第146話 文ちゃんとの買い物と七夕まつり

 さて、東雲しののめさんの誕生日プレゼントを買うためにいつものメンバーで船橋のロストで行った買い物はおおよそうまく行ったと思う。


 やっぱり、女の子へのプレゼントは女の子が選んだほうが、いい感じになる気はするな。


 そして翌日の日曜日は7月7日の七夕で、文ちゃんと浴衣を買いに行って、七夕のお祭りに参加する予定。


 今更言うまでもないが七夕は毎年7月7日の夜に、願いごとを書いた色とりどりの短冊や飾りを笹の葉につるし、星にお祈りをする習慣だ。


 元々は機織りが上手な織女(織り姫)にあやかり、織物や針仕事の上達を祈る行事の乞巧奠きこうでんが日本に伝わり、七夕のもとになったもので、もともと日本にもこの時期に、人里離れた水辺の小屋にこもり、乙女が祖霊に捧げる布を織る風習があったらしい。


 なのでこの日は日本の各地で盛大な七夕まつりが行われたりもするが、馬込沢の駅前のまつりはそんなにでかいものではない。


 とはいえ色とりどりの浴衣に身を包んだ女の子や屋台・模擬店が軒を連ねる祭りはやはりいいものだけどな。


 翌朝いつも通り朝起きた俺は文ちゃんへSNSメッセージを送った。


 ”今日の買い物は何時に出かけようか?”


 そしてふみちゃんからはまもなく返信が戻ってきた。


 ”七夕まつりは夕方からだし、買い物に出かけるのはお昼を食べた後の1時すぎでどうかな?”


 ”了解。

 じゃあ、午後1時に文ちゃんの家も前に迎えに行くよ”


 そして俺は下に降りていくとお母さんに告げる。


「お母さん、俺たち今日は昼食を食べてから出かけるから」


「わかったわ。

 じゃあ今日のお買い物のお金はこれね」


 とお母さんは5万円を俺に手渡した。


 5万円という金額は多い気もしないでもないが、俺に勉強を教えてくれ、中間テストで全教科満点を取らせてくれた家庭教師に対しての謝礼としては高くはないのだろう。


 高校生の家庭教師の料金相場は一時間で3100円くらいらしいから、20時間で6万2千円だしな……中間と期末合わせれば、どう考えてもそれ以上の時間は教えてもらってると思うから、むしろ足りないくらいかもしれない。


