第124話 自前のコスプレ衣装を自分だけで作るのは難しそうだ

 さて、翌日は期末テスト前期間の最後の家庭科部の活動がある。


 できれば明日中にホットパンツを作り上げてしまいたいができるかどうか?


 そして翌日の放課後は、俺・西梅枝さいかちさん・東雲しののめさんのいつものメンバーで家庭科実習室の被服室に向かった。


「今日中にホットパンツが仕上がらないと、期末テストが終わるまで部活動はできないからなぁ」


 俺がそういうと東雲しののめさんが聞いてきた。


「で、秦ぴっぴが作ってるホットパンツは今日中に仕上がりそうなん?」


 俺は苦笑して答える。


「まあ、予想外のトラブルがなければ何とかなるんじゃないかな?

 って感じだな。

 何しろ自作の衣服なんて初めて作る物だから、要領がまだよくわからないしどの工程作業にどのくらい時間がかかるのかわからないんで何とも言えないよ」


 俺の言葉に西梅枝さいかちさんもうなずいて言った。


「本当にトートバックを自分で全部作るなんて初めてやることだから勝手がわかりませんよね」


 俺はうんうんとうなずいて答える。


「でも始めたてで要領が分からないのはたしかに大変ではあるけど面白くもあるよな」


 俺の言葉に西梅枝さいかちさんはこくりとうなずいた。


「はい、家庭科部に入っていろいろできて、私はとても楽しいです」


 そんなことを話しているうちに家庭科実習室の被服室に到着した。


 そして、大仏おさらぎさんと雅楽代うたしろさんは今日もすでに来ていたし、ミシンの用意なども済ませてある。


「お二人ともいつも準備していただいてすみません」


 俺がそういうと大仏おさらぎさんはニコリと笑って言った。


「いえいえ、みんな楽しそうにしてくれていますからこそ、私たちも準備に力が入るというものです」


 そして雅楽代うたしろさんも言う。


「一時期は廃部になるかもと思っていましたからね。

 今は賑やかでうれしいですよ」


 二人の言葉に俺は納得してうなずいた。


「なるほど、幽霊分がいるとはいえ実質的な部員が二人だけになってしまってはきついですもんね。

 さて、続きを始めますか」


 学生カバンからパンツ本体の前パンツ、後パンツの股上を縫ってつなげた状態のハーフパンツを取り出してミシンへ乗せる。


 この次は前パンツ、後パンツの両脇を縫い合わせて、全体を筒状に整える。


 脇をロックミシンで縫い代1cmにして縫っていけばだいぶパンツらしくなった。


 俺の作業の様子を見ていた東雲しののめさんが感心したように言った。


「おおーだいぶそれっぽくなってきたね」


「だな」


 脇が縫えたら、次は股下を縫う。


 縫い代はやはり1cmでロックミシンを使う。


「ここはまち針の止め方がちょっと難しいな」


 まち針まず、股下の中央に止め、一番下の裾に止め、さらにその間に2~3本止めてから縫っていく。


「曲がった場所を縫うのは結構難しいなぁ……まあ何とかできたか」


 後は裾にロックミシンをかけて裾がほつれないようにし、ベルト布をつけて、その中にゴムひもを通してやれば完成だ。


 この辺りはきんちゃく袋を作った時の応用でアイロンをかけたりして折り目をしっかりとつけてやればそれほどは難しくなかった。


「ふう、何とか出来上がったな」


 しかし出来上がったものを手に取ると思ったよりもだいぶ小さい。


 どう考えても俺のウエスト周りには合わない大きさのハーフパンツになってしまった。


「あああ、これを作るために買った型紙って、もしかして女の子用だったか?

 普通に考えたら出来上がりのウェストとかのサイズを考えてから型紙は買うよなぁ……やっちまったぜ」


 そんな俺を見た後東雲しののめさんは肩をすくめた後で言った。


「やれやれ、秦ぴっぴは変なところで抜けてるよねぇ。

 秦ぴっぴのウエストには入りそうにはないけど、どうすんのそれ?」


俺はその指摘にがっくりしながらも答える。


 実際に東雲しののめさんの指摘はもっともで、多少大きいのであれば脇を切り詰めてウエストを細くすればいいが、細いものを太くするのは難しい。


 市販のパンツの場合でウエストサイズを大きくする場合は、縫い目部分の縫いしろを出していくらかは大きくでき、特にオーダー品などは縫いしろが多めに取られていて、5cmくらいなら大きくできるらしいけど、これはそもそもウエストは大きめに作っておいてゴムで縛る代わりに縫い代に余裕は持たせていないタイプだから無理だしな。


