第115話 日暮里繊維街での買い物は意外とたのしかった

 さて、今日の放課後は、日暮里繊維街での買い物だな。


 津田沼から日暮里は電車で40分ほどなので、さほど遠くはない。


 現在は15時半だから、歩く時間を含めても、16時半前には着くだろう。


 しかも京成線を使えば乗り換えもない。


 JR線でも総武各駅停車で秋葉原まで行って、京浜東北線に乗り換えればかかる時間は同じくらいみたいだけど。


「日暮里まで行くのに、JRだと秋葉原から日暮里の間が混んでるかもしれないから、京成線で行ったたほうがいいかもですね」


 俺がそういうと大仏おさらぎさんはうなずいた。


「そうですね、この時間上り方面はすいているでしょうし、うまくすれば座っていけるかもしれません」


 そして首をかしげながら西海枝さいかちさんが聞いた。


「日暮里繊維街ってテレビとかでもときどき話題になる場所ですけど、そんなにすごいところなんでしょうか?」


 それに対しては雅楽代うたしろさんが答えた。


「日暮里繊維街は関東近郊でのハンドメイドや裁縫好きの間では超有名なスポットですね。

 それこそ、イベント前には皆がこぞってここでお買い物をしますよ。

 問屋街というだけあって、生地や糸をはじめとした手作りの材料が安く、しかも種類も豊富に揃っている場所なんです。

 もっとも基本は問屋さんなんで、日曜祝日はお休みだったり、閉店が17時だったりするお店もありますが」


 それに対して俺は聞いてみる。


「17時だと今から行っても結構きついですね。

 下手すると着いた頃にはしまっちゃうかも?」


 それに対して雅楽代うたしろさんが笑って言う。


「ああ、今回はいろいろなお店を回るつもりはないし、行こうと思ってるTOMATOは18時までやってるので大丈夫ですよ」


 俺は安心してうなずいた。


「確かに18時までやってるなら大丈夫そうですね」


 そして東雲しののめさんが言う。


「じゃあ、早くいくっしょ」


 というわけで、まずは学校から京成津田沼までバスで向かって、そこからは京成線で特急に乗って日暮里まで向かう。


 最初は混んでいたが京成船橋で結構降りたので座ることができた。


 そして隣に座っている西海枝さいかちさんが笑顔で言う。


「みんなでお出かけするのって、ちょっとワクワクしますね」


 俺も笑顔で答える。


「確かに、なんか遠足みたいだよな」


 そして東雲しののめさんが言う。


「じゃあ、おやつは300円までOKだね。

 日暮里に着いたら買ってよー」


 俺は苦笑しながら答える。


「確か日暮里には駄菓子の問屋さんが駅前にあった気がしたし、そこで買ってみる?」


 さすがの東雲しののめさんもちょっと驚いたようだ。


「え?

 そんなんあるんだ?

 絶対行くっしょ」


 そして西海枝さいかちさんが笑顔で言う。


「それも楽しそうですね」


 というわけで、当初の目的とはずれるが、まずは日暮里でただ一軒残っているという駄菓子問屋に立ち寄ることに。


 駅前のタワーマンションの中に駄菓子屋が入っているのはシュールだが、おいてある駄菓子はみんな箱入りでしかも種類が超豊富。


「ああ、問屋さんだから箱でしか売ってないわけか」


 と言っても1個十円の駄菓子が箱に30個から50個入っていても、ワンコインで済んでしまうのだが。


 昔懐かしのベーゴマやめんこ、ビー玉におはじき、紙風船といったおもちゃにすもも、酢漬けの大根、あんこ玉や、きなこ棒、あんずやイカやミニカルパスなどが所狭しと置いてある。


 最近はスーパーなどに駄菓子コーナーがあったりするが、品ぞろえはむろんスーパーなんか目じゃないな。


 まあ、17時には閉店してしまうので、ちゃちゃっと買わないといけないけどな。


 みんなでワイワイ言いながらどれにしようかと悩むのも楽しい。


 俺は酢漬けの大根を買い、東雲しののめさんはチョコ菓子のブラックライトニング、西海枝さいかちさんは黍団子、大仏おさらぎさんはフルーツ餅、雅楽代うたしろさんはおやつカルパスを箱買い。


 で、日暮里東口前の大通り、通称「繊維街」のド真ん中にある生地の卸センターのTOMATO本館へ向かった。


 平日なのもあって比較的すいているようで何より。


 本館は5階まであり、階によって扱ってる生地などが違うらしい。


「とりあえず1階の安めの生地からよさげなものを探してみましょう。

 100円コーナーでも珍しい模様の生地が、1メートル100円で買えたりしますからね」


 大仏おさらぎさんがそういう。


「それは確かに安いですね」


 天井から床まで、膨大な生地で埋め尽くされている中をかき分けてよさげな生地を探す。


「できればシンプルに黒の綿かな?」


 俺はハーフパンツを作るつもりだが、どうせなら毀滅のコスプレ作成の練習になるようにしてみたいしな。


 というわけで俺は黒い木綿生地とハーフパンツ用に型紙を買った。


 いっぽうの西海枝さいかちさんはトートバッグ用の帆布はんぷを見ているようだ。


「本当に色や模様の種類が多すぎてかえって悩んじゃいますね」


 結局西海枝さいかちさんは白地にシンプルなパステルからんーの丸の模様の布と型紙を買ったようだ。


「これを実際に作るのが楽しみですね」


 ニコニコしながら言う西海枝さいかちさんに俺はうなずいた。


「確かに。

 きんちゃく袋より作るのはずっと大変だと思うけど、だからこそ完成したらすごくうれしくて楽しいだろうしな」


 洋裁というのは準備も含めて、思っていたよりずっと楽しいものだ。

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