 まあ、文ちゃんはそこまで気にしないとも思うけども。


 そして昼食を取ったあと、お出かけ用の服に着替えて俺は家を出る。


「いってきまーす」


「はいはい、気をつけて行ってくるのよ」


 というわけで昼食を取った後、俺は文ちゃんを家まで迎えに行って、電車で船橋駅まで移動し、一緒に船橋駅南口にある呉服屋まで向かった。


 船橋は太平洋戦争のときに空襲を受けるようなこともなかったことで、古い建物も多く、船橋駅南口にはいくつか老舗の呉服店があったりする。


 船橋駅の改札から南口を出て、」まっすぐ南に歩いていくと大通り沿いにある呉服屋から入ってみる。


 一階は小物やポリエステル製の水洗いが可能で普段着使い出来る和服に加えて和装小物・手拭などが並び、今の季節は浴衣や甚平なども売ってるな。


 しかも、かなり手頃な価格のものも並んでいて、日頃あまり着物を着なくて、祭りのようなイベントだけに着るのに購入するのにはかなり助る。


 まあ、 男物の浴衣はあまり色柄などの種類はないが、女物の浴衣の種類はかなりある。


 実際に一階に並んでる浴衣は980円から4800円位とかなりやすい。


 だからといって生地がペラペラで安っぽいとかでもない。


 2階は綿や絹の高級呉服なのでそこそこ高いが、それでも浴衣に帯に下駄をあわせて2万円程度からで買えるようだ。


 ここは展示会などのコストのかかる催事を行わず、産地・メーカー・問屋からの現金での直接仕入れにより安い価格で提供できるらしいな。


 そんな感じで様々な色や柄の浴衣が所狭しと、吊るされていたり折りたたまれて置かれていたりするので目移りしてしまう。


「いっぱいあって、どれがいいか迷っちゃうね」


 笑顔でそういう文ちゃんだが本気でそう思ってるようだ。


「本当に多いよな。

 まあ、まだ時間はあるし、ゆっくり選べばいいと思うよ」


 しかし、浴衣の色と柄の組み合わせだけでも相当な数になるんだから、デザインまで違うものが多い洋服なんかが膨大な数になるのは当然ではあるな。


 流石にファストファッション系の店はそこまでデザインに差のあるような服はおいてはいないはずだけども。


「ねぇ、あっちゃん。

 あっちゃんはどっちの色のほうがいいかな?」


 と文ちゃんが指さしてみたのは紫に桜色の花がらの浴衣と薄緑色に草の柄の浴衣。


「うーん、甲乙つけがたいけど個人的には薄緑の方かな」


 俺がそういうと文ちゃんはふふっと笑っていった。


「うん、あっちゃんならそう言うと思った。

 じゃあこっちにするね」


 ということで2万円の浴衣・帯・下駄の三点セットに加え、中に着るためだという、襦袢や足袋、ちりめんの巾着などを買い合わせて3万円ほどで文茶の買い物は終わった。


「ところで文ちゃん。

 襦袢ってなんに使うの?」


「あー、浴衣は夏の和服なので素材が薄いから、専用の下着を着用しないと、ショーツやブラジャーが透けてしまう可能性があるからね。

 だからそうならないように肌襦袢を着るんだよ。

 あと浴衣もそうだけど和服は、前開きのかたちをしていて胸元が開きやすいから、動いたりすると肌が大きく露出する可能性があるしそうならないように浴衣の下に襦袢を着ておくわけ。

 それと汗を吸い取って浴衣を汚したり肌に張り付かないようにさないようにする役割もあるんだ」


「なるほど、セーター服の下にキャミソールとかを着るのと同じようなものなのか」


「だから、浴衣の時はブラの形が出にくいノンワイヤーブラを選んでつけたりもするね」


「女の子は大変なんだなぁ」


「そうそう、僕たちは女の子は浴衣を着るだけでも大変なんだよ」


 そしてこの店には男性の浴衣や帯、小物の種類もそこそこあるので、ついでにと文ちゃんは残ったお金の中から1万円ほど出して買ってくれた。


 色柄も文ちゃんの浴衣と似た感じだな。


「ペアルックってわけじゃないけど、それっぽくはなったね」


 文ちゃんが嬉しそうに言うので俺はうなずく。


「確かにペアルックっぽくは見えそうだな」


 残りのお金は祭りの屋台用に残しておくようだ。


 まあ屋台だとそんな量がないのに500円とか普通にしたりするから、二人で合わせて一万円くらいはあったほうが安心かもしれないな。


 俺たちは一度家へ戻り、それぞれ浴衣に着替えた。


 もちろん俺はお母さんに着付けを手伝ってもらったし、ふみちゃんも同じようにおばさんに着付けを手伝ってもらってると思う。


 そして出てきたふみちゃんは髪を結い上げて、帯の背中側にうちわを指しているな。


「ふみちゃん、いつもと雰囲気がだいぶ違うけど、浴衣姿ってのはやっぱりいいよな」


 えへへ、ありがとね」


 そして七夕祭りの会場となる駅前の天満宮へと俺たちは下駄をカラコロ鳴らしながら向かった。


 天満宮へ向かう途中で擦れ違う人の中に浴衣姿の女の子が混じって、金魚の入った袋を下げたり、綿あめの入った袋を手に持ったりしているのを見ると、七夕祭りへ行った帰りなのだろうと思うがやはり楽しそうだな。