「まあ、捨てるのももったいないし、本当どうしようかな」


 俺の言葉を聞いた東雲しののめさんがニヒっと笑って言う。


「じゃあ、そのハーフパンツ。

 あたしがもらってあげるよ。

 これからじめじめして蒸し暑くなるし、部屋で着るにはちょうどいいっしょ?」


 東雲しののめさんも言葉を聞いた後で少し考え俺は言う。


東雲しののめさんには少し大きいかもしれないけど、まあ、ゴムで絞めれば問題ないだろうし、大丈夫ならもらってくれた方がありがたいかな」


 俺は黒い木綿生地のホットパンツを東雲しののめさんに渡す。


 受け取った東雲しののめさんはじっとウエストサイスを見た後に言った。


「んじゃ、もらっていくけど、あんまりウエストが大き過ぎた幅を詰めてくれる?」


 そういう東雲しののめさんに苦笑しつつ俺はうなずく。


「あんまり大きすぎるようなら幅詰めはやるよ。

 まあ期末試験やらなんやらがあるから、頼まれてもすぐにはできないかもだけどな」


 俺がそういうと東雲しののめさんはニヒっと笑い言う。


「まあ、それは仕方ないし。

 ちょっとぐらいなら待ってあげるよ」


 トートバッグを作っていた西梅枝さいかちさんをみるとあちらも完成していて、かなり仕上がってるがめちゃくちゃうまい。


西梅枝さいかちさんはさすがだね。

 それ、市販のトートバックに見劣りしない出来栄えだね」


 俺がそういうと西梅枝さいかちさんは少し照れたように言う。


「そんなことはないですよ。

 でもうまくできて良かったです」


 そして東雲しののめさんが手にしている、俺の作ったハーフパンツを見て首をかしげて言った。


「秦君のハーフパンツも十分見栄えよくできてると思いますが、なんで小百合ちゃんに?」


 俺は苦笑しつつ答えた。


「ああ、型紙を買うときにウエストの大きさをちゃんと確認しなかったせいで、完成しても俺にははけない大きさだって作った後に気がついたんだよな」


 俺がそういうと西梅枝さいかちさんは小さくため息をついて言った。


「秦君って時々抜けてますよね。

 まあ、自分では、はけない大きさだけど捨てるのがもったいないから小百合ちゃんにあげたってところですか」


俺はコクっとうなずいて答える。


「うん、その通り」


 そして西梅枝さいかちさんはもう一度小さくため息をついて言った。


「小百合ちゃんはちゃっかりしてるよね」


 東雲しののめさんは苦笑しつついう。


「あー、絵里ちんも欲しかったら秦ぴっぴに作ってもらったら?

 何なら生地も一緒に買いに行って」


 東雲しののめさんの言葉に俺は苦笑。


「普通に市販のハーフパンツを買いに行った方が、見栄えもいいものが手に入るとは思うけど、練習がてらもう一着くらいは作ってみたいし、そうするのもいいかな。

 西梅枝さいかちさんがそれでよければだけど。

 それと、生地は津田沼やラララポートにある湯沢屋で手に入りそうならそっちで買いたいけど」


 俺がそういうと西梅枝さいかちさんが笑顔で言った。


「あ、はい。

 私もまた何か作りたいですし、生地や型紙を見に行きましょうね」


「じゃあ期末テスト期間が終わったらまた活動再開するだろうしその時に行こうか」


俺がそういうと西梅枝さいかちさんは笑顔でうなずいた。


「はい、そうしましょう」


 というわけで期末テストが終わったら西梅枝さいかちさんといっしょに湯沢屋にいって生地や型紙を見て回ることになった。


 そんなことを話している俺たちに大仏さんが告げる。


「では、皆さん完成したようですし、今日はここまでにしておきましょう」


 俺はうなずいた。


「はい、もう結構な時間ですしね」


 というわけで期末テスト前の家庭科部の部活動は無事に終わった。


 しかし、きんちゃく袋やトートバッグはまだともかく自前のコスプレ衣装を自分だけで作るのは難しそうだな。


 誰かそういう経験がある人がいないか探してみたほうがよさそうだし、お母さんに話をしてみようか。

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