと、まあガマンはできるかなと思ったのさ……」
俺は少しほっとした。今すぐ家に帰れって話じゃなさそうだ。
「じゃ、なんで来たの?」
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