第117話 新發田さんは確実にオタ沼に踏み込んでるな

 さて、翌日の金曜日は、放課後にバイトのある日だ。


 学校が終わったので、俺はパティスリー”アンドウトロワ”へ向かう。


王生いくるみさん、おはようございます」


 俺がそう挨拶すると王生いくるみさんはフフッと笑った後に言った。


「はい、今日もよろしくお願いしますね。

 あら? 今日は珍しく一人ですか?」


 まさか王生いくるみさんにまでそんな風に思われていたとは。


「えええ、俺って、王生いくるみさんからも、そんな目で見られているんですか?」


 王生いくるみさんはもう一度フフッと笑った後に言った。


「ええ、しかも毎回違う女の子ではないですか。

 私としてはお得意様が増えるのでありがたいですが」


 その言葉を聞いて俺は首を傾げた。


「あれ、俺がいないときにも女の子たち来てたりするんですか?」


 俺の言葉にに王生いくるみさんはうなずいた。


「ええ、それ以外にも動画を見たという方も来てくださってます。

 なので、夏で売り上げが落ちる時期ですが、昨年に比べればあまり落ちていませんね。

 常連さんが増えて、本当に助かっていますよ」


 そして白檮山かしやまさんも来ていた。


白檮山かしやまさんもおはようございます」


 白檮山かしやまさんさんはニッと笑うと俺に言った。


「うん、おはよー。

 まあ、彼はいろいろとマメですからね」


 白檮山かしやまさんの言葉に王生いくるみさんはうなずいて言った。


「ええ、そうですね。

 開店前の掃除や仕込みなどは嫌がる人も多いですが、彼は嫌がらずに丁寧にやってくれますし、お店の宣伝もしてくれていますしね」


 そんな話をしていると新發田しばたさんがお店にやってきた。


「こんにちはー」


 俺は首を傾げた後新發田しばたさんに聞いた。


「あれ、今日のシフトに新發田しばたさんは入ってたっけ?」


 俺がそう聞くと新發田しばたさんは、苦笑しながら首を振って、イートインコーナーの椅子に腰を下ろした


「いえ、今日はお客さんですよ。

 今日のおすすめはなんですか?」


 ああ、そういうことか。


 王生いくるみさんがさっき言ってた通りだな。


「今日は旬のアメリカンチェリーのタルトとレアチーズケーキかな?

 飲み物は甘いアイスミルクティーあたりがいいかも」


「じゃあ、それでお願いします」


 そういう新發田しばたさんに俺は冗談めかして言う。


「承知いたしましたお嬢様」


 俺はショーケースからアメリカンチェリーのタルトとレアチーズケーキをとり、アイスミルクティーをティーカップに注いでトレイに置き戻る。


「お待たせいたしました。

 本日のおすすめです」


 そういってケーキと紅茶をテーブルへ置く。


「わ、おいしそうですね。

 いただきます」


 そういうと新發田しばたさんはケーキを食べはじめた。


 その横で笑いながら白檮山かしやまさんが言う。


「そういえば最近は銃剣乱舞はあまりやってないのかな?

 前は眠そうにしてたけど、最近はそういうことはあんまりないし」


 新發田しばたさんは苦笑していう。


「そうですね。

 大体銃剣士はそろえてしまいましたし、それにやることが単調なのでちょっと飽きてしまいました」


 その言葉に白檮山かしやまさんも苦笑しながら言う。


「まあ、ソシャゲってそういうものらしいしね」


 新發田しばたさんはその言葉にフフッと笑ってから言う。


「でも、銃剣乱舞はいつ中断して、いつ再開してもいいゲームですから、気が向いたらやってますけどね。

 今はむしろイラストを描いたり、二次創作の漫画や小説を読んでる方が多いです」


 白檮山かしやまさんはうなずいて言った・


「なるほど、そういう方に進んじゃったか」


 そんなことを話している二人は楽しそうだ。


 そういえばある漫画のセリフに”オタクはなろうと思ってなったもんじゃねぇから、やめることもできねぇよ”というセリフがあったが、確かに足を踏み入れるきっかけはあるんだけど、気が付いたらいつの間にかなっているものではあるよな。


 そして新發田しばたさんは続けて言った。


「そしてそういうものを読んでいると、自分でも書いてみたくなるんですよね」


 それに対して白檮山かしやまさんは笑って言う。


「なら書いちゃえばいいんじゃない?」


 しかし、新發田しばたさんは少し考えた後で言う。


「でも、私は漫画も小説も書いたことがないので……」


 それに対して俺は言う・


「どんなことでも最初はあるし、とりあえず書いてみればいいんじゃないかな?

 漫画のほうが難しい気がするからまずは小説からでも」


 俺の言葉を聞いた新發田しばたさんは、やはり少し考えた後で言う。


「確かにそうですね。

 でもいきなりサイトに投稿するのは怖いので、書きあがったら秦君が読んでみてくれますか?」


 俺はうなずいて言う。


「もちろんいいよ。

 最初から長いお話を書こうとするのは難しいから、短めでちゃんと結末が分かる話とかのほうがいいかもね」


 新發田しばたさんはうなずいて言う。


「なるほど、確かにそうかもしれませんね」


 そして白檮山かしやまさんもいう。


「秦君が読み終わったとでいいから私にも読ませてね」


 新發田しばたさんは嬉しそうに言った。


「はい、ぜひお願いします」


 まあしかし、二次創作に手を出し始めるとは……新發田しばたさんは確実にオタ沼に踏み込んでるな。

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