第137話 割引や無料サービスは店側顧客側も損しない感じでないと駄目なんだよな

  さて、15分ごとに5分休憩をとるポモドーロ・テクニックの効果もあってか、こまめに休憩を取ることで、東雲しののめさんや九重ここのえさんが勉強の途中でだれてしまうこともなくなり、遅れていた社会科の勉強も調子よく進んだ。


 もっとも、新發田さんは普通に45分勉強して、15分休憩でちゃんとできてるので、やはり勉強する教科の内容そのものに対する楽しさや興味は大事だよな。


 そんな感じで無事に勉強会は終了できたし、そろそろ俺はふみちゃんに勉強を教わって今回の期末テストも頑張らないとな。


 そして翌日の金曜日だが、今日は朝からしとしと、雨が降っていた。


 雨が降ると駅まで自転車で行くのが大変なんだよな……。


 まあ、しかたない、自転車用のでかいレインポンチョをかぶっていくか。


 こういう時はレインコートを上下着るよりも、自転車ごとすっぽりかぶることが出来る自転車用のでかいレインポンチョのほうが便利だったりする。


 バイザーも自転車に乗っていても、顔に雨粒があたったりせず、なおかつ見やすいように二重になってるしな。


 そして今日は放課後にパティスリーのバイトがある。


 学校が終わったので、俺はパティスリー”アンドウトロワ”へ向かう。


王生いくるみさん、おはようございます」


 俺がそう挨拶すると王生いくるみさんは笑顔で言った。


「はい、今日もよろしくお願いしますね」


 そして白檮山かしやまさんも来ていた。


白檮山かしやまさんもお疲れ様です」


 白檮山かしやまさんさんはニッと笑うと俺に言った。


「はいはい、秦君もお疲れ様だよ。

 テスト期間だけど大丈夫?」


「まあ、昨日一昨日に勉強会はしていましたので」


 しかし、今日はショーケースの中のケーキの数がいつもより多いような気がする。


 俺は二人に聞いてみた、


「しかし、 今日は雨のせいでお客さんが少ない感じですか?」


 俺が聞くと王生いくるみさんはうなずいて言った。


「そうですね、やはり雨降りの日は昼間に外出を控える人も多いので」


 そういえば風俗でも雨の日は雨の日割引してたな。


 そして白檮山かしやまさんも言う。


「まあ、学校や会社の帰りに立ち寄る人はいるから、これからは少し忙しくなると思うよ」


 二人の言葉に俺は少し考える。


「うーん、ケーキが売れ残るよりはましですし、雨の日サービスでちょっとケーキの値段を下げるとか、アイスドリンクを一杯無料サービスしますとか、店頭の黒板に大きく書いたほうがいいかもしれませんね」


 しかし王生いくるみさんはうーんと少し考えている。


「一度値段を下げてしまうと、お客様が値段を下げた時しか買いに来なくなったりしませんか」


「その場合、雨の日割引は梅雨明け宣言が出るまでとかの期限をきっちり決めればいいんじゃないでしょうか。

 逆に期間限定とか今だけって言葉にお客さんは弱いですしね。

 それまでの間、お店のある船橋で雨がふりはじめたら、閉店まで全商品5%引き、あるいはアイスソフトドリンクを一杯い無料とさせていただきますとかでどうでしょうか?」


 王生いくるみさんはもう一度少し考えた後、うんとうんずいた。


「確かにこのまま売れずにみんなでケーキを持ち帰ったりするよりは、多少はサービスしてでも、お客様に買っていただくほうがいいかもしれませんね。

 ホットはともかくアイスドリンクであれば原価はかなり安いですし、ケーキの割引よりもそちらのほうが損失は少ないかもしれません」


 俺はうなずいてから言う。


「あとはアイスクリーム一個をサービスとか。

 業務用の大容量サイズのボックスアイスクリームはでかくて安いですし、お皿に盛り付けてチョコソースとかフルーツソースをかけるだけで見栄えもよくなるし、気温が30度を超える暑い時期は下手なスイーツより売れると思いますから冷凍庫のスペースに余裕があれば、バニラやチョコ、抹茶などのいくつかのフレーバーのどれかから選べるようにするといいんじゃないでしょうか」


 俺の意見に王生いくるみさんはもう一度少し考えた後、うんとうんずいた。


「なるほど、業務用スーパーで売っているようなボックスアイスならかなり安いですしね。

 では、秦君は今から業務用スーパーで三種類ボックスアイスを買ってきてくれますか?」


「了解です。

 あとフルーツのあまりやフルーツソースとかと組み合わせて、小さなパフェにして本日限定メニューにするのもありかと思います」


「そうですね」


 俺と王生いくるみさんのやり取りにぽかんとしている白檮山かしやまさんが感心した様に言う。


「秦君はよくそんなことを思いつくね」


「んー、まあ、なんとなく思いついただけなんですけどね」


 というか風俗店の受付は女の子の給料を払ってもマイナスにならない程度までは割引して、結構強引にお客さんを入れたりもしたからな。


 なにせ女の子にお客さんがつかないと、女の子は稼ぎにならないから唐突に来なくなったりするのもよくある。


 なので、特に入店一か月以内とかの新人期間は新人割引でかなり安くしたりもした。


 パティスリーの場合は売れ残ったから店がすぐつぶれるとまではいかないにせよ、やはり捨てるくらいなら少し安くしたりして売ってしまったほうがいい。


 もちろん、その時にお店が赤字になるような割引をしてしまっては意味がないが。


 俺は店のレジから万札を一枚もらって近くの業務用スーパーでボックスアイスをフレーバー三種類かってきて、その間に王生いくるみさんと白檮山かしやまさんが黒板へカラフルな”ただいま雨の日サービス中”とでかでかと書いたことで、通勤通学帰りの女性の目を引くことに成功して、何とかケーキをはけさせることに成功した。


 夏はもともと売り上げが落ちるみたいだし、夏季限定メニューの宣伝も、もう少し工夫したほうがいいのかもな。

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