Stregoni benefici

2-1

 クリスはたいていの問題に対して解決策をもっている。たとえば俺が、アスパラガスを食ったあといつもおしっこが変なにおいになるのでビョーキじゃないかと聞いたときも、それはある種の遺伝子を持っている人がなることで異常じゃないから大丈夫だよ、と言ってくれたこととか。

 いつか俺が誰か女の子――メスの人狼っていうんだろうか――を好きになって、自分の群れをつくりたいって言ったら、きっと喜んで祝福してくれると思う。

 それか、もし俺が教会ここを出て車泥棒の道に舞い戻って、運悪くとっつかまって刑務所送りになったとしたら、困ったような怒ったような顔をしながら面会にやってきて、面会時間ぎりぎりまで説教をしてくんだろうな、それも俺が出所するまで何回でも、っていうのが想像できる。身元引受人はもちろんクリスだ。

 けど、今俺が考えているようなことは絶対本人には言えない――あんたを押し倒して、首筋に噛みついて押さえつけて、二匹の狼みたいに何度もうしろからヤりたい、あんたの声が枯れるまで、あんたに俺の名前を叫ばせたい、そのことばっかり考えて自分で慰めるのがやめられないんだけどどうしたらいい?

 ……まあホント、こんなクソでいっぱいのバスルームみたいな話を打ち明けたとしても、クリスは俺を悪魔祓いしたりはしないだろうけど、その対象が自分だって知ったらさすがに青ざめるんじゃないだろうか。俺が人狼だってわかったときも、驚いてはいたけど怯えてはいなかった。でも今度ばかりはそうはいかないだろう。

 俺がするとき、クリスはやさしさと欲望の入り混じった眼で俺を見る。その中には一度以上、クリスがそのきれいな唇で俺のものを……した妄想が含まれている。

 実際の、朝起きて顔を合わせるクリスにはそんなものはない。

 わかってる、これは俺の勝手な願望だ。俺をハグしたり、おでこで熱をはかろうとしたりするクリスにそんなつもりはない。

 ……けどクリス、ずるいぜ。ほかのやつにはあんな――誤解させるみたいなことするのに、どうして俺にはなんにもしねえんだよ。

 ……あーあ、俺ってそんなにミリョクねえのかなあ。今ならメルの気持ちが痛いほどわかるぜ。俺の魅力チャームが通じるのって酔っ払いだけ? それなら酔わせりゃなんとかなる? ビールの一杯でパブを切り上げて帰ってくるような男を?

 なんだかんだいっても、やっぱマジメな神父だからだよなあ――

 だけどさあ、よく愛がどうのこうのって説教してるけど、友達としての“好き”ならともかく、愛ってのには、も含むだろ、やっぱ。イエス・キリストには奥さんも子供もいなかったみたいだけど、キリストの親父とおふくろがいるんだから、そういうことがあったってぜんぜんおかしくないよな。第一、俺は健康な男子高校生でおまけに狼なんだからさあ!

 その一方で、俺の思ってるようなことは絶対にしたくないって気持ちもある。

 クリスは俺より大人だし、物知りだし、行儀もよくてきちっとしてる。困っている人がいたらとにかく助けようとするから、そのぶんみんなに好かれている。

 そのわりに、俺より抜けてるとこがあるし(よくケータイを家に忘れてあたふたしてるし)、神父のくせにテキトーなこと言うし、真面目なんだかふざけてんのかわからないときがある。俺のボスアルファではあるんだけど、俺と同じ下っ端オメガみたいな感じもするから、守ってやらなきゃいけない、群れの一員メンバーだ。そんなやつにひどいことなんてできない。クリスが俺の――ちょっとしたへまならともかく、よりによって俺自身の――せいで傷つくのは見たくない。

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