第111話 家庭科部の活動で裁縫をやってもらってコスプレ衣装を制作できるようにしていこう

 さて、日曜日のふみちゃんとの買い物は無事に終わった。


「あっちゃん、今日の買い物は楽しかったよ。

 ありがとうね」


「いやいや、俺は大したことしてないし。

 来週の土曜日のふみちゃんの学校の文化祭にもちゃんと行くから、こっちこそよろしくな」


「うん、じゃね」


「じゃな」


 そうして俺たちはそれぞれの家に帰っていった。


 それなりに楽しんでもらえたんじゃないかとは思うけど、俺の水着の好みはちょっと古いのかもしれないなぁ。


 そして翌日の月曜日の放課後は家庭科部の活動がある。


 まあ、7月には期末テストがあるから、その前にまた部活動停止期間があるので、あんまり活動はできないのだが。


 取り合えず明日からは調理ではなく、洋裁を教えてもらえないか大仏おさらぎさんに頼んでみよう。


 俺は大仏おさらぎさんにメッセージを送った。


『明日の部活動ですが、ミシンを使った洋裁を教わりたいのですが、どうでしょうか?』


 大仏さんからはすぐに返事が返ってきた。


『そうですね、調理や製菓ばかりだとメニューがどうしても偏るし、そろそろ洋裁や手芸をやるのもいいかもしれません。

 何か作りたいものはあるのかな?』


『できれば衣服が作れるようになれると嬉しいのですが』


『さすがに最初から衣服とかバッグを作ろうっていうのは難しいから、もうちょっと簡単なものから始めたほうがいいね。

 例えば小さめで形状もシンプルのものなら、きんちゃく袋とかね。

 布や紐を用意してもらえれば、作るのはたぶん簡単だと思うよ。

 あといつもの調理室の隣の被服室を使うから間違えないでね』


『わかりました。

 最初からうまくいく気はしないので何個か作れるように材料は用意しておきますね。

 あと西海枝さいかちさんにも、連絡しておきますね』


『はい、よろしくー』


 というわけで西海枝さんへ、今度は連絡を入れる。


『こんばんは西海枝さいかちさん。

 明日の家庭科部の部活動は、ミシンできんちゃく袋を作ることになったよ

 なので、中くらいなら50センチ×50センチくらい、小さくてよければの40センチ×40センチくらいの大きさの布と2メートルくらいの口を絞る紐を持ってきてね』


『わかりました。

 近くの雑貨屋で買っておきますね』


『このくらいの大きさの布なら百均のカットクロスくらいでちょうどいいかもしれないよ』


『なるほど、では先にそっちを見てみますね』


『うん、じゃあまた明日ね』


『はい、また明日』


 さて、俺も駅前の百均に行ってヒモとカットクロスを選んでくるか。


 雨が降ってなければ自転車が使えるんだが、雨はまだ止んでおらず仕方ないので傘をさして徒歩でソミットに入っている百均まで向かう。


 この手の大型スーパーに入っているダイトーは、売り場がでかいのでいろいろそろうのがいい。


 最近は生活雑貨の類だけじゃなくて、製菓の材料とか手芸用品の品ぞろえもかなりいいんだよな。


 で、手芸用品のコーナーでは毛糸や編み棒などに加え、カットクロスや紐なども売っている。


 ちょうどよさそうなのは柄物のカットクロスで50センチ四方くらいか。


 柄はデフォルメの熊の奴とパンダの奴にしてみた。


 あとちりめんっぽいカットクロスは40センチ四方くらい。


 これなら2分割して25センチ×50センチと20センチ×40センチくらいならそれぞれ2つ作れるし、2枚も買っていけば練習に十分な数が作れるだろう。


 後はカラー紐も買えばいいかな。


 一本3メートルくらいあるから2本も買えば大丈夫だろう。


 まあこのくらい揃えておけば多少失敗しても大丈夫かな?


 うまくできてほしいのは確かなんだけど。


 後は東雲さんにも明日の家庭科部の活動が裁縫になることを伝えておくか。


『今晩は東雲しののめさん』


『はいはーい』


『明日の家庭科部の活動は裁縫できんちゃく袋を作ることになったんで、食べ物は食べられないよ』


『ええー、何か作ってあたしに食べさせてくれるんじゃないの?』


『うん、残念だけど食べられないんだよ』


『じゃあ、秦ぴっぴが作ったきんちゃく袋はどーずんの?』


『うーん、俺が使うわけじゃないから誰かにあげると思うよ』


『ふーん、じゃあさ、あたしがもらってあげよっか?』


『ああ、うまく作れたらあげるよ』


『約束だぞ』


『うまく作れたらね』


 というわけで翌日の放課後。


 というわけで、放課後に俺たちは家庭科実習室の被服室に向かった。


「ありゃ?