「下駄だと歩きづらくて、ちょっと遠く感じるけど少しで着くかな?」


 ふみちゃんがそう言うので俺はうなずく。


「ああ、もうちょっとで着くと思うぜ」


 ようやく到着。


 天満宮の神社の境内は公園も兼ねていてそこにも屋台はあるが階段下の木下街道沿いにも屋台は出ている。


 そして、七夕といえば、短冊に願い事を書いて、笹に短冊を括り付けるわけだが、すでにたくさん短冊が飾られている笹が何本かあった。


「これは幼稚園の子どもたちが書いたものかな?」


 文ちゃんがそう言うので俺はうなずく。


「@多分そうだと思う。

 俺たちも昔やったよな」


「うん、そうだったね」


 そして文ちゃんは金魚すくいの屋台を指さしていう。


「ねえ、あっちゃん、金魚すくいしない?」


「んー、金魚すくいをやるとしてもいちばん最後にしたほうがいいかな。

 すくった金魚を小さな袋に入れて屋台を見て回るとそれだけでも金魚が弱るし、そもそもうちはいま魚を買ってないから水槽とかカルキ抜きも用意しないといけないし」


「なるほど、たしかにそうだね。


「まあ、単純に俺が金魚をすくうのが得意じゃないっていうのもあるんだけど」


 俺がそういうと文ちゃんは笑っていった。


「そういえば幼稚園の時はいっぱい金魚すくうぞーって行ってやり始めたけど全然すくえなくて最後には泣き出しちゃったもんね」


「まあ、流石に今は金魚を掬えなかったからって泣き出しはしないけどな」


 俺がそういうとまた文ちゃんは笑っていった。


「普通の辛さのカレーも食べられるようになったしね」


「まあ、流石にカレーくらいは食えるようになるって」


 そして文ちゃんは今度はあんず飴の屋台を指さした。


「ねえ、あっちゃんあれ食べない?」


「ん、なにか食べたいなと思ってたしちょうどいいな、うん買おう」


 というわけであんず飴の屋台の列に並んで500円を払い、文ちゃんはあんず飴を、俺はみかん飴を買って食べる。


「おじさん、あんず飴ください」


「俺はみかん飴」


「あいよー」


 最中の皮に乗せられ割り箸にフルーツと水飴をからめたものを俺たちは受け取る。


「んー、この甘さ。

 やっぱりみかん飴はいいよな」


「やっぱりあっちゃんは相変わらず甘いもの好きなんだね。

 ちょっと酸っぱいあんず、まあ実際はすももの酢漬けだけど、と水飴の組み合わせだからおいいいと僕は思うんだけど」


「まあ、すももとか大根の酢漬けの駄菓子はそれはそれで美味しいけど、こういう屋台のはみかんとかブドウとかのほうが俺は好きだな」


 俺がそういうと文ちゃんは笑っていう。


「やっぱり甘いフルーツばっかりだね」


「まあ、味の好みはそう大きくは変わらないよ」


 それからかき氷を食べたり、綿あめを食べたり、チョコバナナを食べたりしたあとヨーヨー釣り、スーパーボールすくいなどの定番の水槽すくいに挑戦してみることにする。


「金魚だと飼うのが大変でもスーパーボールや水ヨーヨーなら大丈夫でしょ?

 どっちにしようか」


「じゃあ、ヨーヨー釣りにしてみようか」


 というわけで俺は水ヨーヨー釣りに挑戦。


 先にフックの付いたこよりを垂らして水ヨーヨーのノビゴムの輪に引っ掛けてそれを釣り上げるやつだな。


 まずはまずもらったこよりをさらにねじり、こよりを少しでも固く太くして強度を上げる。


 金魚すくい・スーパーボールすくいのポイではこういう事ができないけどります、水ヨーヨー釣りでは多少の工夫はできるからな。


 そしてこよりを短めに持ち、フックをコントロールしやすくする。


 ゴムが完全に沈んでいると釣るのが難しくなるがそこら編は当たり前に水の中に入っている。


 しかし、水風船とゴムひもの接続部が、水の上に出ていいる場合はある。


 そして水風船とゴムひもの接続部が水の上に出ていたら、接続部のゴムひもに針を引っ掛け、輪っかの結び目までくると針が止まるので、そのまま引き上げる。


 この方法を使えば、どんなヨーヨーでも取りやすくはなる。


 と吐い終え確実に釣れるわけじゃないけどな。


「おし!

 とれた!」


 けどもなんとか一個を釣り上げた。


「おおー、あっちゃんなのにちゃんと釣ってる」


「その言い方は酷いと思うんだが?」


「いや、やっぱりあっちゃんも成長してるんだねぇ」


 そのようにしみじみと言う文ちゃんにおれはとれた水ヨーヨーを渡して言う。


「はい、まずは文ちゃんにあげるよ」


「え、僕に?」


「多分幼稚園のときも金魚をうまくすくってふみちゃんにいいところを見せたかったんだと思うんだけど、うまく行かなかったんだよね」


 俺がそういうとふみちゃんはププッと笑っていう。


「ふふ、そうだったんだ。

 ありがとうね」


「まあ、今回はうまく行ったから結果オーライってことで」


 俺はもう一つなんとか釣り上げたが流石に3個めは無理だった。


「まあ、一人一個ずつとれたからいいか」


 俺がそういうと文ちゃんは笑っていった。


「上出来上出来」


 まあそんな感じで七夕まつりは非常に楽しかったよ。

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