 今日はいつもの部屋じゃないの?」


 東雲しののめさんがそう聞いてくるので、俺はうなずいた後答えた。


「今日は調理じゃなくて洋裁だからね」


 俺がそういうと東雲しののめさんは納得したようだ。


「まあ、確かに流しとか蛇口があっても邪魔なだけだもんね」


「そう言うこと」


 そして、大仏おさらぎさんと雅楽代うたしろさんはすでに来ていた。


 ミシンの用意なども済ませてあるようだ。


「こんにちは、大仏おさらぎさん、雅楽代うたしろさん」


 俺がそういうと大仏おさらぎさんが、笑顔で答えた。


「こんにちは、まあいろいろな準備もありますからね。

 ミシンなどの動作の確認はしておいたので早速作りましょう」


 俺はうなずいて言う。


「あ、はい、ありがとうございます

 結構本格的なミシンなんですね」


 俺がそういうと雅楽代うたしろさんが言った。


「ええ、これは工業用ミシンなので」


「へえ、そうなんですか」


 そして大仏おさらぎさんも言う。


「家庭用ミシンも用意されていますが、工業用ミシンは、縫い目の強度と綺麗さを重視した、直線縫い専用機なのです。

 でもきんちゃく袋を縫うにはこちらのほうがいいですからね」


「なるほど」


 俺がそういうと西海枝さいかちさんが少し不安そうに言った。


「でも、家庭用ミシンより使うのが難しかったりしないのでしょうか?」


 それに対しての大仏おさらぎさんの答えはというと。


「いえいえ、むしろ糸調子の調整がほとんど不要ですし、縫い目がとても美しいですからね。

 ボタンを付けたりなどはできませんが、ミシンは直線縫いでだいたいは十分です。

 それに薄手の生地から厚手の生地、またテンションのあるニット生地まで、ほんの少しの調整で早く綺麗に縫製が可能ですからね。

 このあたりは家庭用ミシンとの差が歴然です。

 無論、家庭用ミシンであれば多彩な刺繍や飾り縫いができるというメリットはありますが」


 それを聞いて安心した様子の西海枝さいかちさんが言った。


「なるほど、確かに下手に家庭用ミシンを使うよりは工業用ミシンを使ったほうが、いろいろよさそうですね」


 というわけで早速きんちゃく袋の制作に俺達は取り掛かった。


「被服室だと備え付けの定規とかもあるのが便利なんだな」


 俺がそういうと西海枝さいかちさんもうなずく。


「そうですね」


 そして大仏おさらぎさんが言った。


「きんちゃく袋の作り方はいろいろあるのですが、今回は一番簡単な裏地なし・まちなし・片紐タイプの巾着袋を作りましょう」


「はい」


 俺がうなずいて答えると、西海枝さいかちさんもうなずく。


「わかりました」


 東雲さんは俺たちに様子を見ながら言った。


「ふーん、料理とミシンはどっちが簡単かな?」


 それをきいて雅楽代うたしろさんが言った。


「縫うものや個人差はありますが、ミシンのほうが簡単な気がしますね」


 東雲さんはそれを聞いて感心したように言った。


「ふーん、そうなんだ」


 そして大仏おさらぎさんがいう。


「ではミシンを使う準備として針と糸のセットをしましょう。

 おそらく秦君は取扱説明書を見たほうが早いと思いますので、こちらを見てください」


「わかりました」


 俺は取扱説明書を見てから電源プラグがコンセントから抜けていることを確認して、針をセットし、上糸と下糸をセットしてみた。


 その様子を見ていたらしい大仏おさらぎさんがいう。


「やはり男の子のほうが、こういった作業は得意みたいですね」


 確かに西海枝さいかちさんはセットに少し苦労しているみたいだが、やがてあちらもセットが終わった。


「ではまずもってきてもらった布を半分に切りましょう」


 大仏おさらぎさんの指示に俺たちはうなずく。


「はい」「はい」


 俺たちは裁断ばさみでカットクロスを半分に切った。


「その次は布の端処理をします。

 袋口以外の3辺をロックミシンで、縫っていきましょう。

 ロックミシンのほうは糸をセットしてありますので、そちらを使ってください」


 ロックミシンでは「かがり縫い」ができるから、確かにそのほうが端の処理にはいいのだろう。


 俺たちは先ほど裁断した布の端をミシンで縫っていった。


「はい、そんな感じで大丈夫です」


「ミシンは準備は面倒だけど、縫い始めると手縫いよりずっと楽できれいに縫えるんだな」


 俺がそういうと西海枝さいかちさんはコクっとうなずいて言った。


「確かにミシンをかけるのはそれ程難しくはないですね」


 それから紐通し口を作るためまずは1センチほど上側の布を折ってから、折った場所をアイロンで折り、さらに2センチほどで追ってアイロンをかけた後縫いつけていく。


 さらに表を内側にして半分に折り袋状にしたら、アイロンで折り目を付けて、袋になる部分の端を縫い合わせる。


 そして紐通し口から、紐通しを使い紐を通していけば完成だ。


「おお、思ってたよりうまくできたな」


 俺がそういうと東雲しののめさんがニヒヒと笑いながら寄ってきた。


「いいじゃん、いいじゃん。

 秦ぴっぴ、約束通りにそれあたしにくれるんだよね?」


「ああ、あくまでもミシンの練習のために作ったけど俺自身が使う予定はないしな」


 俺が東雲しののめさんにきんちゃく袋を渡すと、西海枝さいかちさんが少し寂し気にしていた。


「あー、大仏おさらぎさん、弁当袋にできるような両紐のきんちゃくの作り方もほぼ同じですよね」


 俺がそういうと大仏おさらぎさんはうなずいて言った。。


「ええ、ヒモを出す場所を左右2箇所にすればいいので、それ以外の要領は同じですね」


「わかりました、ありがとうございます」


 俺はさっき作った時と同じような要領で紐を両方から出せるようにしたものをミシンで縫い上げてみた。


「ん、こんなもんかな?

 練習がてらもう一つ作ってみたけど、俺は使わないからよければ西海枝さいかちさんもらってくれる?」


「え、あ、はい、ありがとうございます」


 という感じできんちゃく袋をミシンで縫って作るのは割とうまくできた。


 ミシンは使ったことはなかったが裁縫自体はイメクラで働いていた時に、コスチュームから取れてしまったボタンやホックを付けなおしたり、壊れてしまったチャックを直したりしていたしな。


 チャックを直すときにはミシンがあればだいぶ楽だった気がするが、まあいまさら言っても仕方ないか。

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